第151話「さぁー!はりきって準備するわよー!!」
「というわけでー、貴族っぽい服を用意するわよ! みんなヨロ~❤」
ロザリアはさっそくローズの姿で、自分が経営する古着屋『神の家の衣装箱』で店員の皆と衣装の準備を始めた。とりあえず必要なのは男女それぞれ10着程だったので事前にある程度測った寸法からそれを選び出していく。
元々王都では貴族趣味の服が流行していたので、素材となる服を選び出すのは簡単だった。
ただ、貴族の生徒の方で用意する執事服・お仕着せ服の分は主従逆転はともかく性別も反転するので用意する難易度が上がっている。
今回は各家の使用人で不要になった服や余っている服を用意してもらう予定だが、場合によっては用意できなかった生徒の分も追加で用意しないといけないかもしれなかった。
こちらの服は一旦クラス費から割り当てられた費用でレースやフリル・刺繍等で服を仕立て直し、後日レンタル扱いとして店に返却してクラスにはキャッシュバック、という事でかなり安く抑えられる予定だ。
もちろん本格的な貴族服には無論及ぶべくもないが、まともに仕立てるととてもではないが予算も時間も足りない。貴族役の侍従、侍女の子達は店の窓際等でそれらしく座っているだけ、という事になっているので問題は無いはずだ。
「あーローズさん、この服良くない?ここの所にフリルあしらってさー」
「おおー、それ良き!どんどんそういう提案していってねー!」
「けど店長これ、あまりに飾り過ぎたら、
ちょっとした貴族服同然になって売りにくくなるんじゃないの?」
「平民の人でも裕福な人が増えてるし、
お呼ばれする時用の服は無いかって問い合わせもあるから多分大丈夫よ」
店長のソフィアが言うように、貴族趣味の流行から布地の値段も下がっているので縫製や仕立てはともかく、それ以外では遜色ないものが多かった。
店の子供達も、普段とは違い飾り気が多い服を作るというので沸き立っていた。
では他の貴族令息、令嬢は何をしているかというと、その横の猫カフェ『ネコと茶会せよ』でお茶を入れる特訓が始まっていた。
お茶の美味しい入れ方をアデルから習うというものだが当初予想されたような反発は意外にも起こらなかった。
元々入学半年もすればいい加減自分の事は多少はできるようになるうえ、お茶くらいは自分で入れたいと内心思っている生徒が多かったのと、悪ノリしたロザリアがここでもアデルに男装させたのが好評だったようだ。
目の前で褐色の肌の美少年(実は少女)という倒錯的な姿のアデルが、いつものように冷静な声で教えるものだから男女問わず思わず見惚れそうになりながら真面目に指導を受けている。
「このように、お茶で大切なのはお湯の温度です……だ。
あの、お嬢様、わた、僕も男言葉である必要があるのですか?」
「もちろんだ、当日はアデルも男装するんだろう?今から練習しておかないと」
ちなみに、ロザリアはこの場でも男装している。
一点の曇りも無い真剣な顔でロザリアに言われてしまってはアデルもそれ以上何も言えない。
尚、ロザリアの内心は
『はああぁぁ~❤ やっぱアデルは何着せてもかわヨ~❤』
と、ほとんど自分の趣味だった。
「はぁ……、おじょ、ロゼの趣味には付き合っていられませ、いないので、
このまま気にせず行きましょう」
「え~、スルーしないでよアドル~、寂しいじゃないか~」
「あーうるさい、僕の邪魔しないで下さい」
などと男装のロザリアとアデルがじゃれあってるのを見た生徒達は、
「(これはこれで……有りだな)」
「(なんか凄く癒されるわ……)」
「(最近耳にする尊いというのはこれか)」
などと、性別逆転の格好に対する抵抗が薄れていっていた。
もちろん、ロザリアが意図した事ではない、単にやりたい放題やっての偶然である。
「さて、皆には貴族としての優雅な立ち振る舞いを身に付けていただかないとね!」
またある時ロザリアは入学2日目にクレアに行ったように、校庭にクラスの平民生徒及び、従者・侍女で貴族作法に自信が無い者を集めて特訓を行わせていた。
皆、当日着る服を着用しての訓練で、歩き、座り、喋り方、所作などを見ていく。
「背筋を伸ばして!目線を下に下げない!」
ロザリアは厳しく採点するが、大体の生徒は見よう見まねで何とかなりそうでも、どうも動きがぎこちない。
「あの、こんなみんな見ている所で特訓しないと駄目ですか?」
人気は少なめでもそれなりに人通りもあるのだ。人目もあってやりづらそうにしている者も多い。
「当然だろう!当日は全校生徒から見られるのだぞ! 今からそんなでどうする! 僕を見たまえ!」
ロザリアはここでも男装していた、かなり気に入ってるようだ。長い髪を1つにまとめて横に垂らし、きびきびと指示を出すロザリアの姿は男女問わず物凄く注目されていた。
そこへ、リュドヴィックがやってきた。どうも生徒会に話が行ったらしい。
「ロゼ!何をやっているんだ!」
「おやこれはリュドヴィック君、何。と言われても困るな、今度の魔学祭の出しものの練習だよ。他のクラスでも様々な事をやっているではないか」
「いや、君、って……。何なんだその話し方は」
「この格好に相応しい話し方というのはあるだろう? 雰囲気作りだよ。それとも、この姿は似合わないかい?」
状況を掴みきれていないリュドヴィックに悪ノリしたロザリアがリュドヴィックの顎をつまみ、
くいっと持ち上げて口づけんばかりに顔を近づけた所で周囲から声にならない悲鳴が上がる。
主に女子生徒の。
「氷の貴公子に炎の執事マジ尊い!」「ちょっと!今度の新作はあれで行くわよ!」
「ええ!?今からじゃ間に合いませんよ!?」「間に合わすのよ!」
と、その見物人の中にいた創作読書研究部とは名ばかりの、挿絵付きの夢小説やら妄想小説ばかりを書いていた女子生徒に爆発的なインスピレーションを与えてしまい
魔学祭当日に闇で発売された小説『氷と炎の主従』は、
その部の歴代最高売り上げを記録してしまったというのは裏の話になる。
「いやしかしロゼ、こういう事をしていては、また悪役令嬢とか言われてしまうぞ?」
「そうか? 控えめに見て、皆はそう嫌がっているようには見えないが」
ロザリアの言葉は事実だった、無駄に美形な男装の麗人のロザリアは男女問わず惹きつけられてしまう倒錯的な色気が出ており、リュドヴィックすらも一瞬、性癖の変な扉を開きかけていたからだ。
『え? マジ? ウチの男装コスの魅力ヤバない?』
「と、ともかくその恰好は魔学祭までは止めておくんだ。
無駄に見せびらかしたら当日の皆の印象も薄まってしまうだろう?」
王太子のどう見ても意味不明の嫉妬による男装禁止に、周囲はまた生暖かい空気になっていた。
「むぅ、それもそうだな。わかった、君の言うとおりにするよ」
「その話し方も当日までは禁止だからね? 風紀が乱れそうな気がするから」
「ええー、それは無いじゃないか、結構楽しくなってきたのにー」
ロザリアも男装をしているためかリュドヴィックに対し、
普段よりも距離が近く、遠慮が無くなっていた。
普段とは違い自分からリュドヴィックの手を取ったりしている。
両方男装なのだが実は男女の上に、婚約者どうしなので倫理的に全く問題無いというのがよからぬ妄想を加速させてしまい。
「今回は3部作の3冊にするわよ!」「無理に決まっているでしょう!?」
「徹夜すれば何とかなるわ!多分!すぐ部室に戻るわよ!卒業した先輩も招集するからね!」
という悲鳴が周辺で聞こえたのは気のせいではあるまい。
次回、第152話「えーと、ウチに何の用?」
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