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第126話「うわ……うわき?うわきってなんだっけ?」「お嬢様、お気を確かに」


「リュドヴィック様が浮気、って、えーと?」

ロザリアは就寝の為に着替えを済ませ、もう休もうとしていた時、

部屋に来た侍女に突然「王太子が浮気をしているのでは」と告げられ、フリーズしていた。

まさに寝耳に水そのものだ。


「あのロザリア様、失礼かもしれませんが、リュド様ってリュドヴィック王太子殿下ですよね?」

「あー……、やっぱりバレてたのね」

「いえまぁ最初は皆なんとなく?だったのですが。王太子様の顔を見た事がある者がおりまして、これは間違いない、と」

あの変装になっていない変装では無理もない、とロザリアもアデルも思った。

それはさておき、侍女にわざわざ言われてしまったからには誤魔化しても仕方ない。


「まぁ、顔そのままだし、バレるわよね……、それで、どうしてまた?」

「はい、先程王太子様が部屋から出ていかれまして、ふらふらとどこかへ行くんです」

「えーと、散歩じゃないの? いくら何でもそれで浮気、って」

ロザリアはいきなり浮気と聞かされて気が動転したが、いくらなんでもそれだけで浮気を疑うのはどうかと思い、話を聞いてみる事にした。

「いえ、側使えのクリストフ様にも確認したのですが、この城には来た事が無いので、そういう事をする人ではないそうです」

「クリストフさんもこの事を知ってるのね? 今どこにいるの?」

「ロザリア様、クリストフです、部屋の外に控えております。夜分に女性の部屋に入るわけにもいきませんので」

侍女が単にそう思っただけではなさそうなので、ロザリアは念の為聞いてみると、部屋の外から声がかかった。

侍女はまだドアの外にいるので、その後ろで控えていたようだ。

「夜分に失礼します。私も先程聞いたんですが、殿下はあれで慎重な所がありまして、眠れないからとかでふらふらと歩き回るお方じゃないんですよ」

「そうなの?」

クリストフによると、この城に来てからというもの、リュドヴィックの行動に何か違和感があるのだという。

「あー、私もちょっとそれわかるわ」

「お嬢様、詳細は話せませんが、私も心当たりがあります」

ロザリアが先程街から戻った時に出会った時や、晩餐時の様子を思い返していると、アデルも思うところがあったのか、同意した。

『詳細は話せない』などと言うのは珍しいので何事かと聞いてみようとすると、


「今、城内の侍女・メイド仲間が総出で王太子様の後を追っています。ですのでロザリア様に来てきただけないかと」

「……あなた達、面白がってない? わかったわ、私も行きます」

「お嬢様、お待ち下さい。さすがに今の格好で部屋の外を歩き回るのははしたないです。急ぎお着替えを」

アデルに質問しようかと思ったが、侍女たちの行動を放ってはおけないと、ロザリアは服を着替えることにした。


着替えを終え、夜なので上着を羽織り、髪を纏めるとアデルと2人で部屋を出た。

夜中の廊下は静まりかえり、衛兵以外は誰もいない。

「お待たせ、クリストフさんもご苦労さま」

「いえ、私の方はお気になさらず。どうもリュドヴィック様の様子がおかしいんです。ロザリア様も気づかれましたか?」

「何というか、心ここにあらず。という感じだったわよね?」

「ふらふら外へ出る、というのでお嬢様の部屋に来るならわかるのですが、一体どこへ?」

「あの王太子様が、お姉さまを放ったらかしというのが、そもそもおかしいですよ」

話を聞きつけたのか、いつの間にかクレアもやって来ていた。

来た瞬間に「なんですかその格好は」とアデルに怒られ、即着替えさせられたが。


「殿下はこの城に来た事が無いですからね、不案内な場所をうろつくような人じゃないんです」

万が一を考えてクリストフが先頭に立って歩き、リュドヴィックの性格や行動の話をしながら皆で後を追う。

「皆様こちらです、王太子様は東の出口に向かっているようなんです」

「あそこへ行くには少々道がややこしいんですが、まるで迷いが無くて、誰かに道順を教えてもらっているとしか……」

侍女達が言うように、リュドヴィックは迷わず城外へと向かっていた。

途中、階段も降りたり登ったりするので、皆息切れしそうになるが、リュドヴィックにはそんな様子は見せず早足で歩いていく。


そんな中、アデルは前に出てクリストフに話しかけた。

「クリストフ様、質問なのですが、王太子様は対魔法用の魔石具は身につけておられますよね?」

「もちろん、かなり強力なものだからだいたいの物は防げる」

「なるほど、ですがこの城で何がしかの精神系魔法が使われた形跡があるのです」

「なんだって? それに殿下が?」

「ごく弱いものだそうで、多少人の行動を操れるくらいのものではあるそうです。最初は外部からの襲撃の為かと思ったのですが」

「何者かが殿下を招き寄せてる、って事になりそうだな」

クリストフとアデルが小声で話す間も、リュドヴィックの後を追っているのだが、会話の内容を聞いてロザリアはアデルも隠し事をするのかと驚いた。

「アデル、どうしてそういう事は言ってくれないのよ」

「申し訳ありません、なにぶん相手の意図も何もわかりませんでしたので」

「あーもう、杖と鎧持ってくるんだったわ」

「お嬢様、城を壊す気ですか……?」


「ロザリア様こちらです、こちらへどうぞ!」

「ねぇ声が大きくない?」

東の出口に近づいたのか、侍女達が大きな声で呼びかけてきた。

ロザリア達は近くにリュドヴィックもいるのに大丈夫なのかと心配になる。

「いえそれが、王太子様は隠れる様子もなくて、すれ違う人にも無関心というか、気づかない感じなんです」

「試しにちょっと声をかけてみたんですが、無視されるんですよ」


「本格的におかしいですね。お嬢様、取り押さえた方が良くないですか?」

「いえアデルさん、それでケガをされても……。私達しばり首になんてなりたくないですよ」

侍女たちは興味本位でリュドヴィックの後をつけていたが、そこまでする気はないようだった。


「それもそうね。わかったわありがとう。この出口だと、出た先には東の塔くらいしか無いんだけど」

「お姉さま、東の塔には何があるんですか?」

「何が、と言われても。あの塔は古くて、この城が建てられた時からあるんじゃないかしら」

「周囲の監視の為に建てられたものだそうですが普段は閉鎖されているそうです。戦争の時でもないと使われない所ですから」

アデルが情報を集めてまわっていたのか説明してくれた。それにしても情報の幅が広い。


「ますます妙ですね、そのような所に誘い出す理由がわかりません」

「まさか幽霊か何かが王太子様に呪いをかけて、その塔から飛び降りさせよう、とか……」

クリストフが首を傾げるのにクレアが恐ろしい事を言い出すが、ロザリアはそういう怪談の類の噂を聞いた事が無かった。

「うーん、周りくど過ぎるわね。私のようなこの城の関係者ならともかく、どうしてまた今日ここに来たばかりのリュドヴィック様が?そういう噂話でもあるの?」

「いえまったく。まぁ多少の噂話程度の怪談は無くもないんですが。一番有名なのが例のシルキーでして」

同行していた侍女達にも心当たりは無いらしく、皆一様に首を振るだけだった。


「追いついたけど……、引き止めようかしら」

「いえお嬢様、一応、ギリギリ最後まで見届けた方が良くないですか。今止めても原因を取り除かないと、下手すると毎晩こういう行動を取りますよ?」

眼の前には東の塔がそびえ立っている。見た目は古ぼけた石造りで、蔦が絡まっているのが見える。

とはいえ、単に古そうなだけで、怪談話の舞台になりそうな感じには見えない。

が、正面にある扉が音も無く開いた。


「あ、扉が開いた。普段は閉鎖されてるんじゃなかったの?」

「そのはずなんですが……。お嬢様急ぎましょう、後を追わないと」

「何人かは扉を押さえて待機しててくれ。閉じ込められたくない」

クリストフの指示で慌てて侍女達が扉を押える。

塔の中は暗いが、窓が多くあるのでそれなりに中は見えた。床は埃だらけで、雑然と古い道具や壊れた甲冑などが転がっている。

リュドの姿のリュドヴィックは壁沿いの螺旋階段を登っていた。

手すりはあるので一応落ちる心配は無いだろうが、万が一の場合に備え、クレアを一番下で待機させる事にした。

「もしもの時は声をかけて下さーい!風魔法で受け止めますからー!」

ロザリア達は後を追って螺旋階段を登って行く。元々鍛えているクリストフや身体強化を使えるロザリアやアデルはともかく、兵士や侍女は遅れ気味だったが、構わず上がっていく。


塔の内壁には等間隔に窓が設置されているが、それでも薄暗く足元が見えづらい。

リュドヴィックが足を止めたのでロザリアも立ち止まる。

塔の最上階まで登り切ったようで、目の前には大きな両開きの扉があった。鍵はかかっていないらしくあっさりと開く。

部屋に入るリュドヴィックを追って、慌てて一行は部屋に入った。


そこにはリュドヴィックの前でひざまずく女性の姿があった。


次回、第127話「400年前の悲恋とリュドヴィック」

読んでいただいてありがとうございました。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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