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第128話「400年前の男」


「えーと、ここで良いのかしら?」

「奥様がおっしゃられていた場所、となるとここになりますね」

「えー、でも以前見た神王の森と全然雰囲気が違いますねー?」

「という事は何が起こってもおかしく無いという事だな、侯爵から兵を借りてきて良かった」

ロザリアが母から教えられてやってきたのは、城に程近い森だった。

リュドヴィック・クレア・アデルも同行しているが、一応安全の為にと護衛の兵達と共にやっては来たものの、

多少深い森ではあったが神王の森とは全く印象の異なる普通の森だ。

それなりに道らしきものはあるので馬で通れなくも無いが、少々草木が邪魔になる事もある。

一行は馬を乗り降りしつつ森の中を進んでいた。



ロザリア達はここに来る前に、城の書庫で400年前当時の出来事を調べはした。

だが元々別の国の領土だった時代の出来事な上、だいたいはローゼンフェルド家の戦功を書き残したもので、

例えば当時城にいたはずのエルシオーラの戦後の処遇等については書き残されてはいなかった。

また、残されている書物もここ100年前後のものが最も古く、エルガンディア王国時代の書物は1冊も残されていなかった。

父に心当たりは無いかと聞くと、

『まぁ、こういうものは大体は外聞の良い事ばかりを書き残すものだからねぇ。

 400年前なんて書物がかなり貴重で少なかっただろうし、

今となっては当時城にあったであろう書物の方が貴重なのは皮肉だね』

と、肩をすくめるばかりだった。

また、400年前から現在に至るまでにも、エルシオーラなる存在が東の塔にいるという記述も残されてはいなかった。

東の塔はというと、400年前の戦争の後も度々使用されているが怪しげな噂が立った事は無かったのだ。

行き詰まった結果、やはり森に行ってみようという事になった。



「うーん、何か突然現われたようにしか思えないわよね、あのエルシオーラって人」

「ですがお嬢様、シルキーという幽霊と同一の存在なのは間違い無いようです。

 クレア様をはじめとして、人相が一致するという証言が多数取れましたので」

「残る手段はエルガンディア王国での言い伝えなり書物なりを調べる事だが……、

 まぁ普通答えてはくれんだろうな」

「あなたの国の400年前の王女の幽霊が出て困って……もいないのか、出ます、って言うわけにもねぇ」

「当時の事情が事情なだけに、相手を怒らせる結果しか見えんな」

ロザリア達は森の中を歩きながら得た情報を整理しようとする。

結局のところ、400年前に存在したというエルシオーラを知る手がかりは何一つ得られていなかったのだ。

リュドヴィックの言うように彼女の故郷の国に聞いてみるわけにもいかなかった。



今一度エルシオーラに何か話を聞けないか、と思って東の塔にもう一度会いに行っても

『そもそもエルシオーラとしての私は、普段は眠っているようなもので、この世には出てこれないのです。

 何かのきっかけでたまに姿を現す事はありますが、私の自由になる事ではないのです』

『きっかけ、って、やっぱりリュドヴィック様が近くに来たから?』

『恐らくそうなのではないかと思います。今もこのようにして姿を現せますので』

『リュドヴィック様に出会えたからと言って、それで満足して成仏……通じないか、

 この世から逝くべき所に行こう、という気にもならないのよね?』

『私個人としては、もうこれで終わりにしても良いんじゃないか、と思っているのですけれどね』

と、結果は(かんば)しくなかったのだ。



「しかしお姉さま、一応相手は幽霊ですよ? 妙にはっきりと姿を表してますけど怖くないんですか?」

「うーん、でも精霊みたいな存在もいるのだもの、変に怖がる事も無いんじゃないかしら?」

「悪さをしていたわけでは無いのだからな、城でずっとメイドの仕事を手伝っていた、という程の存在だ」

そうこう雑談をしているうちに一行は森の奥の目的地にたどり着く。

そこは石造りの屋敷だった。かなり古く、壁一面に蔦等が貼り付いている。


「ここね、お母様の教えてくれた屋敷って」

「ロザリア様、念のためです。我々がお守りしますので、どうかお下がり下さい」

それまではロザリア達の後ろをついてきていた兵士が下馬して前に出る。

「えー、でも別に悪さをしているわけではないんでしょう?」

「いや、私も用心する事には同感だ。何しろ相手は”400年前”からここにいる、という時期が符号し過ぎている。私が行こう、何人か来てくれ」

リュドヴィックが行って何かあったら余計に問題では、と言いたい所ではあるが、

連れてきている兵士達は侯爵家の私兵で、魔法が使える者はごくごくわずかだった。


元々魔法の使える騎士や兵士は国預かりとなる事が多い上に、

魔法を使える人材を1つの家で雇ったりするのは人数が制限されていた。

もしも定数を超えて私兵化していた場合は国家反逆予備罪に問われる場合もある。

だからこそ貴族は貴族どうしで婚姻を重ね、できるだけ身内に魔法を使える者を確保しようとするのが常だった。

なのでこの場の戦力としては、リュドヴィック・ロザリア・クレア・アデルが最も強い状態ではある。

兵士達はリュドヴィックの前に出て盾を構え、守りながら屋敷に向かった。


屋敷は低めの塀に囲まれ、古めかしい門扉で閉ざされていた。

屋敷そのものは大きめではあるが極めて古めかしく、装飾も最小限の無骨なものだった。

いくつもある窓の中は暗く、だいたいは鎧戸が閉められていた。

「幽霊の次はお化け屋敷っスか……?マジ勘弁なんスけど」

「クレア様、口調。意外ですね?こういうの苦手なのですか?

 故郷では精霊がよく見られるとの話でしたが」

「昔さんざん脅かされたんですよー。夕方は早く帰ってこないと山から真っ黒なお化けがやってきて、深い深い山奥に連れて行かれて二度と家に帰れなくなる、とかー」

「それはクレア様が夜遅くになるまで遊んだりしていたからだと思われますし、ご両親も心配されての事でしょう」

「私はむしろアデルさんがこういうの平気なほうが意外ですよ?無口クールキャラって幽霊に弱いってのがお約束じゃないですかー」


クレアやアデルが軽口を叩く間もリュドヴィックや兵士達は警戒しつつゆっくりと屋敷に近づく。

ロザリア達も門から少し離れた所で様子を見守っていた。

リュドヴィックが門扉(もんぴ)に手をかけると、きしみつつも門はあっさりと開いた。何人かの兵と共に敷地内を屋敷に向けて歩いて行くが、特に異常は無かった。

「よし、ロゼ、来てくれ。兵たちの何人かは門の外で待機してくれ。何かあったら即戻って救援を呼んで欲しい」

ロザリア達は何事も無くリュドヴィックが屋敷の正面玄関まで辿り着いたのに安堵し、足早に彼の後に続いた。


リュドヴィックは剣を抜き、屋敷の扉の取手に何か細工が無いか確認した後、戸を開くが、これまたあっさりと開いた。

「不用心だな……?わざわざここに来る物好きもなかなかいないとは思うが」

「中は真っ暗ですね。人が住んでる気配も無いようだわ」

「だからどうしてみんな平気なんスか……。ちょっと光を飛ばしますね」

リュドヴィックとロザリアが屋敷の中をのぞき込む中、

クレアが一番後ろからこわごわと杖だけを屋敷の中に差し入れて魔力を込めると、

杖の先端が光り、握りこぶし程の光球が発生した。それはふわふわと飛んでいき、天井近くで止まる。

「ねぇクレアさん、こういうもの出す方がよっぽどお化けっぽいわよ?人魂みたいだもの」

「お、お姉さま、そういう事言わないでもらえますか……?」

「自分の魔法で怖がってどうするのですか」


屋敷の中が光に照らされてみると、そこは廃墟という程ではないが、どう考えても人が住んでいるようには見えなかった。

ホコリの積もった調度品がそこかしこに置かれているがその調度品もかなり朽ちかけている。

「誰も……、いないな」

現在いる玄関ホールの真正面には2階へ続く大きな階段があり、登った先の突き当りで左右に通路が分かれ、それぞれ2階へと続く構造で、

階段の突き当りにはお約束のように大きな絵が掛けられているが、ここからでは暗くてよく見えない。


「リュドヴィック様、誰もいないようですが、上へ上がるなりしてもう少し探してみますか?」

「どうだろう、我々の目的は屋敷そのものではないからな。入り口の時点で誰もいないのであれば他も似たようなものだろう」

一行がそれぞれ周囲を調べている中、リュドヴィックが何となく玄関ホールの中央にまで歩いてみると、突然、床が光りだした。

それは青白い光で何かの文様を描き、リュドヴィックは自分がどこかへ転送されるのかと慌ててそこから飛び退(ずさ)るが、光はすぐ消えた。

「リュドヴィック様!大丈夫ですか!?」

「心配ない、私は大丈夫だ、特に何もない。どうも何かを起動させたようだが……?」

慌ててロザリアが駆け寄るが、リュドヴィックは姿を消したりはしなかった。


「おや、ここに客人とは珍しい」

声がした方を見ると、階段の上の絵画の下に人影があった。

「で、出た~!」

「落ち着いて下さいクレア様。どうもあの人が探していた人物のようです」

男性は長い金髪で両耳は尖っていた。衣服は古めかしい魔術師らしき服装で、どこか浮世離れした雰囲気を(まと)っている。

そう、ロザリア達が会いに来たのは彼だった、彼はここに400年前から住み着いているエルフだった。

なるほど、これなら別に建物でなくても、人でもいい事になる。


「あなたが”ドルク”ね、お話を聞かせてもらえないかしら」

「ふむ、私は普段ここを留守にしているのでね。反応があったので戻ってみれば、賊や空き家荒らしではなく私に用とは」

ロザリアが話しかけたドルクという名のエルフの見た目は若く、少なくとも400才以上という年齢を考えても、

ハーフエルフのように老いているわけでも、エンシェントエルフのようにまだ肉体年齢が戻っていく程の歳ではないようで、

かなり原初のエルフの血が濃いようだ。

ロザリアの母は、彼がこの森に住み着いており、特に周囲に対し何かをするわけではないが400年前から時折り姿を見せている事を教えてくれた。

少なくとも、400年前の状況は何かしら掴めるのではと、彼に会うためにこの屋敷を訪れる事にしたのだ。


第129話「400年前の出来事……、江戸時代くらいって考えると何かロマンが無いんですけどー」

読んでいただいてありがとうございました。

あの、昨日のアクセス数が自己最多を倍以上更新して2000超えてるんですけど……、

何があったの……!?

ブックマークや多数の評価もありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

いいね・感想や、ブクマ・評価などの

リアクションを取っていただけますと励みになります。

作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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