智華、誘う
あれ……? 智華……?
3話です
「え……、ちょ……。え……?」
どうなっているんだこれ? なんで智華が俺を学校へと誘ってるんだ?
「ほら、朝からボケッとしないで行くわよ!」
「えと……行って良いのか……?」
「なに? 学校に行くのに私の許可が必要なの!?」
「いや……、いらないが……」
「じゃあ、行きましょうよ」
「お、おう……」
そうして俺達はあのフラれた日振りに学校に登校する。俺達が住んでいる町は学校まで約3km離れているため、いつも自転車通学だ。
いや、そんなことはどうでも良い。いま俺の隣には容赦なく俺を完膚なきまでにフッた幼馴染がいる。それに互いに何も話さず、しかも何やら機嫌が悪そうな顔をしている。そしていつもより智華との距離が少し空いている気がするし……。
俺はあいつの顔をちらちらと見るが、一向にこっちを見ない。智華が何を考えているか、俺はどうしたら良いのか何も分からず、ただ長い道のりを二人で走るだけだった。
そして高校近くで、俺がフラれて呆然としたあの橋の近くにはあの子が立っている。
「涼君~♪」
「あ……友美ちゃん」
「!」
俺は彼女の近くに行き、自転車を停める。そしたら友美ちゃんは俺の隣にいる智華の方を見てニヤリと笑う。
「あら、あらあらあら。智華、今日は一緒に涼君と通学してるのね」
「ち、違うわ! 一緒に通ったんじゃなくて、たまたま隣が涼馬で、コースが同じだっただけよ!」
まさかの発言に俺は戸惑いを隠せなかった。いやまあ、確かに一言も“一緒に行こう”とは言わなかったが……。
「あらっ、そんなこと言って良いのかしら~?♪」
「な、何よ……?」
「涼君がショックそうな顔をしているわ」
「え!? あ、涼馬。こ、これは違くて……っ」
「……」
俺は何も答えずに、呆然と二人を眺めていると、友美ちゃんが俺に近づいてこんなことを言った。
「ねえ、智華なんかほっといて、さっさと行こっか」
そして彼女は俺の手を握って、学校の方へ引っ張っていく。その手はとても温かかった。
「あ……」
俺は彼女の後ろを自転車から降りて付いていこうと思ったその時に智華が俺の後ろから大きな声を出した。
「りょ、涼馬駄目ーー!」
俺と友美ちゃんは大きな声を出されて、互いにビクッとする。しかも智華の声はいつもの芯の通った時と違って、やたら悲痛な声に聞こえた。
「……! い、今の時間ならそんなに時間がないから、自転車の方が断然良いわ。涼馬、い、一緒に学校へ行くわよ!」
「え…」
智華はそう言って俺にアイコンタクトを取る。
「え~、私はー?」
「あんたは徒歩通学なんだから、走りなさいよ」
「え、えぇー……」
「さあ、涼馬。一緒に行こ」
「お、おう……」
俺は後方を気にしながらも、智華の後ろを追うのであった。
◇◇◇
俺は学校を終えて、近くの喫茶店に寄り、コーヒーを注文する。
「マスター。ブラックで」
「あいよっ」
俺はコーヒーが来るのを待ってる間、登校中に智華が呼び止めたあの顔を思い出す。あんな顔、普段見せないから脳裏に残っている。あの悲しそうな表情は一体……、
「なに黄昏れてんの、よっ」
「って!」
人差し指で俺の鼻をツンと弾く。
「なにすんだよー! 痛いじゃないかー」
「物思いにふけただらしのない顔をしてたからよ」
「~~~」
「何思い出してたの? 白状しなさいっ」
「だ、だから……ごにょごにょ」
「あ~、朝の登校時での話ね……」
「あ、あぁ……」
「その後、私を置いてけぼりにしたくせに……。貴方は自分がフラれた女に必死な声で止められて、すこぶるご満悦なんでしょうね」
「……」
あの時置いてけぼりにされて、恨みがましく壮大な皮肉を言う友美ちゃんである。
「けどなんであの時智華はそこまでして俺を止めたのか……?」
俺が不思議そうに言うと、彼女はため息をはきながら首を横に振る。
「な、なんだよ……」
「本当、智華のこと分かってあげれてないわねー」
「……」
そうしているうちにマスター直々に焙煎して挽いたコーヒーが机に置かれる。
「コーヒー、紅茶お待たせ様です」
「……じゃあどういうことなんだよ?」
イライラとしながら訊く俺をよそに、彼女は紅茶を優雅に飲みながら答える。
「智華はね、鞭打って悦ぶ男が好きなの」
そして俺は変なタイミングで勢いよくコーヒーを飲んだ。
「ご……っふ!!? 熱っっ!!」
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