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第144話「マ!?この子マジ強いんですけどー!?なんか増えたー!?」


ロザリア達は気を取り直して向かい合う。さっきのは無かった事になったらしい。

軽く気まずそうなドローレムがぎこちなくロザリア達の方へ身体を向ける間に、

ロザリアやクレアはドレスアーマーを(まと)っていた。

冷静になったドローレムはアデル以上に無表情で、感情の動きが一切読めない。


ロザリアは強烈な殺気を感じ、その感覚が示すままに身体をひねり、跳躍した。

一瞬の後にその空間を巨大な爪が通過する。

いつの間にかドローレムはロザリアの背後に移動していた。

体勢を整えたロザリアが見ると、身体の表面を覆っている外皮が腕を覆い爪のように変化して腕を覆っている。

硬質に見えた外殻は腰の所でスカートのようになっている事からわかるように、かなり柔軟に変化できるようだ。


「お嬢様!」

アデルが慌ててロザリアをかばう立ち位置に移動し直した。

身体を張って守るどころか、反応する事もできなかったのでドローレムに向ける表情は厳しい。

「お嬢様、お見事です。申し訳ありません、反応できませんでした」

「良いのよ、もう一度やれと言われても無理だと思うけど」

あの攻撃は予備動作が無く、まるで瞬間移動だ。

もしも初撃に気付かずまともに食らっていたとしたらと思うとぞっとする。

さらには、黒い外皮を自在に操って武器にまでしていた。


「あやつめ、魔核石の部分とホムンクルスとやらの人造生命体部分が共存して居るのか。

 自在に姿を変えてくるぞ」

「なら(ワレ)も参戦させてもらおうかな?」

「おいお主は本気出すなよ、周囲への被害が大きすぎる」

「わかってるわかってる。」

ウェンディエンドギアスは警告するが、オラジュフィーユの方は不安になるくらい軽い調子だった。

オラジュフィーユもまた、少女の姿の上に甲殻の装甲を出現させてドローレムと似た感じになった。

こちらの装甲は樹皮のような質感で、本来の姿のドラゴンの時の鱗を思い起こされる。

「じゃあ(ワレ)と、殴り合ってみる?」

ドローレムの前に歩み出たオラジュフィーユは、

幼げな少女の顔に似合わぬ凶悪な笑みを浮かべ、

巨大な爪も凶悪なトカゲのようになった両こぶしを打ち合わせた。


瞬間、オラジュフィーユの姿が消え、ドローレムを殴りつけていた。

が、その拳はドローレムの衣服に見える部分が変化した触手のようなものに防がれていた。

彼女自身の手はだらりと垂れ下がったままだった。

「……器用な事をするね」

オラジュフィーユの言葉に反応したかのように、

ドローレムは10数本もの同様の触手を生やし、打撃を加えて来た。

一瞬で攻防が入れ替わってオラジュフィーユが押され気味になる、

オラジュフィーユも相当に素早いだろうが、手数が違いすぎる。

さらにドローレムはだらりと垂れ下がらせていた腕に、

剣のようなものを生やして打撃に加えて斬撃まで交えて来た。

それら全てをオラジュフィーユは拳で(さば)いていたが、その顔にはまだ余裕がある。

2人の周囲はまるで攻撃力の竜巻のような様相で、近づくのも危険だ。


「すっごぉ……、見るのがやっとだわ」

「お嬢様、あの中に飛び込んで加勢しようなどと思わないで下さいね。私では、守り切れません」

ロザリアが感嘆の声を上げると、アデルは冷や汗を流しながら釘を刺した。

主を守り切れないというのを伝えるのは護衛として不甲斐ないが、

事実である以上仕方がないと割り切るしかなかった。

「わかってるわよ、さっきのは運が良かったと思う事にするわ」


「うーん、ここはオラジュフィーユさんに任せておけばいいですかね?」

「そう甘い考えで大丈夫だろうか?」

クレアが何となく(つぶや)いたのに反応したリュドヴィックの心配は的中した。

オラジュフィーユとの膠着状態に業を煮やしたのか、

突然ドローレムが身体から更に何本もの触手を生やして無差別に周囲を攻撃し始めたのだ。


「ちょっと!どれだけ器用なのよ!」

あわててロザリアは避けつつ魔杖刀で応戦するが、

彼女の腕では触手1本を相手にするのがやっとな上に、

触手はかなり頑丈で魔力刃の方がむしろ欠けるほどだ。

アデルが即座にロザリアの前に出て、触手を無理に攻撃するのではなく手足で(さば)いていた。

ちなみにアデルはまだ鎧を展開してもいない。

「お嬢様、こういうものに対しては無理に対抗してはなりません、最小限の力でいなして下さい」

「簡単に言わないでよ! まずい、周りにも少しずつ被害が出始めているわ」

周辺で同様に戦っている兵士達は王城を守るだけあってかなりの手練れも多く、

善戦してはいるが負傷する者も出始めていた。


「ロザリア!大丈夫か!」

リュドヴィックが一刀の元に周辺の触手を叩き切ってロザリアの所に駆け寄ってきた。

「あ、ありがとうございますリュドヴィック様、凄いですね」

「私は物心ついた頃から剣術の修行をしているからね。

 ロザリアの剣術は多少教えてもらった程度だ、

 まだまだ道場剣法の域にすら達していないんだよ。無理をしないで欲しい」

「はい……」

ロザリアは今まで戦って来られたのは、剣の性能や魔力量に頼っていたからであって、

少しでも上回られると途端に押し負けるのを痛感した。

また、魔法によるゴリ押しであっても、周囲の被害を考えると限度もある。


「それでは王太子様、お嬢様をよろしくお願いします」

アデルは淑女の礼(カーテシー)も麗しく、

言うが早いか鎧を(まと)ってオラジュフィーユに加勢した。

こちらを早く始末した方がロザリアが安全だと判断しての事だろう。

その拳さばきは速く、オラジュフィーユと比べても遜色はない。


「ほほう、猫カフェで見た時から強いんじゃないかと思っていたけど、やっぱりね」

「お褒めいただき光栄です。ですが私はお嬢様の安全を最優先させていただきます。

 遊ぶのも良いのですがそろそろケリを付けませんか?」

「そうしたい所だけどね!」

オラジュフィーユの攻撃は、ドローレムの外皮を切り裂いてその下の本体にまで届いている。

だがドローレムは大してダメージを受けている様子もなく平然と反撃してくる。

また、傷つけてもすぐ治癒してしまっていた。

アデルはこのままではキリがないと、 ドローレムの攻撃を掻い潜って懐に入り込み、

心臓のあるあたりに掌底を突き出して掌から魔力波を放った。

それはドローレムの身体を貫通し、さすがに破壊こそできなかったものの、

体内の魔核石を露出させた。


「えっ? 倒した?」

ロザリアの角度からはドローレムの状態が見えなかったので、

アデルがあっさりとドローレムを倒したように見えた。

だがその瞬間、ドローレムは全ての触手を自分から切り離した。あたりでそれがうねり回る。

「お嬢様!お気をつけ下さい!」

足元で跳ね回っていた何本もの触手が少しずつ姿を変え、それぞれ黒猫に変わった。

猫達は少しずつ巨大化しながら周囲に対して攻撃を加え始める。

巨大化は人の身長くらいの体長にまで大きくなって止まったが、

既に人の手に負える相手では無くなっていた。


イエネコでも普通に怒ったら人は手こずるかケガをするというのに、

目の前のそれは既に人の身長並の大型犬サイズにまで巨大化している、しかもそれが20数体。

これには猫好きのロザリアであっても喜ぶわけにはいかなかった、

しかも猫の怖さをよく知っているだけに尚更だった。

『これ、ヤバくね? いくらウチでも猫ならなんでも良いってわけじゃないんですけどー!』


「まずいな、それぞれが真魔獣の特性を持っておる。

 魔術の類は効かないどころか吸収されてしまうぞ」

ウェンディエンドギアスが、この場にいる全員に注意を(うなが)した。

ドローレムの身体から切り離された触手は、武器等に自在に変形する事からわかるように、

元々が魔核石だったので、一旦半分魔力の状態に戻す事で魔猫(まびょう)を作り出していた。

「魔法は効かないという事か?魔術院を主戦力とした事が裏目に出るとは」

これに焦ったのがリュドヴィックだった。近衛兵団が半壊状態だったので、

魔術院の魔術師を主体とした警備にせざるをえなかったのだ。

この場で城を守れる人員が激減したに等しい。


魔猫の中には王宮の中に入ろうとするものもおり、サクヤがそれを追っていった。

「扉閉めて下さいません事! 中に入られたら厄介ですわよ!」

慌てて門の所にいた兵士が閉めようとするが間に合わず、1匹が城内に入ってしまった。

「クレアさん!私が入ったら障壁をお願いいたしますわ!」

「兵士さん!ここは私が守るっスから早く閉めてください!」

次々に門に群がってくる猫を、光の膜のようなものが弾いた。

戦いは一瞬にして集団戦と化していた。


次回、第145話「黒猫の子、そこのけそこのけ待ちやがれですわー!」

読んでいただいてありがとうございました。

また、評価・ブックマークをありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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