第163話「こらああああああああ!!魔技祭に引き続いて魔学祭までええええええええええ!」
「ふんっ!」
シルフィーリエルが扇ぐように手を動かすと風の刃がイーラを切り裂くが効果ははっきりいって薄い。
風の刃はイーラの黒い装甲の上を滑るように弾かれてしまっている。
ならばと渦のように穿とうとするが歯が立たない。
「うーん、魔法抵抗値が極めて高いようだねぇ、私は役立たずか」
「だから普段から魔術の腕を磨けと言っておりますでしょう?
良いから貴女は魔法弾を逸らすか防ぐ等の支援に徹してくださいまし!」
サクヤが魔式刀で斬りかかるが、やはりロザリアと同じく硬さに苦戦していた。
イーラは全魔力属性を使えるといっても元がドワーフ由来の為か基礎魔力は地がベースのようであり、
サクヤやロザリアの火属性とは属性的に同等の扱いとなり、しかも硬度では押し負けていた。
「硬いですわねこいつ!やりにくい!」
サクヤもまた魔式刀を何度も砕かれては再生成を繰り返していた。
イーラの触手は斬られてもすぐつながって再生する上、クレアの光の魔法弾も効果は薄かった。
それはクレアの方もイーラの攻撃を防御壁で防ぐ事ができるという事だったが、
戦力が拮抗していては膠着状態に等しく、イーラの魔力量の底が見えない以上劣勢かもしれないという事だ。
「カイル! 生徒会執行部員はまだ来ないのか!」
「今こちらに向かわせてますけどね。せめてレオンがいれば多少はマシなると思いたいですよ」
「マシ、だと良いがね、私の技ではこの巨人には有効打を打てないと思うが」
リュドヴィックがカイルに訊ねていると、聞いていたかのようにレオンこと庶務のレオナール・ガーディナーがその場にいた。
続いて書記のレベッカ・モルダバイトもやって来たが、被害の大きさに顔をひきつらせている。
「レベッカ! アネットはどうした!」
「あの子は山ほど仕事あるから中央棟よ! それより何よこれ! 何があったの!?」
クールなのは見た目だけなレベッカは悲鳴のような声でカイルの質問に答える。
「詳しい事は後だ! とにかくあいつを破壊しなければならない!
基本は魔技祭の時の真魔獣と同じと思え!」
リュドヴィックは生徒会執行部のメンバーがようやく追加された事で一気に攻勢をかけるべく指示を出した。
戦況は執行部の人員が追加された事でかなりマシにはなったが、
やはり強固な外殻と魔法に対する耐性の高さに苦慮していた。
レオナールの属性は風なので属性が有利ではあるが、相手の抵抗値の高さゆえに本人の言う通り決め手にかけ、攻撃を逸らすので精一杯だった。
また、レベッカも火属性であるがゆえにリュドヴィックやカイルと似たような状態だった。
攻撃力だけの評価ではこういう時に不利になるのかとリュドヴィックは思い知る。
しばらく応酬は続いたが、突然イーラがリュドヴィックやロザリア達に興味を失ったかのように歩き出す。
背が高いだけにその歩みは早く、リュドヴィック達は攻撃をするにも狙いをつけにくくなった。
「何だ?突然移動を始めたが、どこかへ向かっているのか? この方向は……中央棟?」
「(リュドヴィック様、魔界だの闇の魔力だのが絡むという事であれば御柱に向かっているのでは?)」
「(だとしても厄介だが、中央棟は文字通りこの学園の中枢だ。どちらにしろそちらに向かわれてはまずい)」
リュドヴィックが訝しげに呟くと、それに気づいたクリストフが小声で助言する。
だが、その会話を聞いてか聞かずかイーラは中央棟へと続く道へ進んでいく。
大きな道だけに生徒や教師が何人もいるので避難誘導もせざるを得ず、中々攻撃をしかける事ができずにいると、
中央棟の方から大きな声が聞こえてきた。
「こらああああああああ!!魔技祭に引き続いて魔学祭までええええええええええ!」
中央棟から会計のアネットがガチ切れ技気味に走ってきて参戦してきた。
走ってきた勢いのままイーラに飛び蹴りをかまし、空中で一回転して着地すると、
バンっ!と地面に両手をついて学園の石畳を操作し、怒りにまかせてイーラ以上の巨体の岩ゴーレムを生成した。
その巨大さ故、学園の壁の石材まで使われてしまって近くの建物が少々崩れる。
「あのー、アネット、くん?加減してもらえるとありがたいのだが」
と近くにいた理事長が苦言を呈するが、それを聞くような状態のアネットではない。
「何日も何日も徹夜してええええ!書類に埋もれてえ!やっと開催にこぎつけたんだぞおおおおおお!
よく考えたらこんなもん生徒がやる仕事じゃねぇだろうがクソダボがああああああああ!!」
「あ……、はい」
あまりの剣幕に理事長も何も言えなかった。
「まずは一発!いや一発と言わず百発!!」
アネットは私怨混じりにゴーレムで一撃ならぬ百撃をイーラに食らわせ、
あまりの威力に初めてイーラが足を止めて後ずさった。
引き続いて周囲の地面からも巨大な腕を生成し、総掛かりでイーラをボコり始める。
更に、イーラが地属性魔法で身体を地面に固定しているのを見抜くと、
「あー?それで足元固めたつもりか?あ?」
と、イーラが固定されている足元廻りの地面の、更に外側の地面を操作して半球状の地面ごとイーラを持上げた。
「これで逃げられねぇよなああああああああああ!」
と、周囲のゴーレムで空中のイーラに一斉攻撃を加えた後、
ぽいっと広場の中央に向けてイーラを投げ捨てた。
「あー、その、アネット。いつも助かっている」
「良いんです生徒会長。それよりもさっさとこいつを始末して、
何が! なんでも! 魔学祭を無事に!終えますよ!」
「あ……、はい」
「アネット、後で、美味しいもの食べに行こうね? いくらでもおごるから、ね? ね?」
書記のレベッカがドン引きしながら必死でアネットのご機嫌を取っていた。
アネットはその有能さゆえに下手に機嫌を損ねると学園の運営すら支障をきたしてしまうという超重要人物なのだった。
有能さゆえに仕事を任せすぎたかなーと、リュドヴィックは少々反省したが、ともあれアネットのおかげで状況はリセットされた。
「アネットのおかげで振り出しには戻せたが、いつまでもこれを続けるわけにはいかんな。何とかしないと」
「とはいえリュドヴィック、あの黒い鎧は厄介だぞ。
固いわ魔法効かないわ、自由に動いてこちらを攻撃してくるわで」
「ねぇ、解析してみたけれど、内部はドワーフ鉄の骨格がそのまま残っているわ。
黒い鎧はそれと溶け合わずに覆っているだけのようね」
医療棟が近かった為か医療教官のエレナがリュドヴィックとカイルの会話に割り込んできた。
エレナが解析結果を空中に表示してみせると、レントゲン写真のようにイーラの内部構造を映し出している。
胸部には先ほどの金属球が心臓のように小さくなって納まっており、
そこから全身に神経のような枝葉を伸ばしていた。その横に定番の魔核石がある。
「先程の攻撃の際も、大きめの触手を何本も出すと内部の骨格が露出していたぞ」
「という事は、下手に攻撃して防御に回らせるより、
むしろこちらを触手で攻撃させて素材切れにすれば内部がむき出しになるという事か」
「人数はかなり集まって来たから四方八方から相手をすれば可能性はあるな。
幸いここにはクレア嬢もいる」
「肉弾戦になるわよ!全員魔力強化させるわね!」
作戦がまとまったのはいいが、ペスト医師のような鎧こそ纏っていないものの、
エレナに魔杖銃を向けられてその場にいた者は全員微妙な気分になった。
この杖の形状はどうにかならないのか。
次回、第164話「くらうっス!全てを貫く一撃!」
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