01,
「僕は真実の愛を見つけたんだ。君には悪いと思っている。ずっと傍にいて支えてくれたのは君だけれども·····、自分の気持ちに嘘は付けない。もう愛のない夫婦生活は嫌なんだ」
「本当にごめんなさい。でも私彼が好きなの」
目の前で真実の愛とやらを語っているのは私の夫であるアルバート。
そしてそのアルバートの腕にしがみつき、ウルっとした瞳で顔を見つめ好きと言ったのは不倫相手らしき女。
私たち夫婦は親同士が決めた結婚で愛はない。
らしい。
私は最初は親同士が決めた結婚で別に好きでもなんでもなかったけれども今は少しの好意ぐらいある。
ずっとこの先も夫婦として生きていくと思っていた。
しかし、その矢先コレだ。
今朝普通にアルバートが仕事に行くのを見送ってから家事を済ませ、内職を始めようとした時だった。
仕事に行っていたはずのアルバートが帰ってきた。しかも動きづらそうなドレスを着てアクセサリーをごちゃごちゃ着けた私とは何もかも正反対そうな派手女を連れて。
今、その派手女と腕を絡めてイチャイチャしている。
妻である私の目の前で。
こんな状況だけれどもまだ離婚したいとはっきりとは言われていない。
覚悟が決まっていないのか、イチャイチャして言い忘れているのか、言ったつもりになったのか、多分最後のだと思うのだけれども、私が黙ったままだとすぐにはっきりと言われるだろう。
なんか、コイツから離婚して下さいって言われてそれに頷くのってなんか嫌だな。
従順な負け犬になったみたい。
こんな不倫男に捨てられるぐらいならこっちから捨ててやりたい。
でも素直に離婚するってこの女の思うつぼじゃない。
なにかざまぁをしてやりたい。
この女と男にできる仕返しはあるかな?
やるなら思いっきりやりたい。
イチャイチャする二人を少し観察してみる。
二人にできる最高の仕返しは、、、と、
ん?
女の顔を見ているとどこかで見たことがある顔。
それに、アルバートの給料じゃ買えないようなネックレスやら指輪をしているような、
この女って結構いいとこのお嬢様?それだったら慰謝料をたんまり貰おうかなって、、、違う······。
この女どこかで見たことがあると思ったら領主様の娘じゃない!?
確か名前をローズマリーって言ったっけ?
もし本物だとしたら仕返しなんて無理じゃない。どうしよう。
いやでもこの人本物のローズマリー様?
違うよね?貴族の令嬢がこんな平民の男と結婚なんてするはずないし、身分が違うし生活水準なんて何もかも違うでしょう。それなのに結婚したいだなんて·····、ありえないよね?
でもすごい似てるし仕草もなんか心做しか上品に見えてきた。
やっぱりこの女はローズマリー様?どうしようかしら。
下手にざまぁしたら処刑される。何か穏便にざまぁさせる方法あるかな?
いや、まてよ、それだ!一か八かの賭けに出てみよう!
「コホン、二人とも私は二人の真実の愛を応援します! 誰になんと言われようと応援します! 愛する人と結婚できることは素晴らしいですからね! 私は荷物をまとめ次第直ぐにこの家を出ていくので二人で一生この家で幸せに暮らしてくださいね!」
二人のイチャイチャを止めるために咳払いをし二人がこちらを見たのを確認してから声高らかに言った。
作戦はこう。
二人をこの家に住ませて二人だけで生活させる。
ただそれだけ。
二人は身分が違いすぎる。
この女は貴族で当然掃除も洗濯も料理もした事はないはず。
もちろんアルバートも。ずっと私が家の事をしてきたんだから。
え?そんなの使用人を雇えばだって?
それはちゃんと考えてあるよ。
この女の父親である領主様は超愛妻家で不誠実な事が大嫌いで有名な人。
だから自分の娘が人様の旦那を寝とったって知ったら勘当すると思う。
私はその勘当に便乗させてもらう。
私の旦那がお前の娘に寝盗られたって怒鳴ってやる。
まあ、忙しい領主様に会えるか分からないし、そもそも愛する奥様との間に生まれた娘を勘当するのかも分からない。
私だけが不幸になるか皆不幸になるか賭けてみようじゃない。
「ほ、本当にいいのかい? いや、嬉しいんだよ? でも、なんか、ちょっとぐら」
「ええ! 勿論よ! 愛する人と幸せになりたいんでしょう?
絶対に幸せになってね! 私も貴方がいなくても幸せになってみせるから! お互い幸せに生きていこうね!」
ゴモゴモ言っているアルバートの声を遮り大きな声で言ってやった。
私が素直に別れないとでも思ったのかな?
それとも二人の愛の障害物が無くなったのが嫌だった?
そこのアルバートの腕にしがみついている女の人、そんなに睨まないで下さいよ。
私障害物にはなりたくないの。そんな障害物になっている時間があったら新しい恋でもしていたいわ。
ハッキリとしない二人を置いて寝室へと向かった。
言葉通りこの家から直ぐに出ていくために自分の服や化粧品、お金などをカバンに詰めた。
服などは全てカバンに入ってしまった。
あんまり持ってなかったのよね。オシャレを気にしたりなんてしてなかったし。する暇も無かったし。
詰め終わってからふと左手を見る。
薬指にはアクアマリンが付いた結婚指輪がはめられている。
結婚指輪とか一応貰ってはいたんだけれど、どうしようか。
捨てる?いや、ものに罪はない。
じゃああの女にあげる?いや、なんか嫌だ。
じゃあ売ろうか。
そうしよう。
重たくなったカバンを持ち寝室を出ようとした。
せっかくだし家を出るんだからおめかしでもしようかしら?
いつもは家事とかに追われて化粧とかしてこなかったからたまにはいいよね?
門出みたいなもんなんだから。
カバンに仕舞ってしまった化粧品を取り出し久しぶりの化粧をしてみた。
結婚する前は結構よくしていた。けれども今はまったく。
久しぶりすぎて上手に出来るか不安だったけれども案外手が覚えているみたいで上手に出来た。
邪魔になるからと後ろにお団子にまとめていた髪を解くといい感じに巻かれている。
鏡にはさっきの地味な私ではなくあの女に負けず劣らずの私が映っていた。
よし。行こう。
「それじゃあさようなら! お幸せにね!」
二人の幸せ()を最後にもう一度願ってから急いで家を出た。
できるだけ顔を見ないように。
玄関を出てから家のほうを振り返りお辞儀をする。
数年だけれども住んだ家。
この家とサヨナラするのは少し悲しい。
今まで雨風をしのいでくれてありがとう。
あなたのお陰で私が安全に暮らせたわ。
さようなら。
二話は今日中に投稿できたらなと思ってます
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