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第12話「撃沈……、かーらーのー、昇天っ!」①

「そ、それでは殿下、挨拶(あいさつ)も済ませた事ですし、ここで立っているのも何でしょう、客間にご案内いたします」


ロザリアが呆然としているのは、先程の挨拶(あいさつ)を噛んでしまった事を恥ずかしがっているためと思い、ロザリアの父は慌てて王太子を案内する事にした。


「あ、宰相殿ちょっと待って欲しい、今日は紹介したい人がいるんだ、クリストフ、彼を連れてきてくれ」

「かしこまりました、それでは殿下は、お先に侯爵様方と客間に行かれては」

「わかった、そうさせてもらうよ」


客間に案内されるや、王太子は、一同に向き直り、告げた。


「宰相殿、この屋敷の中では、私が王族だからって、いちいち私に発言の許可とかを求めなくていいからね、使用人達にもそう申し伝えておいて欲しい」

「しかし殿下……」

「王宮で、誰が上だ下だと、そういう堅苦しい慣習にはもううんざり来ているんだ、頼むから将来家族となる人達の家でくらいは、くつろがせて欲しいな」


王太子の言葉に、ロザリアの父が苦言を(てい)するが、王太子はそれでも自分の言葉を通そうとする。


「いやしかし」

「まぁ殿下、家族、とはとてもありがたいお言葉ですわ、それでは夫と同じ扱いとするよう、申

し伝えさせていただきます」


ロザリアの母はおっとりしているようで、言い合いになる寸前に割り込み、意外としっかり落とし所を押さえた返事で夫を黙らせたのだった。


「さて殿下、本日こちらに来られたのはどのようなご用件なのですか?」

「宰相殿……、そんな警戒しなくていいよ、いい加減一度はこちらに挨拶に来なきゃいけないな、と思っていたのと、先ほども言ったけど人を紹介したくてね」

「人、ですか」

「ああ、クリストフがもうすぐ連れてくるだろう、あ、クリストフというのは先ほどの青年でね、私の側近見習いといった所かな」


ロザリアは舞い上がるやら呆然とするやらで気づいていなかったが、王太子の側には長身で茶色短髪の男性が控えていたのだった、

クリストフ・アルドワン24才、王太子の側近候補というだけあって、やはり高位貴族で有能な人物である。


「旦那様、お連れ様がこちらに来られました」

「ハンスか、では通しなさい」


話題に登っていたクリストフに連れられて入室してきたのは、長めの銀髪をうしろに括り、ローブのような衣服をまとい、眼鏡の奥の薄い青の瞳も理知的で物静かな雰囲気の男性だった。


「彼の名はフェリクス・レイ、医者だよ、それも、治癒魔法が使えるんだ、フェリクス、彼がローゼンフェルド侯爵だ、挨拶(あいさつ)を」

「お初にお目にかかります、侯爵閣下。お会いできて誠に光栄です、フェリクス・レイと申します。医者と申しましても、やっと20になったばかりの、まだ修行中の若輩者ではありますが」


紹介されて慇懃(いんぎん)に礼をする姿は、侯爵家から見ても洗練されたもので、王太子がわざわざ侯爵の挨拶(あいさつ)を省かせた所からも、本来の身分の高さをうかがわせた。

また、使えるものが極端に少ないと言われる、治癒魔法の使い手ともなるとなおさらであった。


「これはご丁寧に、ほう、治癒魔法を使える、となりますと、この国でもそう多くありませんな、まして医者で、となると極めて珍しい。失礼ながら、このような若い方は存じ上げませんでした」

「彼はまだ留学から帰ってきたばかりだからね、奥方殿の治療にどうか、と思って連れてきたんだよ、有能だよ? 独自に治癒魔法と従来の医学を組み合わせた魔法医師を目指そうとしてるんだ」


「なんと、それは何ともありがたい……、ですがよろしいのですか? そのような貴重なお方の手をお借りしても」

「彼はいずれ宮廷医師にどうか、と思っていてね。いわば実地研修だと思って欲しい、帰国していきなり宰相夫人の治療で名を上げられるし、彼はまだまだこちらの事情に疎いところもあるんだ、

 で、治療の(かたわ)らで社交界の華として名高い奥方殿に色々教わってはどうかなと。色々打算もあっての事だから気にしなくても良いよ、なんといっても奥方殿は将来の義母になるわけだからね」


「殿下……私めのようなものにそのようなご厚情(こうじょう)を、何とお礼を申し上げてよいやら……」


来訪の趣旨が自分の為とわかり、改めて王太子に誠意を込めてロザリアの母は礼をする。それに引き続いて、侯爵やロザリアも礼をするのだった。


「フェリクス、私はここで待っているから、さっそく別室で宰相夫人を診てはどうかな、今後の治療の計画もあるだろう、宰相殿も同席したらどうかな? 今後どのような治療を受けるか気にはなるだろう?」

「おお殿下、お気遣いいただきありがとうございます、ではフェリシア、部屋を用意させよう、ロザリア、それでは殿下に庭園などをご案内してさしあげなさい」

「は、はい! それでは殿下、こちらへどうぞ!」


父の言葉に、あわててロザリアが立ち上がり、王太子を促すのだった。



「つ、疲れた~」

「全く、会話が弾みませんでしたね」


客間に戻る途中、ロザリアは廊下の椅子でアデルに化粧直しをしてもらっていた。


「だって! 向こうはあんまり話をしてこないし、こちらから話題振っても反応が薄いんだもん! どうしろってのよ!」


ロザリアは王太子を庭園に案内したものの、王太子の方は歯切れが悪いわ、ロザリアも先程の自分に対する無関心さが気になるうえ、元々異性との会話の経験も無く、どうにも会話が噛み合わないまま歩き回るだけになり、

途中でハンスが治療の件で王太子を呼びに来たのを、これ幸いと一旦解散するという、要は撃沈して戻る所だったのだ、すぐ戻るのもきまりが悪いので、ちょっと遠回りで帰ってきていた。


『う~~~、前世のウチあんま男子と縁無かったからなぁ。あんな美形、顔をちょっと見るだけでも心臓に悪いし、何を話して良いかもわかんないんですけどー!』


「それは、今まで交流を持たなかったお嬢様の自業自得かと、共通の話題も知らない、互いの好みも知らない、そもそも会った回数も少ない、そんな状態で相手の殿方にエスコートを丸投げする方が間違っております」


アデルの情け容赦ない指摘に、なぐさめてほしかったロザリアは、どんどん涙目になっていく。


「わ~んアデルが冷たい~! 私わりと頑張ったよ~!? いい子いい子して~やさしくして~なぐさめて~」

「耳元でうるさいですうっとうしいです暑苦しいです抱きつくのは良いですがおとなしく座ってて下さいあと化粧直しを邪魔しないで下さい」


アデルはそんな言葉とは裏腹に、特に嫌がらず、仏頂面のままロザリアの頭をなでなで肩をぽんぽんしながら、手の届く範囲の髪や化粧をせっせと直すという器用な真似をしていた。


「へぇ? 普段はそんな感じなんだ?」

二人して椅子でじゃれていると、突然背後から興味深そうに聞いてくる男性の声がした。


「「えっ!?」」

ぎぎぎっと首から音がする感じで主従共々(ともども)声がした方を見てみると、


「仲が、良いんだね」

王太子が、立っていた。後ろの方にはクリストフも控えている。


次回 第13話「撃沈……、かーらーのー、昇天っ!」②

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