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第121話「クレアの里帰り(後)」


「獄炎病が騒ぎになる前も、縁があって私の医者の仕事も手伝っていただいていたんですが、

 その時だけでも彼女のおかげで何人の命が救われたか数知れませんよ。私も含め、皆本当に感謝しています」

「はぁ、あの野山を駆け回って、健康が一番の取り柄のあの子が、ねぇ……」

「……? 小さい頃は、病弱とかではないのですか?」

「いやー? 大きな病気1つせず、風邪もひかん元気な子でしたよ?むしろケガの方が心配でしたな」

フェリクスはクレアからいくつもの高度な医学的知識を教えてもらっていたが、

幼少期は病弱と聞いていたので、てっきり王都かそれに類する大きな都市で入院生活でもしていたのかと思っていた。


「……そうですか。ところで、この村に薬師の方はおられますか? もしよろしければこの地方の医学をお聞きしたいのですが」

「あー、この村にはそういうのはおりません。だから健康なあの子がどれだけ有り難かったか」

「なるほど、いや趣味で調べていただけなので、残念です」

フェリクスはクレアの持つ高度な医学知識がどこから来たのか不思議に思ったが、それを口にはしなかった。


会話をしている2人に、女性達の声が近づいてきた。

「ほれ、何を恥ずかしがっとるかね、先生に見てもらえ」

「だから母さん、恥ずかしい言うとるがね」

クレアの母は娘の肩を掴むと、ぐいっと前に押し出した、その勢いに押されるようにクレアは前に出る。


フェリクスの前に姿を見せたクレアは年頃の少女らしく着飾っていた。

その服はこの地域の民族衣装のようで、白く太い糸で編まれた布でできており、図案化された動物や幾何学模様のような装飾が赤や青で施されていた。

袖は長くゆったりしており、どこか巫女か神官を思わせる雰囲気を漂わせている。

顔には染料で頬や額に紋様が描かれ、化粧を施された顔は普段より大人びて見え、

髪型も綺麗に編み上げられており、頭頂部にまとめられた髪飾りは花の形をしている。


「おお、似合っとるな。いや、作っておくもんだな。ちゃんと見る事ができて良かった」

「この衣装は?」

「この村の成人の衣装ですだ。この村では15になるとこの服を着て山の神様に祝福してもらうだよ。時期が悪くてクレアは袖を通せなかったからな」

「もー、だから恥ずかしい言うたに、もう知らーん!」

とクレアは真っ赤な顔を長い袖で隠してしまう。その仕草を見たフェリクスは微笑みながら、

「いや、とても良く似合っていますよ、クレアさん」

と褒めると、クレアはますます赤くなって(うつむ)く。

「先生が褒めとるに、恥ずかしがる奴があるか、ほれ、座れ座れ」


クレアの父はクレアに着席を促し、母は食卓に料理を運び始めた。

その料理は明らかに祝いの為の料理だというのはフェリクスにもわかる。

料理は地域性が強く出ており、鳥を丸焼きにした物や、芋や豆の煮込みなど色とりどりの食材を使ったものだった。

めいめいの前に置かれた皿の上にはパンが置かれ、スープに浸されて柔らかそうだった。

クレアの父が肉を切り分け、それぞれの小皿に分けていく。


料理は和やかに進み、やがて話題はクレアの着ている衣装に移った。

「しかし、よくこのような衣装が用意されていたものですね」

「この子は16になる年に魔法学園に行ってしまう、いうのがわかっておったですがな、

 それでも、娘の成人の晴れ着を作ってあげたい、言うのが親心で、用意しとったですよ」

「服の模様はこの家の守護獣や祝詞で、顔に描かれている文様は魔除けなんです」

とクレアの母が説明を付け加える。

「なるほど、良かったですね、クレアさん」

「は、はいい……」

「なーん恥ずかしがっとるかねこの子は、ほれ、あとで村の祠お参りして祝福してもらって来い」


恥ずかしがっていたクレアではあったが、久しぶりの郷土料理を口にするうちに機嫌も直り、食事を楽しんだ。

「それにしても、この家なんか妙に立派になってない?」

「お前が山程仕送りしてくるからだろうが、使いきれんで村のあちこちもその金で修繕させたからな」

「ええー、どうして使っちゃうのよ」

クレアの父は呆れたように娘を見る。彼女が送金してくる金額はこの村の物価では金額が多すぎたのだ。

「金なんて使いたい時に使いたい分だけあれば贅沢なくらいだ、近所のやっかみ買いたくもなかったしな」

「クレア、私も同感だよ。いっぱい送ってくれるのは有り難いけど、あんた学校の生活とか大丈夫か?」

「ええー? 何も心配する事なんて無いよ?」

クレアの方は絶大な魔力量のおかげで割と楽をして稼いでいるので問題はないのだが、それと知らないクレアの母としては心配になってしまう。

実はクレアが各地の救護院を回っているのは、楽をして稼いでいるという後ろめたさもあるからだ。



「すいません、先生。私の両親、私がいない時に、変なこと言ってなかったですか?」

「いえいえ、特に何も、楽しい時間でしたよ」

「はぁー、もう、何しに来たかわかんないですよ、もう」

「ははは……、でも、その衣装を着られて良かったじゃないですか」

クレアは食事を終え、祠へのお参りに向かっていた。

山に向かう参道は道が開けており、少ないながら魔石灯で照らされ、月の明かりもあってそれほど暗くはない。

フェリクスがこの地域の風習に興味を持っていたと思った両親は、フェリクスに付き添いを頼んでいた。

とはいえこの地域は危険な獣は少なく、虫の音がかすかに聞こえるくらいだ。


フェリクスがふと振り返ると、すでにそこそこの高さまで登っており、村の全景が見えた。

村は温かな色の光が家々から漏れ、賑やかな声が聞こえてくる。

精霊の加護が特に強い場所なのか、時折光る光球が空に浮かんでいるのが見えた。

「綺麗な村、ですね」

「私もこの村、好きです。街道に近いせいかあんまり閉鎖的でもないし、みんなのんびりしてるので」

フェリクスの何気ないつぶやきに、クレアは嬉しそうに答え、足を止めてしばらくその景色に見入った。


そのまま10分ほど歩くと小さな祠が見えてきた。祠は石造で屋根には何かの動物の像が置かれている。

「あ、あそこが祠です。」

「立派なものですね、中には何かご神体でもお祀りされてるんですか?」

「いえ、中にあるのは、裏の山の山頂の石一つ、だと聞いています。

 たまに村の子供が悪戯で入れ替えるので、山頂からまた石を持ってくるのが大変だ、ってぼやいてますよ」

クレアは笑い、祠の後にそびえ立つ山の山頂を指さした。

「御神体はあの山です。私達の村の者はあの山から生まれて、恵みを与えられ生きて、そしてあの山へ還っていくのだと、そう伝えられています」


クレアは祠の前でひざまずき、何かを唱え始めた。おそらく祈りの言葉であろうが、不思議な響きを持っていた。

すると、クレアの身体がぼんやりと光りだし、それに呼応するように精霊が活性化し、地面や付近の草むら、水辺といった所からも光の玉のようなものが湧き上がる。

光はクレアを包み、その輝きを増していく。

やがて、その光は弾けるような音を立てて、クレアの頭上から山の山頂へと飛んでいった。

幻想的な光景にフェリクスは息を呑み、しばしその光景に魅入られていた。

やがてクレアは立ち上がって振り向くと、照れたような、ほんの少し大人びた笑顔で笑うのだった。


「それではこちらが獄炎病の薬の代用品となります。追って正式な薬が王都から来ますが、万が一の時はこれで対応して下さい」

一夜明けて出発の時間になり、フェリクスは広場で見送りの村長に化粧品を渡す。

広場には他にもクレアの両親や、急いで駆けつけたというクレアの兄弟もやって来ていた。

クレアはまたすぐ帰ってくると言い、2人は転移門に入った。


転移門の先はまた違う景色で、村とは全く異なり目の前に巨大な建物が見える。

「さてクレアさん、あと一息で国中を回り終えられます、もう少しだけ、大丈夫ですか?」

「もちろんです!さぁ行きましょう!」


次回、第122話「ウチのまともな出番超久しぶりなんですけどー!?主役はウチでーす!ウチの里帰りのお話でーす!!」

読んでいただいてありがとうございました。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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