第8話
俺たち家族はいつものように3人で食卓を囲んでいた。ご飯を食べてる間、何か考え方をしているかのようにいつもより静かなだったレオが突然こんなことを言ってきた。
「実は、僕を父さんたちの狩りに連れていってほしいんだ。」
普通の親だったら、自分の子供が親と同じ道を歩んでくれる、自ら狩りに行きたいと言い出していると感じたら、とても喜びつつも「まだ小さいからもっと大きくなったらな。」と優しく言ってあげるだろう。
だが、レオは違う。普通の子供ならば1歳2歳の子供はわがままだ。でもレオのそんなところは見たことがない。それにとても聡い子だ。すぐにしゃべるようにもなったし、何に対しても積極的だ。しかも呑み込みが早い。極めつけは4歳の誕生日のことだ。教えてすぐに魔力とスキルの使い方をマスターしてしまった。それに最近は寝る前に魔力を使っている痕跡が残っている。空いた時間には森にも行っているみたいだ。
考えれば考えるだけほかの子供とは違うところが出てくる。要は生まれ持った才能なのだろう。母馬から生まれた仔馬がすぐに立てるのと同じように、レオはこの世界での生き方を理解しているように思える。そうだとしたら、親がすることは一つしかないだろう。
それは子供の才能をつぶさないこと。ほかの子と違うから、自分が小さいころよりも優れているから、そんな理由で、我が子の自分の生きたい道へ進ませることを止めるような親にはなりたくない。だからレオがやりたいということはできる限りやらせてあげたいのが本心だ。
そうなると今度は問題が出てくる。レオは狩りに連れて行ってほしいと言っている。それはつまり危険と隣り合わせということを意味しているのだ。レオは賢い子だから自分の言ったことがどんな意味を持つのかを理解はしているだろう。だがどんなに優秀だったとしても、まだ4歳だ。スキルを使い始めてから数か月しか経っていない。何か自分の身を守るすべがなければ俺は賛成することができない。
「いま、どれくらいのスキルが使えるんだ?」
レオが毎日スキルの練習をしているのは知っていたので試しに聞いてみる。本来ならば一つでも扱えるようになっていればすごいことだ。そんなのは貴族の子供なんかが莫大な金をつぎ込んで自分の子供を幼いうちに鍛えたりしない限りは起こることはそうないだろう。
しかしレオの言葉を聞いて、俺は”再び“驚かされるのだった。
「最初から持っていた【後方支援】に加えて、【剣術】【炎魔法】【農作業】の三つが使えるようになったんだ。」
そう、レオはたった数か月の間で新たに3つのスキルを手に入れていたのだ。【農作業】使えるようになったのはまだ分かるが、攻撃型のスキルが2つ増えている。どれだけ練習をしたのか、はたまた生まれ持った才能なのか、どちらかはわからない。ただ確実に言えるのは、自分で身を守る手段はすでに持っているということだ。
しかし狩りとは敵の陣地に踏み込んで行うもの。いついかなるときも、想定外のことは起こり得るものである。レオの安全のことを気にするとなると、簡単に分かったとは言えない。
そうして俺が困っていると、レオがこんなことを言ってきた。
「父さん、試しに僕のスキルを見てみてよ。」
「俺がレオのスキルを見て、狩りに参加していいか判断をするってことか?」
「その通りだよ。僕がちゃんとスキルを使いこなせているのを見たら父さんも納得してくれるんじゃないかと思ったんだ。」
「うーん、確かにそれでもいいんだが。」
父さんは俺がスキルをいくつか使えるからと言っても、やはり連れていきたくはないんだろう。こうなったら是が非でも納得させるしかない!一人でいるとき、魔法についてはかなり練習した。剣の扱いもかなり慣れてきてはいるはずだ。自分の力を見てもらうのは今この時しかない。
「父さんも僕がスキルを使いこなしているのを見たら、納得してくれると思うよ。」
頼む、応じてくれ。このチャンスを逃せば、もっと長い時間を村で過ごさなければいけなくなってしまう。
「わかった、そこまで言うなら見せてもらおう。」
よし!あとは今までやってきたことを出し切るだけだ!
「ただし、条件がある。俺と戦って俺に勝ったらいいだろう。」
…なんだって? 戦って勝て? やられた、そんな手を使ってくるとは思ってもいなかった。それだけ狩りが危険ということなのだろう。だがこのチャンスを逃すわけにもいかない。もちろん受けて立たせてもらう。
「わかった。いつにすればいい?」
僕がそう返すと、少し面食らったような顔をしたが、またすぐに顔つきが変わった。
「よし、それなら明日の朝でいいだろう。村の広場で行うとしよう。ローゼ、ご馳走様。レオも今日は早く寝るといい。」
そういって父さんは食卓を後にしていった。すると母さんが、
「レオ、怪我はしないようにね。お父さんも昔は冒険者だったから決して弱くなんてないわ。勝てないと思ったらすぐに辞めるのよ。」
「もちろんだよ、母さん。ありがとう。でも僕はやると決めたんだ。」
「まったく、レオは本当に4歳なのかしら。この調子だとすぐに大人になっちゃうわね。」
母さんは笑いながらそう言ってきた。ごめんなさい。4歳なんかじゃないです。
ご飯を食べ終わった僕も自分の部屋へと戻る。
とりあえず、明日に向けてイメージトレーニングだな。
父が部屋を出る前に僕はすかさず【鑑定】をしていた。この【鑑定】をしたのには実は2つ理由がある。1つは単純に父さんの強さを測るため。もう1つは、気づかれるのかを確かめるためだ。父さんはさっき、俺が夜にスキルの練習をしているのに気づいていると言った。それはつまり、どんな方法でバレたのかは分からないが、父さんは俺がスキルを使ったかどうかを見分ける「何か」をもっているということだ。
しかし必ずしもバレるというわけではないことがさっき分かった。もしかしたら気づいてないふりをしているだけかもしれないが、さっきは何も手を打ちはしなかった。もし【鑑定】のスキルが特別であったとするならば、この世界には感知できない魔法も存在する可能性があるということだ。
まあ考察はこれぐらいにしておいて、父の鑑定結果を見てみよう。
個体名 クリストフ
種族 人間
性別 男
所有スキル
【魔力感知】【魔力操作】【農作業】【千里眼】【上級剣術】【身体強化】
見た感じ、いくつかは俺と同じスキルがあるが、【上級剣術】と【魔力感知】が未知のスキルだな。これは予想だけど、父さんは、この【魔力感知】のスキルで僕の魔力の動きに気づいていたんだと思う。【上級剣術】は名前のまんまだとするなら、【剣術】の上位互換だと思っている。
そういえば【鑑定】を使うことでさらに詳しい情報を手に入れることはできないのか? 人に【鑑定】が使えるようになってからというもの、勝手に他人のことを盗み見するのはよくないと思っていたから今回が初めての試みだな。俺は鑑定の結果で出ていた【魔力感知】と【上級剣術】に意識を向ける。すると狙い通り、スキルの効果が見えてきた。
スキル名【魔力感知】
魔力の流れをより鮮明に感じ取ることが可能。対象の生命の有無は関係しない。空間に残る魔力の残滓も感じ取ることができる。熟練度を上げることで、より鮮明に感じ取ることができるようになる。
スキル名【上級剣術】
スキル【剣術】の進化により生成されたスキル。【剣術】よりも洗練された動きが可能。熟練度を上げることで、よりスキルの威力が上がる。
まあ思っていた通りだったな。どっちもかなり厄介なスキルだな。【魔力感知】は【魔力操作】とは違い、作用させられる対象が自分だけに限らないので、俺相手に使われたりすると魔法を使うタイミングがばれたる可能性がある。【上級剣術】も【剣術】の上位型なだけあって剣の自力では負けるだろう。
どうやら考えていても策は出なさそうだ。この世界に来てから、魔物を含む初めての戦いだ。わからないことのほうが多いし、少しだけ緊張もしている。正直勝てない可能性のほうが大きい。俺が勝てる可能性としては、父のスキル熟練度がそこまで高くないという可能性に賭けるしかない。
俺はこれ以上は無駄だと思い、今日は早めにベッドに入るのだった。
今回も遅くなって申し訳ありません!!!