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a counterattack

 ティティティーティ 

 テェテェテェテェーケェ

 ティティテェテェテェー


 暗い2階の廊下で突然大きな音が鳴り響く。

 携帯の着信音だ。


        ズリュ

     ズリュ

   ズリュ


 音につられるように這いずる音が近づいてくる。やがて2階に慶子が現れる。慶子は頭を少し左右に振り、更に廊下を音に向かって進んでいく。


    ズリュ

 ズリュ


 廊下の行き止まり。学たちの寝室のドアの前で携帯が鳴り続けていた。慶子はゆっくり携帯の方へ這いずっていく。

 それをこっそりと見ている者がいた。

 サツキだ。

 サツキは3階への階段の陰に身を隠して、自分が仕掛けた餌に慶子が食いつくのをじっと見守っていた。餌は自分の携帯のアラーム音。

 時間になったら鳴るようにセットして2階の廊下の端に放置しておいたのだ。それに慶子はまんまと食いついた。

 慶子に気付かれないようにサツキは急いで、しかし、密やかに1階へと降りる。そして、一直線でリビングに向かった。

 リビングに入るとドアを閉め、その辺に転がっていたイスやソファで簡単なバリケードを作る。そして、リビングの中を懸命に探し始める。

 探しているのはリビングに飾られていた筈の写真だ。

 香は、両親がそれぞれの人形を抱いて記念写真を撮ったと言っていた。

 その写真なら人形に刻まれた名前を判読できるかもしれない、そうサツキは思いついたのだ。勿論、かなりのギャンブルではあった。だが、それしか残された道はないのだ。

 サツキは暗がりの中、必死になって写真を探す。リビングは先程の大立回りであらゆる物が取り散らかっていて、目的の物を見つけるのが困難だった。


         ズリュ


 サツキの耳に這いずるような音が聞こえた気がした。慶子がここに来るのにそれほど時間はないように思われた。

 サツキは懸命に写真を探す。


      ズリュ

   ズリュ


「無い、無い。どこにあるのよ」

 もしかしたら、香の話は嘘だったのかもしれない。

 内心、そう思い始めた時、床でなにかがテラテラと光っているのを見つけた。拾い上げると確かに目的の写真だった。

「あった、あった。本当にあったよ!」

 床から写真を拾い上げ、サツキは大声で叫んだ。


ダン ダン ダン ダン ダン


 リビングのドアが激しく叩かれる。

 慶子だ。

 ついに慶子がやって来たのだ。 

 一刻も早く、真の名前を見つける必要がある。サツキは手に持った写真を見た。

「く、暗くて読めない」

 写真には在りし日の慶子と学が人形を抱いてニコヤカに微笑んでいる。

 それは分かるのだが、リビングが暗すぎて人形の額に書かれた文字を読むことまではできない。今更ながら携帯を手離した事を後悔した。


ガツン ガツン


 リビングのドアが物凄い力で叩かれている。叩かれる度にバリケードとして積み上げたイスやソファがぐらぐらと揺れる。破られるのも時間の問題だ。

(どこかもっと明るいところはないの?)

 リビングを見回す。

 窓際から月明かりが差し込んでいた。

 急いで窓辺へ駆け寄り月の光に写真をかざす。

「N …… I、N? ……A 『ニナ』」

 目を凝らしお母さん人形の文字を読む。

 残りはお父さん人形だけだ。

「K、 U、 K、 I、 T ……『クキツ』?

女の子人形が『アマ』

お母さん人形が『ニナ』

お父さん人形が『クキツ』

三つくっ付けると『アマニナクツキ』?」

 サツキはもう一度確認しようと窓に写真を翳そうとしてゾッとなる。

 窓の外に香が立ち、サツキをじっと見ていたのだ。


ガシャーン


 窓ガラスが粉々に砕け散り、香の血塗れの両手がガッチリとサツキの両手を掴んだ

「ア、アマニナクツキ」

 サツキはとっさに叫んだ。だが、香は一向に怯む様子もなく窓ガラスを押し破り、リビングに入ってきた。メリメリと両肩を締め付けられて、サツキは苦痛に呻く。

(な、なんでなんの反応もないの?

名前が違うの?)

 そこでサツキは、はっとなる。三つに分割された名前は正しい順番に並べなければ正しい名前にならない。

 香はサツキを無造作に投げる。数メートルを飛び、サツキはリビングの床に叩きつけられた。落下した拍子に脇腹をテーブルの角にぶつけた。呼吸が止まる。

 後ろで大きな音がしたので振り向くと、バリケードが丁度破られたところだった。図らずもサツキは香と慶子に前後を挟まれた格好になった。もう逃げ場はない。

 サツキは懸命に考える。三つの名前の組み合わせは全部で六つ。そのどれかが真の名前なのだ。

(落ち着いて。落ち着くの。全部言えばどれかが当たるはず)

「アマ、クツキニナ!」

 香が猛然と突っ込んできた。テーブルを盾にしようとしたが間に合わない。首に香の手がかかりグイグイと締め上げられる。

「かはっ」

 息が詰まり、声が出せない。

「ク、クツキ……ニナ

ア、マ」

 懸命に絞り出すが、香の力は強まるばかりだった。意識が遠のいていく。後、一つの名前を言うぐらいが限界だった。

「クツキ、クツキ……」

(これが違ったら私は死ぬ)

 サツキはそう思いながら、肺に残った最後の空気と一緒に声を絞り出す。

「アマ、ニナ!」

 とたんに香の手の力が弱まった。

「げほっ、げほっ、はぁ」

 大きく息を吸うサツキ。今までとは逆に香と慶子は、サツキを恐れるようにじりじりと後退していた。

「クツキアマニナ」 

 サツキは掠れた声で呟いた。すると香と慶子がたじろいだように体を震わせる。

「そ、それが真の名前なのね」

 サツキは痛む首を擦りながらヨロヨロと立ち上がる。そして、確信を込めた声で悪魔の真の名前を叫ぶ。

「クツキアマニナ!」

『『オオオオオ』』

 真の名前を叫ばれ、慶子と香が同時に呻いた。

『や、やめろぉ』

 頭を押さえ香が苦しげに言う。

 サツキは深呼吸をすると叫んだ。

「クツキアマニナよ去れ

この家から出ていけ!」

2018/07/23 初稿

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