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第122話「ウチのまともな出番超久しぶりなんですけどー!?主役はウチでーす!ウチの里帰りのお話でーす!!」

王都の自宅の東屋(ガゼボ)で午後のお茶を楽しんでいたロザリアに、クレアが治療の旅から戻って来たとハンスが伝えに来た。

戻りしだい、ロザリアの所に来させるようにと学園に言付けてあったのだ。

「お久しぶりですお姉さま!」

「あらクレアさん、帰って来たのね」

「はい、ようやく国中をとりあえず一回りできました、いろんな所見れて楽しかったですよ」

そう答えるクレアは制服の姿で、小さめの背嚢(リュックサック)を背負っていた。

背嚢(リュックサック)には魔法の杖とは別に、山岳用らしき杖まで入っている。

『登山用のアイテムまで持ってるって、どこまで行ってきたのこの子……』


「お疲れ様でしたクレア様。国中であなたの噂が流れているそうですよ。使用人仲間でも噂になっています」

「うぇ!? なんスかそれ!?」

クレアにお茶を差し出すアデルの言葉に、クレアは思わず変な声を出してしまう。

知らぬは本人ばかりか、とそんなクレアにロザリアが優しく微笑む。

「それはそうよ、元々各地の救護院にふらっと現れては治療して回る制服の子がいるって、結構有名だったのよ?

その子が突然獄炎病の治療ができるようになって、国中を回っているってお母様のお茶会でも話題になっていたわ」

「えええ……、単に自分にできる事をやってただけなのに……」


「それでも、普通はあそこまでなさいませんよ?尊敬を受けて当然だと思います」

アデルは少々合理的に考えてしまう傾向がある為、自発的にそういった事ができるクレアに素直に感心していた。

が、当のクレアの方は、旅はフェリクスといられる時間が多くなるからという下心もあったのと、

そこまで大した事では無いと思っていたので、むしろ褒められて戸惑っていた。

『あー、クレアさん、フェリクス先生といい感じになれたのかな? マジ気になるんですけどー』


「えー?でもお姉さま、自分にそういう力があったら、何か人助けとかしてしまいません?ほら、前世のゲームの選択肢とかで」

「あー、わかるー。『この男を助ける為に依頼を受けるか?:はい/いいえ』とかだと、つい”はい”の方を選んじゃうわよね」

「そうそうそれそれ、そのノリっす」

「クレア様、口調。でも変わっていますね?人助けをする事で不利になる事の方が、世の中多いと思うのですが」

「あーアデル、前世のそのゲームだと、人助けをするとだいたい良いことがあるのよ、次の道への情報とか、お宝とか」

「そんなのを子供の頃からずっとやってたら、つい人助けする方を選んじゃいますよねー」

「子供向けの番組とか漫画でも、だいたい正しいことをするから世が平和になる、みたいなのばっかりだもんね」

「お嬢様、その番組、というのは何なのですか?漫画というのは以前聞きましたが」

アデルはロザリアとクレアがする前世の世界の話にかなり興味があるようで、事あるごとに聞き入っていた。

『アデルって意外と好奇心旺盛よね? 前世あるあるに結構食いついてくるし』


「TVとかスマホっていう、何でも映す板に動く絵が浮かび上がって流されるのよ。大体は人間の姿から全身鎧のようなものを一瞬で(まと)英雄(ライダー)とか、

 赤青黃白黒とかにそれぞれ色分けされた制服を(まと)う5~6人の戦士団(レンジャー)が主役で、

 子供達を助けたり、正しい事をしないと国や町内の平和が乱れるーみたいなお話をやってるの」

「アデルさんアデルさん、女の子向けもありますよ。そっちは女の子だけの戦士団(プ○キ○ア)ですけど。

あと、別の星……異なる世界からやって来て、巨大な魔獣を退治してくれる銀色の巨人(ウ○ト○マン)が、

人と交流して、互いの価値観や倫理観を理解し合ったり高め合う、ってのもありますよね」

「なるほど、お嬢様もですが、お二人が妙に人助けをためらわないのは、前世の環境あっての事かもしれませんね」

『あー、ああいう子供番組って、やっぱ正義の味方?量産しやすいのかもー? ウチも結構影響されてる気がするし』



「で、お姉さま、今日私を招待してくれたのはどういうご用なんですか?」

「ああ、そういえばそうだったわね。クレアさん、まだ夏休みは半月ほど残っているけど、何か予定あるの?」

「いえ?特に用は無いですけど。急な呼び出しがあっても何なので、とりあえず戻って来ただけです。家に帰りたくなったら転移門ですぐ帰れる事がわかりましたし」

「だったら、ローゼンフェルド領に来ない? 避暑の為に戻るんだけど、お世話になったクレアさん置いていくのも何だろう、って事で待っていたのよ」

「お世話って程では……。ああそうか、ここって、王都滞在用のタウンハウスでしたっけ、カントリーハウス(本邸)?っていうのがあるんですよね?」

王宮で役職を持つ貴族は、社交シーズンになると国の政務をこなす為に王都に滞在する必要がある。

その為の邸宅がタウンハウスで、本来の居住地は自分の領地にあるというのがこの世界での一般的な貴族の形だった。


「はい、本来侯爵様はローゼンフェルド領を治めていらっしゃるのですが、

宰相に任ぜられたのでご多忙だったのと、最近では奥様がご病気でしたので、戻られるのは数年ぶりですね」

「ええ……、それってわりと大事な里帰りなのでは?そんなのに私がついていって良いものでしょうか?」

アデルの説明に、クレアは自分がお邪魔して大丈夫なのかと少し不安な顔をする。

しかしロザリアは首を横に振る。母の病を治してくれたクレアは、今やローゼンフェルド家にとって恩人だったからだ。

「良いのよ、お父様もお母様も是非、って言ってくれてるんだから何も気にしなくて良いの」

「は、はぁ……」

悪役令嬢とヒロインが仲良く里帰りって、ゲームではこんな展開無かったなぁ。とクレアは遠い目になる。


次の日、さっそく侯爵一家とクレアは馬車に乗り込み、領地へと向かう事になった。

クレアは特に荷物が無かった為一泊させてもらい、朝から慣れぬドレスの着付けに苦戦していた。そしてその着付けは終わる気配がない。

『クレアさん夜明けと共に叩き起こされて、延々着付けとかされてたもんねー。マジ乙なんですけど……』

皆がクレアの着付けに凝りに凝るものだから、もう馬車の中で続きをやろう、とクレアは馬車に放り込まれたほどだ。


「てっきり馬車に揺られて、と思ったら専用の転移門があるって……、どんだけリッチなんすか侯爵家……」

「とはいえ、どこの転移門にでも行けるものじゃないのよ? ローゼンフェルド領とこのタウンハウス間だけなの」

馬車は邸宅から出るどころか、敷地内の転移門の施設に入ってゆく、その建物はわりと大きく、クレアは最初何か忘れ物をしたので車庫に戻すのかと思った程だ。


「馬車に乗ったまま、馬車ごと転移門で移動するんですよね?てっきり歩いて転移門に入るのかと思いました」

「一応、人数が多くて大掛かりな転移になるので安全の為と、勝手に使われないようにとの為だそうです」

アデルの説明によると、馬車に乗らないと使えない仕様になっていて、婚約破棄騒動の時にハンスが使えなかったのはその為だという。

「いやそれでも凄いですよ……。あの、どうしてもこの格好でないとダメですか?」

「まぁそれはお母様の趣味もあるから」

クレアは馬車の中でも、ロザリアの母や侍女、メイドに囲まれてドレスの着付けの続きやリボンの追加などで飾り立てられ続けていた。皆物凄く楽しそうである。

『まだやってるの正直草。素材が良いからこういう事始めるとみんなアガるよねー。元が良いんだからどんどんアピってかないとー!ってなると止まんないわよね』


転移門に入ってすぐ、一行は一瞬でローゼンフェルド領地に到着した。とはいえ、いきなり本邸の敷地内に来たわけではなかった。

大きな街中の広場の一角にある施設に到着しており、そこから大通りを通って本邸に向かうとの事だった。

”本邸”と言われたが、侯爵に指で指し示された先にある建造物は、どうみても家というレベルの建物ではなかった。

クレアは馬車の窓から見上げながら呆然としている。

「でっ……か、まるでお城じゃないですか」

「まるで、というか城そのものだね、数百年前はあそこに籠城して戦った事もあるそうだから」

城は街から少々離れた丘の上に城壁で囲まれた広大な敷地の中に建っていて、いくつもの塔や建物が建っている。


「クレアさんも滞在中は自分の家だと思ってのんびりと過ごしてね。んん~、可愛いわぁ~」

「いえ、どう頑張ってもあのお城を自分の家とは思えないと思います……」

物凄く楽しそうに自分を飾り立てる侯爵夫人に、クレアはそう答えるしか無かった。


「まぁさすがに私も、王都のタウンハウスの方が暮らしている期間が長いから、ちょっとあそこは気後れするわね」

「いやお姉さま、ちょっと、ですか……?」

この人って別に王太子様と結婚しなくても、あのお城に住むくらいのガチのお姫様なんだよなぁ、とクレアはロザリアを改めて見る。


「それにしても、いきなりあのお城の中に転移する、ってわけじゃないんですね?」

「あそこにいきなり敵が転移してこられたら大問題だからね、だから一旦ここに転移してくるのだよ。貿易の荷物等もここに届くんだ」

「ああなるほど」

ガタゴトと石で舗装された道を馬車に揺られ、城へ続く大通りを進むが、城下町の様子は王都に引けを取らず賑わっていた。

軒先に品物のある一般的な商店街や、ガラス製のショーウィンドウのある店舗が並ぶ大通りなど、王都を離れたとは思えなかった。

「うっわー、(にぎ)やかな所ですねー」

「さすがに王都程ではないけどね、この地域では一番大きな街だと思うよ」

侯爵もこの街は自慢なのか、少々得意げな口調になっていた。ロザリアも久しぶりなのか、懐かしそうな顔で街を見ている。

「小さい頃は、よくお父様に連れられてここに来たものだわ」

「あの頃は、今みたいに宰相の仕事に追われていなかったからねぇ」


「ロザリア、貴女には色んなものを背負わせてしまって、本当に申し訳なく思っているのよ?」

「そうだねぇ、私もまさかあんな時にフロレンシアが倒れるなんて思ってなかったからね、」

「いえお父様、お母様、今となっては、全て大切な思い出ですわ」

「そう言ってもらえると気が安まるよ。フレデリックもロザリアに久しぶりに会えて喜ぶだろう」

「そうねぇ、あの子も、もっと見てあげないといけない時期に私が治療の為にずっと王都にいたものねぇ」

「これからはもっとこちらに居られるようになるさ、何だったら社交シーズンが始まるまでは、こちらにいても良いじゃないか」

「あら、貴方は私の顔を見たくありませんの?」

「その為の転移門じゃないか、仕事が終わればこちらに来るさ」

「まぁ、そんな事をおっしゃって。でもむしろフレデリックを王都に呼んでも良いかもしれないわねぇ」

「そうだね、その辺は本人に聞いてみよう」


クレアは親子水入らずの会話だと遠慮していたが、先程から何度も気になる名前が出ていたので、つい聞いてしまった。

「あのー、フレデリック、さん?っていうのは」

「ああ、クレアさんは会った事無いわね。私の弟よ」

「……ええ!?お姉さま、弟さんがいらっしゃったんですか!?」


次回、第123話「悪役令嬢のお城の見知らぬメイド」

読んでいただいてありがとうございました。

やばい、久しぶりにロザリアを登場させると、書き方を忘れてしまってた……。


ブクマ、評価共に本当にありがとうございます。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

いいね・感想や、ブクマ・評価などの

リアクションを取っていただけますと励みになります。

作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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