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dance with Devil

 サツキは驚き振り向く。

ミシリ

   ミシリ

      ミシリ

 暗い廊下を黒い影がゆっくりと歩いてくる。

「だ、誰?」

 サツキは影に向かって叫ぶが影は無言で近づいてくる。

「それ以上近づかないで!」

 サツキは鋭く警告を発するが、それがなんの効力もないことは分かっていた。実際、影はゆっくりとではあったが止まることなくサツキに近づいてきた。逃げたくとも後ろはドア一枚隔てて『香』がいる。前にしか逃げ場がない。

 迷っていると突然影が突進してきた。

 覆い被さってくるところを体を交わして避ける。横をすり抜ける時ちらりと顔をみた。慶子だった。慶子もまた香のようにさっきとはまるで違う形相をしている。

「があああ」

 歯を剥き出し慶子が追いかけてくる。

 サツキは走って逃げる。手近なドアを開けて入ろうとしたところ、強烈な力で背中を殴られた。もんどりうって倒れこむ。テーブルやソファを派手になぎ倒す。

「かは」

 痛みで息ができない。なんとか立ち上がろうとしたところを慶子に捕まる。

 慶子はサツキの首を掴むと持ち上げる。ネックハンギングの状態だ。息がつまり、たちまちサツキの顔は真っ赤になる。両手、両足をばたつかせるが慶子はびくともしない。

(死ぬ、死ぬ、助けて)

 サツキは必死にもがくが、じょじよに体の力が抜けて、ついに両手がだらりとさがる。その時、右手がポケットに触れた。ポケットななにか固いものにがあった。

(!)

 サツキは最後の力を振り絞りポケットの中のものをとりだす。それは、さっき香を縛っていたロープを切るために使ったハサミだ。

 サツキはそのハサミを慶子の顔に突き立てる。

ザクッ

ザクッ ザクッ

 続けて三度突き立てる。引き抜く度に血が迸り、サツキの顔にもかかった。普通なら一突きで怯むような攻撃を受けても慶子の力は緩むことはなかった。

「うわあああ」

 サツキは叫ぶと渾身の力でハサミを突き刺す。ズブズブと気色の悪い感触でハサミが深々と突き刺さった。

「はがあ、ぎゃあ」

 凄まじい悲鳴を上げ、慶子はよろめいた。右目にハサミが突き刺さっている。

 サツキはようやく慶子の手から逃れることができたが立つことができず、そのまま床にへたりこむ。

「かほ、げぼ、げほ」

 へたりこんだままサツキは激しく咳き込む。酸素が急激に肺を満たし、頭がズキズキ痛んだ。

 慶子はヨロヨロと後ろに二、三歩よろめいたかと思うとずしんと真後ろに倒れた。

「はあ、はあ、はあ、や、やったの?」 

 サツキは激しい息をつきながら倒れた慶子を眺める。ハサミは刃の部分がほとんどめり込んでいた。角度によっては脳に損傷を与えるはずだ。致命傷になってもおかしくはない。致命傷のはずなのだ……

「嘘、でしょ」

 サツキは信じられないものを見るような目で慶子を見つめる。慶子は死んではいなかった。手足をぴくん、ぴくんと痙攣させうなり声を上げ始めていた。

 サツキは素早く周囲を確認する。テーブルやソファ、テレビが散乱している。どうやらリビングルームのようだ。香の話だとリビングの出入り口は一つしかない。逃げるには倒れている慶子の横を通らないとならない。

 サツキはごくりと唾を飲み込む。慶子は激しく痙攣をしていたが今にも起き上がりそうだ。

「行くしかない!」

 サツキは自分に言い聞かせるように叫ぶと慶子の横を走り抜ける。その瞬間、サツキは右足に鋭い痛みを感じ転倒する。

 足を見るとふくろはぎから足首にかけてざっくりと裂けて、血が吹き出していた。

 慶子がゆっくりと立ち上がる。その手の爪は鋭くネジ曲がっている。すれ違い様に足を切られたのだ。

 痛みで立てないサツキはよつばいで必死になって逃げる。

 なんとか廊下に出たサツキをおって慶子もリビングを出る。

「うはは、うはははは」

 自分の目に刺さったハサミを引き抜くと高笑いを上げながらサツキに迫る。

「助けて、助けて、誰か助けて」

 サツキは呪文を唱えるように呟きながら懸命に這って逃げた。階段のところまで逃げ、更に上に逃げる。

 慶子はすぐ後ろに迫っていた。

「いやーー、助けて!」

 肩を掴まれ、強引に振り向かせられる。

「うはははは」

 笑いながら慶子はハサミを振り下ろした。


ザシュ


 間一髪、ハサミはサツキの耳元すぐ横の階段に突きささった。慶子はすぐさまハサミを引き抜き、再度振りかぶり、振り下ろした。

「いぃぃーー」

 声にならない悲鳴を上げながらサツキは両手で振り下ろされるハサミを止める。

 サツキは涙を流しながらハサミを抑えようとするが慶子の力に抑えきれない。ギラギラ光るハサミの刃はゆっくりとサツキの顔面に近づいてくる。

「フーーフーーフーー」 

 懸命に呼吸を調え、サツキは両足を慶子の腹につける。

「このー!」

 サツキは渾身の力で蹴る。

「うが」

 慶子の体が一瞬浮き、バランスを崩してそのまま階段を転げ落ちる。鈍い音をたてながら慶子は玄関先まで転げ落ちる、動かなくなった。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 サツキは肩で息をしながらうつ伏せになった慶子を見下ろした。



2018/07/18 初稿


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