俺、風邪を引く
すみません、遅くなりました!
10話です
「げほげほっ……」
俺、鹿野涼馬(17)は本日朝から見事に夏風邪を引きました。昨日やはり雨にうたれたのがいけなかったな……。
~昨日~
「ひえ~、雨だなー……」
「そうね~……」
俺は部活終わりに学校の玄関口でばったり会った友美と一緒に話し込んでいた。どうやら傘を持ってくるのを忘れたらしい。
「馬鹿だな~。天気予報で夕方に急な雨が振るって言ってたぞぉ!」
「だってー、まさかここまでルカと話込むとは思わなかったもーん」
もーん、ってなんだよその甘えた口調は! ……ったく、どうやら彼女は部活仲間とさっきまでだべっていたらしい。
「これからどうやって帰るんだ? いくら学校から近いと言っても、この雨じゃあ結構キツいぞ?」
「う~ん……、確かにね~……」
そう言いながら彼女は思案を始めた。
「涼君は折り畳み(傘)でも良いから、もう一個持って~……ない?」
「ないな」
「ふーん、そっか………。あっ、ねぇ? じゃあさ、一緒に相合い傘でもする?」
「ぅへえ!? ばばばば馬鹿っ!! 一体何を言い出すんだ!?」
「あははっ! なに動揺してんのよ~。可愛いわね~もう。私達の仲なんだから照れなくて良いじゃ~ん」
「~~~!」
彼女はちょんちょんと俺の頬を突きながら愉快そうに笑ってくるから、俺は少々腹が立ったが、何も言わずに黙っている。
「まあ、けどそりゃあそうよね~。そういうことは好きな人と一緒にしたいわよね~……」
「……」
「けど濡れるのやだなー……」
「……」
外の雨を眺めながら、少し辛そうに一人そう呟く隣に寂しく立っているその女子に俺は問いかけた。
「じゃ、じゃあ……一緒にこの傘に……入る……か?」
「え……」
彼女は目を見開きながら俺を見る。
「……い、いや、でも、そういうのはやっぱり好きな人としたい……」
「こういう時は緊急事態だ。仕方ないだろ?」
「………そ、そう……ね」
少し照れた様子の彼女を横目にして俺は傘を開けて、彼女を傘の中に入れる。
「そ、それじゃあ行くか……」
「え、えぇ……」
そして一緒に友美と一歩進むその時だった。ガチャンと大きな音が玄関先に響く。見るとカバンを落とした呆然とする智華の姿があった。
「あ……!」
「智華……!」
「二人は……な…に……してんの……?」
「い、いや智華! これは違くて……!!」
「そ、そうよっ! これは違うの!!」
そう俺達はあたふたしながら、智華に言い訳をしようとしたが、全く言葉が思いつかない。そして俺は咄嗟に傘を友美に渡して、
「じゃ、じゃあ俺は帰るから! 後は宜しく!」
「あっ、ちょっと涼君!?」
「え、りょ……」
そうして俺はこの大雨の中、急いで帰ったのだった。
◇◇◇
お陰でこの様である。両親は共働きで今誰もいない。そして熱はというと、
「37.8℃……か」
俺はため息を吐きながら、ぽんと頭を枕の上にのせる。スマホをいじったり、水分補給したり、目を瞑ったりしていると気づいたら寝ていた。
そして目を開けた時には布団に汗びっしょりかいていて、部屋は少し薄暗いオレンジ色になっていた。
(もう夕方か……)
熱を測ると、37.2まで下がっていた。
「お、あと少しだな……」
そして俺は部屋を出てトイレに行こうとしたら、下から良い匂いがしていた。
「母さん帰ってきたのか……?」
トイレを済ませて階段を降りるとトントンと料理をする音が聞こえる。どうやら母親が仕事からもう家に帰っているらしい。
「母さん、俺今日はお腹に優しいものが…………ぅえ!?」
母さんの料理をしている隣で、うちの制服を着てエプロンをしている女子がいた。紛れもない智華だった。
「あら涼馬じゃないっ、起きたの?」
「あ、涼馬……」
「えとー、ど、どうして……智華がここに……??」
「家の外でね、ばったり彼女と会ったのよ~。プリント届けに着てくれたんですってっ。だからもののついでってな感じで家に上がってもらったの」
「でもなんで料理なんか……」
「なんでも涼馬の好みを教えて欲しいんですって」
「あ、ちょっとおばさん。それは……」
「あらゴメン、秘密だったわね。オホホホホッ!」
そうテンションが高い母親だが、俺が智華にコテンパンにフラれたのはまだ知らないだろう。とはいえ、こんな状況見てたら、また熱が上がりそうだ……。
部屋に上がっててと言われ、俺はベッドに横になっていると、智華が土鍋を持って俺の部屋に入ってくる。
「熱いだろう? 大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫よ」
「涼馬、自分の部屋に幼馴染が来たからって、変なことしないでよっ!」
「しないから部屋から出て行ってくれよ」
「オホホッ、こりゃまた失礼~」
「……すまん、あんな母親で……」
「昔から変わらないから慣れているわ」
「……」
そう言いながら彼女は土鍋の蓋を開ける。そうするとふわっとした湯煙と出汁の匂いが上がり食欲をそそる。卵とニンジン入りのおじやだった。ニンジンは小さく切って、もちろん柔らかい。
「お、おじやか!」
「涼馬がニンジン好きなの知らなかったわ」
「まあ、作ってもらう機会があんまりなかったし」
「ふふ、そうね」
そう言いながら彼女は茶碗におじやを盛ってくれる。鰹の出汁が効いて、これは滋養に良さそうだな。俺がルンルン気分になっていると、彼女は俺の顔をじっと見ながら、
「私が……食べさせてあげよっか?」
「………………へ?」
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