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まがいもの軍師の国取物語  作者: 田辺千丸
王都の攻防
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第51話 拒絶

 アリサが目覚めたと聞いて、ヒルと共に部屋へ向かうと、守備隊長と起き上がったアリサがこちらに視線を向けてきた。


「……どのくらい眠っていたの? 私」

「丸一日くらいだが、大丈夫なのか?」

「平気よ。それより、状況はどうなっているの?」


 意外なほど冷静なアリサに、少々困惑した守備隊長が、戸惑いながら説明を始めた。


「現在、大きな変化はありません。テミッド王子は、約束を守っておられるようです」

「そう、傲慢ごうまんな人ね。急ぎましょう。あと二日しかない」


 アリサはそのまま部屋を出て行き、守備隊長があわてて後を追って行く。

 ショックで泣き出したり、兄の裏切にいきどおる事もない彼女の様子を見て、ヒルがこちらに話しかけてきた。


「意外に平気そうじゃねぇか、王女様」

「……そう、見えましたか?」

「いや。かなり思い詰めてるな、ありゃ」

「……行きましょう」


 ヒルと共に、アリサ達の後を追って城壁の上層へ向かった。


※※※※※※※※※※


 二人を追って行った先で、城壁の上から自分の国を侵略せんとする兄の軍勢を睨みつけるアリサの姿があった。


「隊長、あの軍勢を止められますか?」

「……出来得る限りのことは致します」

「……分かりました。彼らの好きには、させられません」


 少し離れたところで見守っていたヒルが、深刻な面持ちでこちらに耳打ちしてくる。


「おい! 不味いんじゃないか? このままだと、王女様は……」

「ええ。全滅を覚悟で、国境ここで戦うつもりです。彼女は」


 アリサの言動には身に覚えがあった。かつて、辺境の村で自分がおちいった、復讐に囚われた姿。たとえ、全てを犠牲にしてでも……


「ともかく、彼女をこのままには……」

「あなた達」


 ヒルとの話に夢中になっていて、アリサが近くに来ていたことに気付かなかった。

 毅然と、そして、何者をも寄せ付けようとしない見たことのない彼女が、そこにいた。


「用が済んだなら、ここから去りなさい」


 すると、今まで肩に乗っていた聖霊が、アリサの方へと飛び移って行ったのだった。


※※※※※※※※※※


「どうしちまったんだ。王女様は」

「刺し違えてでも、ここで王子を止めたいんでしょう」

「出来ると思うか?」

「無理です。それに、敵は彼らだけじゃありません」

「ここで戦っても、帝国の主力は健在か……」


 敵は西だけではない。


 東にも不穏な動きを見せるバラク王国、それに国内ですらまとまっていないこの状況では、まともに動くことすら出来ない。


 だが、それ以上に……


「アリサがあのままなら、彼女は確実に死にます。そんな事は、絶対させません」


■■■■■■■■■■


 ククリが戻って来て、私の周りから再び人が遠ざかって行く。だけど、今はこの状況が好ましい。

 眼下の軍勢を睨みつけ、無駄と分かっていても、あの中に居るであろう兄の姿を探してしまう。


 そんな事をしているうちに、誰かが私に近付いてくる。誰かは、見なくても分かっていた。


「まだ居たの?」

「ここでいくら意地を張ったところで、君の望む結果にはならない」

「そうね。あなたに言われなくても、分かっているわ」

「君は王女だ。個人的な感情で、戦って良い立場じゃ……」

「分かってるって言ってるでしょ!!」


 正論を叩きつけてくる青年に苛立ち、出た声は意外に大きいものだった。

 親を殺され、そして、目の前には道を踏み外した兄。ここで戦わない選択肢は、私には無い。


「あなたに、あなたに何が分かるの?!」


 この時ばかりは、聖霊に耐性を持つ彼が鬱陶うっとうしく思えた。今まで睨んでいた矛先が彼の方を向くと、悲しい表情を浮かべた顔が、視界に飛び込んで来た。


「……分からないと思うのか?」


 そう言われて、私は、辺境で出会った少女の顔を思い出して絶句する。怒りに任せて飛び出そうとしていた彼を、引き止めたのは私だ。


「あの時とは、立場が逆だな」


 悲しい表情のまま苦笑する彼は、見ていて辛くなるほど痛々しい。


「俺は、今でも自分が許せない。託されたものすら守れなかった、力の無い自分が」

「そんなこと……」

「君がこのままなら、俺と同じ苦しみを背負ってしまう」

「ば、馬鹿にしないで」

「深呼吸して、周りを見てみろ」


 馬鹿馬鹿しいと思いながらも、言われた通りに深く息をして周囲を、守備隊の面々を見回す。

 すると、今までは一様に無表情に見えていた彼らの表情が見て取れるようになった。


「こ、これって……」


 ある者は死を覚悟して硬い表情を崩さず、ある者は涙を浮かべて立ち尽くし、ある者は膝を抱えて壁に持たれかかっている。

 それぞれ反応は様々だが、皆が絶望を感じていた。


「見えたか? ここの現状が」

「……少し、考えさせて」


 そう言って、私は逃げるようにして自室へと向かった。


■■■■■■■■■■


 アリサが立ち去った後、遠くから見守っていたヒルが近づいてくる。


「どうだった? 王女様は」

「今はまだ。ただ、周りは見えるようになったはずです」

「だが、流石にお前の策は受け入れられないだろ?」

「なんの話ですか?」

とぼけんな。お前、国の西側を切り捨てるつもりなんだろ?」


 思わずヒルの方を向くと、彼は肩を竦めながらこちらを睨んでいた。


「馬鹿にすんなよ。今までの状況を考えれば、お前の考えは見え見えだ」

「……ここで戦っても、皆が無駄死にするだけです。それに、そうしなければ、この国の西側は確実に生き残れませんから」

「どう言うことだ? 何で切り捨てることが生き残ることになる? 逆だろ、普通」


 困惑の表情を浮かべるヒル。確かに彼の疑問はもっともだ。ただ、それはまともな為政者いせいしゃが居ての話。


「そろそろ、オエスにも影響が出始めているはずです」

「……何が起こってる?」

厄介やっかいな人物が、玉座に座っていますから……」


 この国の王族は、そろいもそろってアリサを苦しめずには居られないらしい。


 それからヒルは、西部の現状を調査すると言いて国境を後にしたのだった。


※※※※※※※※※※


 夜。ヒルが居なくなった事で、あてがわれた部屋は随分と広く感じる。

 猶予もあと明日の一日だけとなって流石に焦る気持ちもあるが、一人でここを離れるつもりは無い。


 そんな時、部屋の扉を叩く音がした。

 立ち上がり扉を明けると、目の前にはアリサが立っていた。


「どうしたんだ?」

「……少し話せる?」

「ああ。大丈夫だ」


 そう。と言って部屋に入って来たアリサは、ベッドに腰掛けた。自分も向かいのベッドに腰掛けて向かい合わせに座ると、心なしか彼女が少し不満そうな顔をしたように見えたが、彼女はすぐに表情を消してしまった。


「それで、どうしたんだ?」

「……国境ここで戦っても勝てない事は分かっています。だったら、あなたならどうするのかを、聞こうと思って」


 言うべきかを少し考えて、自分の考えを正直に彼女に話すことにした。お互いに腹を探り合っている時間は、もう残されていない。


「俺は、エルドの西側を一旦手放す必要があると思っている」

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