第155話「地の神王獣の魔晶石」
一通りドワーフ鉄を集めて回ったギムオル達はようやく設備自体の調査を始めた。
どうやら本当に昔の技術自体には興味がなかったらしい。
『ドワーフさん達のこだわりって、テッテーしてるよね……』
広い円形の部屋の中央にあるのは巨大な半球状の設備で、
それだけは他の設備とは異なり金属製だったので原型を保っていた。
大きさは人の背丈の5倍程もあり、近づけば近づくほどその大きさに圧倒される。
半球の周囲にはここだけ多数のガレキが散乱しており、他とは様子が違っていた。
ガレキの中には金属製のものもあり、ギムオル達はむしろその金属の方に興味を示し、
コンコンと叩いたり端の方を削ったりしていた。
「どうやらこれが、この施設の中枢のようだの。まるで巨大な亀の甲羅だ」
「とはいえもう設備としては死んどるの。中に何かが封じ込められてはいるようだが」
ギムルガの言う通り、半球の表面は亀甲状の分割線があるので亀の甲羅に見えなくもない。
もう動いてはいないようだが、それでもその圧倒的な存在感は側にいるだけで重苦しく感じる。
「これ、何なんですか?」
「多分魔核炉の心臓部だとは思うがな。ドワーフ鉄よりも頑丈な金属製だからずっと残っておった」
「この金属も持って帰りたい所ではあるがなぁ、うかつに触るのは気が引ける」
「そんな貴重なものなんですか? この金属って」
「1000年以上も錆びずにおるのだぞ? 貴重で無いわけがない。
とはいえ、これをぶっ壊すと確実にろくでも無い事になるなぁ」
「さっき言っていた、大地から魔力を取り出すというあれか。
どのような仕組みなのか教えてもらえるか?」
クレアの質問に答えるように、ギムルガはこの設備が何なのか見当がついているようなのでリュドヴィックが問いかけた。
彼の立場からしたらこの設備が危険なものであるなら、即刻この場を封鎖しないといけなかったからだ。
「この中には恐らく巨大な地の魔石が埋め込まれておる。
その魔石に大地から魔力を吸収させた後、別の魔石との反応で魔力場を円状に励起させ、
膨大な魔力を集めて一方向に流す仕組みだな。この場合上方向だ」
「なんだかよくわからないもの、というのはわかったわ」
ギムルガが装置のあちこちを指さしながら身振り手振りで説明してくれるのだが、
魔法学校の授業でも習わないような事なのでロザリアにはさっぱりだった。
リュドヴィックやクレアも同意するようにうなずいている。
「まぁ要はこれで大地から魔力を吸い取っておったのだ。
という事はこの上を見れば魔力を溜める装置があるはずだがな」
「ちょっと待ってろ、見てくる」
言うやギムルガは壁を登り始めた。
よじのぼっているのではなく、壁に対して垂直に立って天井の方に歩いていっていた。
地の魔力属性の使い手は重力を無視した事ができるとは聞いていたが、
授業で他の生徒はそんな事をしていなかったので少々驚いてしまう。
授他の生徒が使っているのはだいたいが石つぶてを生成して相手にぶつける攻撃魔法くらいだったからだ。
「道の無い所を走る時に楽だ、くらいにしか思ってなかったっスけど、考えたら凄い便利ですねー」
「地の魔法力は地味だなんだと言われるがそうでもないぞ? 想像力さえ追いつけばその辺の鉄の塊を自在に変形させたり変質させて硬くしたりできる」
ギムオルがドワーフだけあって、種族の基本属性である地の魔法力には誇りを持っているらしく説明してくれる。
ロザリアはそういえば父も王城の上空に巨大な鉄槌を出現させて攻撃していたが、あれもその一種かと納得した。
クレアは自分も地の魔力を持っているのでやってみよう、とその辺の壁に足をかけるが、
イメージしきれなかったのか、ずるりと足は滑る。
「クレア様、お行儀が悪いのでここで壁を登るのはお止め下さい」
「いやアデルさん、どこなら壁を登ってもお行儀が悪くないんスか……?」
「上は全部吹っ飛んでおるのー! 実験は失敗したのかも知れん!」
上からギムルガが体格に似合わぬ大声で叫んできた、どうもこの施設の上部は残らず吹き飛んでいるらしい。
施設の上部が壊れていた原因はこれか、とギムオルが近くの金属片を改めて興味を示していた。
「それにしても破片の厚みからいってかなり頑丈そうだがなぁ、
それを破壊してしまうとはかなりの爆発だったようだぞ。
よくこの地下空洞が無事だったものだ」
「炉心の中枢そのものは無事みたいだぞ、どうも溜め込んだ魔力が暴走したようだな。
安全の為に地底深くで実験したのか、この場所が実験に都合が良かったのか、
ともあれここはその失敗が元で放棄されたらしいの」
降りてきたギムルガが、破壊された部分には修復しようとした形跡が無い事から類推したとの事だった。
「となると、残る問題はこの魔核炉の心臓部くらいか、うーむ」
「他はどうでも良いがさすがにこれを埋めてしまうのはなぁ、うーむ」
「危険は無いのか? 先程の話だとずいぶん物騒なもののようだが」
「機構の大半が死んでおるから何も問題無いよ。
放出された魔力も上の山にぶち当たって大半が魔石化したようだしの。しかし、うーむ」
「思わぬ所でこの魔石鉱山の成り立ちが判明したな。
ワシらのご先祖は実験が失敗した後はここを放棄して、
上の山を鉱山にする方に切り替えたようだ。しかし、うーむ」
ドワーフ2人が深刻な顔をして腕組みで半球を睨み続けるのでリュドヴィックは本当に大丈夫なのかと心配になるが、2人は安心と口にする割に深刻な顔を崩さない。
「なら、何故そんな悩んでるんスか? その心臓部とかに何か問題が?」
「いやのぅ、ここに収まってる魔石が問題なんじゃ」
「魔石、ですか? でもこの山自体が魔石の塊みたいなものですし、珍しくも無いのでは?」
「いや、これだけ巨大な装置に使われるという事は、巨大な1つの魔石が中心に封じられておるぞ」
「さよう、それも山から掘り出したようなものではなく、地属性の魔獣から取り出した魔晶石だ」
「はぁ、でも魔晶石なら魔獣の身体から出てきますし、珍しくもないっスよね?」
「大きさが問題なのだよ、この大きさからすると、確実に神王獣クラスの魔物のものだぞ」
「え、神王獣って、あのオラジュフィーユさんみたいな?」
物怖じしないクレアが2人に聞くが、帰ってきた答えは意外なものだった。
オラジュフィーユの魔物状態といえば、以前操られて王城を襲った時のものだが、
その時に目撃した魔晶石はたしかにこの半球に収まるくらい巨大なものだった記憶はある。
「問題はだ、地の神王獣はここ1000年以上行方不明だった事なんだ。
もしかしたらこれが先代の魔晶石だとしたら、
ワシらの先祖がこれを封じ込めた為に新たな神王獣が産まれなかったのかもしれぬ」
「えぐい事してたんですね……。ドワーフさん達の先祖って」
「真相はどうだかわからんがな。
ともあれだ、これを開放すると地の神王獣が復活するのは良いとして、
経緯によって地の神王獣の怒りを買ってしまうかも知れんのだよなぁ」
地属性の魔物は基本的に温厚ではあるが、怒る時は火山のように怒り狂う。
ましてそれが新王獣になるとなぁ……、とギムルガもため息をつく。
「ギムルガよどうする? ワシらでは確実に手に余る。ドワーフ王にお伺いを立てるしか無いな」
「そうよなぁ、ここに置きっぱなしにするわけにはいかんし、しかしこれをどう運び出したものか」
またもドワーフ2人が腕組みでうーむと向かい合い、あーでもないこーでもないと話し合い、
とにかく何とかして運び出すという結論に達したあたりでギムオルがリュドヴィックに話しかけてきた。
「王太子の坊っちゃんよ、この件というか、この魔晶石についてはワシらに預からせてくれんか?
下手に扱いを間違うとこの鉱山だけの話ではなくなる」
「ドワーフ王との話し合いにもよるが、
この錆びない金属を王家に全て献上してでも魔晶石だけはドワーフのものとさせてもらいたい」
「ま、まぁ、そういう事なら仕方ない。魔石なら鉱山から掘り出せば良いし、穏便に済むなら言う事は無いが……」
こちらも現場では判断に困るので一旦持ち帰らせて欲しいというのと、
その錆びない金属の見本とそれを用いた剣を用意する事で話はまとまった。
グランロッシュ王国は魔法に力を入れているという事からも、
周辺の神王の森エルフやドワーフ魔石鉱山のドワーフ達とも同盟を結んでおり、
互助関係にあるので王も無茶は言わないはずだった。
「それなら話は早い、魔晶石のだいたいの大きさくらいは割り出しておくか、ちょっと裏に回ってみる」
「そんな事もできるんスか!?」
「装置に使われている板の厚みや構造でだいたい想像つくだろ。
金属を見ればどれくらい厚い素材を作れるかもわかるからな」
「いや、普通そんなのわからないと思うっス……」
「王太子の坊っちゃんにも土産が要るな、この錆びない金属の見本をちょっと切り出してくる。
魔晶石取り出す時に壊しても良さそうな所を見てくるぞい」
ギムルガやギムオルはさっさと行ってしまった。
どれもこれも一般人には難しそうだが、事もなげに言うギムオルに、
皆はドワーフというものは種族そのものが職人なのだと改めて思った。
次回、第156話「あ、改めて学園祭の準備頑張るわよー……。」
読んでいただいてありがとうございました。
基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。
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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、
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