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第138話「今度は王都を治療するっスよー!」


姫猫祭が近づくにつれ、王都はますます人でにぎわい、猫も増えていった。

クレアはその猫だらけ人だらけの王都をフェリクスと共に町外れの方へと歩いていた。

「それにしてもこんな人が集まって、獄炎病は大丈夫なんでしょうか?」

「正直あまり良くはないね。だからこそここで徹底的に根絶やしにしようというのが陛下のお考えなんだ」

「ああ、獄炎病の薬が完成したんですね」

「正直言うと数を作る方が大変だったそうだけどね。今の時点で可能な限り広めておきたいそうだ」


クレアがフェリクスに案内された薬工場は街の一角にあり、見た目は塀に囲まれた大きな倉庫で兵士が入り口を固めていた。

「ずいぶん厳重ですね」

「ここは今やこの国を救うかどうかの拠点だからね。いくら警戒してもし足りないくらいだよ」

中には長机がいくつも並べられて大勢の人達が黙々と作業をしていた。

机の上にはいくつものガラス瓶が置かれていて工場のように見える。


「凄い人ですね、よくこんなに人が集まりましたね?」

「逆に大人気だよ? ここで働いてると獄炎病に罹らないか罹っていても治ってしまうって」

薬の主原料は光の魔石で、魔石鉱山から数は少ないが産出されたものが運び込まれ、事前にクレアの回復魔法を込めたものだった。

「国王陛下もドラゴン騒ぎの時に魔石を集めろと指示したのがここで役に立つとは、と喜んでたよ」

「この薬って、どう使うんですか?やっぱりお肌に塗るとか?」

「病気に罹って初期の頃は服用した方が効くようだね。

 肌にまで影響が出始めたら肌に塗った方が効き目があるみたいだ」


クレアが今日呼ばれたのは薬の事ではなく別の獄炎病対策の手段に関する事だとの事で、

薬側の工場を通り抜けて隣の建屋へと案内された。

その連絡用の扉にまで警備の兵士が立っていた。

「さて、今日クレアさんを呼んだのはこれなんだ」

「よぅーこそ! 来たなクレア嬢!」

部屋の中央には白衣を着た人物が立っており、白衣を翻して手を歓迎するように大きく広げた。

フハハハハハハハと高笑いするその姿はとっても怪しい。


「帰ります!」

「いやいや、待って待ってクレアさん」

当然、回れ右して帰ろうとするクレアを慌ててフェリクスが止める。

「嫌です! あの人が関わるなんて、怪しいにも程がありますよ!

「大丈夫! それに関しては僕や姉さんが監督してるから!

 マクシミリアン殿、すまないが彼女を刺激しないでくれないかな」

「いや、私は普通にしてるだけなのだが……」

部屋の中央に立っていたのはマクシミリアン・ファビウス王立魔法研究所所長だった。


気を取り直して、クレアは部屋の中に置かれていた門型の装置まで案内された。

いくつも並べられており、かなり大きい。装置の外観は木製のようで、なんとなく前世の凱旋門のような姿だなとクレアは思った。

「何ですか?これ」

「これは、獄炎病の治療装置だよ。

 以前クレアさん達の店で使っていたものを参考にドワーフ工房で作ってもらったんだ」

「えっ、でも作ってくれたドワーフさんは『人用の大きさのものを作ると効果が弱くなる』って言ってましたよ?」

「その通ーり!だがあれはクレア嬢の複雑な魔法を全て再現しようとするからなのだよ!」

マクシミリアンがテンションも高く芝居がかった口調と仕草で説明する。

が、すぐ後ろで大声を出されたクレアはビクッと身をすくめていた。


「マクシミリアン殿……、だからもうすこし穏便にお願いしたいんだ」

「私は普通にしてるだけなのだが……。まぁ良い、白い魔石黒い魔石というのが、

 正式に光の魔石と闇の魔石と呼ばれるようになったわけだが、

 その特性は光が放出で、闇が吸収というのは以前話したな? これはその応用なのだ!」

「く、クレアさん、獄炎病に闇の魔力が関わっている、というのは知ってるよね?

 どうも闇の魔力の作用で、普通なら弱い病気が劇症化したのが獄炎病らしい」

少しずつフハハハハとテンションが上がり始めるマクシミリアンの説明をフェリクス途中から引き継ぎクレアに説明した。


「えっ、という事は」

「そう!患者の体内から闇の魔力だけを抜いてしまえば患者は症状をかなり抑えられる事になる。

 クレア嬢の光の治癒魔法は闇の魔力を浄化しているわけだが毎回毎回それをやっていたのでは大変だ。

 そこでだ!闇の魔石を利用しようというのがこの門型の治療魔石具なのだよ!」

クレアに身を乗り出すように説明を続けるマクシミリアンを、

フェリクスが後ろから羽交い締めするように制しながら説明を奪い取る。


「こ、これには光と闇の魔石が両方仕込まれていてね、

 クレアさんの光の魔力をこれに込めると、この門を通った者から闇の魔力が弾きだされる。

 そして、弾きだされた闇の魔力は闇の魔石の方に吸収されて貯蔵されるという仕組みだそうだよ」

マクシミリアンにこれ以上大声を出させまいとフェリクスが後ろから口を押さえながらクレアに説明している。

割といい歳したマクシミリアンと美青年といって良いフェリクスが、子供のようにじゃれ合っているのはそういうのが好みな人にとってはたまらない光景ではあろうがクレアにはその趣味は無い。

クレアは少し呆れたような顔しながら装置にそっと手を触れてみる。

「……大丈夫ですか? その、そんなものを溜め込んだらまた何かおかしな事になりませんか?」

「なので、クレア嬢が込めた魔力と相殺して、封じ込めるような形になっている。

 それ以上は吸収できなくなっているので一応安全だ」

「一応、って……」

クレアはまだ半信半疑といった様子だ、クレアも魔法学園の生徒なので理屈では理解できるが、

魔力自体があまりに1箇所に溜め込むと爆発するという特性があるというのは、

自分が魔法学園に入学した当日に痛感したので不安は消えない。


「クレア嬢、心配せずとも良い。事前に薬は十分に地方にまで行き渡らせておく、

 コンテストの時に王都に集まったものを残らず浄化してしまいたいわけだよ」

「クレアさん、危険は承知の上だ。

 でも獄炎病の勢力が弱まっている今撲滅しておかないとまた大流行しかねないんだよ。

 これは国王陛下や魔術院も認めた正式な計画なんだ。うまく行けば、今度は薬が余る。

 余った薬を大陸全土に行き渡らせて獄炎病を撲滅したいんだ」

「はぁ、まぁ、そういう事でしたら」

「ありがとう。集めた闇の魔力の魔石は順次浄化していってもらう事になると思う。

 神王の森のウェンディエンドギアス様が詳しいだろうし、指示を仰ぎながらという予定なんだよ」

「封じ込めた状態であれば魔力は眠っているようなものだ、心配する事は無い。

 一箇所に集めても危険だろうから分散して安全な場所に一旦貯蔵する予定だ」

クレアは二人の言葉を聞いて安心したのか息をつく。

まだ完全に納得できたわけではないが、少なくとも危険性はなさそうである。


クレアは良い機会なので、常々疑問に思っていた事を聞くことにした。

わざわざマクシミリアンに会いに行きたくも無かったから今聞くしか無い。

「あの、闇の魔力って、一体何なんですか?どうして突然あんなものが」

「それは私にもわからん。今のところ観測できて、扱えるというだけだな。

 不自然というなら、クレア嬢の光の魔力もではあるのだが」

「私の……?」

「うむ、何らかの要因で発生したんだろうが、そもそも世界に1人しかいないというのが解せぬ。もっと存在しても良いはずなんだが」

「教会では神の意思の代行者とも言われているし、人智の及ばないものが働いているのかもしれないよ」

フェリクスが横からマクシミリアンの言葉を引き継ぐように話す。

だがこの世界では魔法は広く利用されてはいるものの神々や教会といった宗教関連の影響は弱い。”聖女”の話自体がおとぎ話のように思われている状態なのだった。


「それで思考停止してしまっていては何も始まらんし、全てが終わってしまう。

 神がいるというなら今すぐこの世を救ってみせろと言いたいくらいだ」

「私は、いったい……」

学者らしく現実主義者なマクシミリアンが苛立たしげに吐き捨てる。

奇人に見えても獄炎病に苦しむ人々を案じてはいるらしい。

そして、クレアはそういった病に苦しむ人々を多く見てきただけに自分の力が何なのか気になって仕方が無く、得体の知れないものが潜んでいるようで恐かったのだ。

だがフェリクスがそれを察したように優しく語りかける。

「クレアさん、クレアさんは今まで大勢の人を救って来た、その行動は疑う余地の無い素晴らしい事だよ。そこに悪い要素なんて何もあるはずが無いだろう?」

「そうかもしれませんけど……」


「意外とグズグズと物を考える方なのだな。

 私は不思議だと言っているだけで、別にそれを悪いものとは言わん。闇の魔力だってあくまでああいう物だというだけだからな、そこには善悪などあるはずがない」

マクシミリアンがぶっきらぼうに言う。

だが人々を苦しめる原因の闇の魔力を肯定するような発言は、クレアが反発した。

「でも!闇の魔力は人を病気にしたり!」

「それだって大昔に、どこぞの誰かが面白半分で魔界に足を踏み入れた影響だろう?

 闇の魔力だって魔界ではごくありふれたものかもしれないし、そもそも魔界に土足で踏み込んで色々略奪したのはこちら側の人間だぞ? 向こうにしたらこっちが侵略者だ。お互い様だよ」

「……意外と、まともな考え方するんですね」

「どういう意味だ。まぁそういう事が言えるようになったのならもう良いな?

 余計な事を考えても答えなど出ない。あるべきものはあるべき姿に、なるべき事はなるようにしかならんのだ。

 さて、ここからが本題だ。これが集魔筒と言って、装置に差し込まれている」

マクシミリアンは門型の治療装置の側面から取手を引き出し、引っ張ると筒状の物が出てきた。


「今からこの集魔筒に魔力を込めてもらう」

マクシミリアンが指し示すそこには、百個近い筒が並べられていた。

「えーっ!?」


次回、第139話「疑似真魔獣」

新年明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願い致します。

読んでいただいてありがとうございました。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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