第20話 北方の地
北方都市ノル。
北部の大山脈と王都との間に位置するこの地方都市に、アリサの軍勢は一先ず拠点を構えて兵や物資を集めていた。
「でっかい山だなぁ」
北に数千メートル級の山々が連なるのを見て、シンは興奮していた。
「ところで兄貴、王女様たちはどこに行ったんだ?」
「軍議、だそうだ」
「兄貴たちは、参加しないのか?」
「俺が口を出す事じゃないからな…」
軍議は、指揮官で王族のアリサに、支配階級である騎士が中心に行われるそうだ。そのため、アリサにずっと付き添っているシャルですら、軍議には参加できないらしい。
そんな場所に、どこの馬の骨ともわからない自分が参加できるわけもなく、また、参加する気もなかった。
「シン。こんなところにいたの?」
「げえっ、シャル!?」
現れたシャルを見て、青ざめた顔をするシン。
「弓の練習。終わってない」
「か、勘弁してくれぇ」
逃げようとするシンだが、すぐにシャルに捕まってしまい、引きずられるように行ってしまった。
シンたちを見送っていると、何かが足に戯れ付いてくる。見れば、ウルが尻尾をブンブン振ってコチラを見上げていた。王都ではデルトに預けていたが、ここでは連れて歩くしかない。
「…お前、よくそんなもん連れてるよな」
シンたちと入れ替わるように、ヒルが近寄ってくる。彼から見れば、狂狼は自分の村を滅ぼした魔物。敬遠するのも無理はなかった。
「まぁ、今となっちゃどうでもいい。それより、行くんだろ?ギルド」
「はい、お願いします」
「…そいつは置いていけ、討伐されちまうかもしれないぞ」
ウルを部屋に戻し、ヒルと共にノルの冒険者ギルドへと向かう。
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「そう言えば、小鬼ってどんな魔物なんですか?」
「あぁ?そんなことも知らないで、お姫様に付いてきたのか、お前?」
呆れた顔をしながら、ヒルは小鬼について説明してくれた。
「大きさは人の子供と同じくらいか、少し大きい。気性が荒く、知能は高いが本能での行動を優先する。人の里に出れば、略奪や人さらいを繰り返す厄介者だ」
「知能が高い?」
「武器を使ったり、ある程度の社会を形成してるってことだ」
「社会性があるってことは、リーダーがいるってことですか?」
ならば、方針が変わってくる。リーダー個体の撃破に重点を置くならば、あるいはと。
「残念だが、そんな簡単じゃないぞ。小鬼は集団が大きくなると、その行動が変化するんだ。より本能に従って、暴走する集団になる。そうなれば、リーダーなんて関係ない」
「…どうやって止めるんですか?」
「欲望を満たすまで放っておくか、もしくは群れを小さくするしかない」
「つまり被害を少なくするには、殲滅をするしか…」
兵力差が劣勢な上に、敵を殲滅する。
そんなことは、不可能に近い。
「前回のときは、一万以上の兵を投入したって話だが…。なぁ、いよいよヤバくなったら…」
「はい。俺たちを捨てて逃げてください」
迷わず答えた自分に、目を見開くヒル。
「冒険者さん、相当の実力があるようですから、俺たちを置いていけば逃げ切れるんでしょう?」
「お前は、いいのか?」
「決めたことなので」
それを聞いて、ハァとため息をつき、ばつが悪そうに頭を掻くヒル。
「…前もこんなことがあったな。なに、心配しちゃいねぇよ。俺は、お前の目を信じてんだ」
そんな会話をしていると、目的の冒険者ギルドに到着した。
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ギルドに入ると、中は閑散としていた。
依頼を貼り出している掲示板を見てみると、小鬼退治の依頼が複数あるのに加えて、剣のマークの入った依頼も確認することが出来た。
剣のマークが入った依頼は、報酬が割高で遠くへの遠征が必要なものばかりだった。あからさまに、冒険者を北方から遠ざけようとしているのが分かる。
「まぁ、想像していたことではあるな…。それに、実力の無い奴らは、とっくに逃げ出しちまってる頃だしな」
ギルドの奥へと入り、受付へと向かう。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか。依頼を受ける場合は、掲示板から用紙を…」
「いや、今のここの情報が欲しいんですけど」
「はぁ、情報ですか?」
困惑して眉をひそめる受付の女性。
「…ここ最近で、なにか変わったこととか、ありました?」
「…そうですねぇ、知っての通り小鬼の兆候があってから、北の地を離れる方が多くなりました。それから、王都から依頼が大量に届くようになって…」
やっぱり、手を回されていた。ここまでは、想定通りのこと。
「あと、最近では黒羊の目撃情報が増えてるんですが、依頼を受けてくれる方が居なくて…」
「黒羊?」
「この地方の魔物です。普段はもっと山脈寄りに生息しているはずなんですが、小鬼に押し出されてきたのかも…」
一通り話しを聞いてみたが、他に有益そうな情報は無かった。
そうして、自分たちがお礼を行って帰ろうとした時、はっと思い出したように一枚の依頼用紙を出してくれた。
「これ、正式な依頼では無いんですが、勝手に掲示板に貼られていたものなんです」
見れば殴り書きのような汚い字で、依頼が書かれていた。
「…妹を助けて下さい?」
「ええ、イタズラにしてはちょっと奇妙で…」
そんな奇妙な依頼には、待ち合わせ場所と思われる場所が書かれていた。
「…どうすんだ?」
聞いてきたヒルは、「厄介事に首を突っ込むな」とでも言いたげに、こちらを見ていた。
「…行ってみましょう」
時間を無駄にすることは出来ないが、どうしても依頼の内容が気になってしまった。




