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第10話「親戚とか来るときの準備って、超面倒なんですけどー!」②

「皆様、旦那様が向こうにいらっしゃいます。止まるつもりでこちらにいらしてください」


屋敷を回っていると先を歩いていたアデルが小走りに帰ってきて父の事を伝えに来た。ロザリアはそれを受けて車椅子を進める速度をちょっと抑える。


「おおフロレンシア、大丈夫かね、無理はしていないか? といっても結局無理をさせてしまっているか、すまないとしか言えんよ」


ほどなく父が采配している区画に近づいたのか、父が小走りに母の車椅子の前にやってきてひざまずいていたわる。

「大丈夫よマティアス、最近はとても体調も良いの。お医者様も午前中だけなら問題無いだろう、と言ってらしたもの、むしろ気分が変わって良いわ。午後の分はロザリアにやってもらうつもりよ」


この2人の夫婦仲はとても良かった、父は侯爵で宰相という身分の高さの割に実直で穏やかな人柄で、母もまた若かりし頃は社交界の華と呼ばれ、始まりは政略結婚でありながら夫婦として長年変わる事無く互いを思いやる姿に娘ながらロザリアは長年憧れていた。


「お父様こそ王宮でのお仕事は大丈夫なのですか?」

「まぁ正直大丈夫とは言えないがね。初めてこの屋敷に王太子殿下をお迎えするんだ、そうも言ってられんよ」

『そーいえば、こんな時間にお父様と話すのも初めて、だっけ? どんだけ距離置いてたの……、以前のウチは』


「そうねぇ、こういう事ってもっと早くに経験しておくものではあるものねぇ。一度経験してしまえば、あとはそれを繰り返せばいいわけだもの」

「ごめんなさい……お父様、お母様、私がもっと王太子殿下と親しくしていれば」


「いやいや、ロザリアが気に病む事なんて何一つ無いよ。お前はよくやってくれている、私こそお前にどれだけ重荷を背負わせてしまっているか」

「そうよ、元々政略結婚だもの、むしろこういう事になるのは珍しく無いわ。一度も顔を合わせずに結婚する事だってあるのよ?」


母の言葉に思わず落ち込んでしまうロザリアを父母があわててなぐさめる、そういえば親子でこんな会話も久しぶりだったのではないだろうか。


「あの、お父様、王太子殿下はどうして突然こちらに来られるのですか?」

「それがなぁ……、突然会いたい、との申し出があっただけで何故かまではわからないのだよ」

「まぁ良い機会ではあるわ。時期も悪くないし本当に成人前か季節の挨拶にお見えになるだけかもしれないもの、あんまり考えすぎないでね、ロザリア」

「はい」

「さて、親子三人が合流した事だ、ここからは3人で一気に終わらせるとしようか」


母に引き継がれた午後の分の采配を終え、一旦部屋に戻ったロザリアもまた自分の為の山のような準備があるのだった、

今回の場合は、昼(さん)・午後のお茶・晩(さん)・果ては念のため翌日の朝の見送り、と全て別のドレスを着なければいけないので、それに合わせたドレスやアクセサリーの選定、更にはその衣服に合わせた髪型、化粧、等を諸々段取りしてゆかねばならず、

それ以前にアデルだけではどう考えても無理な量なので、この際だからと増員の侍女を任命する為に、その侍女の選定まで行わないといけなかった。

もちろん侍女達は元々ロザリアの理解者が多く志願者も多かったので、むしろその為に選定に手間取ったものだ。


増員の侍女が決まってしまえば、あとはドレス選びの争奪戦だ。皆それぞれのセンスを駆使して、あーでもないこーでもないとクローゼットルームでドレスを選ぶ。

アデルはというと意外と溶け込んでしまっている。目立たず角を立てず助言しつつ、的確に皆の好みを誘導し、とりまとめていた。

どうやらロザリアが一番荒れている時に侍女を耐え切り、今の状況の立役者となった事で他の侍女達からも一目置かれているようだ。

ロザリアは衣装合わせの合間に自分の部屋をそれなりに片づけて回っていた。いくら婚約者であってもこの部屋に迎え入れるわけがないのだが、万が一という事もあるので念のためだった。


そんな事をやっていると結局晩(さん)の直前までかかってしまい、湯あみを終えて疲れ果てたロザリアは、またベッドに倒れ伏してアデルにマッサージしてもらっていた。


「あ~効く効く~、アデルさーん、そこもっとぐっと強くお願~い」

「おっさんですかあなたは。キレ散らかしてむき出しの刃物のようだったあの頃のお嬢様は一体どこへ行ったのですか」


主の変わりようにアデルは思わず一旦自分のこめかみを揉みほぐす。一体この人はどうしたんだと、今でもアデルはたまに悩む。


「え~だって~、一旦肩の力を抜いたらさ~、も~人生が楽で楽で~」

「楽というか堕落ですね。まぁ、私は、こちらの方が好ましいですよ」


肩の力が抜けきった主を多少苦笑交じりに、優しい顔でマッサージしていく。そういえば肩の凝りも、マッサージしなくてもほぐれているようになっていた。


「でしょう? 私ね、これで良かったと思うわ。もしもあのまま私が何も変わらずにいて、もしも何かの間違いで、王太子殿下が突然この屋敷に来る、なんて事になったら……」

「……考えたくもないですね」

恐らく考えうる限り、最悪の事態を想像してしまい、二人して背筋が寒くなるのだった。


「今日の準備もね、正直楽しかったのよ。お母様に隣についてもらっていろんな事を教えてもらって、お父様ともなんだかんだ色々お話をして、あんなの生まれて初めてじゃないかしら……」

「良かったですね、屋敷の使用人の皆も忙しい忙しいといいながら、楽しそうでした」

「ほんとー? マジ良きー……」


会話するロザリアの声があくびまじりになり、だんだん小さくなりだしたので、アデルはマッサージを終えて主の就寝の準備を始める。

魔石灯の明かりを弱め、うつ伏せの主を仰向けに寝かせ直し、ブランケットなどをかぶせた時にはロザリアはもう夢の中だった。


「おやすみなさいませ、お嬢様」


いつしかその声かけは、同僚の侍女がどれだけ増えようが、アデルにとって手放したくない習慣となっていた。


次回 第11話「王太子リュドヴィックがあらわれた!」

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