【若紳士視点】中編
誤字報告、ポイント、ブクマなどありがとうございます!
コンコン
自室で【これを身につければ必(ry】を読んでいるとドアをノックする音が聞こえた。
返事をすると扉が開き、俺専属の執事のステファンとメイドのソフィアとメアリーが入ってきた。
ステファンの手には分厚い紙の束がある。
メアリーの手には中くらいの大きさの箱がある。
「失礼します。坊っちゃま、少しお話があるのですが少々お時間を頂いてもよろしいですか?」
「構わないけれど、どうかしたの?」
「いえ、坊っちゃま。恨まないで下さいね」
そう執事が言うと何故か三人が襲いかかってきた。
ステファンは素早く後ろに回り俺の両腕を思い切り掴み、ソフィアは両足を思い切り踏みつける。
ソフィアは後でお話しようか
いくら騎士とはいえ馬鹿力二人組に押さえつけられれば簡単に抵抗は出来ないし、する気力もない。
押さえつけられている間にもメアリーが持っていた箱の中からロープや手錠を取り出し俺につけていく。それはもうガッチリと。しかも口には猿轡を加えさせられた。
ロープを巻き終え、手錠が付けられると三人はひと仕事終えたバリの汗を流し、ふ〜、と一息着いている。
一体何故こうなったのか、
確か過去にも勉強が嫌で逃げ出したらこの時の様に椅子に縛り付けられた事があったような気がするけれど、今は逃げ出してもいないし、何なら今は勉強中。
疑問に思っているとステファンが正面に椅子を持ってきて座り、話す準備を整えた。
「坊っちゃま、今から私が話す事は坊っちゃまにとってとても辛い事だと思います。ですがいい話もあるのでちゃんと最後まで聞いてくださいね」
まずは縛った理由を言って欲しかった。
ステファンは持ってきていた紙束に目をやり、一度ため息をついてから話し始めた。
「最近坊っちゃまが一目惚れした女性の身辺調査をして参りました」
は?
確かにあの方の事は三人に話した。が身辺調査してくれとは一切言ってないし、して欲しいとも思ってなかった。
「そんなに睨まないでください。一応坊っちゃまも貴族の端くれなのですから結婚するやもしれない女性の身の回りの事を調べるのは当然のことでしょう」
が、結婚の二文字を出されてしまえば、釣り上げた目じりは下がるし、口角も自然に上がる。
結婚。なんていい響きなんだろう。
「悪い報告と良い報告?があります。最後までよーく聞いて下さいね」
「まず悪い報告から。坊っちゃまが一目惚れした女性は既婚者でした。残念」
は??????
ステファンの放った言葉を上手く理解できない。
既婚者?キコンシャ?ナニ…ソレ……
呆気に取られる俺を無視してステファンは続ける。
「次に良い報告?を。既婚者と言っても恋愛結婚では無かったようです。現にご主人は何人もの女性と不倫していたようです」
恋愛結婚では無いなら大丈夫か。
って、んな訳ない。
てか、あんな女神のような方を妻に持っておきながら不倫だと?今すぐにぶっ○してやる。
「嗚呼、本当に縛っておいて良かったです。青筋立てて、眼を血走らせて、鼻息も荒くして。今にも手を汚しに行ってしまいそうですね」
「手を汚しに行くのは私の話を最後まで聞いてからにして下さいね。坊っちゃま、初恋が叶う確率は5.2%だそうです。ですが何せ可愛い坊っちゃまのめでたい春なのですから私とソフィア、メアリーが一生懸命サポートさせて頂きます」
俺の頭を撫でながら子供に言い聞かせる様にステファンが言う。
なんと心強い。
「ですが、今坊っちゃまが暴力沙汰を起こされますと、牢獄行きは確定でしょう。もし牢獄に行けば彼の女性に会えませんし、暴力で牢獄に入った人間などと思われるやも知れません」
ステファンの言葉で頭に昇っていた血がスーッと下がった。
確かに彼女に会えないのは困るし、引かれたくない。
でも、旦那の事は許せない。
「眉間に皺がよる気持ちも分かりますよ。ですが、暴力は絶対になりません。ただ、剣ではなくペンで社会的地位を落とすのは構いませんよ。ペンは剣よりも強しと言いますし、それに上手くやれば証拠も残りませんからね」
嗚呼、本当にステファンは頼りになる。
確かに不倫の証拠を事細かく紙に書いておいてそれをばら撒く方が、殴るよりもダメージがいきそう。
俺がもう暴れる心配は無いと判断したのか、猿轡と手錠が取られ、ロープが解けていく。
「今からちょっと糞の所に行って証拠をとってくる」
「それはなりません」
ロープが全て解かれたのを確認してから、椅子から立ち上がったが、ステファンに止められた。
「情報収集は私とソフィアがやりますので、坊っちゃまはメアリーから恋愛指導を受けていて下さい」
少々不満もあるが恋愛指導と聞いては受けずには居られない。
ステファンとソフィアは話してから直ぐに部屋から出ていった。
「ご主人様は最近【これを身につければ必ず好きな女性に振り向いてもらえる50のテクニック!】 ばっかり読んでいますね、楽しいですか?」
メアリーは机においてあった【これを身につければ必(ry】を汚物を持つようにつまみ上げる。
持ち方に少々の疑問はあるが、なんと言うか、これを読むのは
「楽しいと言うよりもタメになると言った方が正しいかな?」
「コレがですかぁ?」
メアリーが眉間に皺を寄せつつ、頁を適当に捲り音読していく。
「[28,ブランド物を身につけよう]好きな女性に振り向いて欲しい人は“ブランド物”を身につけよう!高級腕時計や高級スーツを身につけて普段から過ごそう。え?何故かって?そんなの決まっているでしょう。ブランド物を身につけている人を見るとカッコイイと思う女性は八割もいるからよ」
そうなのか、やはりタメになる。
「何コレ、気持ち悪。今どきブランド物で釣れる女性なんて八割どころか二割いるかどうかでしょう。時代錯誤も甚だしい」
「え? ちょっと待ってくれ、それはどういう事だ?」
「どういう事もこういう事もありません。この本が出来たの三十年前みたいですよ? まさかそれを真に受けているのですか? まぁ、確かにちらほら真っ当な事は書いてありますけれど、それらは常識的な事ばかりですからね?」
嘘だろ、俺は三十年前の“一般論”を真に受けて、知ったかぶっていたのか……。
恥ずかしすぎる。
「コレは後で適当に返しておきますからね!」
「はい」
「では、これから現代のモテテクをお教えしていきますので心して聞くように」
「はい」
✣
メアリー先生の授業が始まってから早数日がたった。
一日目は座学で現代の恋愛の“基本”を学び、二日目からは実技になった。
実技では、紅茶を入れたり、料理を作ったり、掃除をしたりと、なかなか貴族ではやらない事を体験した。
なんでも今は家庭的な男性がモテるそう。
何分初めての事ばかりで分からなかったが、メアリー先生が分かるまで教えて下さったので、今では料理や紅茶は店に出せるまで上手くなり、掃除も屋敷全体が築一年目の様にピカピカになった。
後はステファンとソフィアの報告を待つのみ。
早く良い報告が聞きたい。
続く
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