第17話 対抗策
決意を新たに宮殿でアリサたちを探すが、姿が見えない。それも当然のことだと思った。出陣を命じられたあの王女様が、ジッとしている筈がない。
たとえ自分が加わったとして、大した力にならないことは分かっている。自分は英雄でも勇者でもないのだから。
それに、一騎当千や精神論などに頼ることは出来ない。人は簡単にいなくなってしまうことを知っている。
自分に出来ることを考えていても、宮殿では考えに詰まってしまう。気分を変えるために街の方へ行ってみることにした。
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王都の街は活気に満ち溢れていた。
王の出陣を前に、物資の運び入れなどで人の往来が激しくなっている。一部では、お祭り騒ぎをしている者さえいる。まるで、もう戦争に勝ったかのような賑わいだ。
そんな騒がしい街中を、一人考え事をしなから歩いて行く。
大群を相手にこちらが取るべき賢い方法は、戦わないこと。
つまり、アリサを守り、小鬼の群れとの直接対決を避けること…。
「…駄目だな」
この方法は、北の地に住む者たちのことを全く考慮に入れていない。こんな方法を、あの王女様が許すはずが無い。
そんな性格も、もしかしたら利用されてしまっているのかもしれないが…。
つまり、大群を相手に勝たなければならない。
五倍以上の数を相手にして。
やはり、戦力差を埋めるか、もしくは…
「おい、お前!見た顔だな?」
考えながら歩いている途中、呼び止められた声の方を向くと、憲兵の男たちが立っていた。
その姿を見て、面倒ごとに巻き込まれる前に逃げようと構えたときだった。
「こっちだ!」
いきなり手を掴まれて、裏路地の方へ引っ張られる。
後ろからは、待て!逃げるな!と声が聞こえるが、無視してその場を後にした。
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しばらく走った後、手を掴んでいた人物がその手を離して振り向いた。
「やっぱり。この間の馬の人か」
「この間?」
「俺が、ぶった斬られそうになった時さ」
あぁ、と王都に来たときに憲兵に囲まれていた少年のことを思い出す。少し年下くらいの少年が、ニカッと笑って答える。
「どうして助けてくれたんだ?」
「…この間、助けてもらったしな。お兄さん、王女様ところの兵士なんだろ?王女様の宮殿に入っていくとこ、見てたんだ」
厳密に言えば、自分はアリサの兵士ではないが、ここで否定しても話をややこしくするだけだと思い、頷くことにした。
「王女の兵なら、何かあるのか?」
「…俺を、王女様の軍に入れてほしいんだ」
アリサの軍に入りたいという申し出に、眉をひそめてしまう。
「俺、シン」
「…シン、何で王女の軍に入りたいんだ?」
自分にそんな権限は無い。だが、こんな時にアリサの軍に入りたいと言う理由が知りたかった。
「王女様、このままだと死んじまうんだろ?」
「!?、どこで聞いたんだ?」
「王都じゃ、みんな噂してるさ。俺、スラムの孤児院で育ったんだ。だから…」
真剣な目でこちらを見てくるシン。だが、彼は分かっているのだろうか。
「シン。王女に付いていくってことは、自分も死ぬかもしれないってことだぞ?」
それは、自分も問われた覚悟。
「そんなの分かってる!それでも行きたんだ!」
フッ、と思わず笑ってしまったこちらを訝しげに見るシン。年下の少年が腹をくくっているのに、自分はその覚悟のために、どれほど悩んだものかと。
「シン。悪いけど、俺だけじゃ決められないんだ。王女には紹介するから…」
「本当か!?兄貴!」
「…ヒサヤだ。その呼び方、止めてくれないか」
「おう、よろしくな!ヒサヤ兄貴」
「だから、…もういい。シン、ちょっと行ってみたいところがあるんだが、案内してもらえるか?」
「どこに行きたいんだ?」
大軍を相手にするのに、必要な力がある。
「冒険者が集まる場所…」
「ギルドか?なんでそんなとこに」
シンは疑問を口にするが、冒険者ギルドへの道案内を了承してくれた。
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「…」
「アリサ、聞いているの?」
「え?あ、ごめんなさい…」
エマに呼びかけられて、慌てて返事をする。
何度目かの軍議の場で、私の心はここには無かった。
目の前では、数人の騎士たちが議論を交わしている。
「…アリサ、少し休みましょうか?」
「いいえ、大丈夫。それで、北の状況はどうなの?」
「はい。既に多くの群れが集まりつつある様です。少なくとも十日前後で始まるものかと」
「数日中には王都を立たなくては…」
私たちに残された時間は、あまりない。
「こちらの状況は?」
「王都や各都市の守備隊に、ゴンドへの兵站確保などで人手が足りず…」
そう。そして、私たちは劣勢だ。
仮に、予定通りの人員が確保出来たとしても、その状況に変わりはない。
「こうなれば、神官長にお願いして僧兵を派遣してもらうしかないのでは?」
「神官派に肩入れしてしまえば、国内政治に混乱が生じるぞ。ここは、バラク王国に援軍を頼んでみては?」
「それこそ、国際問題ではないか!」
議論が白熱しているところで、エマが机を叩き話を止める。
「今回の件、他の勢力の方々に力を借りるわけにはいきません」
「俺も、そう思うぜぇ。こんな短期間で軍勢を増やしても、指揮がややこしくなって、かえって面倒になるだけだ」
エマにデルトリクスが同意し、この二人の意見に皆が沈黙する。
それから有益な意見が出ることもなく、軍議は毎回、平行線で解散してしまう。
騎士は、この国の名門貴族や有力な領主の出身者たちで構成されている。己が利権や保身で意見を変えてしまう。しかし、支配階級の彼らを蔑ろには出来ない。
その中で、エマやデルトリクスは稀有な存在だ。
「アリサ、無理してない?」
側付きのシャルがお茶を入れてくれる。
「シャル。私なら大丈夫…」
「焦っているの?」
「…私は、数千の人の命を預かっているの。いえ、北方の人たちのことを含めればもっと…」
「では、どうして彼を置いてくの?」
「…」
彼とは、あの不思議な人のことだ。
答えに詰まっていると、トントントンと私の方へ近づいてくる存在があった。
「ククリ…」
私が聖霊を抱き上げると、シャルはすっと踵を返してしまう。
「アリサ、あなた空回りしている…」
部屋を出ていく際に、シャルは私にそう言った。
そうだ。私は今、空回りしている。
この子が私を選んでから、私の周りから人がいなくなっていった。
だから、何でも自分で背負おうとした。
そんな時、私と同じ。聖霊に耐性を持った男の子が現れた。
彼を見て、私は一人きりじゃないんだって思えた。
そう。私は彼を失いたくないと思う一方で、彼に一緒に居て欲しいと願っている。




