表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まがいもの軍師の国取物語  作者: 田辺千丸
王都の攻防
48/60

閑話 女神か死神か 前

 王都のスラム街。

 今、ここ裏社会の闘技場での盛り上がりは、最高潮に達していた。


 深いため息をついた進行役の男は、高らかに宣言する。


「それでは皆様! お待ちかね! 殺人キリングマシンの登場です‼」 


 歓声と共に正面の門が開くと、二つの影が現れる。

 一つは大柄の男。筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の男は、鼻息荒くセナの全身を隅々まで舐め回すように見ると、ニヤッと笑みを浮かべる。


「なんとも、可愛らしい嬢ちゃんじゃねぇか! 出来れば、もっと別のところで楽しませて欲しかったが……。お前は、どう思うよ?」

「……」


 もう一つの影は、全身を黒いマントで隠した人物。こちらの表情は覗うことが出来ないが、佇まいからは只者ではない雰囲気を感じさせている。


「チッ、相変わらず暗いヤツだなぁ!」

「……気を付けることだ」

「あぁ⁈」


 マントの人物の言葉に、不満をあらわにする男。


「……匂いだ」

「匂いだぁ?」

「……ああ、見た目は麗しくとも、匂いは誤魔化せない。あいつは、こっち側(・・・・)の人間だ」


 目の前の二人組のやり取りを、相変わらずの無表情で眺めていたセナだったが、一歩前に出て進行役に話しかけた。


「それで、どうすればよろしいのですか?」

「あぁ⁉ どうもしないさ。これから始まるのは、一方的な殺人だ」

「そうですか。存外、殺さないと言うのも難しかったもので」

「……?」


 疑問符でいっぱいの進行役を脇に、こちらの声が聞こえたのか、大柄の男が一歩前に出てくる。


「言ってくれるじゃねぇか! 安心しろよ、手加減なんていらねぇ!」

「……お一人で、よろしいのですか?」


 セナの言葉に、完全に沸点を超えた男が凄まじいスピードの拳をセナに向けて放つ。


 何でもないように、最小限の動きで男の一撃をかわしたセナだったが、男の拳はそのまま進行役の男に直撃した。

 強烈な一撃は、進行役の頭蓋をいとも簡単に砕くと、その勢いを留めずに人だったものを伴って、リングに叩きつけられた。その場には、男の拳を中心として、血と肉片によって汚い花びらのような模様が作り上げられる。


 その様子を見て、観客は大歓声を揚げる。


「おおっと‼ サニエルの拳が炸裂! 目の当たりにしたセナ嬢は放心状態かぁ⁉」


 実況の声など意にも介さず、涼しい顔で拳を放った男に視線を向けるセナ。男は、自分の行為に陶酔とうすいするように、ゆっくりと立ち上がりながら高揚した顔を向けてきた。


「あ〜ぁ、やっちまったぁ。上手く避けるじゃねぇか、このサニエル様の拳をよぉ。デカい口叩くだけのことはあるってかぁ?」

「別に、大したことをした覚えはありませんが?」

「挨拶程度で、調子に乗ってんじゃねぇよ!」


 サニエルは強烈な拳を連続でセナに向けて放つが、セナはそのことごとくを、まるで舞を舞うように華麗に躱していく。


 客席からは大ブーイングの嵐が巻き起こる。


「セナ嬢の華麗な姿にも、会場は不満爆発だぁ‼ 彼らは血を見たがっているぞ!」


 その言葉を聞いて、サニエルは大振りに拳を振り上げ、放った一撃によってリングの床を粉砕した。


「やるじゃねぇか! 五十人斬りのサニエル様の拳をこれだけ受けられたのは、お前が初めてだ!」

「五十人斬り?」


 セナは疑問を口にすると、大きく跳躍して男との間合いをとる。


「知らねぇのか? 恐拳のサニエルって言えば、王都でそれなりに有名になったもんだが……」

「申し訳ありませんが、存じ上げません」

「王都で名を馳せた殺人鬼の名だ! その後、裏社会に拾われた俺は、この闘技場で二十連勝。対戦相手は、全て肉塊に変えてやった!」

「そうですか」


 何でもない事のように、あっさりとした返事を返す少女に、サニエルは怒りよりも若干の興味が湧いた。


「そのスカした態度、たまんねぇなぁ! お前、実はビビってんのを無表情で隠してんじゃねぇか?」

「そんなことはありませんが、あえて言えるとすれば……」


 セナは、眼前の男の言葉を否定しつつ、些細な質問をするように尋ねた。


「なぜ、いちいち数を覚えていられるのでしょうか? 私は、興味すらありませんでしたから」


 その言葉を聞いて、恐怖を感じたのはサニエルの方だった。マントの男の言っていた通り、目の前の少女は明らかにこちら側。


 狩る側の人間だ。


 よくよく見れば、少女のガラス玉のような瞳は、深淵しんえんへの入口と言わんばかりにこちらを覗いている。


たった(・・・)、五十人程度だからでしょうか?」

「ふ、ふざけてんじゃねぇ‼」


 恐怖に駆られたサニエルは、自分の出せる最大限の力でセナに向かって拳を突き出した。凄まじい拳圧とスピードに、周りの空気が一気に圧縮され、弾ける。爆発音と共にサニエルは、自分の体に大量の返り血が着いているのを確認して安堵する。


「な、なんだぁ! 案外、あっさりと……」

「何のお話でしょうか?」


 驚愕の表情を浮かべてサニエルが振り返ると、そこには、真っ白な少女が佇んでいた。


「う、嘘だろ⁉」

「止血されないのですか?」

「え?」


 セナに指摘されて、ようやくサニエルは気付く、自分についている血がセナのもので無いことに、そして、打ち出した拳の手首から先が無くなっていることに。

 それに気付いた瞬間から、とんでもない痛みが彼を襲い始める。


「お、俺の、俺の手がァァァ!」


 残った手で切断された手首を力一杯握りしめ、悶苦もだえくるしむサニエルの姿を、セナは何事もないかのように見つめていた。


 この闘技場では、あらゆる武器の使用が認められている。現に、サニエルの拳にはメリケンサックに似た金属がつけられており、セナの手首には銀色の細い腕輪があり、そこからはピアノ線のような細い糸が引き出されていた。


「その程度で、死にはしません」

「ふ、ふざけんなぁぁ‼ 殺す‼ 殺す!」


 目の前で怒り狂う男の怒気も、まるで眼中に無いセナ。


「人は極力殺すなと言われていましたが、殺人鬼(おに)ならば良いのでしょうか?」

「糞がァァァ‼」


 完全に頭に血の登ったサニエルは、止血も痛みも忘れて、残った手で全力の一撃を放つ。完璧に少女の体を捉え、吸い込まれるように向かう拳に、サニエルは勝利を確信していた。数秒後、いつもの肉塊が残る未来しかサニエルには想像出来なかった。


 だが、サニエルの予想した未来は訪れなかった。


「申し訳ありませんが、ここまでです……」


 セナがつぶやくと、サニエルの突き出した腕がボトリと地に落ちる。


「ああああーーーー‼」


 絶叫するサニエルだが、両手を失った彼に、為す術など無かった。


「た、頼む‼ た、助けてくれぇーー‼」

「あなたは、今までそう言って来た人達を、どうしましたか?」


 その言葉に、目を見開くサニエル。

 人生の最後に、己の罪をただされる。


「苦しませるのは、本意ではありません」


 セナは、腕輪から細い糸を引き出すと、サニエルに近寄っていく。


「せめて、迷わずに」


 そう言って、彼女がサニエルの脇を通り過ぎると、彼の首は地に落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ