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第108話「さぁとっとと追跡してくれやがって下さいましー!」


「(お嬢様、この店に恐らく商品が持ち込まれます。持ってくる者の追跡の準備をお願いします)」

「んじゃ、私が追跡しますねー。ついでに、アデルさんもついて来てくれると、より助かるんスけど」

「(クレア様、口調。それは良いのですが、まずはこの店から出ない事には。

 最悪、裏口からこっそり出ますが)」


「あ、そうだ、裏口から持ち込んだり取引する場合も考えられるわね。こうなるともう1人欲しい所ね」

「レイハさんとかにも来てもらっておくんでしたね」

アデルがどちらの出入り口から出られるかが確実では無い以上、念の為の人員が欲しい所ではあった。

うーんとロザリアとクレアが考え込んでいると、


「あら、だったら品物を持ってきた人が店に入った時に、

 私が堂々と品物を受け取りに行きますわよ?その時にでも出たら良いですわぁ」

「顔を見られるんじゃないの?」

「見せるんですの。 見せつけて、こちらにちょっかいを出させればより確実でしょう?」


サクヤの提案はあえて自分の顔を見せる事で、相手側の警戒心を煽るものだった。

確かにサクヤは魔法学園の制服を着ている事から、向こう側はすぐには手を出せないだろう。

何より彼女は神王の森に住んでいる事から、簡単には身元も判明しない。

ロザリア達はその提案に乗った。万が一の事態でもサクヤなら自分の身を守れるからだ。


できるだけ自然に向かいの店を見張っていると、広場に見覚えの無い豪華な馬車が入ってきた。

「動きがあったわね、店の前にそれらしい馬車がやって来るわ」

「では、わたくしはさりげなく堂々と入店いたしますわ。2人ほどついて来て下さいまし」

「では私は裏口から回って、あっちの店の裏口の近くに行って来ますね、

 アデルさんは表側をお願いします!」

「(かしこまりました)」

ロザリアを除く3人は計画どおりそれぞれ動き出した。

が、よく考えるとロザリアは特にやる事が無かった。


「えーと、私は?」

「あ、お姉さまは大人しくしててください」

「(どこの世界に不審者の追跡をする侯爵令嬢がいらっしゃるのですか)」

「全てわたくしたちに任せて、待っているが良いですわ」


さくっと店を後にする3人を見送り、

ロザリアは一人寂しく店の前で置いてけぼりにされた。

店の前を通る人々の視線を集めながら。

『え~、ウチこの店でぼっちで待ってろって事~? ぴえん』


「あれでも、ケガさせるわけにはいかない人っスからねぇ、

 私達3人だけでなんとかしましょう」

「(ええ、おっしゃる通りです。あとクレア様、口調)」

裏道を駆けるクレアはいつものようにアデルに注意される、

しかしそのアデルの声は、ほんの少し柔らかかった。


向かいの店では馬車から降りてきた人物をルクレツィアが出迎えていた。

馬車からは身なりの良い男性と、複数の護衛らしき者達が降りてきている。

男性はルクレツィアを見ると微笑みかけてくる。

が、その笑顔は下卑た感じのもので、不快感を覚えた。

「ようこそ、あら、今日は貴方1人なのかしら?」

「ええ、旦那様は男爵風情がお嬢様の周辺を騒がせて、

 余計な噂を立てられても困るだろう、とおおせです」

男性はルクレツィアに近づき握手を求めようとするが、彼女はそれをやんわりと拒否した。

元々男爵家と侯爵家とでは厳然とした身分差がある上、令嬢と使用人とではなおさらだった。

ルクレツィアは客相手には愛想は良くても、決して気安くは接しない。

男性は肩をすくめ、後ろに控えていた護衛に商品を馬車から出すよう促す。


ルクレツィアは店内に運び込まれた木箱を開封させ、化粧水の状態を確認した。

本来は侯爵家で瓶詰め等最後の作業をするのだが、

今回は一気に品切れになった為在庫を回してもらったのだ。

品物の状態に満足するとルクレツィアは仕入れ分の料金を支払う。


「状態は申し分無いわ。今回の仕入れ分はこれで良い?」

「はい、確かにお預かりいたしました」


その光景は、店内に潜むアデルによってロザリアの方でも確認していた。

「ねぇクレアさん、裏口はどう?」

「(こっちは大丈夫っス。裏口には何も動きがありませんよ)」

「(クレア様、口調。店内での会話を引き続き監視中です)」

そこへ、店の扉が開き、サクヤが入ってきた。


「こんにちは、受け取りに来ましたわよ。あら、お邪魔でしたかしら?」

「いえ、こちらの話はもう終わりましたの。あちらに包ませてありますわ」

ルクレツィアが示した先には店員が木箱を持ってきていた。

サクヤも木箱を開けさせて中身を確認する。


「それじゃ、いただいて行きますわぁ。テッド、ピーター、これを持ち帰って頂戴」

「か、かしこまりました」「わかりました、お嬢さま」

実はテッドもピーターも本名を教える事も無かろうと、

サクヤが適当にその場で言った名前なので、2人は戸惑いながらもそれを持って店の外に出る。


「失礼ですが、この国のお方ではありませんな?」

「あら、わたくしの服装や顔を見てわかりませんの?

  ヒノモト国からの留学生ですわぁ。あなたこそどなた?」

男爵の使いの男性から興味深そうに声をかけられても、

サクヤは堂々とした態度で、不遜さすら感じる口調で答えた。


「お、おお失礼、名乗る程の者でもありません。とある方の従僕ですよ」

「へぇ?どなたですの?その”お方”っていうのは」

サクヤが挑戦的な顔で質問を返すと、男は一瞬顔を顔を引きつらせる。

だが、すぐに平静を取り戻したのかニヤリとした笑みを浮かべた。

そのまま、ほんの少し睨み合う形になる。慌てたのはルクレツィアだ。


「ねぇ、こちらは先程全て品物をお買い上げいただいた方なのよ? 失礼の無いようにしてちょうだい」

「これは、失礼をいたしました。では私はこれで」

「ええ、気にしておりませんわ。ではわたくしもこれで失礼させていただきますわぁ。」

男の謝罪をサクヤは不敵な笑顔で受け入れ、男に道を譲った。


男が去った後、サクヤはルクレツィアにいかにもそれらしく話しかける。

「ああ、店長さん? 効果がありましたら、また必ず買いに来ますわぁ」

「え、ええ、それはもちろん。宜しくお願い致します」

サクヤは振り返る為にドアの持ち手を持つ手を入れ替え、

わざと人が通れるようにドアを開けっぱなしにルクレツィアと会話していた。

その隙に、アデルがサクヤの脇をすり抜けて馬車の後を追った。


「では、ごきげんよう」

そのまま、サクヤはロザリアの店に帰らず、

適当にその辺の店に入り服を物色し始めた。自由である。


ロザリアの方も、適当に裏道を大回りして帰った2人の店員を迎えていた。

「あらお帰り。つけられた様子は無い?」

「多分……、なぁ?」「うん。えっと、ロザリア様、これどうしたらいい?」

「ああ、落としても嫌だから、店の奥の床の上にでも置いておいて、

他の子達にも注意するように言っておいてね」「「はーい」」


ロザリアはアデルの寄越す映像を頼りに、クレアに追いつくように指示を出す。

「(あ、アデルさん、追いつきましたね)」

「(はい、このまま行けば見失う事は無いでしょうが、お気を付けください)」

今の2人は魔力による身体強化で屋根伝いに馬車を追っていた。

認識阻害の魔石具は厳重な扱いの為、今回借りられたのは1人分だったのもあり、

できるだけ目立たなく尾行する為だった。


馬車は王都の道を行き、貴族の屋敷が立ち並ぶエリアの境界ギリギリの、

とある屋敷へと入っていった。

その屋敷はクレアが知る貴族屋敷とは違い、かなり小さく感じる。

アデルは周囲の様子を確認すると認識阻害の魔石具を外し、

いかにもお使いで来ました、と言った感じで、クレアと屋敷の様子を(うかが)った。


「(アデルさん、これってお貴族様のタウンハウス? ですか? かなり小さいと思うんですけど)」

「(いえ、これでも普通より大きいくらいですよ。

 クレア様が見慣れている侯爵家のものが規格外に大きすぎるんです)」

「(えっ、そんなものなんですか?)」

「(タウンハウスは必要に応じて王都に滞在する為の家屋敷ですからね。

 夜会を開けるような大きさであれば十分過ぎるくらいなんです)」

雑談を装いつつ小声で話していると、中からは使用人と思しき人物が出てきた。

そのままアデル達には気付かず門番らしき兵に話しかける。

見つかってもまずいと、2人は近くの路地へと移動した。


「(アデルさんどうします? その辺の人に、この家の主は誰ですかー、とでも聞きましょうか?)」

「(いえ、それはやめておきましょう。調べればわかる事です。

 それに私達がここにいたという痕跡を残したくありません。

 屋敷の所在も確認もできた事ですし、ここが退き時です)」


アデルの言葉にクレアは同意し、その場を離れた。

戻る道すがら、あまりにクレアがその辺の建物を見るものだから、

「クレア様、今はお使いの途中なのです。あまりまじまじとお宅を見るものではありませんよ」

などとアデルに注意されてしまっていた。


「お帰りなさいアデル、クレアさん。場所は突き止めたようね?」

「はい、帰る途中で王都の地図も買ってきました。こちらのお宅です」

ロザリアの店に帰ってきた2人は、店内で広げた地図で突き止めた屋敷の場所を示した。

その地図はメイドや侍女御用達のもので、屋敷の所有者まできちんと書かれたものだ。

「男爵って言ってたわよね? エルドレッド男爵のタウンハウス?

  聞いたこと無い名前ね。アデルは?」

「私もありません。ですが新興の男爵家だとしても、

 タウンハウスとしては十分に立派なものでした。訳ありの貴族のようですね」


「あのー、化粧品を作って売る貴族、っていうのは珍しいんですか?」

「無くはないでしょうが、普通は商人や商店に出資だけして利益だけを受け取ります。

 わざわざ自分の邸宅を絡ませるのは珍しいと思います」

クレアの疑問は、男爵が自分の屋敷から品物を持ってきたであろう事からのものだったが、

アデルの説明からすると、怪しいとしか思えない状態だった。


「一応、怪しい、止まりなのよね? 踏み込んだらまずいかしら?」

「お嬢様、相手は貴族ですから、踏み込まないで下さいね?

 これこそ王太子様や陛下に申し上げるべき事でしょう。」

「相手の素性もまだよくわからないものねぇ。もどかしいわ」

「こういう物をコソコソ作るような貴族ですしねー」


などと雑談していると、店先が騒々しくなっていた。

「誰か来た!? 地図隠して! 地図!」

今は客もいなかったので気が緩んでおり、思い切り地図を広げていたロザリア達は焦る。


「やはり納得行きませんわ! この服を仕立て直して下さいまし!」

「おおおお客様!? お買い上げ頂いたのは大変にありがたいのですが、

 ここはローゼンフェルド侯爵家が経営されておられる店舗なのです!」

「存じておりますわ!ちょっとロザリアさん! この服を仕立て直してくださいます?」


店に入ってきたのはサクヤだった。何だかんだルクレツィアの店で服を買ったらしい。

何故かルクレツィアまで付いて来ていた。

「お、お知り合いだったのですか!?」

「そもそもロザリアさんだって魔法学園の生徒ですわ!

 良いですか、まずは襟を入れ替えてですね!

 ちょっと! お聞きになっていらっしゃりやがりますの!?」


「え、えーと、サクヤさん?」

彼女はどこまでも自由だった。誰だこんなのを巻き込んだのは『ウチです……』


次回、109話「ささやかな反撃」

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