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第141話「陰謀とか無かったら、猫ざんまいだったんですけどー……」


「……で? どうしてわたくしが、出場するハメに、なるんですの?」

「いやぁ~、何となく、流れで? 的な?」

姫猫祭の予選会場となっている王城から続く大通りにある中央大広場で、

サクヤが白猫に化けているオラジュフィーユを抱きながらぼやいていた。

ロザリアはローズの姿で黒い猫を抱いている。店でオラジュフィーユに懐きまくっていた子だ。

今も前足でオラジュフィーユにじゃれつこうとしていて、オラジュフィーユが必死に避けようとしている。


「別に良いじゃろ、お主はオラジュフィーユと面識があるわけじゃし」

「ウェンディエンドギアスはそういうけどさー、

 (ワレ)は見世物になるのは嫌なんだけどなぁ」

「しっ!オラジュフィーユ様!もう人前ですから!」

サクヤがなだめるように、広場にはもう大勢の参加者が集まっていた。

それぞれ様々な種類の猫を抱えたり、リードにつないでいたりしている。

猫だらけだった普段以上に猫が数多くいるので壮観と言って良かった。

ロザリアはそれを見て「あ、あの子かわヨ~♥」とか言っているので、抱いている黒猫に

「自分を抱いてる癖に何他の猫に浮気してるんだ」と、たしたしと頬をパンチされたりしていた。



王女の飼い猫を決める猫コンテスト、通称”姫猫祭”に、

魔核石に取り憑かれた猫が出場しているかもしれない、との事から、

自分達でも猫を出場させよう、という事になり、

猫に化けたオラジュフィーユが出場する事になったのだった。

出場者がサクヤなのはいざとなれば戦闘能力も必要になるとの判断からだ。

王家の方にも事情を伝えて、最終選考までは勝ち残るが落選する。

という出来レースの予定だった。


「でもー、オラジュフィーユサマってちょっと美猫過ぎません?

 もうちょっとこう、合格しそうなくらい目立つけど、

 微妙に残念な感じの見た目にはなりませんかー?」

「どんな見た目よそれ……」

オラジュフィーユに話しかけているロザリアは、

本来はジュエを連れて自分が出場したがったが、出来レースを疑われる。

という事で泣く泣く辞退させられた。

せめてローズの格好ならと現場に変装してきた所に、

白猫の姿のウェンディエンドギアスに懐きまくる黒猫が広場にいたので、

だったらこの子で出場するわ! と、その場のノリで急遽出場する事にしたのだ。

アデルは隣で『何がしたいんだこの人……』と既に諦めモードである。

クレアはというと浄化門の維持、できれば集魔筒の浄化というので手が離せず、

今日は王都を走り回る事が予想されたのでこの場にはいない。


姫猫祭の方はというと、異様な盛り上がりを見せていた。

何しろ飼い主になる王女であるマリエッタの好みがわからない以上、

どの猫にも選ばれる可能性がある、と国中から猫を持ち寄られていた。

既に大広場だけではスペースが足りず、

第二広場や他の広場にも参加者を分けているとの事だった。


「というわけでサクヤさん、

 うちの商品を是非身につけさせて出場して下さいまし!」

サクヤが出場する、という事を聞きつけたルクレツィアは、

猫グッズを山ほど持ってきて、

これでもかとオラジュフィーユが化けている猫に身に着けさせていた。

肝心のオラジュフィーユはかなりうんざりした様子ではあるが、

喋ってはいけないとの事で大人しくしている。


一時はアクセサリーの塊にさせられていたが、

さすがにこれは無いなと気づいたルクレツィアが、

やはりセンスは良いのでわりと適切なコーディネートで

オラジュフィーユを飾り立て終えると満足したのか、

「今日は猫の衣装が売れるわよー!」と叫びながら去っていった。

この日のために屋台を出しているらしい。

「我慢ですわよオラジュフィーユ様。

 わたくしだってこういうのは願い下げですわ」

「もうレイハで良かったんじゃないの?出たがると思うよあの子」

「母上が飼い主として出場すると、何だかんだ騒動の上であなたが優勝してしまいそうですわよ?」

「それはそれで面倒臭いね……」

サクヤとオラジュフィーユは呆れたようにその後姿を見送っていた。


「えー、それではLe Chat de(ルシャ・デ・) la() Princesse(・プランセス)()()姫猫祭を開催する。

 本日はお集まりいただき誠にご苦労。

 我々の方も厳正にして公平な審査を心がけるので、それでは只今より開催!」

広場に宰相にしてロザリアの父のマティアスの声が響き渡った所で、コンテストが始まった。

王城からマイクとスピーカーのような魔石装置か何かで声を飛ばしているようだ。

尚、本来のコンテスト名のLe Chat de(ルシャ・デ・) la() Princesse(・プランセス)を決めたのは彼なので、

全く定着せずに姫猫祭と呼ばれるようになったというのはどうも不本意らしい。

『あー、お父様って妙に凝った名前つける癖あるもんねー。

 そりゃみんな短い方が良き、って思うよねー』

実の娘からしてこの反応である。


とはいえ、国中から集まった猫からの選抜という事で、

何千匹にも及ぶ事から審査は3段階に分けられ、

まずは王都の各所にある広場で第一審査が始まった。

事前には伏せられていたが出場には銅貨50枚が必要で1人1匹、

との情報が流れると一斉に辞退する者が出てきて出場者は一気に数百匹にまでは減った。

とはいえそれなりな数ではあるので、

事前に王女から聞いていた好みを元に対象を絞っていく事になる。


「おいおい、この子良い子だぞ!?」

「いやあまりにも人に慣れていないだろう、

 王女様がケガをしたらお前の責任になるぞ?

 王都で家を与えるというのはそういう事だ」

「い、いやそれは困る!」

と、どこから拾ってきたかわからない猫は避けたいので野生丸出しの猫も落選となる。

となると、それなりの間飼われていた猫になるが、

そんな猫を手放す者となるとなかなかおらず、

自然とこの猫ブームを当て込んで、飼い猫用に集められて躾けられた猫などが残りだし、

第一審査で残ったのは、それなりに人に慣れ、見た目が良い猫となった。

中には猫カフェで常連の子もおり、ロザリアは無事な様子に胸をなでおろすのだった。


さて、クレアはというと、王都中を走り回っていた。

予想以上に獄炎病の感染者が多くて集魔筒の消費が激しく、

あっという間に浄化門の稼働に限界が見え始めたのだ。

「クレアさん!この地域は今浄化・充填してもらっている10本だけで良いよ、他が溢れそうだ!

 兵士さん!残り空の集魔筒を全て王城の正門に!」

「ぬぐぐぐぐ!根性ぉー!」

クレアはフェリクスの前とはいえ、疲労でわりと女子がしてはいけない顔になりながら、

必死で集魔筒の浄化と魔力の充填を行っていた。

魔力消費自体は特に問題は無いのだが、

最初は王都を馬車で移動したり集魔筒の方を馬車で集めて回る予定だったのが、

人が多すぎて徒歩で移動せざるを得なくなり、

馬車が使えずに自分の足で歩き回るハメになったのと、

人が多すぎる上にフェリクスを連れての移動になるので、

魔力強化による高速移動が出来なかったのが大きかった。


最初は消費した分を、順次集魔筒を浄化して状況を維持する予定だったのが、

事前の実験でそれはクレアであっても時間がかかり過ぎる事がわかり、

集魔筒の方を増やすほうが現実的だと、

結局200本近い集魔筒が追加で用意されたが全く足りていなかった。

まだ午前中の時点で、用意した300本近くの7割程を消費してしまっていたのだ。

事前に薬を大量配布して患者数を減らしていたが、それは闇の魔力が減ったわけではなく、

薄く広く保持者を広げる結果になってしまっていたというのが大きい。


「今の時点で10000人近くを浄化した事になるね、ちょっと寒気がするよこの人数は」

「でもその人達は、どうして病気に気づかないんですか?」

「あくまで観察しての事だけど、獄炎病という病気があるわけじゃなく、

 闇の魔力が蓄積していって、ある日突然発症するようだね。

 魔力の強い人が汚染されると魔力が侵食されていくんだけどね、

 憎しみや怒りといった負の感情といったものに強く反応して侵食が進み、増大するみたいだ」


次の場所に移動しながら、クレアは魔技祭でのエリックがまさにそういう状態だったのと、

同様に闇の魔力に侵食されていたはずのロザリアの母の症状が全く違うのを思い出していた。

「あー、お姉さまのお母様の病気の進行が緩やかだったのって、ご本人の性格の影響でしょうか?」

「恐らくね、高位貴族ゆえに魔力量がそれなりの量だったのが、少しずつ蝕まれて行ったんだろうね」



「ほらフィーユ、審査員さんにご挨拶。

 あーもう、ほら、じゃれてないで言う事聞いて下さいまし!」

「まぁまぁお嬢さん、ここは芸を競う場所じゃないから。

 これだけ人に慣れてるなら合格だよ」

「納得行きませんわ!審査のやり直しを要求いたしますわ!」

「あー、第ニ会場に行って下さい、城の前庭ですからねー。はい次の人ー」

審査を受けていたオラジュフィーユは迫真の演技でサクヤにじゃれつき、

サクヤは当初の目的を完全に忘れ、トップで通過しようと審査員にアピールしまくっていた。

審査をしていた役人は、事情を知っているので苦笑しながらスルーし、

サクヤは順当(?)に勝ち進んだ。


次回、141話「急襲、そして闇姫の生誕祭」

読んでいただいてありがとうございました。

また、多数のブックマーク誠にありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

いいね・感想や、ブクマ・評価などの

リアクションを取っていただけますと励みになります。

作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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