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年末大掃除!ボツ作品No1

作者: 暁巳 蒼空

何度も言いますが、この作品は単発作品で続きません。ご了承ください。

 法治国家ニヴァルリッド王国。その名にふさわしく、この国は法が支配している。この国では王国法と呼ばれる憲法と、ニヴァルリッド刑法と呼ばれる二つの法が絶対とされている。


 特に刑法のほうは嘘をつくという小さな罪の第一条から殺人という重罪の第百条まで、百に及ぶ罪が罪とみなす理由から償い方まで厳しく記されている。また、第一条から第十条までの小さな罪には補刑法と呼ばれる法が対応し、例えば『嘘をつく』ならばその被害対象が三十人を超える場合。のように対象人数すらも厳格に決められていて、誰であろうと言い逃れることはできないようにしてある。


 そんな潔白の理想国家であるニヴァルリッド王国では、皮肉なことに『呪い』という技術が発達していた。


 この国で生を受けた者は誰であろうと、ある一つの呪いを受けて育つ。

 それは、罪を記録する呪いだ。刑法第一条を犯せば一と。第十条ならば十とカウントがされる。

 このカウントはその人の一生を決定する。カウント次第で居住区や職業が制限されるのは当然として、地位や資産すらもカウント次第だ。人がカウントに支配されていると言ってしまってもいいほどに。


 そんなリヴァルリッド王国の北の果て、『最果ての島』と呼ばれるカウントが二百を超えた重犯罪者の居住区、その一角のとある酒場で、統一された真っ黒なコートを羽織る人物たちが馬鹿騒ぎを繰り広げていた。


「おい聞けお前らぁ!しばらくしたら新入団員を連れてくることにした!てな訳でよろしくな!」


 酔っ払い、上機嫌な様子の男が大声を上げる。彼の髪には白髪が混じり、いかにも中年男といった風貌だが、その鍛え抜かれた身体は歴戦の勇士そのものだった。


「うふふ。団長ったらうれしそうですね」


 『団長』と呼ばれた中年男の隣に座っていた女性が答える。彼女の頬もほんのりと赤味を帯びていることから、彼女も酔っていることが窺える。


「ああそうだ。そいつ十かそこらだから妹ができたと思って接してくれ」


「うそー!なに?その子妹にしていいの!?可愛い子?」


 『妹』という単語に反応し、灰色の髪の少女が嬉々とした表情で声を上げる。


「それよりも団長様、十かそこらの少女と聞いたのですが、まさか幼女趣味に目覚められたので?」


「犯罪、変態」


「わかるぜその気持ち。堪んねぇよな、無垢な少女に手を出す背徳感。でもなぁ、女性陣の前でそれは、な.........」


 黒髪の美女に赤いフードを被った少女、王国の高級官僚。酒場に集まった面々がそれぞれ個性溢れる反応をする。だが、その大半は幼い少女を連れて来ると言う中年男へのものだった。


「いや、前も言っただろ!俺は人妻と熟女にしか興味はないって!!」


 周囲から「それはそれでどうかと思う」と言われながらも、突然降りかかる幼女趣味疑惑へと必死の形相で弁明をする『団長』と呼ばれた中年男。


「それにジョン、お前の趣味を俺に被せるな!」


「人類みな幼女趣味(なかま)、だろ?」


 『ジョン』と呼ばれた高級そうな服に身を包んだ男性が、シニカルに、けれども熱のこもった瞳で答える。彼の胸に輝くは王家の紋章。彼がれっきとした高級官僚である証拠だ。なぜこんなところに居るのかについてはいずれわかることだろう。


「それよりも団長、どうしてその子を入団させる気に?」


 中年男の隣に座る女性が「不思議だ」とでも言いたげに問う。


「それはだなぁ...............」


 中年男が話し始めたその瞬間、座っていた椅子の背もたれが力強く蹴られ、後ろの席で酒を飲んでいた集団が怒声とともに横槍を入れた。


「うるせぇぞ!誰に断って馬鹿騒ぎしてんだ!!ぁあ?」


 いかにもといった風体のごろつきが、テーブルを蹴り飛ばしながら不機嫌を隠すことなく睨みつける。その眉のつり上がり方からもかなり頭に来ているらしいと言うことが伺える。

 黒いコートの男たちは、宙を舞う料理たちに一瞬だけ視線がいく。

その様子を見て、舌打ちしながらも荒い口調のままに男は続ける。


「手前ぇらの馬鹿騒ぎのせいで酒がマジぃんだよ。どうしてくれんの?えぇ?」


「あー、それはすまない事をした。あまりに静かすぎて誰もいないと思っていたよ。ところで君たち誰?俺知らないんだけど」


「俺たち『クワトロジョーカー』を知らねぇってんのか?ああん?」


 自らの組織名を名乗るごろつきたち。それを聞いた途端、灰色の髪をした少女が「だっさ。いかにも雑魚って名前」と吹き出した。

 その言葉を受け、顔を真っ赤にした男が相手の胸ぐらをつかみかかる。


「おい(アマ)、まずは手前ぇから犯すぞ」


「ハッ!お粗末なソレでヤれるならヤってみな!」


 ごろつきの下半身のソレを指さし、嗤う灰色の髪の少女。


「いけませんよ、エラ。そんな下品な言葉遣いをしたら」


 黒髪の少女が『エラ』と呼ばれた灰色の髪の少女をなだめる。するとエラは「あっ、そうだ。妹候補が来るんだから気をつけなきゃ」と口をつぐみ、胸をつかんでいる腕を払い落とす。


 周囲は両集団、主にごろつきからの一方的な怒声で喧騒に包まれだした。


「.........最近出てきた新人組織。その下っ端。想起」


 その喧騒のなか、ずっと黙っていた赤いフードを被った少女が唐突に答える。


「お、偉いぞ。よく覚えてた」


 怒鳴り合っていた相手から一瞬で視線を逸らすと、『団長』と呼ばれた中年男がフードの少女の頭を撫でる。が、するりと躱されてその手は空を切る。


「おいおい、撫でるくらいさせてくれよ。おじさん差別よくないよ」


「おい、おっさん!無視するたぁいい度胸してるじゃねぇか!!」


 真面目に取り合わないどころか無視すら始めた対応に、怒りが頂点に達したのだろう。『団長』と呼ばれた中年男のコートの胸ぐらをつかみ、外を親指で示した。


「外出ろや。話はそれからだ」


「いいけど死んでも知らないよ?」


「上等だオラ!()ってみろや!!」


 怒鳴り合いから突如として殺し合いに発展した両集団。当然、客は彼らだけではない。だが、彼らは日常風景とでも言うかのように傍観に徹していた。それもそのはず。ここは『最果ての島』。潔白の理想国家で唯一『法』が効力を失った場所(せかい)。住人の大半が殺人を経験した犯罪者たちだ。この程度の出来事は日常風景そのものだろう。だが、傍観を決め込む理由はそれだけではないようにも見える。


 中年男は立ち上がろうとした仲間を手で制し、胸ぐらをつかまれたまま集団に連れていかれ外に出る。


「まずは手前ぇから..........」


「―――――。」


 黒いコートの男が何かをつぶやく。

 胸ぐらをつかんでいた男が、怒声とともに殴ろうとした瞬間、糸の切れた人形のように地面に崩れ落ちた。


「おいジャミル、何してんだよ」


 急に崩れ落ちた中心となっていた男に、取り巻きが声をかける。だが、力なく体を曲げる男から返事は無い。

 ひとりの男が肩を揺さぶり、そして心拍を確かめた。

 当然、その鼓動が聞こえることはなかった。


「あのさ、君たち人殺したことある?相手は待ってくれないぜ?」


 さも当然のように答える中年男。彼らとて、その言葉が何を意味するのか分からないほど馬鹿ではない。


「まさか、こいつ呪法師か!?」


「馬鹿言うな!呪いで人が殺せるはずが無ぇ!せいぜい気絶か麻痺程度だろうが!」


「そうだ!きっと即効性の毒でも持ってるに違いねぇ!」


 ごろつきの集団に動揺が広がる。なぜなら『呪いで人は殺せない』ということがこの世界の常識だからだ。

 だが現に、この男は一瞬で死に至った。胸ぐらをつかまれていた男は何もしていないのに。


「もう団長!何やってるんですか!剣以外で()っちゃったらカウントされるでしょう!」


「ん?今更の話だろ?」


 建物の中から出てきた最初に中年男の隣に座っていた女性が、言っても聞かない子供を叱りつけるように訊ねるが、当の本人は何事もなかったかのように答える。


「さてさて、おイタが過ぎたなぁガキども。あまりおっさんを舐めるなよ?」


 ごろつきの集団へとさらに一歩足を進め、ゴキリッと首を鳴らす中年男。

 突然、ごろつき集団の後ろで声が上がった。


「おい逃げよう!こいつらアレだ!あの『騎士団』だよ!悪逆非道の『ギルド・グリムナイツ』だ!!」


「おいおい、逃げんなよ。そっちが売ったケンカだろ?」


 男が指を鳴らすと、ごろつき集団の先頭にいた数名が吹き飛ばされる。


「知らねぇようだから先輩として教えてやろう。法が適応されないこの島で絶対の、不文律のルールだ」


「一つ、殺すも犯すも好きにしろ」


「二つ、報酬は死んでも払え」


「三つ、縄張りを勝手に荒らすな」


「四つ、責任は手前ぇで負え」


「五つ、俺らには手をだすな。だ」




   ※   ※   ※   ※   ※




 翌日、騎士団に手を出した馬鹿な組織が一つ潰されたとニュースになったのは、言うまでもないことだろう。




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