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この前変な夢を見たんです。
異能系のバトルものだったんですけど、自分の前世の記憶を思い出していくに連れて本来の力を取り戻していき、その記憶を頼りにその前世の自分の墓参りに行けば全ての記憶+本来の力全てが蘇るっていう夢でした。
記憶を取り戻すための冒険の仲間に前世が150cmぐらいある目〇おやじと、前世が100cmぐらいの黒いふなと、前世が300cmで二足歩行のハリネズミの人達がいたんですよね。
ちなみに私の前世はでっかい金魚でした。
死因はボッチになって泣きすぎた事による窒息死でした。
この夢が頭から離れない。
私の両親は物心ついた頃から仕事でほとんど家にいなかった。
その上一人っ子だったので家に帰っても、おかえりを言ってくれる人はいなかった。
ご飯を一緒に食べてくれる人もいなかった。
そんな家庭で育ったので、それがいつしか‘当たり前’になっていた。
その‘当たり前’は結婚してからも変わらなかった。
けれど、あの人たちと一緒に暮らし始めてからはその当たり前が当たり前ではなくなっていた。
お出かけから帰ったら『ただいま』を言って、『おかえり』って言われて。
ご飯を一緒に笑いながら食べて、おやすみって言って一緒に寝て、
少しの間だけれど本当に楽い時間だった。
「私、ずっと一人だったんです。子供の時は両親が働いてばっかで家に居なくて、家を出てからもずっと一人で。そんな時にあの人と暮らし始めて、ずっと一緒にいて。だからいつも思ってしまうんです。弟がいたらこんな感じだったのかな〜って」
嘘偽りなく私の本心を伝えた。
若紳士は本当に良い人で優しくっていつも甘えてきて、とても弟っぽい感じの人。
ずっとこんな笑顔の可愛い弟が欲しいと思ってたし、なんなら昔両親に弟が欲しい!とお願いしたけれど一蹴りされてしまった。
その時に弟は諦めたけれどまだどこかで弟が欲しいと思ってしまっていたらしい。
若紳士と一緒に暮らしてから、どうしても若紳士を弟の様な存在として見てしまう自分がいる。
『でろっでろに甘やかしたい』という気持ちを押し殺して今日まで暮らしてきた。
なので、この気持ちを誰かに話すのは初めて。
もし、軽蔑されたらどうしよう。
いや、多分軽蔑されると思う。
「は? 弟……?」
ほら、やっぱり。
目を見開いて、持っていた扇を落としてしまうほどに吃驚してしまっている。
「弟とかじゃなくて、恋愛感情とかは……ないのかしら? ほ、ほら! 仮にも一ヶ月以上も一緒に住んでいるのでしょう? ね? 恋愛的な〜何かになっちゃったりして!」
そのまま目を見開いて扇を落とした状態でなんか変な事を漏らしてきた。
私は若紳士を恋愛対象として見た事は一度もない。
というか、もう恋愛事は懲り懲り。
なのでこれから先若紳士と暮らしていても、他の男性と暮らすことになったとしてもその人達に恋愛感情を持つことは無いと断言出来る。
「ありませんね、普通に。私一度結婚で失敗しているので恋愛はもう、」
「はっ、そ、そうよね。初対面の上にこんな事を聞いてしまってごめんなさい。いきなり嫌だったわよね」
「いえ、大丈夫ですよ」
女性は私に謝ると扇を広い、紅茶を一口飲み、息を整え姿勢を整えた。
「そういえば、まだ名を名乗っていなかったわよね? 本当は一番最初に名乗らなければいけないのに、重ね重ねごめんなさいね。私はダリア・イザベルと申します。リリーさんの事はあの子からよく聞いておりますの。お会いできて本当に嬉しいわ」
「私も会えて嬉しいです。イザベル様のことはメアリーさんから聞いていましたので」
そして、ダリアは椅子の上ながらもとても綺麗なお辞儀で自己紹介をしてきた。
さっすが貴族のご婦人。
なんて返事を返せば分からなかったけれどあんな感じで良かったのかしら。
「ねえ、リリーさん。今日はあなたとねお友達になりたくてここへ来たの。だからイザベルでは無くてダリアと呼んでちょうだい」
「え、それは普通に無理ですね」
いきなり無茶振り要望が来たので思わず地の声で応えてしまった。
いくら本人が良いと言っても貴族の方を名前で呼ぶのは寿命が縮む。
若紳士ですら一度も名前で呼んだことが無いというのに、初対面の貴族のご婦人を名前で呼ぶだなんて。
影で名前を呼ぶとかならまだしも、面と向かっては絶対に無理。
「普通はそうよね、まあ、今すぐに名前で呼ばなくていいわ! これからじっくり時間をかけて仲を深めていきましょうね!」
「は、はあ。」
満面の笑みで意気込んできた。
さっきから気になっていたけれど、なーぜこの御方は私とそんなにまで仲良くなりたいのだろう。メリットなんて何一つとしてないのに。
勢いに押されて思わず返事をしてしまったけれど、はっきり言ってグイグイ来る苦手なタイプの人。
それに、なんか似ているのよね。あの人に。
そう、若紳士のお母様に。
だからなのかしらね。断れないのは。
「ありがとう。とっても嬉しいわ! もし断られちゃったらどうしようかと思ってしまいましたの。ふふふ」
ダリアは不敵な笑みを浮かべ扇を口元に移した。
ほーらやっばり似ている。
滅茶苦茶怖い。怖いけれどどうしても聞いておきたい。
何故私と仲良くなりたいのかと言うことを。
「あの、何故そんなにまで私と仲良くなりたいのですか? こんなのと仲良くしても貴方様に得一つありませんよ?」
不敵な笑みを浮かべていたダリアは一瞬目を見開らいた後、肩を揺らして笑い始めた。
「貴方本当に最っ高。私に得が無いですって? 大ありよ!
今王宮でとっても噂になっているのよ。あのハワード家の三男坊が別荘で平民の恋人と仲良くしているって。」
面白おかしく話すそれに、つい眉間のシワが寄ってしまった。
ハワード家は領主様の家。つまり若紳士の家でもある。
その三男坊とはもちろん若紳士の事。
私と若紳士は勿論そんな関係ではないし、これからそうなる予定もない。
だというのに、そんな根も葉もない噂を流されてしまってはたまったもんじゃない。
「まあ、私はさっき貴方から話を聞いて違うと知ったけれど、噂好きの貴族連中の事だから一週間後にはもっと噂が大きくなっているかもしれないわね。なにせあの家の事だからね」
「? どういう事ですかそれ?」
ダリアの口ぶりからその噂はハワード家に何かあるような言いぶり。
「ハワード家の現当主とその夫人の事は勿論知っているわよね?」
「まあ、ここの領主ですし、会ったことはありますから」
「じゃあ、その二人が大恋愛の末の結婚だってことは?」
「噂程度にですが……」
領主様とそのご夫人は元々貧乏伯爵家と金持ち王家で身分があまり釣り合わなくて最初は結婚相手の候補にすら上がらなかったらしい。
けれど、お互い一目惚れで何としても結婚したかった二人は努力に密会に努力を重ね結婚したらしい。
領主様は前領主様から実権を奪うと、なんの名物も資源も無かった領地を、絹の名産地とし繁栄させた。
夫人は国王陛下に掛け合って脅して結婚を承諾させた。
と。
私が聞いた話はこんな感じ。
これの何が関係しているのか分からない。
「二人がね結婚する時誓ってしまったらしいの。自分達の子供には絶対に自由恋愛をさせるって。そのおかげで長男も次男坊も三男坊も未だに独身なの。まあ、まだ上が二十四だし全然平気なんだけれど、今までそんな三人に女性の色一つ無かったものだから今回の事はすごく噂になってしまっているの」
疲れたような顔を浮かべ応えてくれた。
そんな誓をしてあったのね。知らなかったわ。
貴族の子女は絶対縁談で決めないといけないと思っていたけれど、そういう誓いをしても怒られないのね。
「それとね、貴方が誰もが見惚れる程の絶世の美女で、歌を歌えば小鳥たちも歌い出し、貴方が施す刺繍は光輝く。そして、それを身に付けると幸運が訪れるって噂も回っているの」
「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ?」
若紳士の名前を出すタイミングを完全に失いました
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