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まがいもの軍師の国取物語  作者: 田辺千丸
精霊信仰の国
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第17話 対抗策

 決意を新たに宮殿でアリサたちを探すが、姿が見えない。それも当然のことだと思った。出陣を命じられたあの王女様が、ジッとしているはずがない。


 たとえ自分が加わったとして、大した力にならないことは分かっている。自分は英雄でも勇者でもないのだから。


 それに、一騎当千いっきとうせん精神論せいしんろんなどに頼ることは出来ない。人は簡単にいなくなってしまうことを知っている。


 自分に出来ることを考えていても、宮殿では考えに詰まってしまう。気分を変えるために街の方へ行ってみることにした。


※※※※※※※※※※


 王都の街は活気に満ちあふれていた。


 王の出陣を前に、物資の運び入れなどで人の往来おうらいが激しくなっている。一部では、お祭り騒ぎをしている者さえいる。まるで、もう戦争に勝ったかのようなにぎわいだ。


 そんな騒がしい街中を、一人考え事をしなから歩いて行く。


 大群を相手にこちらが取るべきかしこい方法は、戦わない(・・・・)こと。

 つまり、アリサを守り、小鬼ゴブリンの群れとの直接対決を避けること…。


「…駄目だな」


 この方法は、北の地に住む者たちのことを全く考慮こうりょに入れていない。こんな方法を、あの(・・)王女様がゆるすはずが無い。

 そんな性格も、もしかしたら利用されてしまっているのかもしれないが…。


 つまり、大群を相手に勝たなければならない。

 五倍以上の数を相手にして。


 やはり、戦力差を埋めるか、もしくは…


「おい、お前!見た顔だな?」


 考えながら歩いている途中、呼び止められた声の方を向くと、憲兵の男たちが立っていた。


 その姿を見て、面倒ごとに巻き込まれる前に逃げようと構えたときだった。


「こっちだ!」


 いきなり手を掴まれて、裏路地の方へ引っ張られる。


 後ろからは、待て!逃げるな!と声が聞こえるが、無視してその場を後にした。


※※※※※※※※※※


 しばらく走った後、手を掴んでいた人物がその手を離して振り向いた。


「やっぱり。この間の馬の人か」

「この間?」

「俺が、ぶった斬られそうになった時さ」


 あぁ、と王都に来たときに憲兵に囲まれていた少年のことを思い出す。少し年下くらいの少年が、ニカッと笑って答える。


「どうして助けてくれたんだ?」

「…この間、助けてもらったしな。お兄さん、王女様ところの兵士なんだろ?王女様の宮殿に入っていくとこ、見てたんだ」


 厳密に言えば、自分はアリサの兵士ではないが、ここで否定しても話をややこしくするだけだと思い、うなずくことにした。


「王女の兵なら、何かあるのか?」

「…俺を、王女様の軍に入れてほしいんだ」


 アリサの軍に入りたいという申し出に、まゆをひそめてしまう。


「俺、シン」

「…シン、何で王女の軍に入りたいんだ?」


 自分にそんな権限は無い。だが、こんな時にアリサの軍に入りたいと言う理由が知りたかった。


「王女様、このままだと死んじまうんだろ?」

「!?、どこで聞いたんだ?」

「王都じゃ、みんなうわさしてるさ。俺、スラムの孤児院こじいんで育ったんだ。だから…」


 真剣な目でこちらを見てくるシン。だが、彼は分かっているのだろうか。


「シン。王女に付いていくってことは、自分も死ぬかもしれないってことだぞ?」


 それは、自分も問われた覚悟。


「そんなの分かってる!それでも行きたんだ!」


 フッ、と思わず笑ってしまったこちらをいぶかしげに見るシン。年下の少年が腹をくくっているのに、自分はその覚悟のために、どれほど悩んだものかと。


「シン。悪いけど、俺だけじゃ決められないんだ。王女には紹介するから…」

「本当か!?兄貴!」

「…ヒサヤだ。その呼び方、止めてくれないか」

「おう、よろしくな!ヒサヤ兄貴」

「だから、…もういい。シン、ちょっと行ってみたいところがあるんだが、案内してもらえるか?」

「どこに行きたいんだ?」


 大軍を相手にするのに、必要な力がある。


「冒険者が集まる場所…」

「ギルドか?なんでそんなとこに」


 シンは疑問を口にするが、冒険者ギルドへの道案内を了承してくれた。


■■■■■■■■■■


「…」

「アリサ、聞いているの?」

「え?あ、ごめんなさい…」


 エマに呼びかけられて、あわてて返事をする。

 何度目かの軍議の場で、私の心はここには無かった。

 目の前では、数人の騎士たちが議論を交わしている。


「…アリサ、少し休みましょうか?」

「いいえ、大丈夫。それで、北の状況はどうなの?」

「はい。既に多くの群れが集まりつつある様です。少なくとも十日前後で始まるものかと」

「数日中には王都を立たなくては…」


 私たちに残された時間は、あまりない。


「こちらの状況は?」

「王都や各都市の守備隊に、ゴンドへの兵站へいたん確保などで人手が足りず…」


 そう。そして、私たちは劣勢れっせいだ。

 仮に、予定通りの人員が確保出来たとしても、その状況に変わりはない。


「こうなれば、神官長にお願いして僧兵そうへい派遣はけんしてもらうしかないのでは?」

「神官派に肩入れしてしまえば、国内政治に混乱が生じるぞ。ここは、バラク王国に援軍を頼んでみては?」

「それこそ、国際問題ではないか!」


 議論が白熱しているところで、エマが机を叩き話を止める。


「今回の件、他の勢力の方々に力を借りるわけにはいきません」

「俺も、そう思うぜぇ。こんな短期間で軍勢を増やしても、指揮がややこしくなって、かえって面倒になるだけだ」


 エマにデルトリクスが同意し、この二人の意見に皆が沈黙する。


 それから有益ゆうえきな意見が出ることもなく、軍議は毎回、平行線で解散してしまう。


 騎士は、この国の名門貴族や有力な領主の出身者たちで構成されている。おの利権りけん保身ほしんで意見を変えてしまう。しかし、支配階級の彼らをないがしろには出来ない。

 その中で、エマやデルトリクスは稀有けうな存在だ。


「アリサ、無理してない?」


 側付きのシャルがお茶を入れてくれる。


「シャル。私なら大丈夫…」

あせっているの?」

「…私は、数千の人の命を預かっているの。いえ、北方の人たちのことを含めればもっと…」

「では、どうして()を置いてくの?」

「…」


 彼とは、あの不思議な人のことだ。


 答えに詰まっていると、トントントンと私の方へ近づいてくる存在があった。


「ククリ…」


 私が聖霊ククリを抱き上げると、シャルはすっときぎすを返してしまう。


「アリサ、あなた空回りしている…」


 部屋を出ていく際に、シャルは私にそう言った。

 そうだ。私は今、空回りしている。


 この子が私を選んでから、私の周りから人がいなくなっていった。

 だから、何でも自分で背負おうとした。


 そんな時、私と同じ。聖霊に耐性を持った男の子が現れた。


 彼を見て、私は一人きりじゃないんだって思えた。


 そう。私は彼を失いたくないと思う一方で、彼に一緒に居て欲しいと願っている。


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