第153話「なんでウチ学園祭の準備で発掘作業してるんだろう……」
リュドヴィックは突然ドワーフのギムオルに話を振られても、
その内容が自分と今一つ結びつかず首を傾げる。
「古代ドワーフ遺跡……? と言われても特に思い当たる事が無いのだが」
「いや王家から鉱山に要請してたろ。光の魔石が必要だから魔石の生産量増やせと」
「ああ! 確かにそういう通達をしていた。
そういえば先の浄化門制作でもずいぶん助けられた。それが?」
「魔石の産出量を増やそうと坑道を延伸・拡張してたんだがな、
掘り進んだ先で古代ドワーフの遺跡を発掘してしまってな」
「遺跡!? 山の中ですよね!?」
リュドヴィックとギムオルの会話を聞いていたロザリアが思わず驚きの声をあげる。
ロザリアは鉱山の奥部まで行った経験があり、
その先に遺跡が見つかるというのは想像もつかなかったからだ。
「別に珍しくもない、ワシらドワーフは元々鉱石の出る山の中に住んでいたからな。
何かの理由で埋まってしまったか放棄されたんだろう。
ここは昔から魔石が産出されとったし、大昔に住んでても不思議は無い」
「それって凄い事なんですか?」
「発掘してみるまで何もわからん。
古代の超技術が埋まっているかもしれんし、もぬけの殻かもしれん。
で、その調査を手伝ってもらえんかとな」
「鉱夫達では無理なのか?」
リュドヴィックはギムオルと会話しているロザリアが次第に前のめりになってきているのに気づき、
このままでは止められなくなる気がして横槍を入れる。
鉱山の奥であればそのまま鉱夫達に掘らせれば良いのではないか?と思ったのだ。
「あいつらは腕っぷしはあるし良く働くがな、魔法を使えんのだよ。
いざという時に自分の身を守れんのだ。というわけで手伝ってもらえんか?」
「手伝う、と言われても。危険ではないのですか?」
さすがのロザリアも、興味があるとはいえ鉱山の奥も奥に行くとなると腰が引けてしまう。
落盤や崩落に巻き込まれかける経験もしていたので無理もなかった。
「まぁそこは自分の身は自分で守って欲しいが、とりあえずの調査だけだからの。
一番奥まで行かなければならないわけでもないし、ドワーフには罠を仕掛けて回る趣味も無い。
何より遺跡にはドワーフ鉄が転がってる事が多い。丁度良いのではないか?」
「ええー。どうしましょう? リュドヴィック様?」
ギムオルの申し出にロザリアが困ったようにリュドヴィックに助けを求める。
思わぬ所から肝心のドワーフ鉄の話が出たので断るに断れなかったのだ。
リュドヴィックもロザリアに頼られては悪い気はせず、強くは出にくくなった。
「まぁ、行ってみるだけなら……。
万が一を考えると下手に鉱夫達に掘らせるのは事故につながりかねないからな」
「おおそうか助かる。なに、遺跡にも様々な形式があってな、それを少々調査しておきたいだけだ。
何も無ければ又埋め戻す」
さっそくロザリア達は坑道の入り口に連れてこられた。
とはいえ操業中なので鉱夫達が何人も行き来し、非常に活気のある場所だった。
こちらでも行き交う鉱夫には顔見知りが多く、時折クレアに挨拶する者もいた。
クレアの方も威勢よく返事をしている。
「よし、さっそくギムルガにも来てもらった。むしろこいつの方が詳しいからな」
「久しぶりじゃの、ワシの周辺での遺跡は久しぶりだからの。
ギムオルと2人だけでは少々心もとなかったんだよ」
「鉱山内部では様々な事が起こりうるからなぁ。それこそ突然大量の水が出てくる事もある。
そんな時ワシらの地属性だけではどうにもならん場合が多くてな。
魔法学園か冒険者のギルドに依頼を出そうかと思っておったのだが、何しろ遺跡の規模がわからん。
建物1つだけかも知れんし、集落1つまるごとかも知れんのだ」
「でまぁお前さん達なら多少の事が起こっても対応できるし、
さっさと逃げ帰ってこれるだろうからな」
そう言うとギムオルとギムルガは坑道の奥に向かって歩き出し、
ついてこいと言わんばかりに手招きした。その様子にロザリア達も慌てて後を追う。
坑道の中には灯りも取られており、空気を送り込んでいる配管も通ってはいるがやはり暗い。
ギムオル達は地の魔法属性ゆえに何の苦もなく歩いているが、突然連れてこられたマルセルは
少しおぼつかない足取りになっていた。
リュドヴィックはマルセルの様子に気づくとすぐに駆け寄り、肩を貸した。
マルセルは恐縮して謝るが、リュドヴィックは特に気にしていないようであった。
ギムルガはその様子を見ると、クレアに声をかけた。
「おーいクレアちゃん、ちょっと魔力抑制を弱めて明るくしてくれんか?」
「えーと、これでどうっスかね?」
クレアがネックレスの魔力抑制を弱めて行くと、坑道の壁が少しずつ光り始める。
クレアの魔力に反応して4種全て光り始めたので壁そのものが照明の役割をし始めた。
おかげで坑道内がだいぶ明るくなり、足元も見えるようになった。
それを見たマルセルが、思わず感嘆の声をあげる。
「ああ、クレアさんが4属性全部を使えるという噂は本当だったんですか。
各地を治療して回ってるって噂になってましたし」
「マルセル君?一応機密に関する事なのでね?他言無用だ。
漏らせばドワーフ鉄は没収するからね?
あと今後一切のドワーフからの支援を受けられなくする」
「は、ははははい!」
リュドヴィックの有無を言わさぬ強い言葉に、マルセルは背筋を伸ばして答えた。
クレアが治癒魔法を使える時点で半ば公然の事ではあったが、
そこから光の魔力属性の事が漏れる恐れもあるので、
対外的にクレアは風と水の属性持ちという事になっていたからだ。
「……人選をちょっと誤った気がするのぉ」
「さて、ここがその遺跡の近くなんだがの」
呆れたように言うギムオルと、それに同意するように首を振るギムルガ、
見ると坑道の壁の一部が崩落しており向こうに黒い空間が見える。
その中に向けても送気管は設けられており、事前に準備はされていたようだ。
「確かに向こうに何かありそうね?ここをどうすれば良いの?」
「斬っても割り砕いてくれても構わんから、人が通れるくらいに少々広げてくれ。
坑木を立てて穴を補強するのはワシらがやる」
「まぁそれくらいなら」
ロザリアは腰から魔杖刀を手に取り、魔力刃を伸ばして壁面に切りつけてみた。
石や岩は何の抵抗も無く切断される。
「うわ、まるでバターみたいに切れますね」
「相当に腕が上がったようじゃの。最初とは比べ物にならん」
クレアとギムルガが驚きつつロザリアの腕を褒める。が、当のロザリアは不満そうだ。
「いえそれでも、ドラゴンとか魔界の真魔獣とかには刃が立たなかったですよ?」
「そりゃ比較対象がおかしいわ。普通は相手にもならず殺される」
「むしろそんなもんで戦うなよ。婚約者の坊っちゃんが心配するはずだ」
ロザリアは素直に自分の実力不足を認めたのだがギムルガとギムオルは思い切りそれにツッコんだ。
どう考えても道具の使用方法がおかしいからだ。
少なくとも魔法を使う者の戦い方ではない。
リュドヴィックとアデルはそれを聞いてうんうんと頷いていた。
ロザリアは持ち運びしやすいように大きめのレンガくらいの大きさに壁を切り刻んていった。
それをギムオルとギムルガが取り除いてゆき、坑木を立てていく。
「やはり便利じゃの、ツルハシでやるのとは効率が違いすぎる」
似た事はクレアもできるのでわずかな時間で穴は拡張され、奥へ通ずる道が完成した。
「さてギムルガ、この向こうは真っ暗じゃが灯りはどうする?」
「まかせろ。こういう時の為のものを作っておいた」
ギムルガは背負っていた背嚢から長細い筒のようなものを取り出すと、
肩に担いで入り口から内部の上空に向けた。
『マ!?あれ!バズーカ砲とかいう奴じゃないの!?』
一瞬焦ったロザリアが止める間もなく、ギムルガは筒の引き金を引いて何かを発射した。
シュポンというやや間の抜けた音と共に、光の球が内部の天井に向けて飛んでいく。
それはまさに前世のミサイルかロケット弾にしか見えなかった。
「ちょっと!爆発するんじゃないの!?」
が、その光はロザリアが心配するような事にはならず、
天井近くに近づくと天井に反発するように軌道を変えて落下し、
やや下降した所で空中に静止して光り始める。
その光は遺跡内部を小さな太陽のように照らし始め、遺跡の全容が見えてきた。
「おおー、すげー」
「こりゃ驚いた。大分古いなこれは」
「下手すると1000年以上は前だぞこれは、ちょっとした大発見だな」
クレアは驚くだけだが、ギムオル達はドワーフゆえに遺跡の年代がわかるのか興奮していた。
「でもお姉さま、これ、遺跡っていうより」
「そうよね、妙に新しい感じがするわ」
遺跡は規模こそ小さいものの石を積み上げたような建物が全く無く、
つなぎ目の無い箱のような建物がいくつも立ち並んでいたからだ。
その建物の間に、何かの設備の煙突や配管が這い回っている。
また、地面は舗装されており、馬車の轍の跡も無い。
どう見ても中世の街には見えず近代都市のようであった。
次回、第154話「私はツァラトゥストラ」
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