第18話 依頼
シンに案内されて、王都の冒険者ギルドに到着した。建物からはひっきりなしに人が出入りしていて、とても忙しそうな様子だった。
「王様の出陣が近いから、街道の整備や警護なんかで、いっぱい依頼があるんだってさ!」
様子を見に行ったシンが、近くの冒険者から事情を聞いてきてくれていた。
無理もないと思いながらも、どこか違和感を覚える。
「…そうか、冒険者への依頼は誰でも出来るのか?」
「さぁ、やったことないからなぁ。受付で聞いてみれば良いじゃないか?」
シンに促されて、ギルドの中へと入る。
意外に広い建物の中も、冒険者たちで溢れかえっていた。王都での仕事の増加で、各地から冒険者が集まって来ているらしいと、シンが言っていた。
人波をかき分けて、受付まで進む。
「あの…」
「どういったご用件でしょうか?」
こちらが話しかけようとすると、受付の女性は焦れったさそうに対応してきた。
あまりの忙しさに、いちいち相手にしていられないと言った感じだ。
「ああ、依頼をお願いしたいんですが…」
「申し訳ございません。現在、依頼の方が大変混み合っておりまして…」
そんなやり取りをしている最中も、受付の後ろではクエストの書いた貼り紙が、次々とボードへ貼り出されていく。
「…あの、普段もこんなに忙しいんですか?」
「いいえ。私が所属してから、こんなことは初めてです。職員も増員しているのですが、なかなか…」
ギルドの処理能力を超える仕事量に、受付の職員も手一杯といった感じなのだろう。そんな、やり取りをしていると、後ろから怒鳴り声が聞こえる。
「おい!依頼を受けないなら、そこをどけ!」
後ろには、クエストの紙を持った冒険者が列を作っていた。
自分は冒険者に順番を譲り、クエストの張り出された掲示板を眺めてみることにした。
物資の調達、輸送、そして街道沿いの魔物討伐など、様々な種類の依頼が張り出されている。
ただ、それらの依頼のどれもに剣のマークが押印されているのが見えた。
「あのマークは…」
「ああ、剣は、テミッド王子のシンボルだよ」
「第一王子の?」
確かに張り出された依頼のどれもが、ゴンド派兵に関するもののように見える。…いや、
「…やられた」
「兄貴?何かされたのか?」
「先手を打たれた」
「先手?」
そう。急遽、戦力を用意しようと思った際に、最も早い手段が傭兵や冒険者、つまり金で用意出来る人材。
それを頼る術を、先に封じられたのだ。
依頼を大量にばら撒き、ギルドの能力を奪うことで。
冒険者は、斥候や探索に長けている。
辺境で村を出たとき、その技術を見て素直にすごいと思った。
小鬼に対抗するために必要な力。
「だったら、王都以外で探せば…」
「王都に冒険者が集まってきているんだろ?それに、もう手が回ってるはず…」
「じゃぁ、どうすんだよ?」
「…ヒサヤか?」
シンと二人で悩んでいると、後ろから声を掛けられた。
名前を呼ばれた方を見ると、そこには隻眼の男が立っていた。
「兄貴の知り合いか?」
「…ああ、お久しぶりです。ヒルさん」
それは、辺境の村で一緒に戦った元冒険者。
「あぁ、あん時は悪かったな。置いてっちまうような真似して…」
「いいえ。ヒルさん、ここで何を?」
「あの後、村を襲った連中のことを調べまわるのに冒険者稼業に戻ったんだ。今は王都で活動してんだが、この騒ぎだろ」
ヒルは後ろの行列を指しながら、迷惑そうな顔で答えた。
「お前は?どうして、ギルドなんかに」
「実は、依頼をしたくて…」
「お前、王女様とこにいるんだろ?ってことは、北方のゴブリン討伐か…」
「ええ…」
「悪いことは言わねぇ。あそこは止めておけ。聞いた話じゃ、相当不味い状況らしいじゃねぇか」
渋い顔をしながら、ヒルはこちらを心配してくれていた。だが、自分にはやらなければならないことがある。
「助けなきゃいけない人がいるんです。…今度は、絶対に」
「…報酬は?」
「え?」
「報酬はどのくらいだと聞いてるんだ。依頼するんだろ?」
呆気にとられるこちらを他所に、ヒルは当然のことのように聞いてくる。
そんな男に、自分はポケットから小さい袋を取り出した。
「ふん、良いもん持ってんじゃねえか…」
これは、辺境の村を出る時にポケットにねじ込まれていたのに気付いたもの。
辺境で退治した魔物の魔石。
「貰ったものを、返すようですが…」
「何を言ってやがるんだか」
ヒルは苦笑いしながら、こちらの差し出した袋を受け取る。
「ただ、問題がある」
「足りませんか?」
「違う、逆だ。辺境の魔石は驚くほど高価でなぁ。俺一人じゃ、高すぎる。うちのメンバーも連れて行くが、問題ないか?」
「はい。是非」
「交渉成立だ」
そう言って差し出された手を握り、ガッチリ握手をした。
そして、準備があると言って別れたヒルを見送ると、自分は宮殿へと向かうことにした。
もう一人、決着をつけなければならない人が、そこにいる。
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「万事、問題あるまいな」
「はい、王よ。出陣の用意、すべて整ってございます」
王に頭を垂れ、ゴンド派兵の準備が整ったことを報告する。
「テミッドよ。そちからの報告、真であるな」
「…はい、王よ。北の地での異変は、確認されておりません」
「そうか。アリサを危険な目に遭わせずに済むか」
王は、義妹のことを常に気にかけている。
今は何も言わないことが、せめてもの救いだろう。
王との謁見を終え、王宮の廊下に出ると、一人の人物がスッと後ろに付いて歩き出した。
「…王子様も、お人が悪い」
「…黙れ、お前が描いた筋書きではないか」
「こちらの準備も整っております。いつでもお声がけを」
「…分かった」
そう言うと、いつの間にか後ろの人物はどこかへ消えていた。




