第137話「ロザリアのお茶会」
『や、やばたにえん……。どうしてこうなった』
リュドヴィックの妹のマリエッタが城を抜け出していたという事で、
兄妹ゲンカがエスカレートしそうだったので
ローゼンフェルド家のタウンハウスに一旦退避させようとした、
だが、何故かウェンディエンドギアスやオラジュフィーユまでついて来てしまい、
期せずして、わけのわからないメンバーでお茶会を開くような形になってしまったロザリアは
客室でそのメンツを前にわりと困っていた。
気心の知れているクレアやリュドヴィックはいいとしても、
メンバーが独特過ぎるにも程がある。
まずは、ほぼ初対面のマリエッタ王女。
リュドヴィックとは母親が違うという事から関係性もよくわかっておらず、
発言を間違うと地雷を踏み抜きかねない。
下手をするとリュドヴィックとの関係性に悩むマリエッタの母の王妃にまで影響してしまう。
『つらたにえん……。どう接していいかわからん!』
さらにはストームドラゴンの化身らしきオラジュフィーユ、
その親友だというウェンディエンドギアス。
この2人に対しても何をどう話しかけて良いかがわからなかった。
とりあえずお菓子には満足しているようだが、何をしに来たかよくわからない。
というか、何故ここにいるのだ。何故ついてきた。
『無理無理無理ーの無理茶漬け! ウェンディエンドギアス様はともかく、
ドラゴンさんなんてどうもてなせってのよー!』
ロザリアがお茶会の進行をどうして良いかわからず固まっていると、
アデルがそっと側に立ち、
「お嬢様、以前お会いした王妃様がおっしゃられていたでしょう。
『全てを自分で取り仕切る事は無い、困った時は誰かを頼れば良い』と、
幸いにして、ウェンディエンドギアス様はクレア様と気が合う様子なので、
お話のお相手をお願いしては?
まずは猫の話題からマリエッタ王女様との親交を深めればよろしいかと。
マリエッタ王女様は王太子様と仲が悪いわけでは無いようですので」
と、アドバイスをしてくれた。
『了解道中膝栗毛ー! それ採用ー! アデル様マジ感謝!』
「クレアさん、そういえば色々と魔法を練習していたでしょう?
ウェンディエンドギアス様に見てもらったらどう?」
「おおそういえば、ギーちゃん様!お久っス!」
「久しぶりじゃの、大分腕前を上げたようじゃな」
「えー?どうしてわかるんですかー?」
「見りゃわかるわ、魔力の巡りが良くなっておる」
「しかしこやつを本当にギーちゃんと呼ぶ奴は初めて見たぞ、
良い根性をしてるなお前」
「えー?そうっスか?えへへ」
「褒めとらんわ。良い性格してるなお前」
嬉々としてウェンディエンドギアスに話しかけていたクレアに対し、
オラジュフィーユはあきれたような声をかけていた。
『よしあっちは何とかなる!次はこっち!』
「マリエッタ様、ずいぶんジュエが気に入られたようですね、
そういえば久しぶりねぇ、ジュエ」
魔法学園に入学して以降、何だかんだと週末は店の経営で忙しく、
夏休みは王宮、その後に領地と、あまりタウンハウスには戻っていなかった。
だが、ジュエはそんな事情なと知らぬとばかりに、
ロザリアが頭を撫でるのを無視してぷいと顔をそむけてしまった。
それどころか、マリエッタに妙に懐いてみせ、
頭をこすりつけてごろごろと喉を鳴らしている。
「えーっ!?ジュエちゃん?ジュエちゃーん!?」
ロザリアが大慌てで猫のご機嫌を取るロザリアの様子が面白かったのか、
マリエッタがくすりと笑っている。
「あらあら、だったらうちに来る?兄様、私が飼うのはもうこの子にしましょうよ」
マリエッタはドヤ顔でジュエを胸に抱き上げる。
「えーっ!ダメですよ!?」
「そうだぞマリエッタ、折角お前の為に猫を選ぶコンテストだって開かれるんだ。
それにロザリアはこの子を大切にしている」
ロザリアが慌ててマリエッタに抗議し、リュドヴィックも妹をたしなめつつロザリアを擁護した。
「はぁい。でも猫って、すねたりするのね」
「そうですよ、機嫌の良い時もあれば悪い時もある。
怒るしすねるし甘えるしで、とても可愛いですよ」
ロザリアはマリエッタに優しく微笑み、マリエッタの胸の中のジュエを優しく指先で撫でた。
ジュエは目を細めてゴロゴロと鳴いている。
「そう、何だか楽しみになってきたわ。猫を飼うのが」
「お前が直接世話をする事は少ないだろう、心配する事は無いんだぞ」
マリエッタが城を抜け出してまで猫カフェにやってきたのは、
突然わけのわからない生き物が自分の生活圏に入って来るという不安からの事だったのだろう、
リュドヴィックはそれを察して、優しい声で言った。
マリエッタの腕の中のジュエは、しばらくするとマリエッタにすっかり懐いて丸くなり、眠ってしまった。
『よし、丸く収まった。兄妹仲は問題無さそうだし、余計な事を言わない方が良き!』
ロザリアがほっとした様子を見せていると、突然オラジュフィーユが話しかけてきた。
「話は終わった? ねぇロザリア・ローゼンフェルド、あなたに話があるのだけど」
「あ、はい、何でしょうか?」
「貴女、我の主にならない?」
「え?」
唐突過ぎる言葉にロザリアは困惑した。
だがオラジュフィーユの方は割と軽いノリで言っているようなので、どうも本意か判断しにくい。
「突然何を言うとるかお前は」
「だって、この子、我を斃したんでしょ?だったら主になる資格があると思わない?」
ウェンディエンドギアスのあきれた声もオラジュフィーユは全く気にしていない様子だ。
なおロザリアの方はまだ状況についていけていない。
『ど……、ドラゴンを飼い犬?猫?いや飼いドラゴンにしろって事?え?え?』
頭の中は絶賛混乱中である。
「あの、斃したとか突然そんな事言われても、
それにあの時は私1人じゃなかったわよ?
他にもレイハさんとかサクヤさんもいたもの。
あと、貴女を治療したのはそこにいるクレアさんなんだけど」
「お姉さまぁ!?」
テンパって責任をあちこちに分散させようとするロザリアの言葉を聞いて、
クレアが驚いたように叫ぶ。
「まぁ身体を治してくれたのは感謝しているわ。けどレイハとかサクヤはねぇ……なんか嫌」
主にならないかといっても、わりとふわふわした理由なようだ。
ロザリアはもうすぱっと断ろうと決めた。
「あの、折角の申し出ですが、断らせていただいて良いですか?
こちらにはジュエもおりますし。私は学生なので、貴女にあまりかまってあげられないので」
「なんだ残念。別に良いわよ、飼い竜にしてくれって意味でも無いし」
「え?そういう意味じゃなかったんですか?」
ロザリアはてっきりペットとして飼ってくれという話なのかと思っていたが違うらしい。
「ねぇ、だったら私の所に来ない?お城なら庭が空いてるわよ」
「マリエッタ様!?」「おいマリエッタ!」
本当に飼いドラゴンとして飼おうとする者が現れた。
ロザリアはともかく、同じ家(城)に住むリュドヴィックにしたら冗談ではない。
「んー、無理。だって貴女、『力持つ者』じゃないもの。
我に主と呼ばれたかったら、力のある所を見せてみなさい?」
だがオラジュフィーユはあっさりそれを断る。
「なっ!私は王女よ!それで力って事になるでしょ!私の言う事が聞けないの!」
「んー、より残念。それはあなたがたまたま王女に生まれただけで、あなたの力じゃないわ。
それに我はあなたの国の国民でもないの、命令は受け付けないわよ」
「ぐぬぬ」
「リアルにぐぬぬって言う人初めて見たっスね」
「王女ちゃんよ、その辺にしときなさい。
ついこないだ城を襲ったドラゴンがおるじゃろ?それ、こやつじゃ」
ウェンディエンドギアスが慰めるように諭し、
オラジュフィーユの素性を知ったマリエッタは驚きの声を上げた。
マリエッタ自身は避難していたので直接見たわけではないが、
その時の騒動は聞いていたのだ。
「こやつは風の属性を司るドラゴンだけあってな、どこまでも自由なのじゃよ。
じゃが、生涯で唯一人を主と認め、唯一人に頭を垂れる。
それがこやつの性分でな」
「ま、そういう事なの。
あなたは国民が連れてきてくれた猫でも可愛がってなさい、お似合いだから。
自らの務めをまず果たして、
自分の手に収まるものを愛でる所から始めるが良いわ」
「ろ、ロザリアさんはどうなのよ!
さっきだって店で変な格好して遊んでたわよ!?」
「え!?私!?」
王女としての自分を否定されたマリエッタは、抗議のあまりロザリアにまで飛び火させてしまった。
アデルはその言葉を聞き逃すわけにはいかず、マリエッタの側に近寄り抗議した。
冷静に、声を荒げず、穏やかに。しかし確かな怒りを込めて。
「差し出がましい口をお許し下さいマリエッタ王女様。
ロザリアお嬢様は遊んでなどおられません。魔法学園にもきちんと通われて勉学を修められ、
休日は王太子妃教育もきちんと受けられ、
その上で空いた時間に、先程のお店を経営なさったりしているのです」
「経営……?」
「はい、お嬢様は先程の店に出資されて、
その店の持ち主である教会に対して支援を行っているのです。
勤務態度や見た目は奇抜でも、決して遊んでいるわけではありません」
「アデル……」
『え……?アデル?ウチの事そんな風に思っててくれてたの!?』
「そういう事だよマリエッタ。私がここに入り浸っていたのも、
彼女が魔法学園に入学するまでの一時だ。
それ以降はお互い忙しくて中々会えない。
皆、それぞれの義務を果たしているからこそ、
余った時間に、好きなことをしているんだ」
リュドヴィックがそう言ってマリエッタを諭したが、
まだ納得はし切れていないようだ。
それでもここで駄々を捏ねては王女としての品位に関わると考えたのか、
引き下がった。
「お城に、戻ります」
「そうか、良い子だ」
「良い子じゃありません」
「ふむ、何だかわからんが丸く収まったようじゃな、
お前の気まぐれも役に立つものだな」
「ふふん、そうだろ。じゃあな王女ちゃん、我に頭を下げさせるのを待ってるぞ」
ウェンディエンドギアス達が帰宅しようとするするそぶりを見せたので、
ロザリアは送る手配をしようとした。
「あ、ウェンディエンドギアス様、オラジュフィーユ様も、
お送りする馬車を用意しますので」
「あー、構わん、適当な所に出たら王都の外へ転移するでの。
その後はこやつの背中にでも乗って帰る」
だがウェンディエンドギアスは断ると、ロザリアの肩をポンと叩いて言った。
せっかくなので用意しようとした馬車はそのままリュドヴィックとマリエッタを送らせる事にした。
「んー、楽しんでもらえたのかしら」
「まぁ丸くおさまりましたし……、多分」
去っていく後ろ姿と馬車を見送りながら、
ロザリアとクレアはとりあえず穏やかに終わったことに安堵していた。
次回、138話「今度は王都を治療するっスよー!」
読んでいただいてありがとうございました。
また、誤字報告本当に助かりました。
未熟者ですのでそういう機能がある事を知らず、気づくのが遅くなり失礼しました。
今年最後の投稿ですが、また来年もどうぞよろしくお願い致します。
基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。
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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、
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