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まがいもの軍師の国取物語  作者: 田辺千丸
王都の攻防
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第45話 国境開放

ここから徐々に伏線回収して行ければと……

※※※※※※※※※※


 王都から少し西に行った農村で、憲兵達が馬車に収穫された作物を運び入れていた。そこに、血相を変えて村人が飛び込んでくる。


「か、勘弁してください! その苗まで持ってかれたら、来年の作付けはどうすれば良いんです!?」

「黙れ!! 国が戦火に見舞われるかもしれん時に、いやしいやつめ!!」


 憲兵に食い下がる村人だったが、数人掛かりで引き剥がされて袋叩きにされる。他の村人たちは遠巻きにただ見守っていることしか出来なかった。


「手間掛けさせやがって……。おい、仕上げだ!」


 憲兵の一人が大きな袋をズルズルと引きってきた。井戸の手前で運んできた袋を憲兵が開けると、物凄い異臭が漂う。


「そ、そんなもん、どうする気です?!」


 村人たちの目線の先には、魔物の死骸が転がっていた。


「コイツを井戸に投げ込むんだ」

「や、やめてください! そんなことされたら、水が使えなくなってしまう!」

「そうだ。それで良い」


 村人達はどよめいたが、憲兵達に剣を向けられて沈黙するしかなかった。


「お前たちが使えるということは、敵も使えるということだろ? おい、やれ」

「や、やめろ!!」


 村人の叫びも虚しく、憲兵は井戸の中に魔物の死骸を投げ入れると、根こそぎ収穫された作物と共に村を去っていった。


 残された村人達は、途方に暮れるしかない。


「……このままここにいても、死ぬだけだ」

「だが、どこに行けば……」

「東だ。王都には、憲兵あいつらがいる。システィルまで行けば……」


 わずかな荷物を持って、村人達は東に向かうしかない。だが、魔物も出現する道のりは、途方もなく過酷なものだった。


※※※※※※※※※※


 国境の城塞で馬車に積まれた棒切れを組合わせる作業をしていると、偉そうにした青年が声を掛けてきた。


「貴様、何をしている?」

「何って、別に……」


 彼は騎士見習いらしいと、ヒルが持ち帰ってきた噂を思い出す。支配階級の出身。しかも、相当に有名な一族の出自しゅつじらしく、噂はいたるところでささやかれているらしい。


「貴様!? 士官に対しての口の利き方を教わらなかったのか?」

「あぁ、そっちを気にするタイプか……」


 アリサの部隊ところで慣れきってしまったが、軍隊は完全な縦社会。階級の高い者が絶対だ。

 ただ、目の前にいる青年は、見たところ年は同じくらいだったし、不思議と親しみのような感情を抱いてしまっていた。


「失礼しました。士官どの」

「貴様!?」


 思わずの棒読みで馬鹿にしてみると、青筋を立てて怒り出す青年。案外、扱い易い奴だ。


「貴様が何を企んでいるか知らんが、無駄だぞ!!」

「企むって……。まぁ、いいか」


 まるで、自分がこの国をおびやかしている様に聞こえるが、反論しても話をややこしくするだけだと気付いて、話を切り上げることにした。


「おい、もう一人はどうした?」

「……さぁ。迷っているんですかね」


 無論、ヒルの行動は把握している。むしろ、こちらから頼み事をしたのだから。


「フン! まぁいい。無価値な駒が減ったところで、困りはしない」


 そう吐き捨てて、彼は自分のそばから離れて行った。

 無価値な駒。彼はその一つに、おのれが含まれていることに気付いているのだろうか?


「さてと……。そろそろ、行ってみるか」


 粗方の木枠を組み終えて、自分はアリサのところへと向かうことにした。


※※※※※※※※※※


 アリサは用意された部屋には居なかった。部屋の前に配された近衛兵に尋ねてみるが、しばらく姿見ていないらしい。


 近衛兵に礼を言って部屋を後にすると、石段を登って城塞の頂上まであがり、辺りを見回すと城壁に突っ伏している王女の姿があった。皆、気を使ってか、もしくは聖霊がいるからか彼女に近づく者は居なかった。


 そんな彼女の方へと近付いて行くと、


「あなたは、どうすれば良いと思う?」


 気配に気付いたアリサが先に声を掛けてくる。


 彼女の視線の先には、多くのゴンドからの難民がいた。


「どうすれば、か。出来ることは二つしかないだろ? 国境を開くか、彼らを拒絶するか」

「……そんなの分かってる」


 聞きたいのはその先だと、目で訴えかけてくる。


「……国境を開かなければ、彼らは、ここに向かってくる侵略者の脅威に晒される。今見ている光景は血で染まるかも知れない」

「でも、国境を開いても私達が彼らにしてあげられることは僅か。それに、彼らを受け入れれば、必然と国内の食料需要が高まる。そんな備蓄どこにも……」


 人道的には、国境を開く方が正しいとアリサも分かっている。だが、エルドの国民のことを思えば、容易に決断することは出来ない。


 それが、この国の王女としての彼女の責任だ。


「……彼らを侵攻への壁にすべきだと言われた。でも、私にはそんなこと出来ない」


 あの士官様か? 余計なことを言ったのは。と、心の中で思ったが、逆にその事で彼女の決意は固まっているようだ。

 あとは、きっかけさえあれば、彼女は決断出来る。


「なぁ、アリサ。君の軍は確か、遠征軍の兵站へいたんになっていたよな?」

「え、えぇ……。後方支援として。それがどうかしたの?」


 前線のために必需品や食料などの供給、補充を行う任務。その影響で、北方への人員が割り込まれたと聞いていた。


「同盟国とはいえ、補給拠点をゴンド側に作っているとは思えない。利便性を考えれば、この近くに……」

「遠征のための兵糧を使う気なの!?」


 二万もの兵士が戦うための兵糧だ。しかも、王までもが出陣しての大々的な軍勢の。たっぷり貯め込んでいるはずだ。


「今、ヒルさんに確認してもらってるけど、遠征軍の姿が消えてしまった今、補給部隊も行動出来ていないはずだ」

「でも、もしお父様たちが戦っていれば、兵糧は必要なはず……」

「アリサ、彼らが姿を消して十日以上。それまで補給も連絡も一切無い。君も気付いて……、いや、もしかして、誰かから聞いているんじゃないか? 彼らは、もう……」

「やめて!」


 やっぱり、彼女は何かを知っているようだったが、本題はそこではない。辛そうに顔を背ける彼女を問い詰める必要など、今はない。


「兵糧を使っても、しのげるのは一時だけ……」


 アリサが話し始めたのを黙って聞く。


 今、必要なのは助言アドバイスでは無い。彼女の心の声を、聞いてあげることだ。


「でも、希望にすがって辿たどり着いた先が、死を待つだけの行き止まりなんて、あっていいはずないよね?」


 こちらに向けて問いかけられた言葉に小さく頷くと、それを見たアリサは、そっか。と、呟く。


「警備隊の人達と話さなくちゃ。悪いけど、この子、お願いできる?」

「ああ、任せろ」


 聖霊ククリはその言葉を聞くと、自ら、こちらの肩へと移動してくる。


「じゃ、行って来ます!」


 何処か吹っ切れた顔で、彼女は警備隊の元へと向かって行った。


「……さて、こっちも準備しないとな」


 聖霊を伴って、こちらもその場を後にする。


■■■■■■■■■■


「城門を開いて、彼らをエルドに迎えます」

「馬鹿な!? そんな事をしたら、我が国がどうなるのか分かっているのか!?」


 隊長にベッタリくっついていたラウ・ブルームは、信じられないとばかりに食い下がってきた。


「分かっています」

「分かっていない! あの連中は、行く先々で食料を食い尽くして移動する、害虫と変わらないんだぞ!?」

「彼らは人間です!! 決して軽んじて良いはずがない! 侮辱ぶじょくは、許しません」


 目を見開き、歯を食いしばって怒りの感情を露にするラウが、こちらに向かって一歩踏み出そうとしたとき、彼は肩を掴まれて止められる。


「王女に向かって、無礼者が!」


 隊長の剣幕にラウは引き下がり、この場から退場していった。

 彼の姿を見送った隊長は、改めてこちらに振り返る。


「よろしいのですか?」

「……ええ。お願いします」

「分かりました。――開門!!」


 隊長の号令で、商隊用に開かれていたのとは別の大きな城門が、轟音と地響きと共にせり上がって行く。


 ここから先がどうなるのか、見えないままで。


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