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第107話「わたくしがルクレツィア嬢のお店でショッピングいたしますわよー!」「またコールを乗っ取られたんですけどー!?」


サクヤは偵察の為に王都第二広場のルクレツィアの店まで来ていた。

店の外観は高級店とはいえないが、逆に誰にでも入れそうな雰囲気でもある。

ロザリア達の店とは違いショーウィンドウまであり、

『服を飾るように陳列する』というコンセプトを単にハンガーやマネキンを真似しただけではなく、

一歩進めて取り込んでいるのがわかる。


中に入るとサクヤ店内の違和感に気づく、極端に服の数が少ないのだ。

ロザリアの店は商品が古着だけに品物の統一感が全く無く、

サイズや色合いをある程度揃えているだけなのに対し、

こちらの店は同じような服が、おそらくサイズ違いで何着も並べられている。

その服自体のセンスは王都だけあって洗練されたものではあったが、

何着もあると今自分が着ている制服のように見えた。


「いらっしゃいませ、どのようなものをお探しですか?」

「普段着、かしら。わたくし留学生なもので、仕立て職人にお願いする余裕がありませんの」

「かしこまりました、それではこちらでお好きな衣装をお選びいただいて、

 一番合う寸法をお求め頂く形になります」

入店してきたサクヤを見て、店員が話しかけてきた。聞いていた特徴とは違う事から、

ルクレツィアではなく単に雇われているだけの店員だったのだろう。

しかしサクヤの学生服と堂々とした態度から、それなりの身分だと見抜き丁寧な対応をした。


店の雰囲気と店員の態度を差し引いても、服の値段は1着を仕立ててもらうよりはかなり安く、

また、ある程度自分の好みを選べる所から、

気に入れば買う側に取ってはいい店ですわね。とサクヤは思った。


「こちらの服などいかがでしょう? 王都最新の流行を取り入れつつ、

 ある程度の保守的な部分も残したスタイルとなっております」

その服は白基調のワンピースで、デザインにあまり冒険は無いが、

少し光沢のある生地と相まって落ち着いた魅力を引き立てる仕上がりとなっている。

「あら、とても綺麗。肌触りも滑らかでなかなか良い品ですわね」

「お褒めいただきありがとうございます。

 他にもいろいろなものが御座いますのでどうぞご覧ください」

「ええ、ぜひ見せて下さいまし」


実はこの店内にはアデルもいる。

先日のフルーヴブランシェ夫人のお茶会の時にクレアが使った存在認識阻害の魔石具を使用していた。

もしバレても「お嬢様の隣で控えていただけです」とごまかす予定だ。

尚、この魔石具は本人のみしか効果が無いので、

例えば衣服を手に取ると他者からは服が宙に浮くように見えるので悪用はしにくい。


サクヤは服を手に取っていくのだが、

どうしても横に並んでいる同じデザインの服が気になってしまう。

(あらかじ)め聞いてはいたが、実際に見てみるとその違和感はかなり大きなものだった。


「それにしてもこのお店って、1つの服が何着もあるという事は、

別の所で同じ服を着た人とはちあわせる可能性があるのですわよね?」

「はい、それに関しましては、他のお客様からも同様の御不満をいただいておりますので、

 私共も憂慮している次第です」

「こういう学生服姿なら仕方ないとは思うのですけれどね。

 普段学園で皆と同じ服装しているというのに、学園外でも誰かと同じような服を着るのはちょっと、

 という気持ちはわかりますでしょう?」

サクヤは自分の着ている学生服をつまんで見せると、

店員も似たような事は思っていたのか、同意するそぶりを見せる。

『あーね、この世界ってまだ既製服なんて無いもんねー、

 私服でも制服でもみんなと同じ服着るって感覚は言われてみれば違和感しか無いかも』


「何とかなりませんの? 例えば襟をもう少し幅広のものに交換して下さるとか、

 レースを追加して下さるとか。そういった仕立て直しでも無いと着にくいですわ」

「はぁ、貴重なご意見をありがとうございます。

 今の所そういった事には対応できておりませんので、今後の参考とさせていただく、としか……」


「(お嬢様、見えますか?サクヤ様が変な方向に向かっておりますが……)」

「正直言うと服はどうでも良いのに……万が一の時は止めてくれる?」

「(承知いたしました)」

店内にいるアデルにはボディカメラと通信の働きをする魔石具を付けさせているため、

向かいの店のロザリアはその様子をモニターでリアルタイムに見る事ができるが、

サクヤの行動に冷や汗を流している。

その後ろでは「いつもと立場が逆っスねー」とクレアが突っ込みを入れていた。


すると、店内の押し問答が聞こえたのか、奥から年若い女性が出てきた。

こちらはいかにも貴族令嬢といった姿で、着ているドレスも上品な光沢を放っている。

「お客様、商品に御不満があるとの事で、申し訳なく思います」

「(サクヤ様、この店の店長のルクレツィア嬢です)」

サクヤはアデルの身につけている認識阻害魔石具を無効化するカフスを身につけているため、

忠告をするアデルの声と姿も認識していた。


「いえ、大変に斬新な試みで素晴らしいと思いますわ。

 でも、売った後の事を少々考えていなかったのでは、と思ってしまいますわね」

「私も、少々早まったか、とは思っております。商売とはかくも難しいのか、と痛感しておりますわ」

ルクレツィアはそのいかにも貴族然とした見た目とは違い、

商売に関してはかなり真摯な姿勢なのでサクヤは好印象を持った。

なのでついつい服に関する注文が多くなってしまう。


「この広場には仕立て直しですとか、お化粧までしてくれる古着屋があるのでしょう?

 それと同じような事は難しいんですの?」

「はぁ……、あちらのお店はとにかく人数が多いのですよ。

 教会が経営してらっしゃる孤児院の子供達が店員なので、

 店の奥には何人ものお針子達がいるわけですが、

 普通のお店でそういう事をいたしますと、店員に払う給金だけで、

 たちまち立ちいかなくなるでしょうね……」


これだけだとロザリアはタダか薄給でこき使っているように聞こえるかもしれないが、

そう簡単な問題ではない。

まず、孤児達は教会で共同生活しているうえ、教育まで受けている。

その対価として古着店等で労働で働いているので、

生活の全てにかかるコストを考えるとまだまだ赤字なのだ。

『いや本当、マジ経営って大変なんですけどー……』


「あら、だったらそのお店と協力すれば良いだけではないですの?

 別に片方の店が繁盛しているからといって、指をくわえて見ている手はありませんわ。

 今からこの服に手を加えてもらえるか、ちょっと行ってみませんこと?」

「え、ええ……?」

突然ライバル店に自分の店の商品を持ち込んでみないか、という提案をしてきたサクヤに、

ルクレツィアは戸惑いを隠せない。

しかも冗談で言っているようには見えない、確実にやるというのが伝わってくるのだ。


「(お、お嬢様……?)」

「ちょっと! 何か妙な事になってきたわよ!? 誰もそういう事は頼んでないんですけど!?」

サクヤはロザリア以上にその場のノリと勢いで生きていた、なにしろあのレイハの娘である。

この場合人選からしてミスをしていたと言える、誰だこんな奴に頼んだのは。『ウチです…』


「え、えええと、その代わりと言っては何ですが、当店のみの商品としましては、

 こちらの化粧品などいかがでしょう?」

「あら、何ですの?これは」

ルクレツィアはこのまま服の話をしていてはまずいと思ったのか、

突然話を切り替えて例の化粧水を持ち出して来た。それを見てサクヤ以外の全員に緊張が走る。

アデルは即座にルクレツィアが瓶を取り出して来た所を確認し、在庫の数を確認した。

「(お嬢様、この店には少なくとも20瓶程はあるようです)」


「こちらは、効果がある人と無い人の差が激しいのですが、

 効果のある人は、子供の肌のようにきめ細かい肌になるのですわ」

「付けてみるまで効果はわかりませんの? 試させていただくという事はできませんの?」

「はい、それも含めての商品ですので、夢をお売りしている、と思っていただければ。

 これは貴重な物なので、中々に手に入ら「よろしいですわ、全て買わせていただきます」

「入荷までなかな……なんですって?」

ルクレツィアは化粧水の効果をサクヤに説明していたが、最後まで聞きもせずに即決したサクヤに、

さすがに虚を突かれて一瞬頭が真っ白になって素に戻っていた。


「全部、買わせていただくと言いましたの。それとも、客が望むだけ買えませんの?」

「い、いえ、でもこちらは、1本あたり銀貨20枚ですので、

 全てとなると、金貨10枚程になりますが……」

「こちらで良いかしら?」

日本円で200万円程にもなる金額を提示されても、

さらりと目の前の机にそれを山積みするサクヤに、

ルクレツィアだけではなくその場にいた全員が驚愕していた。


「い、いえ、ですがよろしいのですか!?」

「別にかまわなくてよ、学園で友人相手に配りますので。

 人を取りに来させるので、待っていていただけますか?」

「は、はい、もちろん、もちろんですわ!」

服を十着売るより遥かに高額な売上げに、

店員もルクレツィアも頬を上気させながら何度も頭を下げた。

2人に見送られながら、悠然とサクヤは店を後にする。


それなりに気を遣ったのか、多少遠回りにロザリアの店まで戻ってきたサクヤは、

当然のように予定外の行動を問い詰められた。

「サクヤさん! どういうつもりなの!?」

「簡単ですわぁ、店の商品が品切れになってしまえば誰だって問屋だかに発注いたしますでしょう?

 その相手を捕まえれば良いだけですわ」

「あ、ああ……。でもあんな大金よく持ってたっスね?」

「最悪の場合、あの店の商品を全て買い取って営業できなくするつもりでしたの。

 そうすれば嫌でも何か動きを取るでしょう?」

無茶苦茶である。店からしたら一旦営業できなくなるので最悪の営業妨害と言っても良かった。

誰だこんな奴に頼んだのは。『ウチです…』


「(あの、お嬢様、私はどうすれば良いでしょうか?)」

「しばらくそこで待機してて、何か動きがあるかもしれないから。

 特に化粧品の事で問屋に発注とかの事を気を付けてね」

「(かしこまりました。ですがこれではこの店から出られないのですが)」

「化粧品を取りに行かせる時、わたくしも立ち会いますわぁ。その時に出て下さいまし」

「(かしこまりました。ではお待ちしております)」

店内に待機したままのアデルに指示を出し、あまり早く取りに行っても不自然かと、

その間に店の店員の子供達から取りに行くメンバーを決めていると、

ルクレツィアの店で動きがあった。


「店長、包み終わりました」

「え? ええわかったわ、そこに置いておいて」

「はい」

「どうしようかしら、予定が色々と狂ったわね。でも魔法学園?

それこそ理想的ではなくて? 魔力を持った生徒しかいないし、基本的に閉鎖的だから……」

ルクレツィアは何事かを悩むと店の奥に入って行き、通信魔石具を起動した。

当然、アデルもその様子を見ている。


「ええ、わたくしですわ、フルーヴブランシェ家のルクレツィアよ。

 あの商品だけれど、全て売れてしまいましたの。

 ええ、全て。さっそく次の分をお願いできないかしら?」

「いえですから、魔法学園の生徒の方が来られて、全て買い取って行かれましたの。

 ええ、最初は王宮に広めようとしたのだけどね?

 ですが様々な事情が重なってうまくいかなくて、ええ」

「ですけど、顧客としては悪くはないでしょう?いずれその生徒の親に広まれば、

 多少回りくどくはありますけれど、そのうち貴族社会を通じて王宮にも広まりますわよ」

「え?こちらに今から?いえそれはかまわないけれど、ええ、待っていますわ」


「(お嬢様、聞かれましたか?ご準備下さい。この店に化粧水を作った者が来るようです)」


次回、第108話「さぁとっとと追跡してくれやがって下さいましー!」

読んでいただいてありがとうございました。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

いいね・感想や、ブクマ・評価などの

リアクションを取っていただけますと励みになります。

作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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