第3話 とある街にて
大きな街の店の一角で、頭を抱える商人の姿がある。
彼の悩みの種。それは辺境の村で請けた仕事だった。
憲兵を連れてきてほしい。そう言われて渡された魔石を換金した時、驚く程の金額を手にした商人は、うまい仕事だと思うと同時に、新たな儲け話に興奮した。
大森林に近いあの村の付近に巣くう魔物達は、溜め込む魔力の量も質も桁違いで、街中で流通しているものとは比べ物にならないくらい上質な魔石が生成されるようだ。
あの村を拠点として、周囲の魔物を討伐していけば、ひと財産築くことができるかもしれない。
可能なら今すぐにでも冒険者を雇い入れ、あの村に戻りたかったのだが、村長から請けた仕事が商人の足枷になっていた。
「あの憲兵ども!! いくら金を積んでも一行に動きやしない!!」
既に換金した金額の三分の二ほどを積んでいるのに、村への派遣を承諾しようともせず、挙げ句には、難癖をつけて金を要求してくる憲兵。このままでは、赤字にもなりかねない状況だった。
大体、なんでわざわざあの憲兵に頼ろうとするのか、商人には理解できない。
憲兵団は王国内の治安を守るために組織された。しかし、現在の第二王子が団長に就任して以来、憲兵団は完全な営利目的の集団になってしまった。主に大物の貴族や領主に取り入り、商人や民衆からは、金を巻き上げるだけでなにもしてはくれない。
そのため、一般的に厄介事は有志で組織された自警団や冒険者に依頼するのが普通だった。
「くそ!! 僕があの村に何かしたか!? なんで、こんな厄介事を」
「旦那、随分とお困りのようですが、どうかしたんですか?」
悪態をついていたところに、一人の小太りな冒険者が商人に話しかけてくる。前回の辺境の村への護衛を斡旋してくれたパーティーのリーダーと言う人物。
次の遠征の商談に、商人のところに訪れていたのだった。
「ああ、全く厄介な事を引き受けちまったもんだ! 憲兵を連れてこいなんて、安請け合いするんじゃなかった」
「ほぉ、憲兵をですか……。
旦那、自分達がお力になりますよ?」
小太りな男は不敵な笑みを浮かべて、商人に提案を持ちかける。
「……どうするんです?」
「自分達が、憲兵に化けるんですよ!」
「……上手く行くんですか?」
「ど田舎の連中だぁ。本物との見分けなんざ出来やしねぇ」
冒険者の案は八方塞がりだった商人には、魅力的な案だった。
だが、商人としての意地が、ロイを誘惑から一歩踏みとどめていた。
「何か、思惑でもあるんですか?」
「旦那ァ。その村の近くには、村を襲ってる連中がいるかも知れないんでしょう?
これは、むしろ人助けですよ」
人助けと言う言葉に、商人の心は完全に傾いてしまった。
それは、苦労してきた商人に言い分けを与えてくれるのに、十分過ぎる言葉だった。
「……人助け、ですか。確かに、このまま放置しておくことも出来ませんからね」
「さっすが旦那だぁ、自分達も精一杯、お力になりますよ!」
「ああ! そうと決まれば善は急げだ。出発の準備に取りかかろう! よろしく頼むよ!!」
「任してください!」
忙しなく準備に取りかかる商人の後ろで、冒険者は不敵な笑みを浮かべるのだった。