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第160話「ドローン」


「いかがでした?あの、ヒノモト国の食事は、お楽しみいただけましたかしらぁ?」

食事を終えて店を出ようとすると、サクヤは先程の2人の様子からさすがに神妙になっていた。

しかし当の2人はクレアの治癒魔法で目の赤みや腫れも完全に引いており、

アデルによる化粧直しで完璧に元通りになっている。

「もちろん、ところであの料理には醤油とか味噌が使われてるよね? 豆を発酵させた調味料だとおもうんだけど」

「あ、あら、よくご存知ですのね。自宅で食べてますので少々ツテがありましたのですわ」

「ぜひ多めに仕入れさせてくれないかな?私の家とか店で使ってヒノモト風を広めたいんだ」

ロザリアは元の調子を取り戻しており、かなりの勢いでサクヤに話しかけていた。

一方のサクヤはロザリアの切り替えの早さに面食らいながらも答える。


「おや、それは有り難いね。私もわりとヒノモト風の味付けが好みに合うんだ」

「ほらシルフィーリエルさんもこう言ってる。

 という事はだ、うちの店にも多く来る獣人やエルフといった亜人さん達にも受けるんだよ」

「え、ええー、まぁそういう事でしたら」

「頼んだよ! あとお米もね!」

ロザリアはそう言うと手を振りながら颯爽とその場を離れた。


さて、ロザリア達が上機嫌で商取引をしている上空では動きがあった。

クレアを監視する者がいたのだ。いや、物というべきか。

”それ”は透明に見える球体でバスケットボール程の大きさだった。

完全な固体ではなく、時折り形が崩れ、変形させて周囲の目から身を隠しつつ上空を浮遊していた。

透明に見えるのは背後の景色を前方に表示している為であり、光学的な偽装機能を持っているようだった。

"それ"は意思を持つかのように飛び回り、1つの目的の為に動いていた。

球体の正体は古代ドワーフ遺跡から射出されたドローン。『ツァラトゥストラ』の代行者だった。


だがそのドローンですらも、とある人物に存在を把握されていた。

「これはこれは、魔法学園の御柱(みはしら)にちょっかいを出そうと来てみれば、珍しいものが飛んでいますね。

古代ドワーフ文明の遺産といった所ですか。あれは使えそうですね、ドローレム」

フレムバインディエンドルクの側で無表情にうなずく者がいた。疑似魔界人のドローレムだった。



「おおー!すげー!」

「クレア君、はしたないよ」

「ガワが付くと()えるなー、エモー」


クレアが思わず歓声を上げてしまうのも無理はない、広場のあちこちでもおおーっと声が上がる。

2年3組の身体機能拡張型魔石動力甲冑(かっちゅう)のお披露目だった。

存在そのものは魔学祭の準備の際にも様々なものを持ち上げたり、

搬入搬出で役立っていたので知られてはいた。

だが今は木製の板らしきものではあるが外装が追加され、

何の意味があるかわからないが魔石によりあちこちが点灯してかなり見た目が引き立つものになっていた。

結局内部骨格のままだけというわけにはいかなくなったらしい。

立ち上がっている甲冑は4m程もあり、ロザリア達が見た時の寝転がっている時とは印象が全く違っていた。

甲冑には既に中に生徒が乗り込んでおり、デモンストレーションとして腕を上げたり下げたりする動作を行っている。

更には側に置かれているどう見ても重そうな鉄箱のような物を軽々と持ちあげている。


「えー、ご覧のように稼働状態にまで持ってくる事ができました。

 見かけはまぁ皆様を楽しませる為のものなので、機能の方に注目していただければなぁ、と」

甲冑の横ではマルセルが司会役をやっていた。

見かけに関してはやはり思う所が少々あるようで、機能に注目して欲しいというのは技術者の端くれとしての性なのかもしれない。


「この魔石動力甲冑にはいわゆる動力源に類するものがありません。

 全身の骨格に魔石が混ぜ込まれておりまして、骨格自体が燃料であり動力なのです。

 また、四肢には魔石増幅器が埋め込まれておりまして、

 登場者の属性に合わせて身体機能の拡張性が変わります。

 魔力の身体強化はそれぞれ地の接地力・水の持久力・火の筋力・風の反応速度等とありますので、それが拡張される形ですね」


デモンストレーションとして手前に置かれていた大きな木材を、甲冑は苦もなく持ち上げて見せていた。

「ごらんのように、今は火属性の生徒が搭乗しております。

 もちろん他の属性の者が乗れば機能も変わります。

 しかしここで問題が、水属性や風属性をいくら拡張してもこの甲冑を動かす腕力自体が足りませんでした。かなり軽く作ったんですけどねぇ。

 地属性の生徒が乗れば、うまく使えば壁や天井を歩けそうですけど、

 怖いのでまだ誰も試していません」

予め用意していた冗談なのか客席から軽い笑いが起こる。やはり万能型というのは中々難しいようだ。


「えー、って事はあれ火属性専用って事にならない?」

「クレア君のような複数の属性を持った生徒が乗れば又変わるんだろうけどね」

「えー、僕、あれ乗るのはちょっと考えるなぁ。なんだか怖い」


「それでは! 見てもらっているだけでは何なので、

 火属性の生徒の方に上がってきていただいて、少々力比べをしませんか?

 ちなみに乗っているのはランクCで、そんなに強くないですよ」

言葉とは裏腹に自信があるようで、司会者のマルセルは観客の生徒に力比べを持ちかけてきた。

さっそく腕に覚えのある生徒が何人も挑戦していたが、そこそこいい勝負をしている。

「よし! 俺が勝負だ!」

「おおーっと! 彼は生徒会執行部の副会長、カイル・オーセント!

 実質この学園の最強と言っても良い!」

赤っぽい金髪で目立つカイルはロザリアの所からでもよくわかる。

魔石動力甲冑の前まで歩み出ると対戦相手を見上げていた。

4m近い甲冑との体格差はかなりあるが全く気後れしている様子は無かった。

むしろ面白そうという感じで笑みを浮かべている。


「いや、手加減して下さいね?僕ランクCなので」

「わかってるわかってる、最初は弱くな、俺も本当に興味本位だから」

カイルは甲冑の手の部分を握りつぶしてしまわないように手のひらを合わす、要は押し相撲での勝負だ。

お互いに構えた所で審判役の生徒から試合開始の声がかかる。

だが互いの力は拮抗しているのか全く動かない。

「お? 動かない、結構本気出してるんだぞ?中々やるな」

「いや副会長! そろそろこっちはギリギリですよ?」

「よし、ちょっとだけ力強くするぞ、そら!」

「うわっ!」

「いやすまん! いまので俺の8割くらいだ。だが中々やるなぁ! たいしたもんだぞ」

押された甲冑の生徒は慌てて後ろに下がってバランスを取り、転倒まではいかなかった。

カイルの方もそれ以上は深追いせず、甲冑の手を掴んで転倒しないよう支えていた。


「ランクCでもランクBの精鋭の8割くらいまでなら力が出せる、という事ですね。

 今は骨格の強度が不明なので増幅率を控えめにしているのですが、

 研究次第ではいい勝負になるかも知れません」

「何だ?これでも手加減してたってのか?」

「いやそんな簡単なものでもないんですよ副会長。

 本気出した瞬間に全身の骨格がへし折れて、乗ってる生徒だって危険かも知れないんですから」

マルセルの解説にカイルが不満げな声を上げるのに対して、慌てて説明を補足している。

気を取り直してデモンストレーションはまだまだ続くようだ。


「さて、他にいらっしゃいませんか?」

「私」

「え?あの?まぁ、良いですけれど、気をつけて下さいね?」


「ちょっとお兄……お姉さま! もうこんな事してる場合じゃないですよ!」

「あれって、ドローレム!?」


次回、161話「黒魔鋼の機械人形」

読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークしていただきありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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