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mother , maybe other

目指したのはハリウッドです

なのでエロいシーンもあります

■■■

 冷蔵庫に入っていたウーロン茶を一気飲みして一息つき、部屋に戻ろうとしてリビングの前を通った時、リビングから声が聞こえた。 

 最初は気のせいかと思った。それぐらいの微かな声だった。多分、リビングへのドアが少し開いていなかったら聞こえなかったと思う。

 何を言っているのは分からなかったが、何となく直感で意味なんてないと感じた。あー、とか、うー、という唸り声、叫び声の類いだ。

 気になったのは誰が何のために発しているか?だった。

 声の間隔、高低から二人、それも男と女の声だと見当がついた。ならば、誰が発しているかなんて分かりきっている。この家には今は自分とお父さんとお母さんしかいないのだから。

(一体、こんな時間にこんな所で二人は何をしているの)

 心の中でふつふつと好奇心が大きくなる。と、同時に見てはダメ、放っておきなさい、という思いも起きていた。

「はぁぁぁ」

 圧し殺されてはいたが、息を大きく吐き出していく声が聞こえた。

 私は好奇心に負け、こっそりとドアの隙間からリビングを覗いた。

 暗くてよく分からない。

 窓際に誰かいた。

 外から月の光が差し込み、黒いシルエットになっていたが、二つの人影があった。

 一つは全体的に丸みを帯びやや背が低い。もう一つは拳一つほど背が高く見えた。二つの影はしばらく互いに見つめあっていたが顔と顔がゆっくりと近づいていき、やがて重なった。

(わっ、キスしてる)

 私はドアの隙間から目を離せなくなっていた。心臓がドキドキしだす。

 背の高い方の頭が徐々に下に下にと下がっていく。やがて、もう一つのシルエットの胸の辺りに頭が来る。

真っ黒なシルエットだったが、もう一人、丸みを帯びた方の胸は大きく隆起していた。輪郭から裸であるのが分かる。男のシルエット、多分、お父さんの顔がお母さんの胸の先端に吸い付く。お母さんは背中をのけ反らす。微かな、でも、熱さを感じさせる吐息が廊下で覗き見ている私にも聞こえてきた。

(もう!お父さんとお母さん。

こんなところでなにやってるのよ。娘に見られたらどうするつもりなんだろう……

って、もう手遅れだけど)

 私だってもう高校生だ。

 世の中の男と女の行為は知ってるし、夫婦なんだから、あって当然。むしろ、興味津々、ごちそうさま。ってな感じなのだけど……

(うっ、お母さん、後ろ向きになって。

わっ、まさかバックで?!)

 なんて大胆な。

 思わず顔が熱くなった。

 何とも気まずい思いになった瞬間、お母さんの顔が私の方を見て、ニヤリと笑った。

 私は心臓が止まるかと思った。

 いや、シルエットなので、本当の所は分からない。顔の角度が変わっただけかも知れなかった。なのに、何故だか私はお母さんが自分を真っ直ぐに見据えていると感じた。ドアの隙間から覗いている私の存在をはっきり認識して、なおお父さんとの行為をやめようとしない。

(面白がってる?)

 お母さんは面白がって笑っているのだ。私はお母さんの行動が理解できず混乱した。混乱の次に震えがきた。リビングでの事がまざまざと思い出した。あのお母さんじゃないお母さんを。

 私は口に手を当て声が出るのを懸命に抑え、そのまま足音を忍ばせてそこを急いで離れる。

「あはははは」

 自分の部屋に戻る私の背中に笑い声が追いかけてきた。それは間違いなくお母さん声だった。


□□□

「狂ってる」

 香は吐き捨てるように言った。

「娘に見られてるのを知っていて平然と笑うなんて狂ってるとしか言えないでしょう?」

 サツキはなんというべきか大いに悩む。確かに感心できる性癖ではないが、それだけで狂ってると断じるのもいかがなものかと思う。かといって普通でしょと言えば自分の人格を疑われかねない。

「せ、先生、こう見えて嫁入り前だからね!

夫婦のそういうのってよく分からないわ」

 言ったサツキですらなんだかよく分からないことを口走ってるな、と思った。

 香が怖い顔でサツキを睨み付ける。

「先生。

私のお母さんがそんなことをするかも、なんて思ってるんですか?」

「えっ?

だって、えっ?

今、あなたがお母様がそういうことをしていたって言ったのではないの?」

 サツキは混乱する。

「違います!

私が言いたいのは、お母さんがそんなことをするはずがないってことです。

つまり、外見はお母さんでももう中身は別のなにかになってしまっている、と言ってるんです」

「別のなにか、と言うのが悪魔だって言いたいのね(いや、それは理論の飛躍でしょう)」

 そう言いながら、サツキは心の中で思った。

「いや、それは理論の飛躍でしょう、と思いましたね?」 

 心に思ったことをぴったり言い当てられ、サツキはドキリとした。

「い、いいえ、そ、そんなことは思ってないから」

「言い分けはいいです。この話には続きがあります。それを聞いてもまだ、そんなことをいってられる?」

「続き?」

「そう。お母さんのリビングの恥ずかしい行為は一日だけじゃなかった。毎夜、毎夜繰り返されたの」

「毎夜、毎夜?」

 サツキは思わずリビングの暗闇で絡み合う男と女の姿を想像して顔を赤らめた。

 そんなサツキを無視して香は言葉を続けた。

「そして、おかしなことに気がついたの」

「おかしなこと?」 

「お母さんは深夜、決まった時刻になるとリビングに下りていった。私はそれに気がつき、その時刻になると自分の部屋のドアの隙間から下りていくお母さんを観察していた。

毎夜、毎夜、お母さんは一人で下のリビングに下りていった」

 香はそこまで言うと、喋るのを止め、反応を見るようにサツキの顔をじっと見た。

 サツキは、香が何が言いたいのかわからず、眉をひそめる。

「私とお父さんとお母さんの寝室はこの2階にあるの。お母さんは毎夜、毎夜、リビングに一人で下りていった。

()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

2018/07/14 初稿


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