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第162話「最初から手加減無しだ!いくぜおらぁ!」


「おおりゃぁ!」

副生徒会長のカイル・オーセントが拳を思い切り振るうと、

イーラと名付けられた黒い巨人は微動だにせずそれを胸で受け止めて見せた。

だがそれでも相当な衝撃が加わったようで、立っているステージの板は割れ、

鎧に見える胸部は凹んでいた。

だが、しばらくするとその凹みが内部からの圧力でバコンと戻り、

わずかな痕跡のみで無傷に戻った。

イーラは骨格の歪みを確認するかのように肩を動かしていたが、

特にダメージを受けた様子は無いらしい。


「冗談だろう!? 本気で行ってこれかよ。だったら!力ならどうだ!」

カイルが力比べするかのように掴みかかると、

イーラもそれ応えるようにがっぷり四つに組み合う形になった。

カイルの巨大な魔杖籠手はイーラの手よりも巨大なくらいだったが、

イーラは苦もなく組み合っている。

そのまま押しつぶしてしまおうと、カイルが全身に力を込めるがイーラの巨体はびくともしない。

逆にイーラの方がカイルを持ち上げようと腕に力が込められる。


「何だよこいつの力は……、普通の人間なら10人分くらいの腕力を加えてるんだぞ!」

力比べでも勝てないと判断したカイルは、

今度は持ち上げようと組み合ってる腕を逆手になるようにひねり、すくい上げるように力を加える。

だが持ち上がらない。イーラの身体は地面に張り付いたように持ち上がらない。

まるで大地に根を張っているようだ。

「いくら重くても限度があるはずだぞ!どうして動かない!?うわっ!!」

逆にカイルの方が持ち上げられてしまい、そのまま近くの建物に投げつけられてしまった。

なんとか空中で体勢を整えて脚から建物の外壁に着地するが、勢いは殺しきれずにめり込んでしまう。


「いっててて……、っておい!」

崩れた瓦礫の中でカイルがふと元いた所を確認すると、すでにイーラの姿は無く、

気がつくと目前に迫ってきていた。

「やべえ!」

カイルは瓦礫から無理やり身体を起こし、慌てて建物から脱出した。

対してイーラは同様に建物に激突するかと思われたが、

突然空中で不自然に身体が回転し、建物の壁に対して垂直に音もなく着地した。

「なっ……」

空中で振り返ったカイルが絶句するように、

イーラは壁から落下する事も無くそのままの姿勢で止まっている。


「あれは地属性の機能だぞ!? 乗っ取られたとしてもどうして使える!?

 どう見ても生き物じゃなかったよなあれ」

「もしかして、甲冑に仕込んでいた地の魔石増幅器の作用で、だろうか。

 稼働させればあれくらいはできるはず」

「おいちょっと待て、あの中には地水火風全て組み込んでいるよな?まずくないかそれ」

「それ以前にどうやって4大力全部使えてるんだよ!!

 あの重さで壁に立つなんてかなりの出力だぞ!」

マルセルを始めとした2年3組の面々は、優秀なだけにイーラの挙動を議論しながら冷静に分析していた。

本来、自然四大力を全て使える者は器用貧乏の傾向があり、

魔力自体も弱い者が多いのでエレナのような治癒魔術の使い手となる事が普通だった。

だが、絵の前の黒い巨人は苦もなくランクBのカイルを翻弄してみせており、

どう考えてもランクA相当の実力があるとしか思えなかった。


「おいカイル! そのくらいにしておけ! 1対1でどうにかなる相手じゃなさそうだ!」

リュドヴィックがそう叫ぶと、カイルは悔しげではあったが、素直に従った。

また、周りの生徒も上級生は戦闘訓練を受けているだけあって何人もが杖を取り出して魔力を込め始めた。

だが、周囲の生徒がイーラに対し戦闘の構えを取った事で様子が変わった。

「イーラァーーーー!」

イーラが叫ぶと同時に炎の矢が何本も発生し、無差別に発射された。

慌ててリュドヴィックが氷の障壁や、クレア等の上位魔法が使える者が障壁を張るが全てを防げるわけもなく、

何発かは校舎に当たって爆発と炎上が起こる。

広場の外で状況を知る由も無かった生徒達は、突然の事に悲鳴を上げて逃げ惑い始める。


「何だ突然!?ランクC以下で戦えない者は退避しろ!特に1年生!」

リュドヴィックが指示をするが逃げろと言われてもどこに逃げて良いかわからないのが大半で、広場はパニック状態だった。

また、真魔獣の時とは違って校舎近くの生徒は遮蔽物の多い状態なのでどこが騒動の中心なのかもわからない。


「はあああああ!」

突如ドレスアーマーを纏ったロザリアが壁に立つイーラに向けて一気に跳躍した。

その姿は普段のドレス状ではなく、服装に合わせたのか下半身は男性向けの形状に変わっていてトラウザーズの上に鎧を纏ったようになっている。

また、更に空気を読んだのか上半身も胸を意識させないデザインになっていたので、

男装の麗人を通り越してほぼ男性にしか見えなかった。

「ギムルガさんの鎧って、良い趣味してるっスね……」

と言いながら、クレアも鎧を纏った。

こちらは元々膝上のキュロットスカート状だったのが延長された形なので印象はあまり変わらない。


ロザリアは魔杖刀から魔力刃を伸ばして斬りかかるが、イーラはそれを手で受け止める。

刃はイーラの手に食い込む事もなく、逆に握り潰されて砕かれてしまう。

続いて勢いのまま蹴りを繰り出すが、それも足を掴まれて止められ、

そのまま振り回されて壁に叩きつけられた。

ロザリアはとっさに障壁を張ったが先程のカイル同様に壁にめり込んでしまった。

イーラはさらに追い打ちをかけようと拳を振り下ろすが、

ロザリアは壁面を転がるように回避して強引に脱出して距離をとった。


だが、イーラはふわりと風を纏って壁から浮き上がると、

そのまま上空からロザリアに襲いかかってきた。

見かねたリュドヴィックが乱入してイーラに氷の槍を撃ち出すが、

それはイーラの出した炎の障壁で防がれてしまう。


「厄介だな!全属性を使えてしかも強力なんて!」

カイルは属性魔法は効かないと見切り、巨大な籠手を握り締めて殴りかかった。

今度はイーラが迎え撃つように拳を突き出してきたが、

カイルは寸前で踏みとどまってその動きに合わせてやや横に跳んでかわす。

そのまま突き出されたイーラの腕を抱え込んで柔道の一本背負いのように投げ飛ばした。

「カイル!離れろ!全員一斉攻撃!」

リュドヴィックの号令で周囲の生徒が一斉に魔力弾や魔法を放つが、

イーラは倒れたままで何重もの障壁を同時展開して全てを防ぎきっていた。

一枚を貫通してもその下の障壁が防いでしまうのでまったく届いていない。


「なんなんだあいつ、あんな事どんな熟練者でもできないぞ……」

マルセルは呆然とそれを離れた所から見ていた。だがそれは無理も無い事だった。

イーラを今制御しているのは古代ドワーフ文明のドローンの制御中枢であり、

その演算能力は人間を遥かに超えており、クレアですら困難な4属性同時使用をたやすく行っていた。


「みなさん!頑張ってる所ちょっとお邪魔します!魔力障壁feat.光!」と、

クレアが膠着状態なのであればここで封じ込めてしまえ、と障壁をイーラの周りに展開した。

「よし!クレア嬢!そのまま抑え込んでいてくれ!」

とリュドヴィックが叫ぶがそうはいかなかった。

突如障壁を突き抜けて触手のようなものが何本も突き出てきたのだ。

それはイーラの表面を覆う黒い装甲が形を変えたもので、

障壁すら突き破った事から相当な強度があるようだ。

何人もの生徒が逃げ遅れて負傷し、中にはかなりの重傷の生徒もいる。

クレアは慌ててその生徒に向けてヒール弾を放つ。

「厄介っスね!魔法使わなくても攻撃範囲が広すぎる!」


「お気をつけて下さいまし! その触手はどうやら真魔獣の爪と同じですわよ!

 触れたら闇の魔力に汚染されますわ!」

いつの間にか駆けつけていたサクヤが魔杖扇から伸ばした刀で触手を斬って回っていた。

だがその触手は切り離されても動きを止めず暴れまわっている。

クレアが先程の生徒を見ると、確かに汚染者特有の症状が出ていたので慌てて範囲回復魔法feat.光で治癒させた。

意味が無くなっている障壁を解除して、

ついでにイーラにも効いてくれればとヒール弾を撃ってみるが黒い鎧はそれをあっさりと弾く。

「あの装甲には光の魔力も通じませんわ。奥の魔核石を砕かないと」

「えー、またっスか?」

条件はむしろ真魔獣の時より悪化しているといえた。

ロザリアはギリリと魔杖刀の柄を握りしめて気合を入れる。


次回、第163話「こらああああああああ!!魔技祭に引き続いて魔学祭までええええええええええ!」

読んでいただいてありがとうございました。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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