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第116話「ああ、どうしたらいいのかしら。その王手、待ったできませんの?」


さて、王都の古着屋『神の家の衣装箱』では大騒ぎになっていた。

フルーヴブランシェ侯爵家の令嬢ルクレツィアと、

一応ヒノモト国の皇族に近い縁のあるサクヤが誘拐されたのだから。

知らせを聞いて駆けつけたロザリアが店長のソフィアに事情を聴くと、どうも自分と取り違えられて誘拐された事がわかった。

が、ルクレツィアはともかく、サクヤが連れて行かれた時の状況があまりにもわざとらしかったので、

わざと捕まったのでは?という考えに皆が至った所で、

そもそもなぜ自分たちが狙われたのかという話になった。


「状況はわかったけど……、サクヤさん、どうしてそんな危険な真似を?何を考えていたのかしら」

「この店をわざわざ狙った所を見ると、ローゼンフェルド侯爵家と教会を敵に回す事を厭わない訳有りか、かなりの愚か者としか思えませんが」

首を傾げるロザリアにアデルが答える。確かにアデルの言う通り、

こういう時のために、わざわざ店の看板の横にローゼンフェルド家の紋章を掲げているのだから。


「サクヤさんはアデルさんと間違えられて連れて行かれたって事っスよね? どうしてまた侍女まで」

「あ、ご令嬢の世話をさせる、って言っていました。

 それを聞いてサクヤさんが突然わざとらしく捕まりに行っていましたけど」

同様に戻ってきていたクレアが店長のソフィアと話しながら首をかしげる。

攫われたサクヤの救出も急務ではあるが、

サクヤはロザリア以上に強いので問題ないとして、問題はルクレツィアの方だった。


「お嬢様、わざわざ侍女に世話をさせるような営利目的の誘拐だとすれば、しばらくルクレツィア様は無事だと思われます。

そのうち人質の命が惜しくば、とローゼンフェルド家に何らかの要求を迫って来るのではないかと」

「それはまずいわね。どうしたら……って、

 誘拐されたのって私じゃなくてルクレツィアさんなのよね?」

どうにもややこしい状況に一同が頭を悩ませていると、突然古着屋の扉が開きリュドヴィックが飛び込んできた。


「ロゼ!無事か!」

「きゃっ! リュドヴィック様! 突然どうしたんですか?」

「良かった、無事か。実は教会が襲撃に遭ったんだ。

 ロゼはほぼ入れ替わりでこの店に行ったというので、てっきりこちらもと思ってな」

ほっと胸を撫で下ろすリュドヴィックだったが、ロザリアの方はそうはいかなかった。

つい先程まで自分がいた教会が襲撃されたというのだから。


「教会が!? 皆は無事なんですか!?」

「心配要らない、あそこも今や重要な所だからな。実は兵を配置して守らせていた。

 そのおかげで相手はすぐ引き上げて行ったが、もしかしたらとこっちに来てみたんだ」

「教会にまで……、こっちでも人がさらわれてしまったんです」

「さらわれた? 見た所、誰も欠けていないようだが」

何だかんだこの店と縁のあるリュドヴィックは店内を見回している。


「王太子様、さらわれたのは、ルクレツィア様とサクヤ様です」

「ルクレツィア、というと、フルーヴブランシェ家の?

 あと神王の森のサクヤ嬢か? 何だその組み合わせは……? いったい何があった?」

アデルがリュドヴィックに説明すると、リュドヴィックはますます混乱してしまった。

少なくとも彼の視点では全く接点が無いように思えたからだ。

が、実際はサクヤはルクレツィアの店を何度も訪れてはいたのだった。

実はルクレツィアをこの店に店員として引き込んだのは、ロザリアも承知の事だった。


ロザリア達3人が不在では古着屋の店員も足りないうえ、

ルクレツィアの店に何か変化があった時などに対処に困る、というので、思案していたところ、

「それならば、ルクレツィアさんを店員としてしまえば、監視もできてお得だ。

 という、その、サクヤさんの提案に乗りまして……」

「ルクレツィア様が店内にいるなら、相手も手出しはしにくいし、安全だろう。

 という目論見だったのです」

ロザリアの説明をアデルが補足するが、

実際その事は店を警備している兵士にも伝わっており、襲撃の際の初動が遅れた原因にもなってしまっていた。


「アデルは顔を知られていないからだとしても、ルクレツィアさんが私と間違われた、

 というのだけがよくわからないのよね」

「いや、ロゼも意外と顔を知られてはいない。公に姿を表すようになったのはつい最近だからな。

 まさか別の侯爵令嬢が店員をやっているとは思わなかったのだろうな……。

 サクヤ嬢は巻き込まれたのか」


「いえ王太子様、サクヤ様はどうも自分から捕まりに行ったようなのです。

 恐らく、この一件はあの化粧品に絡んでいます」

「あ! 教会が襲われたのって、そういう事!?」

アデルの指摘にロザリアが思わず声を上げる。

この店だけならともかく、教会もほぼ同時にというのであれば確かにそうとしか考えられなかった。


「状況が見えて来たな、とりあえず教会は脅しだろうな、そちらは返り討ちにはできたが。

 恐らくそのうち人質をタテに何らかの要求がやって来る、という事か」

「あの、リュドヴィック様、人質は私ではなくルクレツィア様になるんですが。

 その場合どうなるんでしょうか? あの方、一応あっち側の人、なんですよね?」

「……またややこしい事になっているな。すまない、先が全く読めない。

 彼女の名誉にも関わる事ではあるし、フルーヴブランシェ家にも内密で事を進めたくはあるが……」

原因がわかったとしても状況の意味不明さは変わらず、

リュドヴィックまで先程の皆と同様に悩むしか無かった。


「サクヤ様はお嬢様よりも直接的な戦闘力があります。

 場合によっては自力で脱出されるでしょう。

 恐らく、首謀者が誰かわかり次第そういう行動に出ると思われます」

「そういう事をされると困るんだが……。

 まったく、陛下の『レイハの娘なら取り扱いに注意しろ』という忠告通りだな」

アデルの言葉にリュドヴィックはため息をつく。


『リュドヴィック様って相変わらず、自分のお父さんの事を陛下なんて呼んじゃってるのよねー。

王妃様が頭悩ますわけだわ。でも、うーん、今はどうしようも無いかー』


「あのー、脱出できても、貴族のご令嬢連れて逃げるのは簡単じゃないっスよ? 迎えに行くべきでは?」

「クレア様、口調。あの方なら追っ手から逃げるより向かって行きそうですが。

 それにどこに迎えに行くと言うのです」

「そこなんですよねぇ」

「とりあえず、王都の主要な門からの出入りは確認させるが、その先が問題だな」

リュドヴィックがとりあえずの対応を同行している兵士に申し渡した。

むやみに探し回るわけにもいかないので方向だけでも何とかしようと考えたのだった。

ソフィアから馬車の特徴を聞いた兵士達は早速馬を走らせたが、

王都外へ出て行かれては捜索が難しくなるのに変わりはない。


下手に動くに動けない一同は店で待つしか無かったが、

店の扉のガラス部分をコツコツ突っつく音がする。

見てみると、紙製の何かがガラスを突っついてた。

先程の事もあり、襲撃の続きかと皆が警戒して下がると、

それは身体を折りたたんで扉の下の隙間から部屋の中に入って来た。


そして、ロザリア達の手前で頭の高さより高く浮き上がると、

鳥の形から自ら身体をほどいてゆき、一枚の紙になり、ひらひらと床に落ちた。

恐る恐るリュドヴィックが近寄って確認すると、

「サクヤより……? 四半日かかる……?これは地図か?」



「どうして何も動きが無いのかしら? ああ、どうしたらいいの」

「落ち着いて下さいませ、あちらでも色々あるのでしょう。

 首謀者か黒幕かをこちらに呼んでいる最中かも知れませんわよ」

当のルクレツィアはどうしていいかわからず、あてがわれた部屋で落ち着き無く歩き回っていた。

そんなルクレツィアを、サクヤはソファで自分で入れたお茶を自分で飲みながらたしなめていた。自由である。


「それにしてもルクレツィア様、そろそろ午後のお茶の時間だというのに、

お茶菓子も持ってこないだなんて気が利かないと思いません?」

「はぁ……、あなたを見てると、ビクビクしている自分がばからしくなってきますわ……。私にもお茶を下さる?」

「かしこまりましたわぁ、お嬢さま」

サクヤは茶器を手に取ると、手際よく紅茶を注いでいく。


「はい王手(チェックメイト)、これでわたくしの3連勝ですわね」

「こ、この一手、待ってくださらない?」

「えー、先程の1戦も待ちましたでしょうに、仕方ありませんわねぇ」

しばらくすると、暇を持てあましていたサクヤはルクレツィアをチェスに誘い、

最初は乗り気ではなかった彼女だったが、いつの間にか熱中してしまっていた。

ちなみに対戦は今のところサクヤの全勝、サクヤの自由さは感染するようだ。


次回、第117話「黒幕のご登場……、というわけには参りませんわぁ。私達はそう簡単には会えませんわよ?」「ねぇいったい何がしたいの?」

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