【若紳士視点】後編
いつも誤字報告など本当にありがとうございます。とても助かります_○/|_
【これを身につければ必ず好きな女性に振り向いてもらえる50のテクニック!】は若紳士のお父さんが奥さんに一目惚れした時に買った本 っていう設定があったりなかったり
ステファンとソフィアが糞の身辺調査に向かってから三週間が過ぎた。
不倫調査ならこのぐらいかかってもおかしくないと思うが、いくらなんでも遅すぎると思う。
明日長期休暇が終わるので、また王宮に戻らなければいけない。
ここを離れる前に報告だけでも聞きたい。
ステファンとソフィアの帰りを待っていると、太陽が完全に沈み切った頃にようやく帰ってきた。
両手には大量の紙束があるので相当の収穫があったに違いない。
「おかえり。待ちくたびれたよ。さぁ、早く聞かせてくれ!」
「はい……」
早速話を聞こうとするが二人は何か、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
何かあったのだろうか。
まさか、身辺調査がバレたとか?否、大量の紙束があるんだからそんなハズはないと思う。
「坊っちゃま、ご主人の不倫相手の事なのですが、結構厄介な事になって参りました。順を追って説明しますのでくれぐれも暴れないでくださいね」
「分かった」
「最初、私達が調査を始めた時の不倫相手は、ローズマリー様の専属メイドの一人でした。そのメイドがこの屋敷で不倫の自慢話をし、それをたまたま聞いてしまったローズマリー様がご主人を一目見ようと、お忍びで市街に行ったのです。そしてまんまとご主人に一目惚れをし、現在メイドではなくローズマリー様と不倫していらっしゃいました。ローズマリー様は相手が既婚者だということを知っているみたいです」
嘘だろ、ローズマリーはもうそこまで堕ちたのか?
ローズマリーとは俺の四つ下の妹。
初めて出来た女の子という事で両親どころか使用人達までそれはもう甘やかして育てた。
赤ん坊の時からローズマリーの欲しがるものは全て買い与えていた。そんな事をしているうちに、八を過ぎた頃から使用人達が身に付けているものを欲しがるようになった。が、使用人達は喜んであげていた。
花よ蝶よと甘やかされて育てられたローズマリーは、自己中心的で、傲慢で、泣き虫で、気に入らない事があったら直ぐに怒鳴り散らす大人に育ってしまった。
両親や使用人達はローズマリーの育てかたを間違っていたことにようやく気づいた。しかし、俺はそうは思っていなかった。
甘やかしていたと言っても、ちゃんと貴族としての教育やマナーの講義は将来社交界に出ても恥をかかないように、キッチリ受けさせていたのだから。
講義をきちんと受けていれば、人前で怒鳴り散らしたり、泣き喚くことも、人のものを取ったらいけない、ということも分かるはず。
それに、ローズマリーが使用人達の物を欲しがった時に、全員が全員喜んで渡したとは限らない。
何人かはこれだけは絶対に渡せないと拒否し、人の物は取ってはいけないと注意していたが、ローズマリーは聞く耳を持たずその者達を屋敷から屋敷の主人である父の許可なく勝手に追い出した。
ステファンやソフィア、メアリーがその追い出された三人。
彼らは幼い頃からずっと一緒にいたので居なくなる事は考えられなかった。なので追い出された後、父ではなく俺が雇い主となり俺の元で働いて貰っている。
彼らを勝手に追い出したローズマリーには怒りしか湧かない。
それが、今では殺意に変わった。
何故既婚者と知っていながら恋仲になる。
確かに幼い頃から惚れっぽい所はあったけれど、それでも何故よりによって既婚者で、しかも俺が惚れた相手の旦那なんだ。
クソ野郎。
例え彼女と糞が離婚しても、不倫相手の身内なんて……。
「少し一人にしてくれ……」
「分かりました」
ステファンとソフィアが部屋を出てから一人で色々考えたが、ネガティブな事しか考えられずに太陽は昇り、王宮に戻る日がやって来た。
予めまとめてあった洋服や生活必需品は持たずに退職届を持って王宮へ向かった。
今、この状態ではまともに務めを果たせない、と考え騎士を辞める事にした。
もちろんステファン達には今朝伝えた。三人とも今のこの状態ならば仕方ないと理解してくれた。
騎士団長に退職届を出し、速攻屋敷へ戻った。
速攻と言っても行きに三日、帰りにも三日かかった。
その間に何も進展していなければいいけれど、そんな思いどおりにはいかないこの世の中。
屋敷に着いた直後、ステファンからありえない報告を受けた。
「坊っちゃま、大変です。ローズマリー様がご主人と腕を組みながら奥様がいらっしゃる自宅へと入って行ったとソフィアから報告がありました」
「!? どういう事だ! 何故そんな馬鹿な真似を」
「分かりません、ですがいつも屋敷で『彼と結婚するの』と吹聴していましたから、恐らく……。今ソフィアとメアリーに見張りさせています」
そんなやり取りから一時間後、メアリーが屋敷に戻って来て
「ローズマリー様とご主人が奥様に不倫している事実を告げて離婚して欲しいと。それで、奥様が家を出てしまいました。奥様は近くのボロ宿に泊まる様です。一応まだメアリーに馬鹿二人を見張らせています」
開いた口が塞がらない。
が、今は口を開けている場合ではない。
三人で父上と母上の元に向かい報告する。不倫の証拠ならば今まで調べてきた物がこれ幸いと大量にある。
例え二人が娘可愛さに事実を見ようとしなくても、証拠を突きつけてやる。
「父上、母上、少し話したい事があるのですが今いいですか?
いいですよね? ありがとうございます」
ノックもせずに入ってきた俺たちにビックリしている両親に自問自答し、二人の前にローズマリーの不倫の証拠を全て差し出した。
「ローズマリーはとある既婚男性と三週間ほど前から不倫していました。そしてたった今不倫相手の奥様に不倫している事を話し、離婚して欲しいと言ったらしいです」
不倫の事実が事細かに書かれた書類を見て目を見開き言葉を失っている二人に言葉で追い打ちをかける。
「やはり、ローズマリーは不倫していた……のか?」
父が書類から目を離し、俺の方を向き言葉を放った。
父の顔は青を通り越して白くなっている。
父の口調はまるで事実を知っていた風に聞こえる。
「ローズマリーが最近よく恋人の自慢話をしていたんだ。『彼は将来私と結婚してくださるの』とか、『とっても優しい人なの。あの人には勿体ないぐらいに』とか、『早く夫婦になりたい』とか。それでその男の事を少し調べてみれば世帯持ちで、私はローズマリーが不倫しているなんて信じたくなくて、見て見ぬふりをしてしまった。まさか、こんな事になるなんて」
「貴方! 今はそんな事言っている暇は無いでしょう。ねぇ、今その女性はどこにいるの? こうなってしまったのは親である私達の責任よ」
父の弱音発言に母が喝を入れた。
今彼女がいる場所を伝え、その場所に家族全員で向かった。
そこで彼女から
『私は今怒りなどありません。私は二人が結ばれたのならば幸せになって欲しいのです。ですがそれだけだとお嬢様になんら罰は下りません。ですのでこうしませんか? 二人だけで一切の援助なしに暮らさせるのです。あの二人は身分が違いすぎますのでこれからは沢山の困難が待ち受けるでしょう。ですが真実の愛があれば乗り越えられるはずです。乗り越えられなくても一生二人だけで暮らさせます。真実の愛なのですから笑』
との発言が。
そして父はローズマリーの勘当を言い渡したり、いつの間に用意していたのか誓約書を書いたりと、、、
まあ、その後も色々とあり、今は彼女とステファン、ソフィア、メアリーの五人で俺が持つ別荘でのんびりと暮らしている。
彼女との関係は今はまだ、ただの同居人的な感じだけれど、不倫相手の兄だからといって嫌われているような素振りは見えない。
父の勘当宣言が良かったのかな?
あぁ、そうだった、先日父から彼女と元旦那の離婚が成立したとの手紙がきた。
そしてローズマリーが妊娠した事なども書いてあった。
後者はどうでも良かったが、離婚に関しては自分的にはとても嬉しかった。
彼女は声には出さなかったけれど、口角を上げていたので嬉しかった?はず。
その日の夜、レンガの家の方でパーティをした。
離婚おめでとうパーティ?みたいなやつを。
そのパーティではステファン達も一緒に酒を飲んだり、ご飯を食べたり、ゲームをしたりした。
彼女は、お酒をジュースと勘違いし大量に飲んでしまい酔い潰れた。
彼女が酔い潰れた事もありパーティはお開きになった。
彼女をお姫様抱っこし、ログハウスに向かう途中「アルバート」と寝言をこぼした。
早くあんな奴忘れてしまえばいいのに。
どうしたら自分を見てくれる?
あんなやつよりも俺のほうが貴方を幸せにできるのに。
休暇がめちゃくちゃ長い気がする。
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