第146話「真打ち登場ですわ!」「ウチの影が薄いんですけどー」
サクヤが心配した通り、城の前庭では苦戦が続いていた。王宮内部の結界というハンデがあったのを考えても相当な手間がかかったように、魔猫はかなりの強さだったからだ。
兵士たちの中にはもう動かなくなった者もいる。
「あー、もう!このままじゃダメっス!」
「おい嬢ちゃん! 無茶だ!」
「無茶は承知! さぁ猫さん達! ここに美味しい餌がいるっスよ!」
ウェンディエンドギアスの制止を振り切ってクレアは杖を振り上げてその先に光の魔力を集中させて見せた。
すると、オラジュフィーユや兵士達に群がっていた魔猫達は一斉にクレアを新たな目標として襲いかかってきた。
クレアもそれを予期しており、慌てもせず杖を地面に突き立てて地面に何本もの線で描かれた魔法陣を魔力で描き出し、半球状の結界を作り出した。
襲いかかる魔猫はそれに触れるとジュッっという音を立てて煙が上がり、熱く感じるのか悲鳴を上げて後ずさる。しかし後から後から魔猫が群がっては弾かれるという形になる。
「うわー! おっかねー! 自分でやっておいて何だけど凄い怖いーっ!
っていうか、なんでこの猫ちゃんまでいるんスかー!?」
球状の結界の中は一応安全ではあるものの、死にものぐるいで襲いかかってくる魔猫の形相にクレアが怖がっていた。また、その足元では例の黒猫がふしゃーと周囲の魔猫を威嚇していた。
「無茶する奴じゃな……。おいオラジュフィーユ無事か!」
クレアが多数の魔猫を引き付けているとはいえまだ数匹がまとわりついており、体格の違いに手こずっていた。
「体格が違いすぎる! もう少し小さくなれんのか?」
「無理ー。これが一番小さい状態なのよ」
操られて城を襲っていた時よりははるかに小さくなってはいるものの、群がる魔猫相手には小回りが効かないことには変わりがない。
突如、オラジュフィーユに群がる猫達の何匹かに水の槍が突き刺さった。
それは高圧で細く収束された水のレーザーで、極めて単純な貫通力であっさりと魔猫を貫いた。
魔猫の体内には魔核石の断片が核として埋まっていたが、それを正確に撃ち抜かれて魔猫は崩れて行く。
「私に偉そうな事を言ったわりに情けない、お立ちなさいな、ドラゴンさん」
マリエッタが、前庭に面したバルコニーから傲然とオラジュフィーユを見下ろしていた。
が、マリエッタを認識した魔猫がバルコニーまで跳躍して襲いかかる。
「おいマリエッタ!危ないぞ!」
「ふんっ、お父様、この程度何でもありません、わ!」
マリエッタは襲いかかってくる魔猫が跳躍の頂点で一瞬動きの鈍った瞬間、ドレスのまま蹴りを入れて逆に前庭に蹴り落とした。追撃で水のレーザーを打ち込んでとどめも刺している。
「王族がただ守られているだけの存在と思いましたの?
王宮内は魔法が使えないから、いざという時にはわが身だけで自分の身を守るくらいはできますわ! さぁとっととお立ちあそばせ!」
オラジュフィーユとウェンディエンドギアスは先程の水魔法がマリエッタのものだと気づき、同時に彼女の能力の高さにも驚かされた。
マリエッタはその天才的な素質を惜しまれ、本来は16才の年に解かれる魔力封印を10才の時に解かれ、徹底した英才教育を施されて育てられていたのだ。
『マ!?そんな凄い子だったの!?全然そんな感じしなかったんだけどー!』
「いやあのな、マリエッタ、お前は王女なのだからもう少し淑やかにだな」
「諦めい、あの子はああいう子だ」
「いやあのねクラウディアさん?」
オラジュフィーユを鼓舞するマリエッタに対しその後ろでは国王と王妃が呆れながら会話をしていた。
オラジュフィーユが身を起こすと、さすがに魔猫達はクレアに群がるのを止めて警戒し始める。
構わずオラジュフィーユはクレアが防御壁で自分を守っているのをいい事に、クレアごとブレスで魔猫を薙ぎ払った。
「ぎゃー!何するんスかー!!」
かなり女子が出してはいけない声でクレアが叫ぶが、お陰で魔猫達は吹き飛ばされて動かなくなって黒い霧となって消えた。
「好機です!押し込みますよ!」
アデルが一気にドローレムの所までジャンプして蹴り落とした。そこへオラジュフィーユが飛びかかり、前足の一撃で張り倒す。
動かなくなったドローレムに一瞬空気がゆるんだが、まだ終わったわけではなかった。
残っていた魔猫達は突然形を失い、黒い流体状の物質になると溶け合いって巨大な猫型の獣に変わった。
ドローレムは起き上がってその背中に飛び乗ると下半身が猫と一体化して城の屋根伝いに逃げ始める。
「ああ逃げた!ドラゴンさん!追いかけてあいつを始末して下さいまし!
さっきのをぶちかましてかまいませんから!」
「それは構わんが、ここは結界の中だぞ、城にも被害が出てしまう」
マリエッタがオラジュフィーユに向かって叫んだが、オラジュフィーユの方は意外にもわりと気を遣っていた。
「普段使われていない区画とかは大丈夫よ!その中に押し込めば良いでしょう?」
「しかし我はどの建物を壊していいかはわからんぞ」
「私が知ってますわ。丁度良いから貴女、私を乗せなさい」
「いや、我はだな、背中には主と認めた」
「非常時だからそんなこだわりは捨ててくださいまし!別に私を主と認めろとは言いませんわ!」
まだ幼いながら王家の威厳を纏わせた発言に、オラジュフィーユも黙る。
マリエッタはかなりの高さながら、ためらいもなくバルコニーから飛び降りてオラジュフィーユの背中に着地してみせた。
「小さいのに中々やるね」
「小さいは余計ですわよ。さぁ行って!」
マリエッタの一声で、オラジュフィーユは翼をはためかせて飛び去った。
「マリエッター!?ああどうしてあんな子に」
「お主似じゃな」
「ええー……」
どう見ても王妃似では……。という言葉は、夫婦仲を守る為にも飲み込むことにした国王だった。
オラジュフィーユの頭の上に乗ったマリエッタは角を掴んで身体を安定させようとするが、
オラジュフィーユが身体をうねらせる度にぶんぶんと振り回されまくる。
「ぎゃー!ちょっと!頭動かさないでよ!」
「無理言うな!一番身体の動きの激しい所に乗るからだ! せめて背中の背びれの所とか場所あっただろ!」
「今更そんな事言われても困りますわ! だいたい背びれの中なんて周りが何も見えないではありませんか!」
「あーうるさい! 耳の側で怒鳴るな! というか、近くで猫の声がしないか?」
「えっ?私には何も……。あ、いましたわ」
マリエッタのすぐ後ろにカフェにいた方の黒猫がいた、
オラジュフィーユがわかるのか背びれに身体をこすりつけている。
「どうしてこんな所に!? ちょっと! 危ないからこっちへいらっしゃい!
ドラゴンさん! 変な動きをしないで下さいましね!」
「良いから早くしろ! そろそろ追いつくぞ!」
ぶつぶつ言いながらもオラジュフィーユは飛行速度を緩めて飛び、その間にマリエッタは黒猫を確保した。
「よしよし、良い子良い子ですわ。しばらく大人しくしてて下さいましね」
マリエッタが猫を撫でてあやしていると、魔猫と一体化したドローレムに追いついた。
「見えましたわ! あの棟は使われていないから心配要りませんわ! ケリ落として下さいまし!」
「お前本当に豪快だな!」
オラジュフィーユは急降下してドローレムの猫部分を真上から踏み押さえた。
そのまま暴れまわるドローレムを屋根に押さえつけようとするが、動きが激しくて捕らえられないでいる。
「ドラゴンさん! 構う事ありませんわ、このまま建物の中に蹴り込んで下さいまし!」
「崩れた瓦礫で怪我するぞ!」
「自分の身は守れる、そう言いました!」
「ええい! どうなっても知らんぞ!」
オラジュフィーユは渾身の力を込めて前足でドローレムを屋根に叩きつけた。
屋根の一部が崩落し、ドローレムごとオラジュフィーユとマリエッタは建物の中へと落ちていった。
次回、第147話「王女のチカラ」
読んでいただいてありがとうございました。
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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、
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