第7話 襲撃者
「チックショウ!! どうしてこうなる!?」
小太りの男が、喚き散らす。
「……仕方ない。ちょっとした手違いだ」
脇に立つ、ひょろ長の男が答える。病気のように色白の男は、憲兵の制服を着ていた。
「ちょっとしただと!? 下調べで、手練れの連中が出払ってるのは分かってただろがぁ!!」
「わぁったからよぉ! 早く戻ろうぜ? 獲物がいなくなっちまう!」
もう一人、憲兵の制服を着た男が、苛立ちながら問う。
「バカかぁ!? 行けるもんならとっくに戻ってる!! 死にてぇのか!? てめぇは!!」
小太りの男の叫び声に、チッと舌打ちた男はひとり呟く。
「あの可愛い子、死んでなけりゃいいなぁ」
舌舐めずりしながら、薄く不気味に笑う男の目には、煙に包まれる村が映っていた。
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―数時間前
村の入り口には、大人たちが集まっていた。
「……どうしたの?」
ステラは村人のひとりに尋ねた。
「あぁ。商人のロイが、村の外に来てるんだ。なんでも、憲兵を連れてきたから村に入れろと……」
村人がそう教えてくれた矢先、外から呼び掛ける声がする。
「村長さんとのお約束通り、憲兵の方をお連れしました! どうか村に入れてください!」
その声を聞いて、大人たちが集まる。
「どうする? ダンからは、村に人を入れるなと……」
「知らないやつって話だぞ? 相手はロイだ。しかも、憲兵様まで連れてるって……」
そうこう村人が議論していると、今度は違う人物の声があがる。
「おい! 村人ども! 我々、憲兵団が直々に訪れているのに、なんたる無礼か!
即刻この門を開けなければ、反逆罪に処す!」
その声を聞いた村人たちは、門を開くことを決めた。
ギィィィと開いた門の先には、商人と憲兵の姿をした男が二人、それに数人の冒険者のような男たちがいた。
しかし、ステラはハッと気付く。
憲兵の姿をした男たちに、見覚えがあることに。
そして冒険者の一人、小太りの男が言う。
「全く、手間掛けさせやがって。
お前たち、お楽しみの時間だ!」
そう言うと、商人が連れてきた男たちは村人に襲いかかった。
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何が始まったんだ? と、ロイは思った。
急にリーダーの男が宣言したと思ったら、自分の連れてきた男たちは略奪を始めた。
「な、何してるんです!?」
「あぁ?何って、見りゃ分かるだろ?
おい! 手練れどもは留守だ! ゆっくりでいい。女は好きにしていい、歯向かう奴は殺せ!」
そこで、ようやく自分が盗賊の片棒を担がされていたことに気付く。
「あ、あなた達ですか!? 村を襲っているっていうのは!?」
「おうよぉ……。この間の村じゃ、悪戯が過ぎたが今回は上手くいきそうだ……」
不敵に笑う小太りの男に、掴みかかる。
「ぼ、僕を、騙したのか?」
小太りの男は、その手を振り払うと、
「……兄ちゃんには世話になったなぁ。
礼に、命だけは取らねぇでやるよ、さっさと失せろ!!」
こちらを睨み付ける目は、まるで虫けらをみるようだった。
うわぁぁぁ! と、叫び声を挙げながら商人は街道を走り去って行った。
「いいんですかい?」
小太りの男に仲間が問う。
「ふん、かまやしねぇ。
どうせ、すぐに魔物の餌食だ」
そう言うと、ちょうど略奪品を運ぶのにお誂え向きな、ロイの荷馬車を村の中にいれるように命じた。しかし、その中には保険の品があることを、小太りの男は知らされていなかった。
自分も、略奪に加わろうと村に入ろうとしたとき、黒い塊が彼の脇を通過する。
その塊の正体に気付いた瞬間、襲撃者達は村に火を放って、一目散に逃げ出したのだった。
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村の入り口に着いたとき、村は炎に包まれて大きな煙りをあげていた。
「こ、こりゃ一体?」
元冒険者の男が目を凝らすと、変わり果てた村人達が横たわっている。
よく見れば、遺体は剣で切られたり、刺されたりしたと言うよりも、獣に襲われたようにボロボロだった。
「くそぉ! おい、手分けして生き残り探す……、おい?」
彼の視線の先には、放心状態で立ち尽くす自分がいた。
―― 何もかもがそっくりだった。
煙の燻かしさも。
辺りに満ちる死の臭いも。
この地獄に、自分は呼ばれた。
なぜ?
一体、なんのために?
俺を痛めつけて楽しんでいるのか?
―― こんな、偽者の自分に
「しっかりしろ!!」
頬を叩かれ、我に帰る。
「呆けてる場合か!!生き残りを探すんだ!」
二人が進みだそうとしたとき、炎の奥で蠢く、黒い影が現れた。
ゆらゆらとこちらに近づいてきた影が、徐々に姿を鮮明にしていく。
「冗談だろ……」
やがて、元冒険者の男が驚愕の声を漏らし、炎に浮かび上がった影は、その姿を二人の前に現した。
「狂狼……、だと」
黒々とした毛並みに覆われた狼が、冷たい目でこちらを見据えていた。




