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まがいもの軍師の国取物語  作者: 田辺千丸
王都の攻防
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第39話 国境へ

※※※※※※※※※※


「大将、上手くやってますかね?」

「さぁな。まぁ、アイツなら大丈夫だろ」


 王都の下町のとある部屋で、ヒルと冒険者の男はヒサヤの身を案じていた。


「き、貴様ら! ただで済むと思うなよ!」


 目の前には縛りあげられた憲兵達が数人。その中の一人は、先ほどからすごい剣幕けんまくでこちらに吠えている。


「どうします?」

「放っておけ。それより、あの白い譲ちゃん達の方が心配だが……」


 王都の手前で情報収集に励んでいた一行だったが、情報を集めれば集めるほど、事態は予断よだんを許さない状況にあることが分かった。


 今、打てる手はすべて打っておこうと言うことになり、一行は行動を開始したのだった。


「しかし、本当にいい使いっぷりだ。付いていく相手を間違えたか……」


 そう言うと、仲間の男は笑い、ヒル自身も自らの顔がニヤけているのに気付いたのだった。


■■■■■■■■■■


「姫様!? どうされたんですか? お目が」

「……ミア。心配しなくて大丈夫だから」


 宮殿の自室に戻ると、泣き腫らした目をどうにも隠すことが出来ずに、侍女の少女がこちらを気にかけてきた。


「ミア。一人になりたいから、今日はもう下がって……」

「……分かりました。姫様」


 そう言って、こちらに深々とお辞儀をする少女は、年齢も背格好も私に近い。

 彼女の役目は、私の身の回りの世話ともう一つ。ちちが用意したその役目を、彼女が果たす日が来ないことを、私は願っている。


 侍女が退室して行くと、私は水瓶に溜められていた水で顔を洗った。頬に伝わった涙の筋が消えて、腫れぼったかった目も、幾分かマシになったように感じる。


「本当、人の気も知らないで……」


 そんな文句を口にしながらも、口角が少し上がっているように感じる。

 そして、彼の胸で泣いてしまった恥ずかしいような、嬉しいような不思議な感情が込み上げて来て、私はベッドに飛び込み、枕に顔をうずめた。


※※※※※※※※※※


「さてと……」


 しばらくベッドに身を預けて、ようやく気持ちの整理がつくと、ベッドから起き上がる。


 天窓からは、いつの間にか月明かりが入って来て、夜になってしまったことに気付いた。


 目の腫れは少しあるようだが構わない。ちょうどいい暗がりに、これから向うところには、私の顔をまともに見る相手などいないだろうから。


 身支度の前に、いつもミアが用意してくれている花びらやハーブが浮かべられた浴槽に身を沈めながら、一人で考えを巡らせる。


「……エマは怒るかなぁ」


 私の決断は変わらない。兄の空言そらごとに、皆を付き合わせる訳にはいかない。


「君は、どう思うのかな……」


 とある青年を思い浮かべて出た言葉に、胸が締め付けられるのを感じながら、小さなため息が漏れる。


「駄目だなぁ、迷ってるんだ……私」


 すぐに国境に向わずに宮殿に来たのは、酷い顔を人に見られたくなかったのに加えて、彼を引き離す為だ。

 私は彼に付いて来て欲しくない気持ちと、彼にそばにいて欲しい未練に揺れていた。


「覚悟を決めた筈なのに……、こんなに弱かったんだ。私は」


 本当に悪いタイミングで出てきてくれたものだ。

 あのまま、彼に会わずに国境に向えたのなら、私はこんなに迷わなかった筈なのに。


 浴槽から出て、服を着ると大きく深呼吸して気を静め、ようやく私は部屋の扉に手をかけた。


「どうされましたか? 王女様」


 部屋の外で私を監視していた兵士が、声を掛けてくる。


「……話は聞いていますか?」

「はい。明日の朝までに出て来なければ、引きり出すようにと言われております」


 無用な気遣いをと苦笑し、兵士に告げる。


「今から出ます。宮殿にいる者達に悟られぬように、私を連れ出しなさい」


 兵士は眉をひそめたが、面倒ごとを起こされるよりはマシとばかりに、私だけを宮殿の外へと連れ出してくれた。


※※※※※※※※※※


 暗がりの道を王都の城門へと向かう私の周りは、貴族派の私兵達に憲兵と中々の人数になっていた。


 知らない者達に囲まれて進むうちに、徐々に私の迷いも消えていく。まるで、感情までもが失われていくように、皆、無言で城門に向かった。


「止まれ」


 城門に到着すると、何故か馬を止められた。


「どうしたの?」

「準備は出来ている。……全く面倒を掛けさせる」

「準備?」


 てっきり、このまま進んで行くのかと思っていた私が戸惑っていると、兵士は一台の馬車を指した。


「貴女が準備させたのだろ? 今夜にも立つからと言って、《《憲兵》》が強引に持ち込んで来たが、積み荷も大した物ではなかったしな」


 憲兵と言う言葉に胸を衝かれて固まっていると、馬車の中から顔を隠した一人の憲兵がこちらに近づいて来た。


「遅かったな」


 聞き覚えのある声の人物に、私の嫌な予感が当たっていた事が分かる。


「……フン。先に出ているぞ」


 そう言って、憲兵が馬車に乗り込むと、彼らは先に進み始めた。


「何をしている? 早く進め!」


 兵士に声を掛けられて、ようやく馬を進め始めたのだが、私の心の中は、ぐちゃぐちゃにかき乱されていた。


■■■■■■■■■■


「王女様、怒ってなかったか?」

「恨まれる方が、死なれるよりマシですから」

「そりゃ、そうだが……」


 馬車に乗るなり、こちらも憲兵の装いをしたヒルが尋ねて来るが、自分の答えに納得しないまでも引き下がっていく。


 王都で再会した時、彼女は一人で城門に向かおうとしていた。腹心の者達も連れずに、彼女が行こうとする先など知れている。


「それにしても、言われた通りに集めちゃみたものの、こんなもんが役に立つのか?」

「分かりませんが、何も無いよりは良いですから……」


 自分たちの後ろには、大量の棒切れのようなものが積まれている。


「じゃ、行きましょうか。国境へ……」


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