第113話「こういう事は偉い人に丸投げー!後はヨロー♥」
ロザリアは教会からさっそく王城に登城した。
もちろん今度は馬車で普通にドレスを着てである。手に武器も持っていない、
というか、普通の貴族令嬢は普通これで登城する。前回が異常だったのだ。
『あの時はお家の危機だったし! 登城じゃなくて殴り込みだから実質ノーカンだしー!』
まずまともな貴族令嬢は城に殴り込まない。『ぐぬぬ』
尚、クレアはというと、この後も動きやすいようにと制服のままだった。
ロザリアは今回は普通に正門から入場して、普通に門番に普通に話しかけた。
『いちいち一言多い! それに門をぶっ飛ばしたのはお父様なんですけど!』
「宰相のローゼンフェルド侯爵に取次ぎをお願い致します。
多忙だと言われるとは思いますが、大至急伝えないといけない事がありますので」
「は? あのー、お名前を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ロザリア・ローゼンフェルド、娘ですわ」
「こ、こここここれは失礼を! 控えの部屋までご案内いたします」
門を守っていた兵士は、侍女などではなく、馬車の窓から突然貴族令嬢が直接話しかけてきたので不審に思うが、
名前を聞くとロザリアの外見とかを伝え聞いていたのか、控え室へ通すと慌てて奥へ全速力で走り去っていった。
相変わらず控え室は豪華極まりなく、控えていた侍女にお茶を出され、
ロザリア達もあっちこっちへの移動で正直な所疲れていたのでありがたく頂戴する事にした。
「やっぱりちゃんとドレス着て、娘という事になると、話が早いわねぇ」
「……いえ、恐らくお嬢様が先日ここで大暴れしたからではないかと」
「あっちの方の控え部屋の扉、壊れたままでしたしねぇ」
「あれやったのはお父様なんですけどー……」
前回の登城時のロザリアに色々と思う所があったのか、
アデルとクレアにちくちくと小言を言われ、早く父親が来てくれないかな、などとロザリアが思っていると、
本当に宰相で激務であるはずの父親、マティアス・ローゼンフェルドがすぐにやって来た。
「どうしたのだロザリア、先触れも無しになんて、よっぽどの事なのかな?」
「お父様!はい、そのよっぽどの事です。獄炎病の、治療薬が見つかりそうなんです」
「なんと、例の化粧品に対抗するつもりでこの化粧品を作ったら、獄炎病にまで効いたというのか」
「先程救護院で効果を確認できましたわ。また、獄炎病にはクレアさんの光の治癒魔法も効果がありました。
この化粧品のままというわけにはいかないでしょうが、これを元に薬はできるはずです。
それを国中に、いいえ、大陸全土に広めれば獄炎病を抑え込めます」
ロザリアから経緯を説明されると、マティアスは今まで手の施しようがなかった案件に対して突然の光明が見えた事に戸惑っていたが、
すぐにその優秀な頭脳で今後どう動くべきかを分析し、即座に判断した。
「よし、とにかく陛下に奏上しよう。その上で薬を大至急作る体制を整えなければならんな」
「……しかしロザリア嬢ちゃん、会うたびに色々な問題が片付くな。もうさっさとリュドヴィックと結婚しろよ」
「そ、それはともかく、この化粧品を元にした薬をですね、今フェリクス先生を探している所でして」
「ああわかってるわかってる。今リュドヴィックとフェリクスを呼びに行かせてる所だ
転移魔法使ってでも直接こちらに来させるからすぐだ」
謁見の間でマティアスから報告を受けたフェルディナンド国王は、喜ぶよりは呆れたような顔だった。
そもそもが全く違う物への対抗策として作り出されたものが、突然両方とも闇の魔力が原因かもしれないという事に行き着いたのだから。
「陛下、お呼びですか、ん?、ロゼ、どうしてここに?」
「ああ宰相、話してやってくれ」
国王は、フェリクスを伴って現れ、相変わらず自分の事を陛下としか呼ばない息子に
一言言いたい所ではあったが、宰相であるマティアスに事情の説明を求めた。
『うーん、リュドヴィック様が自分の父親の事を陛下としか呼ばないのって、何とかなんないかな』
「なんという事だ、獄炎病にまで闇の魔力が関わっていたという事なのか?」
「いやリュドヴィック、僕もおかしいとは思っていたんだよ、最近、劇症化する患者が妙に増えたんだよね。
もしかしたら劇症化を誘発する何かが、様々なものに混ぜられているのかもしれない。
そして何らかの形で闇の魔力に接触したら獄炎病が発症する。その1つが化粧品という事なのかも……?」
「フェリクス殿、その病気の蔓延なのですが、どうもネズミが関わっているらしいのです。これまたロザリア達が気づいた事なのですが」
考え込むフェリクスに、マティアスがネズミを介して病気が広まっているというロザリアの説を伝えた。
それは現場で病気を見ていたフェリクスにとっても納得の行くものだったので、何度も大きくうなずきながら聞き入っていた。
「ロゼ、本当になんとお礼を言って良いかわからないよ」
「い、いえいえいえ、私達は、お店に使う化粧品で、例の化粧品を潰せないか、と悪戯心で作ってみただけで……」
リュドヴィックは王家の一員として頭を悩ませていた案件が一気に解決しそうなので表情をゆるめ、
ひざまずいてロザリアの手を取り感謝の意を示すのだが、傍から見たら愛を希っているようにしか見えず、
ロザリアは顔を真っ赤にして、必死で手をぶんぶん振って離そうとするのだがなかなか離れようとしない。
「フェリクス先生ごめんなさい、私、光の治癒魔法が効く、ってもっと早く気付くべきでした。
あんなにいっぱい、患者さん達に接していたのに」
「クレアさんのせいじゃないよ、僕も一人でも多く何とかしようとするあまり見落としてしまっていた」
「でも、私が」
「クレアさん、『私が』なんて言わないで欲しい、あれは僕たちが病気と向かい合っての事なんだから」
「先生……」
こちらはこちらで責任を感じて落ち込んでいるクレアが、フェリクスにそれを慰めるように優しく肩に手を置き、 励まされていた。
1組だけならまだしも2組のカップルがイチャコラし続けるので、いいかげん生暖かい雰囲気になってきたところで、
いつまでもこんな会話をしてる場合ではないぞ、さて誰が止めるんだ、となった所で大人たちは互いに目線で牽制し合う
自然その視線は国王に向かい、
『お前が止めろよ、国王だろ』『そうだそうだ』『お前らこういう時だけ上役扱いするんじゃねぇよ』
という無言の応酬を終えた後、国王が口を開いた。
「あー、若いのは良い事だが、場所を選んでくれ、そろそろ対応を決めなきゃならんのでな」
との王の一声で慌てて距離を取る二組を見て苦笑しつつ、フェルディナンド王は指示を始めた。
「さて、まずは薬の開発だな、ギムオル、というドワーフだったか? ちょっと要請して来てもらうかだな
あとは薬学がいけるかはわからんが、マクシミリアンも呼ぶか。フェリクス、お前も開発に参加しろ」
「陛下、恐れ多い事ですが、それは姉のエレナに任せていただけないでしょうか?
私は今から救護院を回りたく思います。この目でこれの効果を確認しないと」
「あ!わ、私も同行いたします!この化粧品がとりあえず代用にはなるでしょうが、
とにかく今罹っている人達だけでも助けたいんです」
フェリクスはあえて国王の命に異を唱え、研究開発よりは現地での治療を申し出、クレアがそれに続いた。
国王はそれを聞いて少し考えると、現状の患者の治療も大事か、と判断を下した。
「ふむ、現状その化粧品の数も限られているだろうからな、許可する。
今すぐ各地の救護院を回ってくれ、フェリクスは現地で薬効の確認だ。
クレア嬢、申し訳ないが薬の生産体制が整うまでは治癒魔法による治療を優先して欲しい。
化粧品は、薬の代用として救護院が少ない地方へ優先的に回す事にする」
「陛下、感謝いたします!行くよクレアさん」「はい!」
二人は国王に一礼するとすぐに部屋を出て行った。その後姿を生暖かく見送りつつ、指示は続く。
「ロザリア嬢、この化粧品だがな、どれぐらい用意できる?」
「はい、作業を行ってもらっている教会に、先程1000個分程手配しました、配布も教会の連絡網で行う事になっています」
「教会に……?ふむ、いや、それで良い。むしろ良くやってくれた、薬が間に合うまではそちらが頼りだ。
今作ってもらっている分に関しては国が正当な金額で買い上げさせてもらうので、安心してどんどん作ってくれ」
「はい、それでは改めて教会の孤児院にて指示を出してまいりますので、御前を失礼させていただきます」
「あ、待ってくれロザリア、私も連れて行って欲しい。生産の状況を見ておきたい」
退出しようとしていたロザリアにリュドヴィックが声をかけてついて行きたいと申し出てきた、
ロザリアはどうしたものか、と国王を見るが、王はむしろ無言で頷いて促すのだった。
リュドヴィックも退出したので謁見の間には国王と宰相のマティアスだけになった。
「陛下、こちらは化粧品としての需要もありますのでこのまま一定数販売する事になるでしょうが、
獄炎病の治療薬に使えるという情報が出回ってしまうと心無い者に買い占められてしまう恐れがあります。
化粧品として使うにしろ薬として使うにしろ、転売や買い占めしようとした者には厳罰を与える法律が必要かと思われます。
すぐに法律案の作成にかからせていただいてもよろしいでしょうか」
「任せる、王都では獄炎病が流行っていないのだから大きな混乱にはならないだろう、
いずれ大量に配布するから価値は無くせる。一刻も早く薬としての量産体制を整えろ」
マティアスの提案に国王は即断で許可を出し、マティアスは早速動き出すべく退出しようとしたが、
今度は国王がそれを止めた。
「それに追加の案件だマティアス、
例の男爵だがな、他にも何か事業やっていないか調べさせろ。直接じゃなくても出資しているもの全てだ」
「は、例の獄炎病を悪化させる要因、ですな」
「そうだ、テネブライ神聖王国出身というのも含めて怪しすぎる。全員を疑うわけではないが、他の亡命貴族についても同様に調べさせろ。
あとは、そうだな、薬の開発は魔法研究所や王宮内の研究所でやらせる事になるだろうが、化粧品を作っている教会が危険だ」
「教会への襲撃、ですか。直接出て来ますかね?」
「この国に対して陰湿な侵略行為を仕掛けてくる連中だぞ、用心に越した事は無い」
ここまでは国王らしく深刻な顔で指示を出していたが、突然その顔が悪戯っぽくなる。
「あとマティアス、後で良いから、地方にも猫を飼う習慣を流行らせろ。
王都で猫を飼うのが大流行しているとか噂ばらまく程度で良いから。
いや、いっその事王家で猫を飼うか。王女相手がちょうど良いな。国中から綺麗な猫を求めるコンテストをやっても良い」
「陛下……、また遊びすぎないで下さいね?」
「こういうのは深刻になったら負けなんだよ。国内外に余裕のある所を見せつけて国民を安心させてやるんだ。
あとな、そのコンテストで獄炎病の薬をバラまいてもいいだろうが」
「なるほど、そうすれば王都以外の地方からも薬を受け取りにやって来ると……」
「大勢観客が集まった所でクレア嬢の光の治癒魔法で一気に治療をさせても良いだろう。
コンテスト終わった後は大量の捨て猫が出るだろうが、
そういう猫はコンテストに出せるような美人猫揃いだろうし、
拾われて飼い猫がまた増える。状況ってのはいくらでも利用できるんだ」
「ふむ……、様々な事ができそうですな、多少の時間をいただけますか?」
「薬の開発はともかく、数を作るのは多少手間も時間もかかるだろう。それが終わってからで良い」
こうして、王城では水面下で着々と対策が進められていくのであった。
次回、第114話「あーれー、お店が襲撃されてしまいましたわー(棒)」