第149話「魔学祭って、要は文化祭? アゲていこー!」
「ええーっと、気がついたらクラスでぼっちになっていた、っていう状況ですかね? これ」
「勢いにまかせて色々やりすぎたわね……。もう入学して半年になるのに」
ロザリアが生徒会執行部から帰ってきて自室でクレアに答えたように、今や2人はクラスで孤立してしまっている状態だった。
「そういえば元のゲームでも、”社交性”というパラメーターがありまして、それを上げないと攻略できないキャラがいたんですよね」
「上げないと、って事は、もしかして下げないと攻略できないキャラもいるの?」
「はい、社交性を上げすぎると当然周囲の人気者になりますので、それを面白くない攻略キャラもいるんですよ。
更には、好感度が高くなってるのに社交性が高いままだと『お前を好きなのは俺だけで良い』と監禁されて」
「ストップ! それ以上はちょっと聞くの怖い!誰がそれをやらかすのかも言わないで!」
クレアの言葉を慌てて制止をするロザリア。今や本来の乙女ゲームの世界からは脱線しまくっていてイベント等の知識はあてにはならなさそうではあっても登場するキャラクターの人間性までが変わっているわけではなさそうだからだ。
ともあれ、クラスの生徒と仲良くなっておくというのは確かに必要だろう。
クラス会議でも当然魔学祭の件で話し合われる事になった。
この辺は魔法学園だろうと普通の学校だろうとあまり変わりは無い。
使えるクラス費と、使えるもの・場所の説明等を一通り聞いた後は皆で話し合われる。
唯一異なる点といえば、クラス費を補填する為に学生ギルドの依頼をこなした報酬を使っても良いという事だ。これにより魔技祭は普通の学校の文化祭とは異なり、資金に任せてかなり大掛かりな事もできる。
しかしお金がいくらあっても、アイデアが無ければ何も始まらないのだった。
「さて、このクラスでも魔学祭で出し物をする事になったわけだが。何にするんだ?」
担任の側には、クラス代表の委員長、副委員と共に補佐を任ぜられたロザリアも立っていた。
皆、教師の言葉よりも突然補佐として立っているロザリアの方に視線が集まる。
ロザリアは誰もが自分に注目してしまって誰も何も意見を言い出さないので自分で話を振ることにした。
「先生、例えば今まで何があるのですか?」
「一年は無難に喫茶店もどきをやるのが多いな。中にはクラス一丸で1つの魔石具を研究開発してその発表というのもある。その場合は対応する成績にも加味されるぞ」
「でもそういうのは、よっぽどクラスがまとまっていないと難しいのでは」
「そういう事だな、1年の間は貴族だ平民だで無駄に壁を作ってまとまりが無いクラスが多い。
特にこのクラスでもな、このままでは皆の成績にも影響するぞ?」
例年であれば高位貴族の子女が勝手に派閥を作り、勢力争いで離合集散を繰り返していくうちに力関係から収束していってグループがまとまっていくものなのだが、
今年は最高位貴族子女のロザリアが学校そっちのけで学校外の活動に熱中していたために、派閥の成立が弱く、少人数のグループが多数できている状態なのだった。
教師を見るロザリアの目は身分どうのの壁の原因は自分にもあると言いたげだったが、
クラス全員の目があるのでとりあえずは自重した。
自分で話を振ったとはいえ藪蛇だったなーと思いながらロザリアは自分のクラスの生徒を見回すが、皆押し黙って下を向いてしまう。教師の意見は当たらずとも遠からずだったようだ。
『え? ええー!?ウチ、別に壁作ったつもり無いんですけどー!?てかそんなの期待されても困るわよ!』
突然、バン! と誰かが机を叩いた、クレアだ。
その音に教室内は静まりかえる。
「なんで全部、お姉さまが悪いみたいに言うんスかね……?」
「クレアさん!? 座って!? 落ち着いてね!?」
突然クレアが眼光も怪しくゆらりと立とうとするのを本能的に危険を察知したロザリアが慌てて駆け寄って落ち着かせようとした。
だがその後もクレアは、
「あ”? お姉さまに何か文句あるなら私が聞くぞ? お”?」と、
周囲を威嚇するので、生徒や教師は基本的に育ちの良いので怯え、
「ステイ! クレアさんステイ!」と、
ロザリアはクレアを羽交い締めにして席につかせるのだった。
『この子こんなヤバい子だったかなぁ!? 下手するとウチがけしかけた事になる! なんとかしないとマジやべぇ!』
ご覧のようにロザリアは誰がどう見ても悪役令嬢街道を全力疾走中なのである。
『いやウチ乙女ゲームあんま知らんけど、悪役令嬢って絶対こーゆーのじゃないだろ!』
「せ、先生、それについては私からも一言あります」
このままではいかんとロザリアは先手を打って発言する事にした。
クラス全員が注目している中、ロザリアは皆に向かって真摯に語りかける。状況に少々、いやかなり納得はしていないがそんな事は言ってられない。
「申し訳ありませんでした。私は今までクラスの事をあまりにもおろそかにしておりました。
これからはクラスの為に積極的に取り組んでいく所存です。どうか宜しくお願い致します」
「お姉さま……」
さすがに頭こそは下げなかったが、侯爵令嬢に謝罪されてしまっては生徒も教師も返す言葉が無い。クラスの空気が若干ではあるが和らいでいた。
「ま、まぁ、ローゼンフェルド嬢がそう言ってくれるというのなら何も問題無いな?それでは話を進めよう」
教師もまさかロザリアがここまで素直に謝るとは思っていなかったので、
侯爵令嬢に謝罪させてしまった事をあまり引っ張ると問題になりかねないと先を促した。
「では早速ロザリア様、例えばロザリア様なら何をされますか?」
委員長がさっそくロザリアの謝罪を受けて、話しかけないのは失礼と質問を投げかけた。
「え? ええーっと」
「ああー、はい!私!私魔法で色々できますけど!」
「クレアさんが魔法の技能が飛び抜けているのは承知しております。
ですがそれではクラス全員の評価にはつながらないでしょう」
ロザリアをかばうようにクレアが手を挙げたが、委員長に即座に却下された。
それに続くように次々と意見が出始める。
「劇とか、どうでしょうか!」
「何か魔石具を作るのも良いな」
「魔石で出来たアクセサリーを売ったり、とか?」
「魔石を使った占いをやってみるのはどうだろう」
「料理を作ってみたりしたいわよね」
「皆に言っておくと、魔学祭まではあと1月だから、
基本的にはそれまで何度内容を変更しても良いからな」
「では先程の意見をちょっとまとめてみましょうか」
ロザリアが黒板に意見をまとめて書き込んでいく。
・模擬店(喫茶店・お菓子等の飲食物販売)
・舞台劇
・魔石具を開発しての販売
・自作アクセサリー等の販売
・魔法の研究の発表
「こんな感じかしら?どれも無難で良いと思うけれど」
「意外ですねロザリア様? もっと派手なのをお好みかと思っていたのですが」
「あの、委員長? 私に何を求めているの?」
委員長の発言に思わず聞き返してしまうロザリア。しかし、この場にいる全員がロザリアに同じ事を感じてはいた。
『えー、マジ納得行かないんだけどー……。
いかんいかん、ウチは大人。前世足したら33才のオトナ女子!』
次回、第150話「これで行こー!なんか変なスイッチ入ったー!マジ萌え~! アゲ~⤴!」
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