第152話「えーと、ウチに何か用?」
さて、魔学祭に絡んで色々クラスメイトと交流が増えれば自然とロザリアの周りには人が集まるようになるもので、実技の授業でもロザリアに色々と質問を投げかけてくる生徒は増えていた。
「ロザリア様、この部分の術式なんですけれど」
「ああこれ、我流で良ければ教えるわよ?」
と、特に女生徒からのアプローチが増えたのは先日の男装の影響が皆無というわけではあるまい。
「ロザリア様! 何か凄い鎧を持っていらっしゃるそうなのですが、見せて下さいませんか?」
「え、ええー? 良いけど……」
と、持っている物にまで注目が集まっていた。特に隠していたわけでもないのでシモン達からでも話を聞いたのだろう。ノリの良いロザリアが見かけだけの炎を周囲に発生させ、
その中で踊るように鎧を纏って行ったのが大ウケで、周囲からおおぉ~!!と歓声が上がった。
しかし、何も同級生、女生徒からばかりではなかった。
「ゴーレム?今度の魔学祭に?」
「ああ、うちのクラスの見世物として、出す予定なんだ」
上級生の男子生徒まで話しかけてくるようになっていた。
男子生徒は2年のマルセルと名乗り、ロザリアに協力を仰ぎに来たのだという。
「でもゴーレムなんて、言ったら悪いけど、そう目新しいものでも無いと思うんだけど」
「そこでだ、わがクラスのゴーレムはなんと、内部に乗り込んで動かせる予定なんだよ!」
「おおー! 人の10倍くらいの大きさとかあるの? 空飛んだり?」
「い、いやさすがにそこまでは。人の1.5倍くらいだよ、動く鎧みたいになる予定だ」
「ええー」
ロザリアは前世の戦隊番組で見たような合体するロボットまで想像していたのだが、
思いの外小さいサイズだったので露骨に残念そうな顔になる。
「まぁ、学生が作るものだものねぇ。でもそれが私とどう関係するの?」
「大いにある。ロザリア様の使っている剣とか鎧ってドワーフ製だよね?
ドワーフ工房にツテがあると思うんだけど」
「ええ、確かに知り合いはいるわよ? 時々色んなもの作ってもらってるんだけど」
「やはり! 紹介してもらえないかな? ちょっと技術的に難しい所があってさ」
「ああそういう事、でも大丈夫かしら? その人鉱山で働いてるんだけど、忙しかったら手伝ってもらう余裕なんて無いかも知れないわよ?」
ギムオルは基本的に鉱山の親方をやっており、ギムルガに至っては気難しく鎧等も制作までに何年も待つ事があるのを聞いた事がある。
「いや手伝いというか、技術的な事をお願いするだけでも良いんだよ、ダメかな?」
「かまわないわよ? 会うだけなら何とかなると思うわ」
「ギムオルさーん、忙しい所ごめんねー」
「おおロザリア嬢ちゃんか。かまわんぞ、ワシは現場で文句言っておるだけだからの。何か人が多いの」
後日、ロザリアは鉱山のギムオルを訪れていた。
鉱山の操業中だったので休憩所のような所での面会だ。周囲は鉱山で働く男たちで賑やかだ。
正直ロザリア達は部外者も良い所ではあったが、何度もこの鉱山に出入りしているのでむしろ歓迎されていた。
中にはわざわざクレアに会いに来て手を振るだけで帰っていく者もいる。
「は、はじ、初めまして、魔法学園2年のマルセルと、も、申します」
2年のマルセルが緊張していたのはギムオルと会ったからというわけではなかった。
「お初にお目にかかります。魔法学園3年、生徒会長のリュドヴィックと申します」
「いや生徒会長って、お前さん王太子だよな?隣の者が恐縮し切っておるが」
「ああギムオル殿お気遣いなく、私は婚約者のロザリアの付き添いですので」
マルセルにすれば気遣って欲しいのは自分の方だった。
彼も貴族だったので王太子であるリュドヴィックと本来は同席など軽々しくできるものではない。ロザリアやクレアのような態度が本来おかしいのだ。
「アデルさん、あれ……」
「恐らく、魔学祭の技術関連の事とはいえ、男子生徒が同行するという事でお嬢様に手出しさせないように、でしょうね」
「まぁ誰が見てもそう思いますよねー?あの人かわいそう」
「殿方の嫉妬というのは少々見苦しくもありますが、今回は色々な意味で危険が多いので良いのではないですか?」
クレアとアデルがあきれるようにロザリアは男装して無駄に目立ちまくっていたので、
注目度が一気に上がってしまっていたのだ。また、トラブルメーカーと思われてはいたが、
無駄に行動力があるだけでわざわざ人に危害を加えるような性格でもないと言うのが知れ渡り、
男女問わず人気が出てしまったのもある。
「あー、男子って『自分だけがあの子の良さをわかっている』っての好きそうですもんねー」
「お嬢様の周囲に人が増えてしまったので焦ったのでしょう、
今からあれでは先が思いやられますが」
「あ、ああああの王太子様、今日はどうしてこちらに?」
「嫌だな2年3組のマルセル・トゥルーヴィル君?
私は婚約者と休日はだいたい一緒に過ごしているんだが?」
リュドヴィックはにこやかに言うのだが、目は笑っていない。あえてロザリアも知らない所属クラスや家名まで言ってみせたのは確実にプレッシャーを与える為だった。
「は!?あ、いえ、僕は本当にゴーレムの事でですね」
「わかってるわかってる。さぁ技術的な事なんだろう?さっと済ませてしまおう」
「……また面倒臭いのを連れてきたなお前さんは」
ギムオルは呆れたようにロザリアにため息をつく。
「ふむ、発想としては悪くない。
無駄に大きくするよりは最低限の大きさに留め、乗った者の機能を拡張する形か」
「はい、生物の中には身体の中にではなく、身体の外に骨格を持つものもいます。
それを人間に当てはめ、人間に外骨格を追加して、そこに動力を組み込むんです」
マルセルは休憩室の机に図面を広げ、ギムオルに説明を行っていた。
ギムオルはドワーフ特有の髭を撫でながら設計図を眺めており、周囲の鉱夫達も興味深そうに覗いていた。
「まぁ問題はどこまで大きくするか、だな。大きすぎると使い物にならなくなる」
「ええー、人の10倍くらいの巨大ゴーレムって良いと思うんだけど。
中に乗って操縦出来たら凄いわよ?」
「お前さんな……、そりゃ巨大なゴーレムはワシも男として魅力は感じるが、
技術的にはどうしても避けられん問題があるんだよ。
仮に人が10倍の身長になったとして、重さはどれくらいになると思う?」
「え?10倍だから、重さも10倍じゃないの?」
ロザリアがやはり巨大ロボを捨てきれず提案してみるが、ギムオルに呆れたように質問され、当然だろうとばかりに答えたが、 ロザリアの言葉にギムオルの眉間のシワが深くなる。
「違う、縦・横・高さそれぞれで10倍だから、10x10x10で1000倍だ」
「ええー」
「それに反してだ、骨の大きさも10倍になったとしても骨の断面積は100倍にしかならん。
重さに耐えられると思うか?」
素人考えでも無理だという現実がそこにあった。この世界では金属に魔石を混ぜ込んで強化する事等が行われているが、それでも一般的な金属の強度を上げるには限界があるのだという。
「それだけの重さを支える骨格の強度の確保や、増えた重量を動かす動力だけでも馬鹿にならん。作ったはいいが自分の体を動かすだけで手一杯で、何かを持ち上げるどころじゃなくなるぞ。
最悪立っただけで崩壊する」
「大きさってそんなに影響あるの……」
「ドラゴン等の魔獣でも大きさが倍になるだけで骨の断面積が10倍くらいになっとるからの。
とにかく大きなものは厄介だ」
「そうなんです、だから僕らも大きさを追求するよりは、鎧か骨のようなものが人間の身体の側面に張り付いて、人の腕力とかを拡張できるものにならないか、と」
「それでも一般的な金属ではかなり重くなってしまいそうだな。ちょっとした鎧より重くなってしまう」
「そこでです、ドワーフ鉄を分けていただけないかと」
「ドワーフ鉄?」
聞き慣れない名称にロザリアがつい口を出してしまったがギムオルは特に嫌な顔もせずに答えてくれる。
むしろ興味を持ってくれて嬉しそうなのと、以外な名前が出てきた事に少々驚いている感じだった。
「あまり世には出回っておらんがな、古い遺跡から時折り出てくるんだ。
鉄と言っても鉄そのものじゃなくて錆びもせんし軽い」
「それって、貴重なものなんじゃないですか?」
「貴重は貴重だがな、使い道もあんまり無いので誰も使わんのだよ。
だいたいは金属に魔石混ぜ込めば何とかなってしまうからな。軽すぎて武器にも使えんし」
「ですが我々の場合、その軽さこそが望ましいのです。
それに魔石を混ぜ込んで魔力を溜め込めれば骨か外骨格そのものを動力源にできるので、
様々な部品が節約できて、相当軽くなると思うんですよ」
ギムオルがロザリアに答えた内容に、マルセルが補足するように続ける。
「ふむ、面白そうだな」
「では、」
「いやこっちからも条件がある、丁度いい所に王家の坊っちゃんも来ているからな」
「私か?どういう事だ?」
「遺跡発掘を手伝って欲しいんだよ。古代ドワーフ遺跡だ」
次回、第153話「なんでウチ学園祭の準備で発掘作業してるんだろう……」
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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、
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