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第131話「400年前の「マジこいつ色々と悪趣味なんですけどー!」


「この村を滅ぼしたのも、その実験の結果なのか」

「先程も言っただろう?この村は元々こうだった。

 どうも彼女の魔力に惹かれて闇の魔力がこの地から吹き上がったらしくてね。

 村人が全滅したのはその影響だ。

 私は全てが終わった後に、ここに人が寄ってこないようにしただけだよ」

リュドヴィックの言葉にドルクは心外だ、と言わんばかりに肩をすくめながら答えた。

ドルクの言葉が本当なら村の惨劇には無関係なのだろうが、

先程自分でも同族の長老たちの多くを殺したとか言っているだけにどうも信じられない。


「さて、そろそろ始末させていただこうか?

 君たちの相手は生ける死体ではあるが、油断していると痛い目を見るよ」

「それはこっちのセリフっス」

言うが早いか、クレアは自分の魔力抑制を解除し、

更にはドレスアーマーを装着する事でドルクを弾き飛ばした。

「ぐうっ!?まさか魔力を抑え込んでいたというのか?何だその魔力量は!?」

「言っとくっスけど、これでも大部分の魔力を封印されてるっスからね?」

クレアの機転で一気に形成逆転した隙をついてリュドヴィックが間合いを詰め、

ドルクに剣を突きつけた。


「大人しくしてもらおうか?エルシオーラ嬢の呪いを解いて、

 これ以上余計な事をしないというのなら命までは取らん」

「おっと、私が死霊魔術と精霊魔法しか使えないと思っていたのか?」

ドルクは短距離転移で一瞬のうちにロザリア達とはゾンビを挟んだ反対側に転移してみせた。

そして手に魔力を込めて地面に打ち込むと、更に多くの元村人達が地の底から這い出てきた。

それは先程出てきたのよりも更に身体の痛みが激しく、五体満足なのは一人もいなかった。

『うえー、ガチゾンビはバリキモいんですけどー。

 やだなー、触ったら手とかべとべとしそうなんだけどー』


「おや、この死体の群れを見てもさほど動じないとは、中々に肝が座っているね」

「それはどうも……アデルは後ろに下がっていてね? あれを手で触りたくないでしょう?」

「お気遣い感謝いたします、お嬢様。」

ドルクの称賛の言葉をあまり有り難くなさそうな感じでスルーしたロザリアは、

ゾンビたちに魔杖刀を向けながら己の背後にいるアデルに下がるように伝えた。


「ゾンビといえば、やっぱり火が弱点というのがお約束よね!」

ロザリアが魔杖刀を振るうと、放たれた火球で多数のゾンビが炎に包まれ、悪臭と共に灰となった。

「ちょ、ちょっとこの匂いはダメだけど効果はあるわね。兵士さん、ちょっと剣を出して!」

ロザリアは側にいる兵士の剣に触れると、魔力を流し込んで炎属性の魔力付与(エンチャント)を行った。剣は炎に見える魔力を(まと)い、しばらく魔力を伴った斬撃になる。

「これで大分マシになると思うわ、さぁどんどん剣を出して!」

ロザリアは兵士達の持つ武器に次々と魔力を付与して回り、

大量のゾンビを相手に戦いを優位に進めていった。


「匂いは私の風魔法でなんとかします!ついでに光魔法はどうっスかね?」

クレアが悪臭を魔法で吹き飛ばすついでに、杖の先から無差別に光弾を撃った。

だがゾンビ達はその直撃を受けても少し怯むだけで倒れない。

「ありゃー、効き目弱いっスね? 光ならいけるかと思ったんですけど」

「クレア様、口調。光魔法では恐らく効果が薄いです。聖職者等の神聖魔法のような聖属性でないと」

「仕方ないな、全員輪になって剣を構え! 互いに横の者を守りつつ各個撃破!

 余裕が出てきても前に出てはならん!」

リュドヴィックの指揮で兵士たちは1人も傷つく事すらなく、ゾンビの群れを始末していった。


「ほほう、貴族令息や令嬢というのに、かなり戦い慣れているね?ではこれはどうかな?」

突如、ゾンビの群れの中から青白い肌の男が現れた。

鎧を着込んでいるが様々な鎧の寄せ集めなのか、デザインが統一されていない。

男は背中から大きな剣を取り出して構えた。

その動きはどう見ても達人で、ゾンビとは思えない覇気を纏っていた。


「そいつは魂の研究の成果でね、疑似生命体のホムンクルスという。こいつの相手がつとまるかね?」

「あいつは私がなんとかするわ!クレアさん!私の抜けた穴をお願いね!」

ロザリアは突然一人輪を抜けてゾンビの群れに突入し、

周辺のゾンビを斬り伏せると、ドレスアーマーを展開した。

ドレスアーマーの生成時に魔力を放出し、周囲を炎で焼き尽くし、

爆炎の中からドレスを纏った姿で現れる。

その姿は炎を背負った戦女神のようだった。さしものドルクも思わず見とれてしまう

「おお……なんという強く研ぎ澄まされた魔力、この私が思わず研究対象にしたくなったよ」

「丁重にお断りするわ!」


ロザリアは魔杖刀に魔力を込めて魔力剣を伸ばすと、一気に周辺のゾンビを叩き切った。

多数のゾンビが炎に焼かれる中、ホムンクルスが猛スピードでロザリアに迫る。

ホムンクルスは錆びついた2本の剣を振るい、ロザリアの斬撃を受け止め、時に切りかかって来る。

『ちょっとー!超やりにくいんですけどー!!

 てか、やりにくいだけじゃなくて、超つよつよなんだけど-!?』

指揮をしているリュドヴィックに相手をさせると統率が乱れる、と飛び出してはみたものの、

神王の森でレイハに教わった剣術はあくまで対人用なので、

視線から何の意思も感じないホムンクルスとは相性が悪かった。

さらに、ホムンクルスの方も魔力を持っているが、それは無属性のためどの魔力に対してもかなり高い抵抗力を持っている事になる。

つまり、単純に物理攻撃も魔法も通用しにくい相手だった。

「ほほぅ、そいつの相手をできるとは中々大したお嬢様だ、

 かなり選りすぐりの魂魄(こんぱく)を入れ込んでいるんだがな?」

魂魄(こんぱく)って……、要は人の魂って事?まさか、死んだ人の魂を収集してるとか言わないわよね?」

「御名答。長き時に渡って収集した強き魂を我が呪法によって縛り、

 その人造生命体(ホムンクルス)の身体を依り代として『魔力属性』から魂を開放させたのだよ」

ロザリアの質問に対し、ドルクは嬉々として答えるが。ロザリアにとっては冗談でも済ませられる事ではなかった。死して尚、魂を弄んでいるに等しかったからだ。

だが、いくら怒りに震えようが目の前の相手が強敵というのに変わりはなく、

ロザリアは次第に追い詰められていく。


「ロゼ!援護する!」

と、リュドヴィックが援護で氷弾や氷の槍を乱射しても、あまり(こた)えた様子は見えない。

時に無属性の魔力弾、太刀筋の読めない斬撃等、極めて厄介な相手だ、

加えて、極めて素早い動きの為、今のロザリアでもついていくのがやっとだった。

「厄介ね!少しは大人しくしなさいよ!」

「いやいや、中々たいしたものだよ。」

ロザリアがドルクとそんなやりとりをしている中、ホムンクルスが振るった剣をロザリアが弾いた時、

一瞬だけホムンクルスとリュドヴィックの目が合った。

その瞬間、ホムンクルスは動きを止めてしまった。


「え……、何?」

「えるし、おーら……?」

ホムンクルスが突如硬直して動かなくなった事に、ロザリアもリュドヴィックも困惑していた。

しかもその口から出たのはエルシオーラの名だったからだ。

何故このホムンクルスがその名を知っている。


「エルシオーラあああああああああああああ!!」

今度ははっきりと名前を呼んだ、聞き間違いではありえなかった。

「どうしてエルシオーラさんの名前を……」

「おや、記憶消去が完全ではなかったか?元は400年前の名だたる剣術の使い手だったんだが。

 どうもそこの貴族の坊っちゃんに影響を受けたようだな?もしかして子孫か何かなのかね?」

「よんひゃ……まさか!?レドリオンって人!?」

「おや、知っていたのかね。城攻めに対しても最後の最後まで抵抗を続けた強い魂だったからねぇ、私が保管させてもらっていたのだよ」

ロザリアとリュドヴィックはその話を聞いて絶句する。

もし、その話が本当なら、

レドリオンを待ち続けるエルシオーラを呪いで城に縛っておきながら、

そのレドリオンの魂を実験のためにと自らの手元に縛り続けていたのだから。


「なんて事を……、エルシオーラさんはそのレドリオンって人をずっと待っていたのよ!400年も!」

「彼女は”待ちたい”と言っていたからねぇ、”会いたい”なら考えもしたが」

「普通それは詭弁っていうのよ!考えるといっても、どうせろくでもない再会の仕方でしょう!?」


激昂するロザリアだったが、ドルクは一切意に介さず、それどころかますます喜色を浮かべていた。

そして、ホムンクルスに命令すると、再びロザリアに襲い掛からせた。

今度こそロザリアは焦っていた。ホムンクルスの剣撃は先程より数段速くなっていたのだ。

これはもう捌ききれないとロザリアが覚悟した瞬間、

「一人と思うな!!」

リュドヴィックが剣で乱入してきた。

そして、ロザリアと目線を合わせながら、ホムンクルスに剣を振るう。

『よし!リュドヴィック様なら、何考えてるからわかる!

 ゲームで超息の合う2人同時プレイみたい!』

ロザリアとリュドヴィックは目線を合わせながら、ダンスのように剣を振るい、ホムンクルスを追い詰めていった。

だがそれでも拮抗状態に持っていくのがやっとで、もう1押しが欲しい所だった。


「王太子様!そのまま牽制をお願い致します!お嬢様は後ろに下がって大技の準備を!」

アデルが魔力封印を解除して鎧を(まと)い、更に乱入してきた。

基本攻撃が殴る蹴るの暴行しか無いのでゾンビ相手では気が引けていたが、

人造生命体(ホムンクルス)ならとアデルは思う存分リュドヴィックの振るう剣の間を縫い、

ホムンクルスの胴体に正拳突きを食らわせた。

さすがに効いたのか、よろめいたホムンクルスは今度はアデルに狙いを定め、剣を横薙ぎに振るってきた。

しかしアデルはその剣をかいくぐり、振るわれた剣が自分の頭上を通過した瞬間、

逆に剣の背を蹴飛ばして加速させる、

勢いがつきすぎた剣はホムンクルス自らの身体に当たって皮膚を裂けさせて止まった。

更に相手の腕が絡まっている間に間合いを詰め、

その腕を剣ごとひねり上げ、関節技の要領でホムンクルスの関節を破壊する。

一瞬の出来事に、リュドヴィックはアデルに対し感嘆の声を上げるしかなかった。


「……頼もしいな、君が常にロゼの側に控えているというのは」

「お褒めにあずかり光栄です。ではそろそろ止めを刺しましょうか」

片腕しか使えないホムンクルスは1本しか剣を振るえず、

それをリュドヴィックが危なげなく(さば)く、空いた(ふところ)に、一気にアデルが踏み込んだ。

「お嬢様、打ち上げます! 止めはお願いいたします!」

アデルが強烈なアッパーでホムンクルスの身体を浮かせる。

さらにその下に潜り込むと、思い切り蹴り上げ、ホムンクルスは10メートル程の高さにまで打ち上げられた。

「よし!あの状態なら身動きとれないわね!」

ロザリアは背中に炎の翼を展開し、一気に跳躍し、

その勢いのまま練りに練り上げた魔力剣でホムンクルスを切り上げ、

股間から頭までを左右に両断した。


「エルシオーラ……」

ホムンクルスは絶命する瞬間、その名を呼びながら事切れた。

両断された兜が外れて見えたその素顔は泣いていた。それは悲しみか開放の喜びか、

ロザリアはどうかレドリオンの魂が、行くべき所へ行けますようにと祈る事しかできなかった。


次回、第10章最終話

第131話「休暇の終わりは寂しさと共に」

読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークをありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

いいね・感想や、ブクマ・評価などの

リアクションを取っていただけますと励みになります。

作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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