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第102話「女子のお肌の恨みはマジ許せないんですけどー!」

ロザリア達は急ぎお仕着せの服を着直して、同僚サラの職場へと急いでいた。先ほどの化粧水を、証拠品として譲ってもらう為だ。

城内の為、あまりはしたなく走るわけにもいかず中々進まないのをもどかしく思いながら早歩きに進む。


道中ロザリアは何度も何度も自分の頬をつつきながら心底残念そうな声を出している。

「あー、お肌が元に戻っちゃったー。

 ぷるっぷるだったのにー、ぷるっぷるだったよあれー」

「お嬢様、ですからあれは異常な状態だったんです、お諦め下さい」

アデルにたしなめられてもロザリアは未練たらたらに、また頬に手を当てて触感を確かめるように撫でている。

夫婦漫才のように延々続くやりとりにクレアが苦笑しながら声をかけた。


「いやでも、あのお肌は凄かったですよねー、お肌の曲がり角過ぎちゃった人なら飛びつきますよ」

「クレア様、心配なのはそれです。下手をすると高位貴族の婦人たちにまん延している可能性があります」

「ああ、そういう人たちって、普通魔力ありますもんね。

 効果は魔力が強ければ強いほどって事は、もしも魔王薬にでも手を出してたら……」

クレアは自分で想像して言っておきながら、事の重大さに気付いて顔を青ざめさせ、アデルがうなずく。


「ああー、あのお肌だったらこうやって歩いてても、ぷるっぷるだったんだろうなぁ、ぷるっぷるだったんだろうなぁ~」

ロザリアはというと、そんな2人をよそにまだ頬を触っていた。

「魔王薬無くても恐ろしい中毒になりそうっスよあれ」

「……」


サラが受け持っているという区域を聞き出し、部屋を順番に開けて行く事10部屋目にサラはいた。

「あ! おーい、サラさーん」

「あらどうしたのローズさん。仕事終わったんじゃないの?」

「ガンダで戻ってきました! あの、さっきの化粧水、

 あれ、欲しいって人がいるので、譲ってほしーんですけど」

「え、いや、かまわないけど……、いいの?」

突然のロザリアの申し出を怪しく思ったのか、サラの声色は(いぶか)しげだ。

それを(さえぎ)るかのように、後ろからアデルが出てきた。

「それに銀貨8枚出します、ですが、もしも質問にお答えしてくれるのでしたら、銀貨12枚お支払い致します」

「え、そんな事だったら喜んで売るよ! で、質問ってのは」

「はい、この化粧水を、どちらでお求めになられましたか?」


ロザリア達は、化粧品を買い取ったその足で、急ぎ宰相として父が働いている執務室に向かった、そういえば父の働く所には初めて来るし、目にする事になる。

行政区域に近づくと雰囲気は一変した。壁には飾りのようなものはほとんど無く、むしろ掲示板の書類が壁紙代わりなくらい多かった。

歩いている人もほとんどが文官服に身を包んでいる。すれ違う人は皆姿勢が良く早足だ。中にはロザリア達をじろりと睨みつける者もいた。

『うわー、なんかウチら場違い?』


「恐れ入ります、私は侯爵家の侍女、アデルと申します。

 急ぎ侯爵様にお知らせしたい事があります。どうか至急のお取次ぎを」

宰相の執務室の前に立つ護衛の兵士に、臆する事も無くアデルが申し出た。

歳に似合わぬ貫禄に兵士はむしろ気圧され、

「し、しばらくお待ちください」と、1人が室内に入って行った。


ほどなく「お入りください」と、その兵士に案内され、

中に入るとそこはまるで前世の会社のようだった。

いくつもの机が並べられ、大勢の文官と思われる人たちが働いている。どの机の上にも山のように本が積まれ、書類が積み上げられていた。

最も奥の机で、父が文官と書類を交えて仕事をしていた、その顔は、普段の温和な表情とはうって変わって厳しいものだった。


「この条文では平等が保てないだろう。

 均等な税率と簡単に言うが、収穫量の違いを考えてみたのかね?」

「は、ですが、過去の同類の法律の解釈から申しますと……」

「あの法律なら私も知っている。だがね、

 別の地域で全く違う解釈の事例が出ているのだよ、ほら、ここだ」

「あ、ああ、これでは」

「そうだ、この条文のままでは確実に利ザヤを利用して悪用される。

 すぐ見直しなさい」

「ははっ!」

ロザリアはその光景をあぜんと見ていた。いつも穏やかで優しい父しか知らなかったからだ。

あんなに怖い顔をした父は初めて見たかもしれない。

ロザリア達に気づいた父がこちらを振り向く。一瞬怪訝(けげん)な顔をするが、先ほどの恐い顔が嘘のように笑顔で駆け寄ってきた。


「おや、”ローズさん”、驚かせてしまったかな? わざわざすまないね、仕事の時はこんな感じなのだよ。クレア嬢もようこそ、アデル、ご苦労だったね」

ロザリアはあっさりとローズに変装しているのを見破られた事に慌て、

クレアはアデルが侯爵に礼をするのに慌てて習っていた。


「い、いえこちらこそ、突然押し掛けて申し訳ありません、その、侯爵様」

「ふふ、”ローズさん”、少々話しづらい事もあるだろう?場所を移そう」


父に連れらてこられたのは会議室のような部屋だった。扉がやけに厳重で分厚い。

「さて、ここなら会議用の部屋なので声は外に漏れないから心配無いよ。”ロザリア”、姿を戻してはどうかな?」

「は、はい、お父様、何でもご存じなのですね」

「いやいや、私だってクレア嬢やアデルがいないと、一瞬わからなかったよ、中々のものだ」

言われてロザリアは認識阻害の魔石具を解除し、姿を元に戻した。

いたずらが見つかったような感じがして気恥ずかしい所に、父親は頭を撫で撫でまでしてくる。

『うー、ウチやっぱまだまだお父様の前では子供扱いなんだなぁ……』

ソファをすすめられ、皆で座ると父が口を開いた。

お茶を、と誰かを呼んだりはしない所を見ると、こちらが急いでいるのを察してくれているようだ。


「さて、私に何か話があるのではなかったか?」

「はい、アデル、あれをお父様に」

「何だねこれは……、化粧品かな?」

アデルから受け取った瓶を見て怪訝(けげん)な顔をする父親。

瓶をかるく振って確認するが、さすがにこの中身までは察せないようだ。


「お父様、これは王宮の中で密かに広まっているものです。

 これを使うと”魔力持ち”のみに劇的なお肌の改善効果が現れ、代償として闇の魔力に汚染されます」

「魔力に反応する化粧品!? そんなものが存在するのか?」

「しかも魔力が強ければ強い程効果があるので、上位貴族の夫人方にまん延している可能性があります」

「魔力に反応する化粧品なんて聞いた事無いよ? いやロザリアの言う事だから本当なんだろうけど」

「眼の前で実験いたしますわお父様、クレアさん、後でお願いね」


「なんという事だ、それでは知らぬ間にとんでもない事になるな……。

 急ぎ陛下に謁見を申し入れる、少し待っていてもらえるか?」

ロザリアの実演を見て、父親は真剣な顔になり部屋を出ていった。

程なく迎えが来たのでロザリア達は謁見室に向かう。


「ふむ、ロザリア嬢ちゃんお手柄だな。しかし念のための調査だったのだが、とんでもない物が出て来たな」

「陛下、事は急を要します。急ぎこれの出元を検挙しないと大変な事になります。すぐ対策を」

事の重大さを認識している事から宰相であるロザリアの父マティアスは急ぎの対策を国王に要求しているが、

魔力関連という事で立ち会っている魔法研究所所長のマクシミリアンはというと、


「これはそこまで汚染の度合いが強い物では無いようですが、

 もしも魔王薬との組み合わせで広められると厄介な事になりますな」


「うわーちょっとぷるっぷる! ……戻っちゃった。うわーぷるっぷる! ……戻っちゃった」

クレアが治せるのを良いことに、ロザリアのブレスレットの魔力抑制を利用して何度も何度も実験をしていた。

あまり続くのでアデルの表情が目に見えるレベルでだんだん険しくなってくる。

「薄く広く、汚染していくつもりのようですな、手を変え品を変えよくやるものです」

さすがに気づいたのかしれっと実験を止め、もっともらしい表情で国王に進言する。


「あの、お父様、手を変え品を変えって、まさか他にも何かあるのですか?」

「まぁそうなんだが、あまり話せる事でもないのだよ。今はとにかくこちらに集中しよう」

父親の言葉に今はそれどころではないか、と意識を切り替えて説明を始める。


「アデルが聞き出してくれたのですが、この化粧水の出元はフルーヴブランシェ侯爵夫人だとの事です」

「おい、よりによって三大侯爵家の1角ではないか」

「派閥全体に広まっているわけではありますまい。

 フルーヴブランシェ侯爵夫人自身が売っていたらややこしい事ではありますが」

「ふむ、となると今度はその派閥の内偵か、対象が絞られた分やり易くはあるが」

ロザリアの説明に事態のさらなる深刻さを実感したのか渋い顔をする国王に

宰相という立場にふさわしく、マティアスは状況を整理していった。


「お父様、でしたら私が今度はフルーヴブランシェ侯爵夫人の調査をいたします」

「いけませんお嬢様、これ以上は危険かも知れません。

 この化粧水を突き止めただけでも十分でしょう? これ以上はどうかお控えください」

「ロザリア、アデルの言う通りだ、この件だけでも本当によくやってくれた。後は任せなさい」


ロザリアは王妃とのお茶会の話題でも出てきたフルーヴブランシェ侯爵夫人の調査をするなら今だ、とばかりに進言したのだが、アデルの言葉に父親も同意し、引き留めようとする。

しかしロザリアの方もここまで来たからには引かない。お肌をもてあそばれた恨みもあったからだ。


「……いえ、お父様、私、まだ行儀見習いが全然足りておりませんので、

 フルーヴブランシェ夫人のお茶会で勉強しよう、というだけですわよ?」

「同じ事だろう」

「いえまぁ、何と申しますか、以前ご令嬢達を威圧してしまった事に関しましては、

 深く深く反省しておりますの、このままではいけない、というのもありますでしょう?」


白々しい口実には違いなかったが、半分本気なのもわかるだけに(たち)が悪い

こう見えてもロザリアは侯爵令嬢であると同時に、父親は宰相でもある。

口八丁手八丁で、なし崩し的にロザリアがお茶会に参加する事になってしまった。


次回、第103話「なんだか最近お茶会ばかりなんですけど…」

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