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まがいもの軍師の国取物語  作者: 田辺千丸
精霊信仰の国
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第16話 自分に出来ること

 一人残され、いつまでも途方とほうに暮れている訳にもいかず、今は宮殿の中を歩いていた。


 命を掛ける覚悟を問われて、自分は答えることが出来なかった。


 辺境へんきょうの少女の記憶がよみがえる。自分の無力さをまざまざと思い知らされた、あの記憶が。


 あの一件から、人と距離を置くことにした。


 大切な人たちが、目の前で失われてしまうのが辛いから。


 逃げているのは、自分でも分かっている。


 しかし、人はあまりにも簡単に居なくなってしまう。


※※※※※※※※※※


 やがて、視界に綺麗きれいな中庭が見えた。

 中庭にあったベンチに腰掛け、何度目かの深いため息をついた後、心労からかウトウトと目をつぶってしまう。


 そこには、一人の少女が立っていた。


「ステラ、どうして…」

「ヒサヤ、迷ってるの?」


 こちらの質問を無視して、目の前の少女は問う。そう、これは夢だ…。


「…あぁ。たとえ俺が命を掛けて、何が出来る?」


 剣の腕が良いわけでもなく、魔法が使えるわけでもない。ステラを助けられなかった、無力な自分が。


「ヒサヤは、あのお姉ちゃんが嫌いなの?」

「…お節介せっかいなくらい無遠慮ぶえんりょで、そのくせ、他人に一番気をつかう、不器用なヤツだ。

 嫌いなはず、ないだろ…」

「なら、きっと大丈夫…」


 そう、言って少女は光の中に消えていく。

 まぶしい光に目を細めて、再び目蓋まぶたを開くと


「…ここで、何をしているの?」


 しばらく姿を見ていなかったエルフが、目の前に立っていた。


※※※※※※※※※※


「シャルこそ、アリサに付いていなくて良いのか?」


 いつも、彼女はアリサのそばで周囲に目を配っている。そこかしこに敵がいるこの状況が、彼女の必要性を際立きわだたせる。

 だが、肝心かんじんの王都で彼女はなぜか姿をひそめ、王宮にも付いてこなかった。


「王都は自然が少なすぎる。私には息苦しいの。アリサはどうしたの?」

「…俺は、もう必要ないんだそうだ」

「そう、無理してるのね。お互い(・・・)


 意外にも自分をもあわれむ言葉を口にする彼女に、思わず反論してしまう。


「お、俺は、別に…」

「あの子には、あなたが必要」


 シャルは迷いなく断言した。


「それに、あなたも後悔しているのでしょう?」

「…」

「あの子は、人に甘えるのが下手。そして、あなたも、人と関わるのを恐れている」


 図星を突かれ、返す言葉が見つからない。


「…意外だな。俺が嫌いなんじゃないのか?」

「…警戒していただけ。あなた、別の世界ところから来たのでしょ」

「知ってたのか!?」


 自分が異世界から来たことを指摘されて、思わず大きな声を出してしまう。しかし、彼女は小さく首を横に振った。


「知らない。でも、森人エルフも人と交わりを断って、森の中で別の世界に生きているようなもの。似ていたから…」


 それは、かつての彼女のことだろうか。人の地で一人生きる彼女エルフが、自身の境遇きょうぐうを重ねているようだった。


「いい、あの子には、あなたが必要」


 再び、アリサに自分が必要だと言うシャル。


「どうして、そう断言出来るんだ。彼女の周りにだって、頼れる人がたくさん居るだろ?」

「以前ならそうかもしれない。でも、今は状況が違う」


 何かの変化があったのか、思い当たることが一つあった。


「…聖霊か。考え過ぎだろ?アリサの周りをウロチョロしてるだけ(・・)だぞ?」

「周囲はそう思わない。聖霊は、この国では姿の見える神。それに、平気なのはあなただけ。…見て」


 彼女がそでをめくった腕は、赤くただれたように痛々しいものだった。


「…エルフには少し耐性たいせいがあるの。それでも、アリサの近くに居るだけでこうなってしまう。人は聖霊に近づけないはずなの。でも、あなたは違う」


 野営地の林で出会ったときのアリサの驚きようが、理解できた気がする。


「アリサはとても強い子。でも同時に、とてももろい。そばで支えてあげる者が必要」

「そんな、それが俺だって…」

「あなたは、なぜ異世界ここに来たの?」


 夢を見た。とても嫌な夢だった。

 その中で、少女がいつも泣いていた。


 何も出来ない自分が腹立たしくはなかったか。

 少女を支えてやりたいと、願ったのではなかったか。


 無気力だった自分の手に、再び力が宿やどる。


「アリサは光を進む子。なら、誰かが影を請け負って支えてあげなければ…」


 小さい声で「頑張って」と言うと、シャルは中庭から去って行った。


 また一人残されてしまったが、今度は心持ちが違う。再び固く握った拳とともに、自分の心は固まった。


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