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the mode of Devil

「一ノ瀬学さんですか?

私、榊サツキと申します。香さんの担任をさせていただいております」

「榊サツキ……

香の学校の先生がなんでここに?」

 驚いて聞いてくる学をサツキはじっと観察する。憔悴した表情ではあったが普通の人のように見えた。言っていることも()()()だ。

「香さんが長期に休んでいたので様子を聞きにきたのです。

それで、奥さまと香さんと話をしたのですが……」

 そこまで言ってサツキは言い淀む。まさか、妻と娘が歯を剥き出して襲いかかってきたとは言い難かったからだ。

「慶子と香にあったのか?!」

 学は驚いたように身を乗り出して叫んだ。

「ええ、会いました」

「そうか、会ったのか。

それでどうだった?」

 どうだったと言う学の真意をどうとらえればよいかサツキは悩んだ。しばらく沈黙していたが意を決すると言った。

「私は香さんと慶子さんに襲われました。

それと、信じてもらえないかもしれませんが二人とも凄い形相になって、つまり……そのまるで……」

「悪魔にとりつかれたようだった、かね」

「ご存知なのですか?」

 少し意外と思いながらサツキは言った

「ああ、ああ。

やはりそうか。これもみんな私がいけないんだ」

 学は両手で顔を覆ってうなだれた。

「私のせい……?

香さんや慶子さんがあんな風になったのはご自分のせいだと言っているのですか?」

「そうとも。

私があの悪魔の人形を買いさえしなければみんなこんな事にはならなかった……」

「教えてください。今、一体何が起きているのですか?

私、目の前で起きていることが信じられないのです。今も夢でも見ているのではないかと思っているのです」

 サツキの言葉に学も深いため息をつく。

「私は、会社の出張でヨーロッパへ行ったのだ。そのお土産に三体の人形を買った。家族の人形でお父さん、お母さん、そして娘の人形だ。

だが、その人形には悪魔が封印されていたんだ。

勿論、買った時はそんな人形だったなんて知らなかった。

店の親父からは家庭円満の人形だと言われたんだ。

ところが、人形を家に持ち込んでから妻の様子がおかしくなった。

ぼんやり考え事をするようになったと思ったら、夜、一人で部屋を出て行き、長いこと帰ってこない事が多くなった。

なにか悩み事が有るのかと聞いても、薄笑いを浮かべるだけだった。

おかしいとは思ったが少し様子を見ることにしたんだ。

そうこうしているうちに、泊まり込みの出張が入って家に帰れなかった日があった。

その次の日の朝、香からメールが来ていた。

内容は『お母さんが悪魔にとりつかれた。助けて』だった。

正直、何かの冗談だと思ったよ。

実際、家に帰ってみると、特に異常はなかった。香も慶子も普通だった。問いただしてみても、冗談だった、としか言われなかった。

その場は納得したが、その日を境に家の様子が一変したんだ。表面上は何もおかしくないのになにか異常だった。

家の空気がうすら寒くなった。

それにほら、君も感じないか?」

 学はそう言うとクンクンと鼻を鳴らして部屋の臭いを嗅ぐ仕草をした。

「微かだか臭うんだ。

なにか肉が腐った様な臭いがそこら中でするんだ」

 サツキは学につられ部屋の臭いを嗅いでみた。確かに肉の腐った臭いがした。

「香のメールにあった『悪魔』と言う言葉が妙に気になった。

そこで色々調べてみた」

 学が再び話し始めた。

「悪魔が取りついていると言われる人形は世界中にあることに驚いた。

そして、私が買ってしまった人形がまさにそれだったんだ。

ネットでエクトシストでサイトを調べていたら、60年ほど昔に悪魔払いの儀式で悪魔を三体の人形に封じた記事があった。

三体の人形に封印したのはそれほど強力な悪魔だったからだ。

そして、それらの人形は一体ずつ、遠く離れた教会に別々に厳重に保管された。

いや、されていたと言うべきか」

「されていた……

過去形なのはどういう意味です?」

「程なく、三体の人形は行方不明になったからだ」

「行方不明になった?」

「そう。

有るものは忽然とガラスの箱から姿を消し。有るものは教会が火事になったどさくさに紛れて紛失した。

その人形の写真を見た私は、ゾッとしたよ。

何故って、私が買った人形にそっくりだったからだ」

「た、単なる偶然なのでは?」

 そういいながら、サツキは自分の声がうすら寒くなるほど空虚であると感じていた。

「その記事は、悪魔はどこかで復活の時を狙っているだろう、と結ばれていた」

「復活の時?」

「つまり、その人形の中にいる悪魔は人間に取りつく機会を伺っている、と言う事さ」

「取りつく機会?」

「そうだ。

同じサイトに悪魔が人間に取りつく方法が書かれていた。

まず、悪魔はその存在を知らせる。

そして、恐怖をばらまく。

恐怖により、人間の心を疲弊させるんだ。

疲弊して抵抗力のなくなった人間の魂を喰らい、肉体を乗っとるんだ。

それが(the)つら(mode)(of)流儀(Devil )だ」

 学の言葉を聞き、悪魔化した香が魂を喰うと言っていた事をサツキは生々しく思い出した。

「奴らは恐怖を使って人間の魂を弱らせる。

だが、それはベストの方法ではないそうだ」

「ベストではない?」

「そう。

弱った魂を喰らって空っぽになった肉体を支配する方法は借家の様なものだ。

魂を失った肉体は長持ちしないのだ。場合によってはすぐに腐敗して使えなくなる。

悪魔が本当に望むのは魂に同化することだ」

「魂に同化……する?」

 悪魔が魂に同化する。その薄気味悪い響きに、サツキはゾクリと体を震わせた。

「悪魔はそのために人間を絶望させようとする。絶望した人間の魂はどんなものも受け入れる。悪魔さえもな。だから、悪魔の真の目的は人間を絶望させるために様々な罠を張るんだ」

「つまり、あなたが偶然買ってしまった人形には悪魔が封印されていて、その悪魔が香さんや慶子さんに取りついて復活したと言うんですね」

 サツキはが合点が言ったと言わんばかりに捲し立てた。

「いや、違う。悪魔は復活していない」

 しかし、学の答えはサツキの言葉を真っ向から否定するものだった。

「え?」

 サツキは想定外の答えに困惑した。

2018/07/20 初稿

2021/08/06 指摘により誤記訂正。他の部位もも直して修正

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 24行目「ご存知なのですか?  少し以外と意外と思いながらサツキは言った」 ここは少し文章が整っていないかと。
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