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まがいもの軍師の国取物語  作者: 田辺千丸
北方の地で
29/60

第26話 小鬼

■■■■■■■■■■


 残党を山奥に追い立てるために追撃の指揮をとっていると、シンと冒険者達が山の方から姿を現した。


「シン。やっぱり、あなた達だったのね」


 シャルが声を掛けるが、シンは黙り込んだままだった。彼もまた、自分の想像を超えるものをの当たりにしたのだろうから。

 それでも、彼らには伝えておかなければならないことがあった。


「シン。あなた達のおかげで私たちは助かった。感謝します」

「王女様…」


 わずかに活力の戻った彼の目に安堵あんどしながら、先ほどから気になっていた事を口にする。


「ヒサヤはどこにいるの?」

「それが…、地図を持ってた奴の村に」


 それを聞いて、何故か嫌な予感がした。

 暴走を食い止めたとはいえ、未だに小鬼ゴブリンたちは北部一体に散らばっている。


「アリサ!どこに行くの!?」


 不安にかられてその場を離れようとした私を、エマが引き止める。


「あなたはここの指揮官なのよ?」

「でも…」

「私が行く」


 私達のやり取りを見ていたシャルが、スッと前に出る。彼女は、私以外のことで自ら動くことは滅多めったにないのに。

 それを見ていたエマも、珍しいものを見たように驚いていたが、ハァとため息をついた。


「あなただけでは、接近戦は不安でしょ?…あの子(・・・)にも行ってもらいましょう」


 そう言うと、エマは一人の人物を呼びつけた。


■■■■■■■■■■


 北方の少年、コルトの案内で山道を目的の村に向けて進む。


 一緒に付いてきたのはウルとヒルだけだ。シンはアリサの軍に合流させるようにした。冒険者とアリサ達とのつなぎ役が必要だったし、相当な精神的疲労があるようだったからだ。

 ちなみに冒険者たちとの契約は小鬼ゴブリンの撃退までのはずで、ヒルが付いてきてくれたのは彼の好意によるものだ。


 山道を進みながら、案内人の少年に気になったことを聞いてみることにした。


「コルト、今から向かうのは君の村なんだよな?」

「あぁ。そうだ」

にえの地って言うのは…」

「本当だ。村は小鬼ゴブリンたちに自ら生け贄を差し出すことで、なんを逃れてきた」


 確かに地図で見たところ、他の村に比べてこの村だけが異様に北に突出とっしゅつしていた。

 他の村々が小鬼ゴブリンを恐れて南下していくのに対して、他者の命と引き換えに災厄さいやくを回避してきた結果だろう。


「でも、なんで君一人がノルの街で行き倒れてたんだ?両親とかは…」

「…死んだ」

「え!?な、…」


 表情を変えず淡々と語る少年に、こちらが口ごもってしまう。


親父オヤジは妹が生け贄に選ばれたときに殺された。男親は抵抗されると面倒だからと。母親はその境遇きょうぐうに耐えきれずに自ら命を絶った。…俺には、もうあいつしかいないんだ」


 自分たちの命可愛さに、他人の命を平気で奪う人々。その異常さが、これから向かうところへの不安をつのらせた。


※※※※※※※※※※


 だいぶ森の奥地に進んで、ようやく村の入口付近に到着する。村は丈夫そうな丸太で周囲を完全におおうように造られていて、城壁を持った要塞ようさいといった印象だった。


「…祭壇さいだんは、ここより北の森の中にある。迂回していこう」


 コルトの提案に従って、村の祭壇へと直接向かうことにした。目的は別にあるのだから、わざわざ危険を冒す必要はない。


 祭壇は直ぐに見つかった。大量の食料に加えて、数個の大きいかめが備え付けられている。


「ソニア!どこだ、ソニアァァ!!」


 コルトが瓶に向かって叫んだとき、奥の木陰こかげがガサガサと音を立てはじめた。


「ソニア!?」


 走って向かおうとするコルトの肩を掴んで引き止め、もう片方の手で剣のつかを掴む。ウルがうなり声を上げ、ヒルも剣を抜いて構える。


 そして、木陰からは数匹の小鬼ゴブリンが現れた。


※※※※※※※※※※


 初めて正面から対峙たいじした小鬼は、邪悪じゃあくそうな牙をちらつかせながら、薄笑いを浮かべているようだった。手には棍棒こんぼうや短剣のような武器を持ち、遠目とおめでこちらの出方でかたうかがっていた。


 そのとき、コルトが押さえていた手を振り解くと、短剣を引き抜きながら小鬼ゴブリン目掛けて突っ込んで行ってしまった。


「お前らがァァァ!!」 

「止せ!」


 小鬼ゴブリンはコルトの一撃をかわすと、反撃とばかりに彼を蹴倒けたおし、落とした短剣を奪って彼の腕を突き刺した。


 悲鳴を上げるコルトと、それを見て愉快ゆかいそうに笑い声を上げる小鬼ゴブリンたち。

 そこへヒルと共に剣で斬りかかると、小鬼ゴブリンたちはコルトから離れ、再び遠巻とおまきにこちらの様子をうかがいながら笑い声を上げていた。


 明らかに意思を持ち、統率とうそつのとれた戦い方。小鬼の知能はかなり高い。おまけに、残忍ざんにんさも折り紙つきだ。

 数匹を相手にするだけで、これだけ厄介やっかいな相手とは予想外だった。


まったく、められたもんだ」


 ヒルは腰から短剣を引き抜くと、それを小鬼の方に向かって投げる。その短剣が小鬼の頭を突き刺したのと同時に、彼はもう一匹の小鬼の首をねていた。


 あっという間に仲間が殺られていく様を見て、残り二匹の小鬼ゴブリンたちは笑うのを止め、武器を構えて直す。


 そのうちの一匹は、ヒルを格上の相手と確信して、こちらへと襲いかかって来た。


 だが、その動きは今までの魔物に比べて圧倒的に遅い。狼と比べれば、スローモーションのような動きだ。小鬼ゴブリンの短剣が届く前に、相手の胴体に向けて剣を叩き込むと、小鬼ゴブリンはその場に崩れ落ちていた。


 肉と骨を断つ嫌な感触が手に残る。思えば、これまでの戦いは、向かってくる相手の力を利用していただけだった。今、自分は初めて自分の意思で、相手を倒すための剣を振るっていた。


 そんなことを、考えていたからだろう。もう一匹が、こちらに吹き矢のようなものを構えているのに気が付かなかった。


チクッ


 不意に肩に突き刺さった針の痛みで我に返り、小鬼ゴブリンの方を見ると、ヒルが最後の一匹を仕留めていた。


「…こいつらは、恐らく斥候せっこうだぞ?」

「はい。早くここから離れたほうが良さそうです」


 肩に刺さった針を抜き、ちょっとした違和感はあったが、早くここから逃げ出すことにしたのだった。


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