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into nightmare

「あっ!?」

 急に引っ張られる力がなくなり私は後ろに倒れる。

「ウヒャヒャヒャヒャ」

 倒れた私の上にはお父さん人形が馬乗りになって嬉しそうに笑っていた。 

 木でできた両手で私の顔、頬、髪の毛をぺたぺたと触ってくる。

「やっぱり若い娘の肌はすべすべして触り心地がいいやな!」

お父さん人形は私に馬乗りになり、よだれを垂らしながらゲタゲタと笑う。

 私は上半身を起こそうとしたがお父さん人形が腹の上で跳ね回り、思うようにできない。

 不意にリビングの灯りが消えた。私はパニックになる。

「オメエも俺の女にしてやるぜ」

 窓からうっすらと差し込む月明かりの下、お父さん人形が爛々と目を光らせて言う。

(これは夢。悪い夢)

 ぼうっとなった頭で私は思う。

 人形が動いて暴れまわるなんて映画の世界でなければ悪夢以外の何物でもない。

(これは夢。これは夢。早く覚めて)

 急速に力が抜けていく。心の力がなくなっていた。

 私は抵抗を止め、一心に祈る。こんな悪夢の中に1秒だっていたくない。目が覚めればきっと暖かなベットの中だ。だから早く目を覚まさなくちゃ―――

 私の上で暴れていた人形が動きを止めた。

 首を傾げ、不思議そうに私の顔を覗き込んでくる。その目はなにもかも見透かしているような不気味な光を宿していた。そして、ざらざらとした不協和音が混ざった声で言った。

「これは夢ぢゃない。お前が暖かいベットの中で目覚めることは永遠にない」

 私は心底ゾッとした。この人形は私の心を読んでいる。

 悪魔は人の心を読める。そう、なにかの本かテレビが言っていたのを思い出した。

(ならば、この人形はやはり悪魔なのか?)

 そう思った時だった。

「そうとも、悪魔だ。お前の母親と同じように俺の物でお前を差し貫いてヒーヒーいわせてやる。

ウヘ、ウヘ、ウヒャヒャ」

 お父さん人形はゲラゲラ笑う。

 私は粟立った。お父さん人形が私の下腹部に何か固いものを押しつけてきたのを感じたからだ。その言うのも憚られるおぞましい感覚が私の気力を目覚めさせた。

「いやーーーーー!!」

 私は絶叫すると人形を渾身の力で突き飛ばした。不意を突かれたせいかお父さん人形は部屋の隅まで弾き飛ばされる。

 私は逃げようと立ち上がる。膝ががくがくと震え、まともに歩くこともできない。

「立て。動いて!」

 私は自分の膝を叩いて叱咤する。背後でゴソゴソと何かが近づいてくる音がする。気になるが今は振り向いている暇はない。私はよろめきながらも必死に廊下へ向かった。


ドン


 転がっていたイスにつまずき、私は前につんのめる。反射的に伸ばした両手が何かに当たり辛うじて転ぶのを免れる。

 それはお母さんだった。

 気がつけば私は、お母さんの背中に手をついていた。

「お母さん、お母さん。

助けて、人形が、人形が―――」

 私はお母さんの両肩を掴んで激しく揺すって助けを求めた。私が肩を揺する度にお母さんの頭がグラングランと揺れた。今にも肩から頭が転げ落ちそうだった。


ビクン


 と、お母さんの体が跳ねる。


ビクン ビクン ビクン


 立て続けに跳ねる。まるで陸に揚げられた魚が跳ねるかごとくに。

「お、お母さん……」

 私は手を離し後ろに一歩下がる。得体のしれないお父さん人形も怖いが、目の前のお母さんも異常だ。

 ゆっくりとお母さんは振り返る。

 両手をだらりと垂らし、顔も項垂れ、表情は見えない。

 無言のままお母さんが一歩前に出る。それに反応して私は一歩下がる。更にもう一歩、お母さんが前に出る。お母さんが歩く度に両手が振り子のようにブランブランと揺れた。

 ゆっくりとお母さんの右手が上がる。操り人形が肘についた糸を引っ張られたような不自然な上がり方だった。


ブウン


 鈍い風切り音。刹那、私は頬に衝撃を受け、吹き飛ばされる。テーブルを派手にひっくり返しながら転倒する。頬がジンジンと傷み、頭もクラクラした。

(殴られた?

殴られたの?)

 生まれてからお母さんに殴られた記憶がなかったから頬を酷く殴られた事実を理解するのに馬鹿みたいに時間がかかった。

「お、お母さん、私を殴ったの?」

 お母さんが項垂れていた顔を不意に上げた。見開かれた目は真ん丸で半分飛び出ている。開かれた口は耳まで裂け、ハロインのカボチャのお化けのようだ。

「俺ハ、オ前ノ、(カー)チャンぢゃネぇー」

 お母さん、いや、お母さんだったものがガチガチ歯を鳴らしながら甲高い声で叫ぶ。そして、ゴボゴボと水音のような笑い声を上げる。

「ヒッ」

 後ろから首を掴まれ、私は悲鳴を上げる。お父さん人形の顔が私の顔の真横に現れた。

「お前の母ちゃんの魂は俺が喰った。

お前もあんな風にしてやる」

 人形は白い息を吐きながら言う。肉の腐ったような悪臭がした。

「ウギギギギ」

 『お母さん』が泡を吹きながら襲いかかってくる。私はお父さん人形を掴んで無理矢理引き剥がし迫ってくる『お母さん』に叩きつけた。

 お父さん人形と『お母さん』は一塊になって転倒した。

 逃げるのなら今しかない。と瞬間的に判断すると私はリビングの出口まで一気に走る。そのまま、転がるように廊下に飛びだし自分の部屋まで一目散に逃げた。


2018/07/16 初稿

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