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第158話「本日の演目:『氷炎の主従、絡み合う想いは身分を越えて』←何よこれ!」


さて、ロザリア達の模擬店は雰囲気が怪しげなだけで隣に座っての接客等は行っていない、

それでは別の何かのお店になってしまう。

そもそも現実の喫茶店でも隣に座っての接客は違法だったりする。

店員である生徒が普通に料理を運んできて、

客は猫のついでにそれを愛でるくらいの形式ではあったが、

王太子にして生徒会長のリュドヴィックを一般客と同じ扱いにするのはどうなんだという事になり、

お前行けよ、嫌だよと押し付け合いの果てに、

結局ロザリアが相手をする事になった。


「えー、本日は当家へようこそお越しくださいましたー。

 まずは当家の主が不在な事をお詫びいたしますー。

 当家で用意できるお食事はこちらになりますー」

物凄い棒読みでロザリアがリュドヴィックにメニューを渡すが、

その態度はお世辞にも丁寧とは言い難い。

だがリュドヴィックは全くに気にした様子は無かった。

「ああ、主とかはどうでも良いんだ。僕は君に逢いに来たんだから」

逢いに来た言うな、せめて会いに来たと言って欲しい。

『よけーな事言わないでくれる!? マジに気が散るから!』


リュドヴィックは料理には本当に興味が無いようで、ただロザリアだけを見ている。

そしてその視線を受けてロザリアは居心地悪そうにしている。

ロザリアには自分の男装を珍しがってるようにしか見えないが、周囲はそうは受け取らない。

その光景は無駄に美形な男子2人が見つめ合っているようにしか見えず、

しかも2人は男女の上に婚約者どうしという事もあり、

倫理的に全く問題無いはずなので皆遠慮なくそれを見物していた。

『いや待って待って、マジ待って。なんでみんなウチらの事を見てるわけー!?』


「ねぇロゼ、隣に座ってくれないかな?僕を一人にしておく気かい?」

「あのー、お客様? 当家ではそういう接客はお断りしているんですがー」

「おや、つれないな? 2人きりの時は、いつも膝の上に座ってくれるのに?」

「リュドヴィック様!? ですから!いやだから! 人前でそういう事を言わないで貰えるかなぁー!?」

ロザリアも恥ずかしいなら恥ずかしいで否定すればいいものを、

いきなり普段の様子を皆の前で暴露されて思わず声を上げてしまう。


そんなロザリアの様子に、店内の客や店員は内心大盛り上がりだ。

「(普段膝の上とか座ってるのか……)」

「(王太子様が婚約者の家に入り浸ってるって噂は本当だったんだ……)」

「(素のロザリア様、マジやばくね?)」

と、そういう生暖かい会話はお客にとって最高のご褒美なので皆固唾を飲んで見守る。


一部の女生徒が急いで会計を終え、ダッシュで外に出ていったが、

「こうしちゃいられねぇ!部長に知らせないと!薄い本売ってる場合じゃねぇぞ!」

と言っていたとか、いなかったとか。

その後も噂を聞きつけたのかどんどん生徒が集まり、

すぐに客席は満室となるが今やクラスメイトもしたたかなもので、

どこからか机や椅子を調達して廊下にまで席を作って客を迎え入れていた。いや何だこの状況。

『それはウチが聞きたいわ!見世物じゃないんですけどー!?』


「最近、2人きりで逢えなかったよね」

リュドヴィックはそっと傍に立つロザリアの手を取って愛を(こいねが)うように語りかけてくるが、

ロザリアはここで流されてはならぬと、

あえて冷徹な目で睨みつけ、その手を振り払い、冷たい口調で言い放った。


「お客様、何度も申し上げますが、当家ではそのような接待はいたしかねます」


それは彼女の真っ赤な髪と禁欲的な執事服の男装も相まって、

まともな者なら心がヘシ折れるどころか、複雑骨折しそうなくらいの雰囲気を(まと)っていた。

だが、周囲は逆にそれがツボに入ったようで、何故か周囲から黄色い悲鳴とため息が漏れる。

『だからどうしてよ!』


「おやおやどうする?君が僕に冷たくすればするほど、周りは悦ぶようだけど?」

悦ぶ言うな、せめて喜ぶと言って欲しい。

普段乙女心に気が回らないくせに、こういう所は計算高いリュドヴィックに負け、

ロザリアはせめてとリュドヴィックの向かいの席に着席した。

『だから悦ぶとか言うなし! くっ……、負けた気がする……、いや何よこの場合の敗北って!』


「ねぇ、どうしてそんな向かい側に座るのかな?君との距離がこんなに遠いよ」

とリュドヴィックはテーブルの上に置いたロザリアの手の指先に、

そっと同じように置いた自分の指先を触れさせる。

手を握ってくる程でもないのでロザリアは手を払うわけにもいかずにいると、

リュドヴィックはロザリアの指先を自分の指先で撫で始めた。

それは戯れというよりも妙に艶めかしく、ロザリアは気恥ずかしさがどんどん湧き上がってくる。

周囲はその指先の動きを1mmも見逃すまいと注目していた。

何故かオペラグラスを持っている生徒までいる。

いや、廊下で「え~、オペラグラスいかがですか~」と、売っている生徒がいた、用意の良い事だ。

『さすがに待てや! 突っ込みが追いつかんわ! どんな状況を予想してたってのよー!』


このままではいけない! とロザリアは慌てて手を机から離し、胸元に隠すように手をかばった。

指先が火のように熱い。まるでリュドヴィックの想いを流し込まれたようだった。

その仕草は、男装でありながら乙女感丸出しで、過去最高クラスに危険な色気に教室中の皆の視線が釘付けになった。

「へぇ……? 私を拒絶するんだ?」

「そ、そういうわけでは……。人も見ておりますので」

「今この家には私と君だけだよ?誰に隠すことがあるの?」

「ええ!?」


それはつまり、設定上貴族の屋敷に招かれてはいるが、屋敷の中は2人きり、

この満員御礼の店内の生徒の事は気にしない、むしろ好きに見ろ、という事か。

「(さすが王太子様話がわかる!!)」

「(好きなだけ見物してろって事ですね!ありがたく拝見させていただきます!)」

「(お邪魔はいたしません!我々はただ貴方達を見守る壁でいたい!)」

「(グランロッシュ王家に栄光あれ!)」

店内の全員の思いが一つになり、声や音の無い拍手喝采が巻き起こる。

『ちょっと待てー!勝手にそんな設定追加すんなし!』


突如2人きりという設定にされてしまい困惑するロザリア、

だが周囲の期待の目は、もはや完全にその方向で固定されている。

ロザリアは思わず立ち上がり抗議の声を上げようとするが、足元に妙な感触を覚え、

リュドヴィックが今度は足に悪戯しているのかと睨む。

「おや?どうしたのかな?そんな怖い顔をして」

「白々しい真似を……、机の下でもぞもぞと、

 私が男装しているからって許される事ではありませんわ」

「机の下?私は何も?ああ、この子か」

リュドヴィックがひょいと机の下から持ち上げたのは猫だった、

どうもこの子がロザリアの足にじゃれついていたらしい。

「あ、も、申し訳ありませんでした!疑うような事を言ってしまって」

「構わないよ、と言いたい所だけど、私は少々傷ついたなぁ~」

とリュドヴィックは白々しく言い放ち、捕まえた猫をひょいとロザリアに渡した。

思わずロザリアがそれを受け取って両手がふさがった瞬間、

さっと椅子をロザリアの側へと移動させて、自分の座る位置をロザリアの側へと移動させてしまった。


ロザリアは逃げようとしかけたが、いつの間にかリュドヴィックの手は腰に回されていた。

強引に抱きかかえようとするような手付きではなく、いつものドレスやコルセットではないのを一応考慮してかその手付きは優しい。

だが、腰の敏感な所を触れるか触れないの微妙なタッチで触れられてはむずがゆく感じるだけで、どうにも落ち着かなかった。

ロザリアは身を(よじ)らせるうちに誘導されたのか、いつの間にかリュドヴィックの胸に肩を預ける形になってしまっていた。

「さて、これなら少しは普段の雰囲気に近づいたな」

「あ!?な!?え!?」

リュドヴィックはロザリアの両腕がふさがってるのを良いことに、

そっと頬を撫で、肩に垂らしている髪を手に取り、愛おしそうにその先に口づけた。

その姿はまるで恋人同士のような甘い雰囲気を漂わせている。両方男の格好だが。


「お、おきゃく……さま」」

「ロゼ、私の名前を、呼んでくれないのかい?」


白々しく輝くような笑みを浮かべるリュドヴィックは、今のロザリアには劇薬過ぎた。

『ぐっ……、そういえばこの人超美形だった!

 いい加減慣れたつもりでも今このイケメンを至近距離で見るのはヤバいんですけどー!?』

意識してしまうともうダメだった、窓から降り注ぐ光は後光のようにリュドヴィックを照らし、心なしかキラキラと光の粉が宙を舞う。

校庭から聞こえる鳥のさえずりは天上の音楽のようにも聞こえ、祝福の鐘の音と共に、天使が教室の天井から降りてきた。

『ぎゃー! 緊張感のせいか又へんなものが見えてきたー!』


ロザリアはもはやリュドヴィックの顔を見る事も出来ず、ひたすら(うつむ)いて固まっていた。

リュドヴィックはロザリアの髪を弄びながら、じっとその横顔を見つめていたが、

ふと、その視線がロザリアの唇に移った時、ロザリアの身体がビクリと震えた。

リュドヴィックはそっと人差し指でロザリアの顎に手をかけて上向かせ、

邪魔だとばかりに目の所の仮面をとって自分と視線を合わせる。

リュドヴィックの瞳の奥には今まで見たことが無いくらいの熱が宿っていた。

ロザリアは思わず目をつぶってしまった。

何をされるかわからない恐怖からか、それともリュドヴィックの美しさへの緊張からか。

ロザリアの唇にリュドヴィックの唇が触れそうになった瞬間―――。

「ここでは、嫌です……」

思わずロザリアはリュドヴィックにしか聞こえないような声で呟いていた。

目尻には涙も浮かんでいる。


「少々からかい過ぎたね、そろそろ行かなくてはならない。今日はこれで失礼するよ」

さすがにやり過ぎたと思ったのか、リュドヴィックは早々に教室を退散する事にした。

「また後で、2人で魔学祭をいっしょに回りたいな?」

と、半ば断れない命令か呪いのようにロザリアに言い残し、去っていった。


「……何だったんスか、今の空気は」

「クレア君、口調。いつもの事ではないですか」

だが、何度も見聞きしているクレアやアデルの2人とは違い、

店内は先程の空気に当てられてしまってしばらく妙な雰囲気だった。


「くっ……、私はまだ追い込みが足りなかった。本物はやっぱり違うわ……」

「部長、来年こそ、来年こそもっと良いものを作ってみせましょう!」

とある女生徒が悔し気に机を叩き、その後輩がその拳を握って奮起していた。

「こうしてはいられない! あの、ロザリア様! 次の公演時間は何時になりますか?」

「い、いえ、あれ見世物ではありませんので……」

どうも余興の見世物だと思われてしまったらしい女生徒からの問いにロザリアは訂正したが、

創作読書研究部員達はむしろその言葉に火が付いたようだった。

「わ、私が間違っておりました! 全てはただ一度きりだからこそ尊いのですね!

 何か降りてきたわ!行くわよ!」「はいっ!」

と、ロザリアの言葉を都合よく解釈して勝手に盛り上がり、店を出ていった。


げっそりと疲れたロザリアは、しばらく休憩を願い出た。

「あー、ロザリア様?お疲れ様でした。あの、できたらさっきのを~、

 王太子殿下を又ご招待して、午後の部をお願いしたいのだけど」

クラスメイトからも再演をお願いされてしまった。

「ごめんなさい、お願いだからそれだけは許して」

ロザリアは即答で断った。


次回、第159話「いただきます、ごちそうさまはとっても大事」

読んでいただいてありがとうございました。

また、多数のブックマークをありがとうございます!


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

いいね・感想や、ブクマ・評価などの

リアクションを取っていただけますと励みになります。

作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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