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まがいもの軍師の国取物語  作者: 田辺千丸
北方の地で
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第20話 北方の地

 北方都市ノル。

 北部の大山脈と王都との間に位置するこの地方都市に、アリサの軍勢ぐんぜい一先ひとまず拠点を構えて兵や物資を集めていた。


「でっかい山だなぁ」


 北に数千メートル級の山々がつらなるのを見て、シンは興奮していた。


「ところで兄貴、王女様たちはどこに行ったんだ?」

軍議ぐんぎ、だそうだ」

「兄貴たちは、参加しないのか?」

「俺が口を出す事じゃないからな…」


 軍議は、指揮官で王族のアリサに、支配階級である騎士が中心に行われるそうだ。そのため、アリサにずっと付き添っているシャルですら、軍議には参加できないらしい。

 そんな場所に、どこの馬の骨ともわからない自分が参加できるわけもなく、また、参加する気もなかった。


「シン。こんなところにいたの?」

「げえっ、シャル!?」


 現れたシャルを見て、青ざめた顔をするシン。


「弓の練習。終わってない」

「か、勘弁してくれぇ」


 逃げようとするシンだが、すぐにシャルに捕まってしまい、引きずられるように行ってしまった。


 シンたちを見送っていると、何かが足にじゃれ付いてくる。見れば、ウルが尻尾をブンブン振ってコチラを見上げていた。王都ではデルトに預けていたが、ここでは連れて歩くしかない。


「…お前、よくそんなもん連れてるよな」


 シンたちと入れ替わるように、ヒルが近寄ってくる。彼から見れば、狂狼ウルは自分の村を滅ぼした魔物。敬遠するのも無理はなかった。


「まぁ、今となっちゃどうでもいい。それより、行くんだろ?ギルド」

「はい、お願いします」

「…そいつは置いていけ、討伐されちまうかもしれないぞ」


 ウルを部屋に戻し、ヒルと共にノルの冒険者ギルドへと向かう。


※※※※※※※※※※


「そう言えば、小鬼ゴブリンってどんな魔物なんですか?」

「あぁ?そんなことも知らないで、お姫様に付いてきたのか、お前?」


 あきれた顔をしながら、ヒルは小鬼について説明してくれた。


「大きさは人の子供と同じくらいか、少し大きい。気性が荒く、知能は高いが本能での行動を優先する。人の里に出れば、略奪りゃくだつや人さらいを繰り返す厄介者やっかいものだ」

「知能が高い?」

「武器を使ったり、ある程度の社会を形成してるってことだ」

「社会性があるってことは、リーダーがいるってことですか?」


 ならば、方針が変わってくる。リーダー個体の撃破に重点を置くならば、あるいはと。


「残念だが、そんな簡単じゃないぞ。小鬼は集団が大きくなると、その行動が変化するんだ。より本能にしたがって、暴走する集団になる。そうなれば、リーダーなんて関係ない」

「…どうやって止めるんですか?」

「欲望を満たすまで放っておくか、もしくは群れを小さくするしかない」

「つまり被害を少なくするには、殲滅せんめつをするしか…」


 兵力差が劣勢な上に、敵を殲滅せんめつする。

 そんなことは、不可能に近い。


「前回のときは、一万以上の兵を投入したって話だが…。なぁ、いよいよヤバくなったら…」

「はい。俺たち(・・・)を捨てて逃げてください」


 迷わず答えた自分に、目を見開くヒル。


冒険者みなさん、相当の実力があるようですから、俺たちを置いていけば逃げ切れるんでしょう?」

「お前は、いいのか?」

「決めたことなので」


 それを聞いて、ハァとため息をつき、ばつが悪そうに頭をくヒル。


「…前もこんなことがあったな。なに、心配しちゃいねぇよ。俺は、お前の()を信じてんだ」


 そんな会話をしていると、目的の冒険者ギルドに到着した。


※※※※※※※※※※


 ギルドに入ると、中は閑散かんさんとしていた。


 依頼を貼り出している掲示板を見てみると、小鬼退治の依頼が複数あるのに加えて、剣のマークの入った依頼も確認することが出来た。

 剣のマークが入った依頼は、報酬が割高わりだかで遠くへの遠征が必要なものばかりだった。あからさまに、冒険者を北方ここから遠ざけようとしているのが分かる。


「まぁ、想像していたことではあるな…。それに、実力の無い奴らは、とっくに逃げ出しちまってる頃だしな」


 ギルドの奥へと入り、受付へと向かう。


「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか。依頼を受ける場合は、掲示板から用紙を…」

「いや、今のここの情報が欲しいんですけど」

「はぁ、情報ですか?」


 困惑こんわくして眉をひそめる受付の女性。


「…ここ最近で、なにか変わったこととか、ありました?」

「…そうですねぇ、知っての通り小鬼ゴブリン兆候ちょうこうがあってから、北の地を離れる方が多くなりました。それから、王都から依頼が大量に届くようになって…」


 やっぱり、手を回されていた。ここまでは、想定通りのこと。


「あと、最近では黒羊こくようの目撃情報が増えてるんですが、依頼を受けてくれる方が居なくて…」

黒羊こくよう?」

「この地方の魔物です。普段はもっと山脈寄りに生息せいそくしているはずなんですが、小鬼に押し出されてきたのかも…」


 一通り話しを聞いてみたが、他に有益ゆうえきそうな情報は無かった。

 そうして、自分たちがお礼を行って帰ろうとした時、はっと思い出したように一枚の依頼用紙を出してくれた。


「これ、正式な依頼クエストでは無いんですが、勝手に掲示板に貼られていたものなんです」


 見れば殴り書きのような汚い字で、依頼クエストが書かれていた。


「…妹を助けて下さい?」

「ええ、イタズラにしてはちょっと奇妙きみょうで…」


 そんな奇妙な依頼には、待ち合わせ場所と思われる場所が書かれていた。


「…どうすんだ?」


 聞いてきたヒルは、「厄介事やっかいごとに首を突っ込むな」とでも言いたげに、こちらを見ていた。


「…行ってみましょう」


 時間を無駄にすることは出来ないが、どうしても依頼の内容が気になってしまった。


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